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<東京怪談・PCゲームノベル>


みらくる狂詩曲 〜Auberge Ain〜にて



 ぽんっ!
 空に突如現れた水色のものは、急降下する勢いに驚きもせず、逆に楽しそうに満面の笑顔で地面に迫っていく。
 いきなり現れることに慣れているのかもしれない。
 その間もぐんぐんと落下していく。
 くりっとした大きな黒い瞳は、下に歩く人物をターゲットオン。
 もし間近に見ていたら、思わず目を逸らすか、回れ右をして見なかったことにしたくなるような強面の人物だ。だが、相手は一歳児。
 何を見ても遊び相手と認識するお年頃だ。
 月見里煌は相手にしがみつくため、めいっぱい両手を広げた。
「だぁっ!」
 強面の男、鬼鮫は真上から聞こえた声にはっとして見れば、赤ん坊が急落下してくるのが見えた。
 そしてすぐに衝突するかと思われたが、とっさに鬼鮫は両手で捕獲。
 流石に顔面強打は回避をしたあと、鬼鮫は赤ん坊を抱え上げ、いわゆるたかいたかいをしている状態の自分を振り返り、煌を降ろそうとした。
 が、高い場所が気に入ったのか、鬼鮫の首元にしがみつく。
「お、おい……」
 オーストラリアに居る、コアラのようだ。
「ぱぁぱ……?」
「ぱぱ……だと…?」
 ぱぱと呼ばれたことに感動しているのか、それとも過去の思い出を思いだしたのかは定かではないが、鬼鮫は暫く沈黙した。
「うぅ〜?」
 慰めているつもりなのか、煌は鬼鮫の頬をぺちぺちと叩く。
「お、おい、やめろ」
 いつものドスの利いた声ではなく、戸惑い気味の低音だ。
 強面の鬼鮫も今は子守のおじちゃんである。
 鬼鮫は、どうやって対処すべきか悩んで居ると、しがみついている煌をそのままに、遠くに認めた洋館へとひとまず足を向けた。



 鬼鮫は居心地の悪さを感じながら、煌が落ちないように片手で押さえながら扉を開け放った。
 落ち着いた内装を持つ様式に、歴史を感じさせる調度品。
 玄関ホールで誰か居ないかと声をかけようとした時、奥から現れた人物に気付き、声をかけた。
 その人物は、丁寧にお辞儀をし、言った。
「ようこそ、Auberge Ainへ。今宵の料理と遭遇する出来事が貴方をお待ちしていました」
「だぁぁ〜」
「宿泊予約した覚えはねぇんだがな」
 威圧感のある顔も、すぐ隣にある煌の顔で大幅相殺な鬼鮫は、ぼそっという。
「館に訪れられた方は、ご記憶になくとも既に館のご予約をされた方です。月見里煌さま然り、鬼鮫さま然り。どうぞおくつろぎ下さい」
「いや、こうよ、きらきらしてると落ち着かないっていうか……なぁ?」
「だ!」
 煌は同意しているのかしていないのか、鬼鮫に相打ちをうっているように見える。
 だが本人は十分この洋館が気に入ったようだった。
「煌だったか、おまえの両親はどこだ?」
「まぁま………、ふえ…っ、えっ……」
 しゅんと項垂れた煌に慌てた鬼鮫は、
「ああぁぁぁ、泣くな、泣くな、な、な?」
 と、ぎこちない仕草で煌を胸に抱き揺らしてあやす。
 大抵のひとは怖い、と思う笑顔を無理矢理刻む。
 滅多にかくことのない汗を微かにかく鬼鮫。
 どちらかというと冷や汗かもしれないが。
「う、ぱぁ…ぱぁ」
 黒スーツの胸元にしがみつき、嬉しそうにいう。
「泣きやんでくれたか……」
 ほっと肩を落とすと、にわかぱぁぱ鬼鮫は、燕尾服を着た男の後をついていく。
 だが、鬼鮫は重要なことに気がつき立ち止まる。
「……まて、この状況は俺が面倒見るってぇことか!?」
 館内に鬼鮫の声がむなしく響いた。



