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みせて!描かせて!
* オープニング *
今日も今日とて、ゴーストネットオフの掲示板には様々な書き込みがされている。
それを一つ一つ、ジックリと見るは瀬名・雫(せな・しずく)。
たいていは都市伝説の噂話だったり、怪奇現象だったり、と調査に乗り出したい!と思わせる内容が主なのだが…
そんな中に混じって、場違いなカキコミがされていることも、稀にだが、ある。
だけれども、そんなカキコミにも一応は目を通す雫。
☆モデルさんを、ぼしゅうします。
僕は、がくせいです。
宿題で、じんぶつがを描かなくちゃならないのですが、ちかくにいいモデルさんがみつかりません。
どうか、僕にあなたの絵をかかせてください。
男の人でも、女の人でも、どっちでも大丈夫です。
連絡先を描きますので、あなたのしゃしんと一緒に連絡ください。
連絡先は…
「・・・ここに書き込むだなんて、よっぽど困ってるのかなぁ?」
そう思いながら、雫は気にせず画面をスクロールさせた。
*書き込み人*
「うわぁ…さすがゴーストネット!!本当に写真が送られてくるなんて…
ダメ元で書き込んでよかった〜!」
そう、嬉々として送ってこられた封筒を手にし、喜ぶのは…唐沢・陽彦(からさわ・はるひこ)20歳。
美術大学に通う学生である。
『人物画』をテーマに課題を与えられたが、彼の作風に一癖あることからか、周りの友人は彼のモデルになることを嫌がった。
そこで、仕方なくゴーストネットにてモデルの募集のカキコミをしたわけである。
『見ず知らずの人がモデルになってくれるだろうか…そうだ、これなら子供のカキコミと思って
優しい人が送ってくれるかもしれない!』
そういった思いから、あのような文面で募集をかけたわけだが…逆に怪しさを助長させているという事実に陽彦は未だに気づいていなかった。
鼻歌を歌いながら封筒の封を切る陽彦。そして送られてきた、4通の写真を順番に見る。
「じ、人物画って描いたハズなのに…な、なに!?この生物×2!?ペット!?ペットなの!?
でも、ペットだったらこんな…スケートリンクにいそうな衣装で、
なおかつこんな片足をあげ、顔は斜め上を向きビシっと向き…思いっきりキまってるなんてありえない!?合成!?」
鈴森・鎮(すずもり・しず)の送ってきた写真に動揺を隠せない陽彦。
鎮、職業…ではなく種族、鎌鼬。
そんな鎮が送った写真は
スケート選手が着る様な衣装を身に纏いポージングした、『イタチ姿』の写真。
しかも、愛するパートナーのイズナのくーちゃんも同じポージングをしている。
陽彦は頭の中が疑問符盛りだくさんになりつつも、次の封筒の封を切る。
「こ、今度は普通の男の人だ…」
いくばくか安堵する陽彦。
「この姿…箒…神主さんかな?神主さんっていうともっとお爺ちゃんなイメージがするけど…それにしても、綺麗な人だぁ〜。」
しばし、見惚れる陽彦。
「…って!?な、なんで僕はこんなに男性に見惚れてるんだっ!?や、僕はノーマルで…そ、そう、この可愛い猫ちゃん達に見惚れてたんだよ、うん。」
別に隣に誰がいるわけでもない、ワンルームのアパートで赤面し、己で言い訳する陽彦。
それほどまでに、空木崎・辰一(うつぎざき・しんいち)の送ってきた写真…ショートカットの女性?と見間違ってもおかしくないぐらい綺麗な顔立ちをしていた。
名前が女性っぽい名前であったならば、きっと陽彦は困惑していたことだろう。
赤面しつつ、更に次の封筒を切る。
「おお!女の子!しかもこんなに可愛いっ!!」
陽彦は特に幼い女の子好き、という趣向は持ち合わせてはいなかったが、それでも素直に可愛い!と思える写真。
送り主は海原・みあお(うなばら・みあお)。
小学校一年生ほどの外見をしているが…実年齢は13歳である。彼女に何があったのか、そんなことは知る由もなく、陽彦は
「可愛いなー愛らしいなー銀髪、綺麗だなー。きっと大きくなったらもっともっと綺麗になるんだろうなー」
と、しばらく写真を眺めていた。きっと、彼女の成長していく姿を妄想でもしていたのであろう。
