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no name sweets 〜イートイン編
春の暖かさを感じられるほどになってきた、今日この頃。
頬に感じる風はほんのりと暖かい。
そうだ、散歩に出かけて見よう。
だってチョコが切れちゃった。チョコを買いにいくついでに、春の匂いでも感じてこようと、春の風に誘われて棗はふわりふわりと散歩に出かけた。
普段歩かないような路地を一本曲がった。小さな小さな路地だった。表通りの喧騒を嫌うように。繁華街の賑やかさから逃げるようにその路地はひっそりとしていた。
もう昼も回り大分たつ、そろそろ小腹が空きはじめるそんな時間。
ひっそりとした路地を進めば見つけた小さなケーキ屋。
ひょこりと棗はウィンドウから中を覗いてみた。
お客は誰も居なかった。
そこも路地と同じくらいひっそりとしていた。
―――――ケーキ屋ということはチョコは置いてないかしらー?
心の中の呟き。何せ今日はチョコのストックが切れているのだ。しかも最も愛する5円チョコさえも何もないのだ。時間は丁度いいぐらいに、そろそろおやつの時間。
おやつにチョコが食べれないなんて、考えられない。
そうして棗はチョコへの思いに任せて扉を開けた。
「いらっしゃいませー。」
迎え入れる少女従業員の声。
キョロキョロとあたりを興味深げに店内を物色。
「あのー。ここでケーキを食べられることはできるんですか?」
見つけたのはこじんまりとした喫茶スペース。ついっと、棗は其方を指差しながら自分とさほど年齢の変わらない少女の従業員に尋ねた。
「え?はい、できますよー。どうぞ。」
少女従業員は棗の指先の方向を一瞬怪訝そうに見てから、にこりと笑って大丈夫だと応えた。棗が案内されたのは、小さなソファ席だった。
そうして差し出された、メニューは2冊。
その2冊を普通に受け取り、メニューを開き中に書かれているメニューを眺めた。とりあえず、チョコレートなものをヒトツずつ眼で追った後。まだ開いていないメニューを開いた。
開いて何かの間違いではないのだろうかと、思ったらしく。自分の目の前でオーダーを聞くために立っていた少女従業員を思わず見た。
その反応に少女従業員はなれているのか、ニコニコしながらこういった。
「あ。それですねー。ウチだけの特別メニューです。何でもお好きなもの作らせていただきますよ」
「え?好きなもの?何でもいいんですか?ほんっとーぅに何でもいいんですか?」
白紙メニュー抱え込んだまま、きょとーんとしていた瞳は従業員の説明できらり。と、光った。少し身体を前のめりにして、のんびりとした口調にもかかわらず従業員に詰め寄った。
「えぇ。なんでもお好きなものをどうぞ?」
「えー。あのー。それだったら………」
何でも作ってくれるといううれしい言葉に、自分のお願いしようとしてるものが少しこの店に似つかわしくないものなような気がしたから、しどろもどろになりつつ少女従業員を見ればにこにこしていた。
「おっきな五円チョコが食べたい…作れる?}
2冊のメニューを従業員に返しながら、意を決して食べたいものを口にした。そうして少女従業員が何か言おうと唇動かす前にまた言葉を発した。
「無理だよね…うん…」
「いやー。初めての注文内容です。そうですねぇ、大丈夫ですよー。とは言えないので。一応パティシエに聞いてみますね。ダメってことはないと思うんですけど、ダメだった場合どうされますかー?」
「じゃぁ、あのぉ。チョコチョコしいパフェを………できれば天辺に5円チョコを乗っけてください」
「わかりましたー。じゃぁ、少々お待ちください」
終始にこにこした従業員は棗の前から、厨房の方へと消えていった。
どれくらい時間が過ぎただろう。
ばたばたと、慌しく先ほどの従業員が店から出て行ったかと思えば、今度はパティシエの男のぽい子がばたばたとあっちこっち行ったり来たりして。店の雰囲気とは逆な従業員たちだぁ、とかなんとかぼんやりと眺めていた。
すこしそわそわしてしまうのは何故だろう。
きっと気がかりな自分の注文したもの。それもどちらかがやってくるか分からない状況。
あぁ、5円チョコ。それとも妥協したチョコレートパフェになるのか。
そんな想いをめぐらしていれば、とんと、目の前に置かれた何か。
はっと、そこで現実に引き戻された棗。目の前に置かれたのは見た目は普通なチョコレートパフェだった。
―――――――あぁ。
と、かくーんと、少し肩が落ちた。少しでも期待して待っていたのだから。けれおどもその天辺に輝く、いつもの5円チョコを見つけては、まぁ、いいかな。と、思い直した。
「はい。ゴチューモンのチョコチョコしいパフェ、5円チョコつき」
あれ?声が違う。
はっと、また今度は視線をパフェから上へと持ち上げればそこに居たのは一人の男性。先ほど店の中を忙しそうに走り回っていた彼。
しかもなぜか何も言ってないのに、自分の向かいの席に腰を下ろした。
「ねー。そんなにチョコ好き?」