 宿泊する部屋の隣から出てきたのは草間武彦だった。
 瞬間、草間は笑い転げた。
「お、お、お、お、お、鬼鮫ぇぇぇ!」
「やかましいッ!」
 鬼鮫は草間が自分を指さして笑い転げているのに、即座に返す。
 自分でもどうかしてると思っているからこそ、腹が立つのだ。
 だが、このやわらかい生き物は心地よい思い出を思い出させる。
 甘い果実というべきものだろうか。
「おまえ……」
 何か続けて言おうとした鬼鮫に煌は下に降ろして欲しいと可愛らしい仕草で示す。
 そっと床に降ろすと煌は床で笑い転げている草間を目指す。
「お、早ぇじゃねぇか」
 意外に早い煌のはいはい歩きに、鬼鮫が感心していう。
 何をするのか見守っていると、煌は爆弾発言第二弾をした。
「ぱぁぱー」
「おぉぉ、鬼鮫がぱぱかッ!」
 草間は目尻に涙をにじませて、煌を見る。
「うぅう〜〜〜〜〜」
 言葉としては違うと言いたいのだろうか、微妙に声音が低い。
「あ?」
「ふっ、どうやら違うようだが?」
 にやり。
 鬼鮫が鬼の首を取ったような表情で、それは嬉しそうに草間を見下ろす。
「ぱぁぱー」
 たし、と両手で草間の腕にしがみつく。
「違うんだよな、俺の場合とおまえの場合の言い方」
 これでお守りを押しつけることができると、鬼鮫は内心胸を降ろすが、見透かしているのかいないのか、煌は草間と鬼鮫、両者の間に座り込み、小さな指をさしていった。
「ぱぁぱ」
 ぴ、と鬼鮫に。
「ぱぁぱー」
 ぴ、と草間に。
 それに驚いたのは草間だ。
「俺は、んな赤ん坊作った覚えはないッ!」
「俺もあるわけねぇだろうが」
「ま、親が見つかるまで預かるしかねぇってこった」
 鬼鮫は煌を荷物のように脇に抱えると、トレンチコートを室内に放り込み、さきほど聞いておいた場所へと足を運ぶ。
「どこに行くんだ」
 草間が鬼鮫の背中に声をかける。
「ロングギャラリーだ」
「何かあるのか?」
「いや、運動部屋代わりに使う。ただの運動だ」
 その間にも煌と鬼鮫は先に行く。
「あー、案内図に書いてたな。絵画とか美術品が飾ってあるところだよな。おい、そこは不味いんじゃないのか」と、鬼鮫に注意を促そうとした時には既に遅く。
 二人は姿を消していた。
「あー、追いかけろってか」
 仕方ないと草間は呟くと、二人の向かった廊下を同じように歩いていった。