そして、最後の封筒に鋏を入れる。
「お、また綺麗な男性だ。白衣…と、いうことはお医者さんなのかな??」
送り主は、楷・巽(かい・たつみ)。ただ今精神科にて実務経験真っ最中!だ。
「この人も綺麗だな〜…ただ、人を寄せ付けなさそうな雰囲気を持っているけど…そこら辺が女性に受けるんだろうな、きっと。」
彼女いない暦20年の陽彦は羨望の眼差しで巽の写真を見る。
僕もこんなクールな雰囲気を纏いたい…と思いつつ、しばし写真を眺める。
謎すぎる生物。美人な男の人。可愛らしい幼女。クールな美形。
部屋に寝転がりながら、陽彦4枚の写真を眺める。
突如、彼にビビビッ!!と稲妻を受けたような衝撃が走る。
「キたキたキたぁーーーーーーーーーーーーっっっ!!」
陽彦の中で、絵の構図が完成したらしい。
本来ならば、写真から絵を描くことも可能だったが、陽彦は筆を取った。
写真を送ってくれた4人に。
「騙していて申し訳ありませんでした。俺は、唐沢陽彦といいます。
20歳の美大生です。でも、モデルを探しているのは本当なんです。
写真、拝見いたしました。
どうかぜひ実際にお会いして、貴方を描かせてください」
と。
*優しい人たち*
大学のキャンパス内。
休日ではあるが、それなりに人がいる中、キャンパス内のベンチで陽彦は4人を待っていた。
約束の時間まで後数分。突如陽彦の後方から2人の声がした。
振り向くと、そこに立っていたのは辰一と巽。
大学に、大人の男性(しかも美形)が並んで立っていることから、キャンパス内のまばらな人々は
『モデル!?俳優!?』と遠巻きにその光景を見やっていた。
そんなことは露知らず、二人は挨拶をする。
「神主をしております、空木崎辰一です。」
やはり綺麗な顔立ち、そして中性的な声に『やっぱり女性なんじゃないか?』と陽彦は思う。
「精神科研修医の楷巽です。」
深々とお辞儀をする巽に恐縮し、巽以上に深々…と、いうよりはペコペコとお辞儀をする陽彦。そして笑顔で
「今日はお忙しい中ありがとうございましたっ」
と発言するも…
「いくら困っているとは言え、あのような書き込みでは不振がられるだけですよ?」
と辰一が発言する。
「俺も、そう思います。困っているなら素直にそう書けばいいと思いますし…
それに、モデルになってくれる方がなぜいないのでしょうか…?」
続けて巽が言う。
「それは、俺が…」
陽彦が理由を話そうとしたとき、元気な子供達の声がキャンパスに響いた。
「あ〜!きっとあの人たちだよ〜!!」
そこには、小さな体に大荷物を抱えたみあおと
「この学校、広いな〜!!道に迷うかと思ったっ。」
きっとみあおのものと思われる荷物を持ってあげている、陽彦にとって見覚えのない少年。リュックを背負っている。
陽彦が思わず確認する。
「えっと、君が海原みあおちゃんだよね?」
「は〜い♪みあおだよ☆お休みの日の昼間でよかった〜♪
いっぱい衣装持ってきたんだよ〜っ。あ、でもヌードだったら必要ないかなっ?」
いやんっ☆とばかりにヌードも可!!な雰囲気を漂わせてみあおが言うと、
他の男性陣三人が『ヌードっ!?』と口をそろえる。
アワアワと、陽彦は否定するのに必死だ。
「あ、あの、ヌードじゃないですっ!!確かに、衣装はこちらで用意しましたが、断じてそんなっ」
「なぁんだ、せっかく衣装いっぱい持ってきたのに〜」
と、やや不服そうなみあおと、いまだ不振な目をする辰一&巽。
まだ涙目な陽彦の肩を、写真で見たイタチがポムポムと肩を叩く。
「大人なんだし、泣くなー」
「はい、ありがとうございます…って、アレ!?」
先ほどの少年はどこへやら。そこには写真と一緒のイタチ…と、更に小さいイタチが。
「ん?人間の方じゃわかんなかったみたいだから、鎌鼬の状態になったんだ♪
んで、イズナのくーちゃん。今日はよろしくなっ!」
鎮がそう挨拶すると、くーちゃんもキューと愛らしくなく。
「え?カマイタチ?人間から変身?え??」
頭にハテナマークが飛ぶ陽彦に
「なぁんだ〜。それじゃあ、みあおも他の姿の写真も送ればよかった〜」
