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<東京怪談・PCゲームノベル>


日々徒然 〜ドキドキ☆タッグマッチ〜



 日々変わらない?
 日々変わっていく?
 ふとしたことで始まったこの戦い
 目の色変わったね
 かけるものは―――



 銀屋の品物は色々なものがある。無節操にある、と言っても良い。
 今日はそんな物をちょっと整理しよう、と奈津ノ介が思い立ったらしく藍ノ介も、そして他にも何人かそれに借り出されていた。
 そして、菊坂 静もそれに巻き込まれた一人。と、言っても静が来た頃には大半の片付けは終わっていた所だった。
 ただ足下には色々なものが転がり、あまり良い状態とは言えず静はその床に転がるものを端に寄せたり片付けたりしていた。
 と、ふと手にとった物、それに興味を持った。
 朱塗りの棍。それは長さも手ごろのようで、静はじーっと見詰めた。
「あれ、静さん、それに興味がありますか?」
「えっと……僕、そんなにみてましたか?」
「ええ、じっと。よかったら振るってみますか? ここじゃ狭いですけど……奥なら。もう片付けもほぼ終ってますしね」
 奈津ノ介はこっちです、と和室の奥、いつも茶を用意するために消えていくほうへと静手招く。
「あ、靴持ってきてくださいね。庭があるんです」
「へぇ……」
 いつも訪れるのは和室まで。その奥は未知の領域で、ちょっとばかり、そこへ進める事が嬉しい。
 廊下を通り抜けるとそこは縁側。そこに庭があった。庭と言っても、植木などが多々あるわけではなく空き地と言った方がしっくり来る。土管があればまさにぴったりだろう。
「すごいですね、こんな所があるなんて……というかあからさまに広すぎですよね」
「でしょうね。ちょっとした異空間みたいなところですから」
 奈津ノ介はくすっと笑う。それは深くは聞かないでくださいね、と暗に言っているようだった。
「ここならいくら棍を振るおうが投げようが、大丈夫です」
「ふふ、さすがに投げたりはしないけど」
 静も笑い返し、靴をおくとその庭に降りる。
 棍の感触を確かめしっかりと握り、そして振るう。振るうたびに棍が少ししなり、とても扱いやすい。
「おーい、奈津終ったぞー……お、棍持ってこっちに行ってたのは振るっておるからか、静は筋がいいみたいだな」
「やっぱりそう思います?」
「うむ……なんか、わしも身体を動かしたくなったなぁ……」
「ああ、良いですね、僕も。じゃあ皆でしましょうか」
「よし、二階のやつらも呼んでくる」
 そう言って藍ノ介は身を翻す。
 静はその姿を瞳の端にはとめていたが、会話の内容まではよく聞こえていなかった。
 一通り振るい、満足してそして縁側へと戻ってくる。
「藍ノ介さんと何を話していたんですか?」
「ええ、皆でちょっと遊ぼうかと」
「遊ぶ……?」
 すぐわかりますよ、と奈津ノ介は言い笑う。
 静は何だろう、と思いつつもすぐわかると言うなら、と深くは聞かない。暫くしてぞろぞろと店の方から人が此方へとやってくる。
「呼んできたぞ!」
 藍ノ介がつれてきた者たちは、静にとって初対面のものもいる。