 先が随分と遠い。
 どれ位の長さだろうかと考えるが、それは常に貧乏ひま無しの草間には無駄に思えた。
 ゆっくりと壁に掛けられた絵画や、台の上に飾られている像を眺めて過ごすことができるように、ある程度の距離を置いて椅子が置かれて、各個人のプライバシーを尊重して鑑賞できるようになっている。
 廊下をいく煌と鬼鮫を見つけた草間は、二人が何やらその場所で立ちつくしているのに気付き、近づいていく。
「何やってるんだ?」
「知らん。煌がここで降ろせと言ったから降ろしただけだ。それからここから動かん」
 二人は煌の見つめる何もない中空を見た。
「何もないよなぁ」
「ねぇな」
 それでも煌に見える何かは、変わらずにそこにあるらしく、動かない。
 やがて、何も無いはずの中空から絵の具を塗りたくった人の形をしたぺらぺらの人形が、滑り出してきた。
 色付き。
「幽霊じゃ……ないよな?」
「俺に確認するんじゃねぇ」
 霊感ゼロの二人は、どうやら霊感のあるらしい煌を見る。
 赤ん坊の頃は、見えない何かをみることが出来るらしいのを思い出す。
 どことなくコミカルな動きをする人形は、ぺらっぺらっと人間の動きを真似て、両側の壁に飾られている絵画の中の一枚に触れて、何かを引っ張り出す。
「おい」
「だぁ!」
「切るか」
 三人三様の反応をした。
「切るのは待て」
 草間が思わず止める。
「うっかり切ったりして元に戻らなければ困るだろうが」
 つい出てしまう貧乏性の性。
「俺は困らん」
「うー」
「何だ?」
 唸る煌を見て、何を言いたいのか計りかねて、そのまま増えていく人形を眺めているとその数は数十に及んだ。
 やがて全て繋がっていた人形は、適度な人数でグループを作ると、煌の周りにやってきた。
 言葉を喋ることは無かったが、人形たちは楽しそうにぐるぐるまわる。
 絵を描かれた時代からして、舞踏会で踊るワルツなのだろう。
 だが、ぺらぺらっとしているので、どうしても笑いがこみ上げてくる。
 さすがにこの仕業が煌だと気付いた二人。
 幼いまでも能力者で、かなり稀な能力を持っているらしい。
 沢山の絵を見て、一緒に遊べたらいいとでも思ったのだろう。
 ぺらぺらなのは、奥行きを認識するほど立体感の把握がまだ幼いためにできないからだろう。
 それで良かったと二人は思った。
 ロングギャラリーに飾られている絵画の中の人間が全員、立体感を持って人間と変わらないまま現れたら、かなり怖い。
 ぺらんとした人形が、煌の両手を一人ずつ手にして、同じ速度で煌をブランコのように振り回す。
「おいおい、腕が抜けるだろう」
「きゃっきゃっ」
 当の煌は振り回されているときの速度が楽しいらしく、全く気にしていない。
 ぐるんと一回転。
 弧を描いて大きく飛んだ。
「ちょっと待てぇぇぇぇ!」
 大急ぎで、大回転をしたあと宙に飛んだ煌をキャッチすべく、草間が走る。
 草間武彦三十歳。
 全力疾走は久しぶりだった。
 赤い絨毯が敷き詰められた廊下に足跡をくっきり付けてひた走る。
「間にあえっ!」
 がっちりとスライディングキャッチ。
「ぜ、ぜぇぜぇ」
 無事にキャッチした草間を喜んでいるのか、煌は小さな両手でぱちぱちと手を叩いた。
「拍手してるんじゃない」
 草間は煌を腹の上に乗せ、脱力気味に呟いた。
 が、受難はこれからだった。
 再び人形が近づき、煌の両手を手にして、再び投げ飛ばした。
「鬼鮫捕獲しろっ!」
「あぁん!?」
 そして鬼鮫も煌キャッチの遊びに引きずり込まれた。
 煌はぽーんと投げられているだけなので、その間、純粋に楽しんでいる。
 もしかすると、ちょっと過激なジェットコースターが好きなタイプかも知れなかった。
 だが、投げられた本人より大変なのが、お守りの二人だ。
 ぱぁぱ、ぱぁぱーな二人はひた走る。
 延々ひた走る。
 ロングギャラリーは運動場と化した。



 スタミナの面では鬼鮫が勝っているのか、息一つ乱していなかった。
 それに比べ草間は、普段の不摂生が祟っているのか、まさに虫の息だ。
 往復を何回もした後、人形は又一つ、又一つと姿を絵画の中に戻っていった。
 煌は遊び疲れ、椅子の上でゆらゆらと船を漕いでいる。
「運動もしたし、部屋に戻るか。煌も眠そうだ」
「そうだな、煌も疲れているだろうが、俺は激しく疲れた……」
 草間は二日後が怖い、と小さく呟く。
 筋肉痛のことを指しているらしかった。
 後日湿布を買ってきて貰う羽目になるのは後の話。
 煌を連れて帰ろうと見た時、そこには煌の姿がなくなっていた。
「煌がいねぇ」
「今度はかくれんぼってことはないだろうな」
「そりゃないだろ。寝てたじゃねぇか」
 どことなく疑り深くなっている草間だ。
 鬼鮫は出会ったときのことを思いだす。
「現れた時も突然だったから、帰る時も突然じゃねぇのか」
 無事に両親の元に戻っていればいんだがな、と内心思うが決して口に出さない鬼鮫。
 そんな鬼鮫の気持ちを知ってか知らずか、草間はへたれた声で言った。
「と、ともかくだ。俺は腹減った……」
 二人とも当分は、煌の笑い声が耳から離れそうになかった。
「たまにゃぁ、ああいうのもいいか」



『ある日、あなたのところにも現れるかも知れません。
 水色の可愛い小悪魔天使。
 ほら、そこに……』
『だあぁっ!』



END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4528/月見里・煌 (やまなし・きら)/男性/1歳/赤ん坊】

【公式NPC】
【草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
【鬼鮫/男性/40歳/IO2エージェント ジーンキャリア】

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■         ライター通信          ■
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>月見里煌さま
こんばんは。竜城英理です。
〜Auberge Ain〜にて、参加ありがとう御座いました。
ぱぁぱが二人だと面白と思い、ぱぱコンビは草間さんと鬼鮫さんです。
くたびれ風味のぱぁぱーと強面ぱぁぱの二人です。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
依頼や、シチュで又お会いできることを願っております。