と、みあおが続ける。
「へ?他の姿?」
更にハテナマークが飛ぶ陽彦を見かねてか、大人美形男性二人は
「世の中広いんです。気にせず、早く絵のほうを。」
辰一の言葉に、ハテナマークが飛びつつも
「は、はいいっ。では、こちらへ…」
と、陽彦はアトリエとなっている部屋の一室に四人を招いた。
部屋に入ると、空間はすぐに出来上がっていた。
「これはまた…家族写真でも撮るおつもりですか?」
巽の感想。
部屋内は、渋めの赤を背景に、やや豪華な椅子が真ん中にひとつ。
この椅子にみあおが座り、後ろに両親が並んだりすれば、写真屋の見本で見かける『家族写真』そっくりとなろう。
「実は、ビンゴです。」
陽彦が言う。
「とりあえず、皆様に衣装を用意してありますので、そちらに着替えていただけますか?」
カーテンで区切られた三つの更衣室のようなものに辰一、巽、みあおを案内する。
「あれ?俺らは?」
そう言う鎌鼬状態の鎮に、
「え、えっと、鎮くんとくーちゃんは、ヌードで」
と、陽彦は伝える。みあおは
「あたしもヌードでも構わないよ〜♪」
と、悪戯っぽく笑いながら着替えに行った。
「え、えと、じゃあ次回はぜひ…」
苦笑しながら言う陽彦に、巽の冷たい視線が突き刺さったのは言うまでもなく。
その後、最初に更衣室に入った辰一がもの凄い勢いで出てきた。
「あの、何か間違えていませんか?」
ニッコリと、しかしものすごく怒気のこもったオーラを発しつつ、辰一は手にしたものを陽彦に見せる。
辰一の手にしていたもの…
春物の、艶やかな花柄ワンピース。勿論女性用。
「や、あの、その、絶対似合うだろうな、と思って…」
「確かに、女性に間違われることは悲しいぐらいにありますが…このような、記録に残るものにこんな格好で…」
今にも帰りそうな勢いな辰一に、陽彦はすかさず土下座をする。
「お願いしますっ。名前は出さないのは勿論、今日は下書きだけですのでっ。小一時間で終わりますのでっ!!」
部屋の床に頭をくっつけ、真剣に願う陽彦。
「♪れっつごーごー ひっとだっすけー♪」
着替えもなく暇をもてあましていた鎮がお気楽に歌を歌う。きゅーきゅー!というくーちゃんの合いの手付きだ。
今尚土下座を続ける陽彦と、脱力感溢れる歌に、「仕方ないですね…」と辰一は呟き、更衣室へ戻った。
*レッツ、絵画!*
三人が着替え終わり、集まる。
巽は黒を基調としたスーツ姿。シャツは白、暗色系の青いネクタイ。
巽のクールビューティーさを更に際立たせた、スマートなスタイルだ。
みあおは、まるでフランス人形の如きフリル満載な白いドレス姿。
アクセントは黒と赤。黒いタイツに赤い靴。髪には真っ赤なリボン。
どこから見ても「お人形さん」だ。
そして…辰一。
薄い黄色を地に、百合の花がプリントされたロングワンピース。
髪にはウィッグをつけ、セミロング。勿論、陽彦によるメイクもバッチリだ。
半ば落胆、諦めの表情で現れた辰一に
「うわぁ、綺麗〜!似合う〜♪」
と、無邪気にみあおが叫ぶ。
「何か間違っている、とはこのことだったのですね…」
更衣室内から断片的ではあるが会話を聞いた巽は辰一の姿に冷静にコメントする。
「うんっ、大丈夫、女にしか見えないっ!」
褒め言葉で言ったつもりの鎮の言葉も、辰一の悲しみを増すだけだ。
「陽彦さん…早く、早く始めてください…」
「あ、はいっ。それじゃあ、みあおちゃん、その椅子に座ってください。
で、僕から見て左側に巽さん、はい、そこです、バッチリです。
そして、右側に辰一さん…はい、その位置で。」
「なー、俺とくーちゃんはー?」
鎮が言うと、陽彦は「そうそう」と呟きながら小さな黒の蝶ネクタイを取り出す。
そして、器用にそれを鎮とくーちゃんの首に巻く。
「えっと、ですね…みあおちゃんはくーちゃんを。辰一さんは鎮くんを抱きかかえてください」
「は〜い♪」
と楽しげなみあお。
それに対し
「うわ、パット入ってる!?」
「………」
抱きかかえられた鎮の言葉に、更にどんよりとした空気を醸し出す辰一。今日は厄日か。
そんな重い空気も感じつつ、陽彦は更に説明を続ける。
