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<東京怪談・PCゲームノベル>


ココロを変えるクスリ 【 柔らかな×掌 】



 【ねぇ・・・貴方との関係は、初対面だったよね・・・?】

 【・・・それなのに、気付いた時には兄妹になっていて・・・】

  ―――なんだか、おかしいね・・・?


☆★☆はじまり☆★☆


 夢幻館まで続く道を歩きながら、小坂 佑紀はふっと足を止めた。
 緩やかな上り坂の道路脇に並んだ街路樹に、ポツポツと小さな淡いピンク色の蕾が幾つかついていた。
 茂る葉は青々としており、つい先日までは裸だった木に、活気が戻りつつある。
 ・・・そう言えば、もう直ぐ春ね・・・
 空を仰げば、幾分清々しく澄んだ青が何処までも広がっており、冬独特の低い空とは違って来ている。
 春が過ぎれば、夏が来る。そうすれば、空はもっと高くなる―――――
 夏になれば、吹く風も暖かいものへと変わり、照りつける太陽も今よりも強いものになるだろう。
 佑紀はそう思うと、少しだけ口の端に笑みを浮かべた。
 日本には春夏秋冬がある。
 夏と冬に見せる、自然の色は全く違う。
 ・・・けれど、今から行く館にはそんなものは関係ない。
 夏だろうが冬だろうが、咲く花は同じ。
 季節を違えて咲く花はいつだって狂い咲いており、冬に向日葵を見るなんて不思議を簡単にやってのける。
 何時の間にか止まっていた足を前へと進め、緩い上り坂の終着点を右に曲がる。
 感じる雰囲気はいつもと同じ。
 対の概念が対立する事無く存在するその場所は、不快な雰囲気はしない。それどころか、ほっと落ち着ける温かさを宿している。
 目の前に聳える巨大な館に一瞥を向けると、佑紀は巨大な門から中を覗いた。
 真っ白な道が続く先は両開きの扉。
 道の脇には狂い咲く、季節を違えた花々。
 一足早いチューリップが風に揺れ、弧を描くようにして踊っている。
 そんな花々の可憐なダンスを見詰めながら、佑紀は真っ白な道を進み、両開きの扉を押し開けた。
 蝶番のか細い悲鳴が耳につき・・・飛び込んで来たのは階上へと続く階段。
 足元を見れば血を吸ったかのように鮮やかな赤い絨毯が敷かれており、右手を見ればホールへと続く扉、左手を見れば・・・
 「こぉんにちわぁ☆」
 奥へと続く廊下の手前、可愛らしい少女がチョコンと立っていた。
 片桐 もなと同じ属性かと思われる外見の少女だが・・・その瞳が宿している輝きは、もなとは違う気がする。
 「・・・こんにちわ?」
 「えっとぉ、初めましてぇ。私、紅咲 閏(こうさき・うるう)って言うんですぅ。」
 「閏ちゃん?あたしは小坂 佑紀って言うの。」
 右手を胸の前に当て、そう言うと佑紀はにっこりと口の端を上げた。
 「佑紀さん・・・ですか?」
 ふぅ〜んと小さく頷くと、閏はジロジロと佑紀を頭の先からつま先まで見詰めた。
 ・・・何なのだろうか・・・?
 その瞳は、まるで品定めでもしているかのようで・・・暫くそうしていた後で、閏は決心したように視線を上げると佑紀に向かって微笑んだ。
 「あの、ちょっとお願いしたい事があるんですけど。」
 「お願い?」
 「これ、飲んでいただけませんか?」
 そう言って取り出したのは、いかにもな感じのカプセルだった。
 半透明のカプセルの中には、白色の液体が入っており―――何となく、異質な雰囲気を感じる。
 「これは・・・?」
 「ちょっとした実験です。大丈夫です、別に、害のあるクスリじゃないんで。」
 にっこりと微笑まれて差し出されても・・・そんなおかしなクスリは飲めない。
 そう思い、断ろうとした佑紀だったのだが
 「どうぞ☆」
 これだけ満面の笑みで差し出されては、なんとなく断り辛い。
 見たところ、純粋に閏は佑紀にこのカプセルを飲ませて“実験”をしたいようだが・・・。
 「これ、なんの実験なの?」
 「人の行動パターンについてです。勿論、直ぐに効果は切れると思いますから。」
 「思いますからって・・・」
 そんな曖昧な。
 ・・・まぁ、閏からは悪意を感じない、そのカプセルも、異質な雰囲気だけで別段嫌な感じはしない。
 ちょっと飲んでみても良いかな・・・。
 勿論、おかしな事になったら―――――
 きっと、ここの住人の誰かしらが止めるだろう。
 薄情なところはしっかりと薄情な住人達だが、所詮は皆良い人に括れるものがある。
 「良いわ、その実験に付き合ってあげる。」
 「有難う御座います!」
 閏がそう言って、背後から水の入ったペットボトルを取り出し・・・その用意周到さ加減が凄く不安だが・・・。
 カプセルを口の中に入れ、水で胃へと流し込む。
 ゴクンと、固形物が喉を通り過ぎ・・・別段、変わった所はない。
 実験失敗だろうか?
 そう思った刹那、佑紀の胸が酷く痛み始めた。
 ギュっと、何かに掴まれているかのような痛みは、呼吸をも詰まらせるもので・・・目の前が白黒に反転する。
 痛い・・・!!
 佑紀はその場に崩れ落ちた。
 胸をギュっと掴み、荒い呼吸を肩で繰り返し―――――
 でも、これは果たして本当に“痛い”と言う感覚なのだろうか。
 なんと言うか、痛いと言うよりは・・・胸がキュンと締め付けられているかのような・・・。
 「大丈夫ですよ、佑紀さん。目覚めた時には貴方は変わってますから。・・・それが、誰とどのように変わっているかは、私次第になるんですけれど・・・。でも、安心してください、悪いようにはしませんから。・・・って言っても、もう聞こえてないですよね。」
 クスリと小さく微笑むと、閏は佑紀の髪をそっと撫ぜた。
 既に佑紀の意識は深い闇の底へと落ち込んでおり、閏の妖艶な笑みも、ともすれば冷たく響く言葉も、全ては意識の外での事だった・・・。