 自分より背の小さい少年を肩車する人、もちろん肩車されている子も初対面だ。彼の手足は黒い毛皮の猫のもの、耳も、黒い猫の耳があり、すぐ妖怪だとわかる。
 ということは、きっと肩車をしている方も妖怪なんだろう。
 そして、この人にはこの前会った事がある。確か南々夜という名前だったはずだ。
「あ、しぃ君だ、やっほー!」
「こんにちは」
 にこっと笑顔には笑顔で。静はこれから何をするのかと楽しみであったりもした。
「藍ノ介、何をするんだ?」
「ん、久し振りに身体を動かしたくて……」
「つまり喧嘩か」
「うむ」
「あはっ、ボクはなんでもいーよー?」
 身体を動かす、がどうして喧嘩になるのかな、と静は思う。本当に喧嘩をするわけではないのはわかっているのだけれども、ちょっと不安だ。
「静も混ざるだろ、折角だ。あ、これは千両で、上は小判な」
「ええ、でもお手柔らかにお願いしたいです」
 ついで、というように藍ノ介は隣を紹介する。静は自分の名を告げ、そして笑む。小判、と呼ばれたほうが肩から降りて、そして静を見上げる。
「おにーさん、よろしくね、俺は小判です」
「うん、よろしく」
 と、静の瞳にゆらゆらと、小判の揺れる二本の尻尾が目に入る。
「……尻尾、二本なんだね」
「うん、俺ネコマタだから、千パパも二本なんだよ!」
「千パパ……ああ、千両さんの事だね」
 静は千両を見上げた。穏やかな表情で、自分達を見下ろしてくれている。その視線に知らず笑みがこぼれてしまった。
「さて、どうしますか? 一対一とか……集団とか……」
「一対一は結果がみえているから却下だ。二対四くらいでよくないか?」
「二体四って……もしかして、僕の事心配して言ってますか?」
 藍ノ介の言葉に、静はちょっと気になって口を挟む。自分は確かに皆と違うが、そこまでされるとちょっと悔しいような気がする。
「あ、いや違う。南々夜が強すぎるからな……バランスとれんのだ」
「そうですね……」
「あは、ボク一人でもいーよ」
「え、でも……」
 藍ノ介だけでなく奈津ノ介も苦笑しながら言う。ということは本当にこの南々夜は強いのだろう。静は南々夜を見上げる。視線があって、にこっと笑われた。
「じゃあ、ボクがしぃ君と組む! そしたらーあいちゃんとせんちゃんとーなっつーとコバでー、一対三と一対一になるからー、ちょーどいいねー、あはっ」
 とん、と軽く縁側を蹴って南々夜は裸足のままで庭に降りる。
「はーやーく!」
「なんだかちょっと強引ですね」
「南々にーさんはいっつもあーだからね! おにーさんも行こう!」
 小判に手を引かれ、静は南々夜のいる方へ連れて行かれる。残り三人も、庭へと降りて、そしてどこか楽しそうだ。
 と、奈津ノ介が思い出したように言う。
「三個、高級和菓子が残ってるんですよね……良い動きした人にあげますね」
「御菓子っ!」
「何!? そんなものがあるなど初耳だぞ奈津よ!」
 小判と、藍ノ介の目の色が変わるのを、静は感じた。
 千両も、小判のためならとちょっと真剣になっている。
 変わらないのは南々夜と奈津ノ介と静だ。
「しぃ君がんばろーね」
「はい」
 ぽん、と背中を叩かれて、なんだか安堵する。
 本当に、頼れそうな、そんな感じだった。