「それじゃあ、そのポーズで…下書きだけで終わらせますので、小一時間もかからないと思います。
体は多少動かしても構いません。
それでは、皆さん…こう、やんわりとした笑顔でお願いします〜」
「は〜い!」
と、ニッコリ笑顔のみあおと、鎌鼬状態ながらに笑顔が見て取れる鎮。
しかし、問題は男性陣。
辰一が笑顔になれないのは勿論だが、巽も…
「巽さん、こう、もうちょっとニコリと…」
「申し訳ありませんが、精一杯努力しています」
確かに、口角はやや上がっている。しかしクールビューティー巽、表情の起伏はあまり感じられない。
陽彦は、辰一同様に、巽も凛とした表情に仕上げることに決めた。
こうして、陽彦は一心不乱に筆を動かした。
そして、あっという間に下書きは終わった。
「もういいのですか?」
と巽が問うほどだ。
辰一は即座に元の姿に戻ろうと更衣室へとダッシュする。
巽、みあお、鎮が下書きを見ると、それなりに上手くは描けている。
「へぇ〜さすが美大に入学できたことはあるんだねぇ〜」
とみあおが感心する。が、巽は
「出来上がりの作品次第、ですね」
と冷静に答える。
鎮とくーちゃんは『やっと動ける!』とばかりに部屋を物色している。
辰一も、元の姿に戻って出てきたが…
「辰一さん…まだ、メイクが残ってますよ」
巽のツッコミに、辰一は陽彦に
「早く落としてください」
と、またも怒りオーラを含んだ笑顔で陽彦を見た。
*完成!!*
「入選しました〜!!!!!」
下書きをした日から約一カ月後。
4人の元に陽彦から手紙が届いた。
同封されているのは、展覧会の招待状。
4人が揃って陽彦の絵を見に行くと…あった。
中央に、みあお。そしてその両脇に巽と辰一。
抱きかかえられる鎮とくーちゃん。
タイトル『美しき夫婦と養女。お洒落なペット添え』
「…なんか、食事のタイトルみてーだなー」
人間状態の鎮が呟く。
「確かに、模写は上手いようですね…」
巽が呟く。
「うまく僕だとわからないようにはなっていますが、でも見る人が見たら…」
悩む辰一。
「よく入選できたね☆」
素直な感想を笑顔でサラリと言うみあお。
それもそのはず。
人物画はモデルがよかったせいか素晴らしい出来となっている。
んが。
背景が…うっすらと人の顔が浮かんでいたり、とホラーチックなのだ。
よーくみないとわからないぐらいにうっすらと、なのだが。
「きっと審査員、ちゃんと絵を細部まで見てませんね」
巽がため息混じりに呟いた。
*後日談*
「え?あたしもモデルに誘われたけど…勿論断ったわよ。
なんで、って?だって、陽彦君…見えちゃうんだもん。
あたしには見えないモノが。守護霊?ってやつ?
見えるのは構わないけど、さすがにそれまで忠実に描かれると…
さすがにヒくわね。
だから、誰もモデルやってあげないんじゃない?」
陽彦くんのお友達、S子さんの証言でありました。
*END*
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【2029/空木崎・辰一/男性/28歳/溜息坂神社宮司】
【2320/鈴森・鎮/男性/497歳/鎌鼬参番手】
【2793/楷・巽/男性/27歳/精神科研修医】
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■ ライター通信 ■
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いつもお世話になっております、千野千智でございますッ!
今回もご参加いただきありがとうございました〜!!幸せ者でございますっ!
しかも、凄く素敵な写真指定に…私の頭の中ではそれだけで素晴らしい絵が
完成しておりました(笑)
いつも素敵なネタをありがとうございますッ!
そのセンスに脱帽っす!!!
ご発注、本当にありがとうございました!
よろしければ、またお会いできることを願って…では!!
2006-04-05
千野千智
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