★☆★始まる、関係★☆★


 「それでぇ、飲ませてみちゃいましたぁ〜って事ぉ??」
 「そうだね・・・。」
 「もーっ!!閏ちゃんは、後先考えないんだからぁっ!これでもし、恋人同士とかになっちゃったら・・・」
 「あの変態よりはよっぽど良い感じになると思うんだけど・・・。」
 「・・・閏ちゃんってば、正直者だねぇ・・・。」
 「私は、思った事を素直に口に出しただけぇ。」
 「はぁぁぁ〜。それにしても、佑紀ちゃん起きないねぇ・・・。」
 「もうそろそろ起きるはずですよ・・・?」


 意識の向こう、どこか遠くからそんな会話が聞こえ―――
 佑紀はボンヤリとする頭を無理矢理起した。
 霞む視界を鮮明にすべく目を擦り・・・「あ!佑紀ちゃんが起きたよっ!」そんな可愛らしい声と共に、パタパタと走ってくる足音が響いた。そして、ドサリと何かが佑紀の足の上に乗り、見れば片桐 もなの可愛らしい笑顔があった。
 「もなちゃん?」
 「うん!久しぶり、佑紀ちゃん☆」
 にっこりと微笑み、茶色と言うよりはピンク色に近い淡い色の髪を揺らす。
 シャンプーの香りだろうか。
 甘い花の香りがふわりと漂い・・・・・・・・・・佑紀はキョロキョロと視線を巡らせた。
 それなりの広さのホールの中、佑紀ともな以外は閏の姿しか見えない。
 「ねぇ、もなちゃん・・・」
 「なぁにぃ??」
 「冬弥兄さんは?」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 すっごく微妙な顔をしたもなが、口を半開きにしたまま固まり―――その背後では、閏がプっと小さく吹き出した。
 「と・・・冬弥ちゃんが・・・お兄さん・・・?」
 何を今更・・・
 佑紀はそう思うと、苦笑を洩らした。
 梶原 冬弥(かじわら・とうや)はずっと佑紀のお兄さんで・・・ツキリと、軽く胸が痛んだ気がしたが、その痛みは直ぐに甘く溶け消えた。
 その瞬間、ホールの扉が大きく開け放たれ―――
 「冬弥兄さんっ!」
 佑紀はそう言うと、パァっと顔を輝かせた。
 「おう、佑紀。起きてたのか?」
 「えぇ・・・って、起きてた??」
 「お前、倒れたんだろ?閏が血相変えて俺を呼びに来て・・・ったく、最近ちゃんと飯食ってるのか?」
 ツカツカと歩んで来た冬弥がそう言って、佑紀の頭を柔らかく撫ぜた。
 くしゃくしゃと、頭の上に感じる冬弥の体温は酷く心地の良いもので、佑紀は無意識にふわりと嬉しそうに微笑んでいた。
 元より撫ぜられるのが好きな佑紀。
 それはクスリの効果とはまた別の、本来の佑紀の性格なのだが・・・それに加えて、大好きな兄に頭を撫ぜられたとあれば、佑紀がこんなにも無邪気な笑顔を浮かべるのは、言ってしまえば当然の事だった。
 「ちゃんと食べてるよ。」
 「そうか?それじゃぁ、ちゃんと寝てるか?」
 顔を覗き込むようにそう言って、冬弥が心配そうに眉を顰める。
 お兄さんを心配させていると言う罪悪感と、心配してくれていると言う喜びが混ざり合って、なんだか不思議な気分だ。
 「冬弥お兄さんこそ、最近痩せてない?」
 袖口から見える腕とか、ズボンの腰回りとか、以前よりも全然細くなった気がする。
 「気のせい・・・だろ?」
 「そんな事・・・」
 言いかけた佑紀の言葉を遮るように、頭の上に乗せていた手をポンポンと数度軽く上下させた。
 「それより、佑紀・・・お昼まだだろ?今すぐ何か作るからな。」
 そう言って、もなと閏にも視線を向け「お前達も食べるだろ?」と訊き・・・2人が顔を見合わせた後で、ブンブンと首を振った。
 「いらないのか?珍しいな。」
 「あたし達、ちょこっと用事があって・・・えっと・・・」
 「奏都に呼ばれてるんです。だから、行ってきますね。」
 しどろもどろになるもなとは違い、閏はきっぱりとそう言うともなの腕を掴んでホールから出て行ってしまった。
 「・・・んじゃ簡単に・・・に、なっちまうけど、いーよな?」
 「あたしも手伝うよ。」
 キッチンへと入って行く冬弥の背後をついて歩く佑紀。
 そう言えば、小さい頃もこうやってよく兄さんの後について行っていたなぁ・・・。
 懐かしい思い出の1ページに向かって、そっと微笑むと佑紀は冬弥から手渡された淡い色のエプロンを身に着けた。
 「チャーハンで良いよな?お皿出して来てくれるか?」
 壁に取り付けられている木の食器棚を親指で指差す冬弥に向かって、コクリと頷くと中から真っ白なお皿を取り出した。
 手際良くフライパンを動かす冬弥の手元を見詰めながら、いつか自分がこうやって作ってあげたいと言う気持ちになる。
 ザっとお皿に盛り付け、レトルトのわかめスープにお湯を注いだ後で、棚の奥から丸いお盆を取り出してその上に乗せる。
 「あたしが持っていこうか?」
 「や、重いから良いよ。それより、棚からスプーン出して持って来てくれ。」
 その言葉に、分かったとだけ告げると、佑紀は食器棚からスプーンを取り出してホールへと向かった。
 チャーハンとスープの隣にスプーンを置くと、冬弥の向かい側に腰を下ろした。
 「いただきます。」
 そう言ってスプーンを取り、チャーハンを口へと運び―――――
 相変わらず料理の上手い冬弥に、佑紀は尊敬の念を抱いていた・・・。


