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◇ “かいとー”と“めーたんてー” ◇
◇ ◆
闇夜に羽ばたく純白の光
さぁ・・・今宵も一時の夢のショータイム
淡くも儚い夢なれど
輝くならば永遠に
そう―――――
永遠に・・・・・・
◆ ◇
煌く宝石。
高価な輝きを宿した小さな石を掴むと、黒羽 陽月・・・いや、怪盗Featheryは身を翻した。
警報が鳴り響く。
警備員の持ったライトが闇の中で鮮やかに踊り狂う。
カンカンと、鳴らすは鉄の螺旋階段。
上へ上へ―――漆黒に染まる夜なれど、怪盗にとっては月明かりすらも眩しいほどで・・・。
風が冷たい。
揺れる前髪が青い瞳にかかり、思わず目を閉じた。
そして・・・・・
「今宵のショーは楽しんで頂けましたでしょうか?」
螺旋階段を駆け上がって来た人物に向かって、黒羽はそう言った。
ニヤリと口の端を上げ・・・直ぐ後ろ、腰までしかない手すりを越えればその先には何もない。
絶体絶命のピンチ・・・
それは、ただの泥棒の場合だ。
こっちは怪盗だ。ただの泥棒ではない。追い詰められて終わりなんて、洒落にもならない・・・。
追い詰められてこそ、逃げる時が華なんじゃないか。
「それでは♪」
にっこりと、今度は柔らかい笑顔を向け―――
「今日こそ捕まえる!」
そんな声と共に、黒羽の手に手錠がかけられた。
銀色のそれは何度も見た事のあるもので・・・やばっ・・・と、焦ったふりをしてあげるのはサービスだ。
こんなものを抜けるのなんて簡単。
手錠から手を抜き・・・ん・・・???何コレ・・・リボン???
見れば手には可愛らしい薄ピンク色のリボンが、これまたご丁寧に蝶々結びで巻きついていた。
マジックはプロ並みの黒羽だが、これはどんなトリックを使ったのかぜひとも訊いてみたくなる。
「怪盗捕獲!」
そう言ってしたり顔をする探偵・・・工藤 光太郎。
“怪盗捕獲”・・・?違くね?何このプレゼント仕様。
脳内ハテナマークだらけの黒羽だったが、こんなところでキョトンとしていて捕まってしまってはどうしようもない。
しかも、通常仕様の銀色に光る手錠ならともかく・・・プレゼント仕様で逮捕された日には・・・。
流れる映像。
右隅に踊る文字は『怪盗Featheryついに逮捕!』
そして映る、プレゼント仕様の俺。
有り得ない映像に、会社帰りのサラリーマン達がラーメンを口から溢しながら呆然と見詰め・・・
・・・ふっ・・・ぜぇってーイヤ・・・。
黒羽は刹那、遠い目をしたが直ぐに気持ちを持ち直すとスルリとリボンを抜けた。
「何の冗談かわかりませんが、お持ち帰りはまた今度v」
・・・そう。まだ捕まるわけにはいかないんでね。
口の端を皮肉気に吊り上げて笑い・・・それは普段と同じ、飄々とした・・・どこか馬鹿にしたような視線・・・。
「今度なら持ち帰っていいのか・・・」
が、工藤のそんなとんちんかんな台詞に、ニヒルな笑いもすぐに掻き消える。
「や・・・待て待て、メータンテー。何か意味取り違えてる?」
「文字通りだろ?」
いたって普通に言う工藤。
・・・はは、こいつバカだ・・・。
そんな乾いた笑いを浮かべる黒羽。
逮捕って意味なのに、なにをトチ狂ったか“メータンテー”は随分と面白い解釈をしてくださったようだ。
はっきり言って、迷惑極まりない。
苦々しい表情を作り・・・すぐに、自分が現在“黒羽 陽月”ではない事に気がつく。
・・・しくった・・・紳士な俺とした事が、取り乱しちまったぜ。
ちなみに、未だに“陽月君”は“怪盗Feathery”の中に住み着いているらしく、紳士らしからぬ口調になってしまっているのはある意味では仕方のない事なのかも知れないが・・・。
とりあえず・・・気を取り直して、優しい“怪盗Feathery”はどこかのネジが飛んでしまっているらしい可哀想な“メータンテー君”に教えてあげる事にした。
「全てが謎な怪盗ですが・・・教えてやるよ。俺、男な。」
そもそも、声とか、雰囲気とか、そんなんで分かって欲しいものではあるが・・・。
・・・それにしても、こんな至近距離で、メータンテー君には絶世の美少女にでも見えたのだろうか?