 風を切る音。確実に当たったら痛そうな、そんな音だ。
 自分より小さいのにものすごいスピードで繰り出す拳だな、と静は冷静に見極める。
 二体四で変則的に戦うとなると、静の相手はくるくる変わるので、なかなか面白い。
 と、南々夜と背中が合う。
 双方ちょっと休憩、というようで距離が開いた。
「しぃ君だいじょーぶ?」
「ええ、楽しいです」
「そー、じゃあさー」
 こそっと、小声で南々夜から作戦。それを聞いて静はいいですよ、と笑う。
 一歩深く踏み込んで、南々夜のほうに向かう藍ノ介、けれどもそれに南々夜は背を向けて、静の方を向く。
「!」
「はいっ! おもっきりいっちゃえ!!」
 とん、と南々夜の手を踏み台にして、高く高く、静は飛ぶ。南々夜を飛び越して、そのまま思いっきり棍を振り下ろした。
 藍ノ介は、腕でガードをもちろんするんだけれども、それでも高さと勢いのある攻撃はびりびりと腕に相当の負荷を与える。
「痛いぞ静!!」
「手合わせですから」
 にこっと静は笑い、そして距離をとる。
「あはっ、腕折っちゃうくらいの気持ちでいっていのにー」
「そこまで根性なかったので」
「無駄話してる場合じゃないですよ、二人とも」
 静と南々夜、話をしているその頭上、先ほどのお返しだとばかりに、藍ノ介が高く飛ばせた奈津ノ介の姿。降る声は穏やかだ。
 そしてそのさらに上に、小判の姿。
「二段攻撃!?」
 静はそこまでやるのか、と内心苦笑する。負けず嫌いがそろってるな、と思いながら。
「あっは、いーね!」
 静に一歩下がらせ、そして南々夜は奈津ノ介の攻撃も小判の攻撃も、どちらも片手で受け止める。その二人の蹴りもそれぞれかなり重いはずなのにものともしない。
 本当に強いな、と静は思う。
 こんな人たちと毎日手合わせしてたら、イヤでも強くなりそうだ。
「静さん笑ってる場合じゃないですよ!」
「っ!」
 ちょっと油断してそんなことを思っている間に、先ほど南々夜に攻撃を受け止められたはずの奈津ノ介が眼前にいる。
 静は棍をうまく使い奈津ノ介の掌をかわした。拳でなくて掌なところが奈津さんらしいな、と思い笑む。
 棍を振り下ろす、と見せかけそれは途中で軌道を変えて突きに変わる。ばしっと痛そうな音を立てて、奈津ノ介はそれを手で弾く。だけれども、そこで静の攻撃は終らない。
 そのまま少し体勢を崩しつつも蹴りを一撃。
「っ……!」
 容赦はいらないと思い、思い切り放ったそれはモロに奈津ノ介の鳩尾にはまる。
 奈津ノ介は一瞬顔を歪めたが、すぐ笑顔になる。
「いい蹴りです」
「ありがとう、ございますっ!」
 声と勢いと、その両方は重なって、棍で薙ぐ。だけれどもその動作は見切られ、ふっと奈津ノ介の姿が視界から消える。消えたと、思った。
 とん、と棍に重さを感じる。
 静の瞳に移ったのは、棍の先、一点に指をついて、そして自分を飛び越える姿。
 かなわないなぁ、とそう思ってしまう。
「動作がちょっと、大きかったですね」
 落ちる声とともに背後から衝撃が一度。
 それは控え目に、だけれども確実に自分に響く。
「っ……! 駄目だ、僕の負け、です」
 背中に受けた奈津ノ介の掌からの衝撃。それを受けて常人並の体力をもつ静はくらりとする。
 これ以上無理をしても駄目だな、という引き際を見極め、静は苦笑した。
 棍にすがる様に立っていたが、堪らなくなってぺたっと地面に座り込む。奈津ノ介を見上げながら、ふーっと一つ大きく、息を吐いた。
「楽しかったです」
「そうですか、僕もです。あっちも終ったみたいですね」
 そう言って奈津ノ介が視線を送った先、地に伏す藍ノ介と千両、南々夜の肩に軽々と担がれじたばたする小判がいる。
「うわぁ……容赦ないですね……」
「でしょうね。さ、二人ともそのうち気がつくでしょうからお茶飲みましょう」
 奈津ノ介が差し出した手。
 はい、と静は笑いその手をとり立ち上がる。
「しぃ君おつかれさまー、楽しかったねー」
「そうですね」
「あははー南々にーさんやっぱつーよーいー」
「コバも強くなってるよーだいじょーぶだいじょーぶ」
 たかたかと軽い足取りで南々夜は近づいてくる。そのまま小判を担いで。
「南々夜さんは、強いですね」
「うん、強いよー」
「はい」
 じゃあそゆことにしとく、と南々夜は言い小判を下ろす。