「――――…………。」
こくん。
棗は突然の出来事に頷くしかなかった。そんなことはお構いなしに青年は勝手に話を続けていく。
「アイスもチョコだよ。でね、見た目すっげ、フツーのチョコパなんだけどさ、マジうまいよ。アッキーさんの自信作」
「アッキーさん?」
「あぁ、うちのね、チーフ。俺の上司。まぁ、そんなことより、食べなよ。溶けちゃうよ」
パティシエらしき青年はテーブルの上に肩肘つき、軽く頬杖なんかしながら軽くチョコレートパフェの説明なんかをしだした。
そうして、その青年の最後の言葉に促されてパフェ用の長いスプーンを手にして一掬い。それを口の中にいれた。
「――――――――ぁ。おいしい」
その素直な感想に、目の前の青年はにこやかな笑顔になる。
「でしょー。絶対うまいもん。あぁ、そうそう俺ね、蒼井尚乃つーの。お嬢さんのお名前なんていうの?」
「え?私?」
「あぁぁーっ。尚乃。だめじゃーん、またそんなところで油売ってたら、チーフに怒られるからねー。さぁ、こっちこっち」
突然の自己紹介。それはドサクサに紛れて自分の名前まで聞かれてしまった。どうしたものかと、しどろもどろしてたとき甲高い声が聞こえた。さっきまでいた少女の従業員。その言葉に尚乃という青年も、棗も其方に視線を向けた。その後はもう少女が棗に軽く謝るように頭を下げて、尚乃の首の後ろを掴んだ。そのまま少女は勢いに任せて厨房のほうへと引っ張っていった。
そんな状況でも、尚乃は棗に向かってヒラヒラ手を振っていたから、なんとなしに誘われて棗も手を振ってしまった。
そうして二人が去ってしまった店内はまた静けさとりもどした。
棗は一息つき、見た目よりも味はゴージャスなチョコレートパフェを堪能することにした。
無事に完食。
チョコが切れていたせいか、普段よりも美味しく思えたチョコレートパフェ。なくなるが惜しかったから、天辺の5円チョコはとっておいた。
5円チョコを持ち帰ることにして、お会計しようとレジへと行ったときだった。
「はぁ、良かったー。間に合った」
「はい?」
「チョコレート。5円チョコ」
「え?」
「これー。固まるのに時間足りないかな、なんてチーフが言ってたの。帰るまでに間に合ってよかったー」
少女従業員の言葉が一瞬なんのことかわからなかった。はて?と、棗が首をかしげたとたん。少女従業員の後ろから、尚乃がどーんと棗の方に見せたもの。
それは人の顔の大きさほどある5円チョコだった。
「えっ?えぇぇぇぇーっ!?」
びっくりしたのは棗のほうだった。
手に持っていた5円チョコを落としそうになった。そうして差し出される特大5円チョコ。
サイズは5円ではないけれども、5円チョコ。
それをすこし戸惑い勝ちに受け取った。
「えとー。あのー。どうもありがとうございます」
なんと言っていいか分からないから、棗はぺこーんと頭を下げた。出てきたのはありきたりの言葉だったけれども、その言葉に少女従業員も尚乃も満面の笑みだった。
お会計済ませて、店を出るときにまた棗は頭を下げた。
尚乃も少女従業員もにこやかに手を振って棗を見送った。
あぁ。
この特大の5円チョコ。どうやって食べたらいいのかしら。
そんな贅沢な悩みとともに、棗は夕刻せまる路地を歩いていった
―――――――――fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
6001/比嘉耶 棗(ひがや・なつめ)/女性/18/気まぐれ人形作製者
NPC/鹿島 美咲/女性/16歳/Le Diable Amoureuxのアシスタントパティシエ
NPC/蒼井 尚乃/男性/20歳/Le Diable Amoureuxのバイト店員
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■ ライター通信 ■
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この度は【no name sweets 〜イートイン編】にご参加下さりありがとうございました。
初めてのご参加いただきうれしい限りでございます。
はじめまして。櫻正宗と申します。
のんびりとしながらも芯が強そうな棗さんを上手く表現できたかどうか不安であります。が無事に完成することができました。
口調ももしかしたら、違ってるのかもしれません。
いかがでしょうか?
全体の雰囲気として棗さんの日常をかけたらと思いながら、執筆に励みました。
ご満足いただければうれしい限りでございます。
執筆の途中途中で、何度もかわいらしい棗さんに癒されました。
そんなのんびりとした時間を提供できたなら幸いです
それでは最後に
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会うようなことがあればよろしくお願いいたします。
櫻正宗 拝
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