「知ってる。」
あっさりとそう言われ、思い切りずっこけたくなるのを寸での所で思いとどまる。
眼下にはギャラリーが大勢いる。
ここで黒羽がずっこけたりでもすれば、どんな喜劇が繰り広げられているのかと言う話であって・・・。
・・・はいー?つーか、気でも狂ったかコイツ。推理ばっかしてて何かずれちゃったのかなこの人ー。
引き篭もり以上の篭り具合をみせる“推理”と言う名の脳内引き篭もり。
毎日毎日そんな“超閉ざされた空間”でごにょごにょ難しい事を考えていた結果、何かがずれてしまったのだろうか?
「えーと・・・俺、自分よりごついのは嫌だなーとか思うワケですが。」
そんな黒羽の正当かつ真っ当な台詞は、工藤のよくわけのわからない台詞によって掻き消される。
「大丈夫だ、お前が可愛いから。」
ペロンと言われた言葉に、脳味噌の皺がツルンと一気に無くなるような錯覚を覚える。
大丈夫だ・・・
お前が可愛いから・・・可愛いから・・・可愛いから・・・
響く言葉は、何度も黒羽の耳の近くで聞こえて来る。
通り過ぎては跳ね返って来て、再び通り過ぎては跳ね返って来て・・・。
「世間様ではニヒルで格好良い〜とかって言われてるこの俺を?」
可愛いだって・・・!?可愛い・・・!?
アイドルじゃないんだから・・・
「目ぇ腐ってる?・・・ああ、やっぱいつも事件ばっかで何かが・・・」
「何処がニヒルだ。万に一つもそんな面があったとして・・・。俺はお前がいい。」
“俺はお前がいい”だって・・・?
キャー、何ソレ呪文?
何か召喚するわけ?それで?
すっごい口説き文句ですねー。でもそんなんさぁ、そこらのオジョーサンに言ってやってよ、もう。
「と、言うわけで・・・今日お持ち帰りさせてもらう。」
心底あきれ返っている黒羽の耳にそんな声が聞こえ、見れば再び手元はプレゼント仕様。
なぁ・・・マジこれ、どんなマジックなんだよ・・・。
種も仕掛けもありませんとか言って、なにこの人。超能力保持者??
「どう言うわけかは知りませんが、生憎俺は持ち帰りが出来な・・・」
「それじゃぁ、ココで。」
はいー?
おいおい、何か勘違いしてないかメータンテー。
ファーストフード店じゃないんだから、店内か持ち帰りかなんて選べないんだっつーの。
どうやら1本どころか必要最低限のネジすらも飛び散ってしまっているらしいメータンテー。これ以上彼の話に付き合っていたら、こちらのネジまで飛ばされてしまいそうな気がしてならない。
ここはとっとと逃げ―――
ガクンと、身体が前方へと持っていかれる。
手に結ばれたリボンを工藤が引き・・・しまった・・・!!!
油断していた一瞬をつかれたのだ。
慌ててリボンを解こうとするものの、解こうとすればするほど絡まって行き―――
「俺という監獄に入れてやるよ。」
そう言いながら迫る、工藤が微笑む。
あああ、どっかで聞いた事あるような台詞!だけど、何か違う〜!!!
◇ ◆
はっ!!!と、黒羽は顔を上げた。
窓の外からはサンサンと降り注ぐ太陽。
教壇には英語の教師が立っており、どこか片言な英語を紡いでいる。
ゆ、夢か・・・・・・・
ほっと安堵したのも束の間、黒羽は机の上に広げられた数学の教科書を慌てて机の中に突っ込み、代わりに英語の教科書を出した。
それにしても・・・マジ悪夢。
未だに耳に残る“メータンテー”のあのキメ台詞。
『俺という監獄に入れてやるよ』
ふざけんなと叫びたい。
そんな寒い台詞をさらりと言ってしまうその神経もどうかと思うが、俺は男だ!
あんなゴツイやつの監獄に入れられたが最後、出ては来れないだろう・・・。
それにしても・・・本当・・・
すっごい悪夢 ―――――
◆ ◇
この世界では夢のお話だったかも知れませんが
夢とは誰かの現実であり・・・
この現実もまた、誰か夢である可能性があります
つまりは・・・
何処かの世界では本当に起こっている事なのかも知れません・・・
そう・・・
今でも続いているのかも知れません
“かいとー”と“めーたんてー”の面白可笑しい攻防戦が―――
≪ END ≫
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