 縁側に三人は並んで座った。視界には何もない庭……に二人ばかり倒れているがまぁ、それは見ないように心がける。
 倒れていても放っておくという事はいつも、きっとこうなんだろう。
「はい、お茶です。あと和菓子」
「わーい!」
「ありがとうございます。でも……僕は奈津さんに負けましたよ?」
「僕は良い動きをした人にって言ったんですよ」
 静の言葉に、奈津ノ介は忘れましたか、と問いかける。そういえばそうだったな、と思い出し、それを受けととる。桃を模した和菓子だった。ちょん、と可愛らしい。
「ん、ボクのもしぃ君にあげる」
「え、さすがにそれは……」
「だーめ、しぃ君ものすっごく軽かったんだもんねー」
 はい、と南々夜は和菓子を静に差し出す。ちゃんと食べなくちゃ駄目だよ、と笑いながら。
「じゃあ、いただきますね、ありがとうございます」
「うん、食べて食べてー」
「はい。あ、お茶とあって美味しい……」
 一口、それは控え目な甘味が口に広がる。確かにコレは高級と名がついても良さそうな感じだ。
 静はそれを口にしつつ、やっぱり気になる二人を見る。
「あの、お二人はあのままでいいんですか?」
「ああ、いつも放ってますからねー」
「千パパも藍ノ介さんも気絶してるよ」
 おごちそうさまでした、と手をパシッと合わせながら小判は言う。
「あはー、容赦なく拳叩き込んじゃったんだよねーボクがつれてくるよー」
 そう言って南々夜が立ち上がり、倒れている藍ノ介と千両を連れてくる。
 連れてくると言うよりも、首根っこを掴んで引きずってくる、の方がしっくり来るのだけれども。
「うわあー……」
「あ、大丈夫ですよ。よくある光景ですから」
「よくある……そうですか」
「千パパが引きずられることはそんなにないけどね!」
 どさっと縁側近く、仰向けで放置された二人はその衝撃に少し呻くが起きない。よっぽど深く、攻撃を受けたのだろう。
「ご馳走様でした。こうやって身体を動かした後、のんびりするのは良いですね」
「うん、すごくいーね! 俺、おにーさんとまたこうやって遊びたいな!」
「ボクもー」
「うん、良いですね、また機会があれば」
 微笑んで答えた静に、違うよと小判が言う。
 何が違うのかな。
 そう静は思った。そして小判はそれを感じ取ってくれたらしい。
「機会があればじゃなくて、機会は作るんだよ、おにーさん」
「なるほど。そうだね」
 小判の言葉に、静は頷く。
 それに満足して小判は尻尾をゆらゆらとさせながらえへへと笑う。
「それじゃあその棍は売らずにとっておきましょうか。静さん専用で」
「え、いいんですか? 売り物じゃ……」
「いいんですよ。棍なんて買う人いないでしょうしね」
 奈津ノ介は笑って言い、確かにそうかもしれないねと静は返す。
 この朱塗りの棍をみつけたことから始まったお遊びは、今日はとりあえず御仕舞いらしい。
 身体を動かして、心地良い疲労感。それを感じながら静は他に他愛のない話を縁側で皆とする。
 ぽかぽかと日差しも最高。この穏やかな時間がもう少し、続けばと思う。
 和菓子も美味しかったし、なんだか今晩はぐっすりと眠れそうだな、と静は思った。




 目の色変わったね
 かけるものは―――
 高級和菓子
 本気になるなんて、でも確かに、美味しかったかな



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】

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■         ライター通信          ■
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 菊坂・静さま

 お世話になってます、ライターの志摩です。
 銀屋メンバーに好意的な静さま…ありがとうございます…!今回はほのぼのしつつ戦闘ということで、綺麗に動きが出て、それを感じていただければ幸いです。連携もしましたし、個人もしっかりとで二度美味しい思いをしました(自分が(…)書いていてとても楽しかったです!格好よくない人も二名いますが、その分奈津と南々夜がカバーしてくれてるはず、です…!
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!