☆★☆終わる、関係☆★☆


 真っ白な布巾で拭いた食器を元の場所へと戻すと、佑紀と冬弥は紅茶を淹れた。
 甘い香りの紅茶は、香り豊かで・・・恐らく、普通の紅茶よりも値がはるのだろう。
 「ここの紅茶はいつも美味しいわね・・・。」
 「紅茶だけじゃなく、菓子も美味いだろ?」
 「えぇ・・・」
 「紅茶も菓子も、拘るヤツがいんだよ。」
 別に何でもいーじゃんなぁ?と言う冬弥に苦笑を溢し・・・ふと、袖元のボタンが取れかかっている事に気がついた。
 「冬弥お兄さん、袖のボタンが・・・」
 「あ?・・・あぁ、本当だ・・・。」
 どうすっかなぁと呟きながらシャツを脱ぎ、中のTシャツ1枚になると、佑紀に向かってばさりとシャツを投げた。
 「なっ・・・!?」
 「チャーハンの礼、それでいーぜ?」
 ニヤっと笑う冬弥に「もう、仕方ないなぁ・・・」と呟き、ホールの隅に置かれている棚の中からソーイングセットを取り出した。
 糸切りバサミでボタンをシャツから外し、針穴に白い糸を通し―――
 「指刺すなよ?」
 「刺さないわよ。」
 どーだかと言って肩を竦める冬弥に、なによそれぇと抗議の声をあげ・・・小さく微笑んだ。
 「冬弥お兄さん、その格好で寒くないの?半袖だけど・・・」
 「ん?あー・・・平気。」
 「風邪ひかないでね?」
 「ひくかよ。」
 そう言って、佑紀の頭をポンと1つだけ撫ぜ・・・

   パチン

 その瞬間、何かが佑紀の中で弾けた。
 今まで佑紀の胸を締め付けていたものが、一気に弾け飛ぶ・・・・・・・・・。
 「あ・・・あれ・・・??」
 「・・・こりゃ・・・閏のクスリのせいだな・・・」
 冬弥がそう言って盛大な溜息をつき、佑紀は記憶を手繰り寄せた。
 この館に訪れた事、両開きの扉を開けた先に閏が立っていた事、小さなカプセルを手渡された事・・・。
 目の前のシャツを見詰めながら、佑紀は針を動かした。
 チクチクと縫って行き、最後玉結びをして糸を切る。
 そしてそれを冬弥の方へとバサリと投げ―――
 「それなりに楽しかったわ。」
 「そりゃドーモ。」
 ついでにコレもサンキュと言って、シャツを羽織るとふわりと柔らかい笑顔を浮かべた。
 「・・・・・・これからも、兄さんって呼ぼうかな。」
 佑紀のそんな台詞に、刹那驚いたような色を浮かべ、直ぐに微笑むとくしゃりと頭を撫ぜた。
 「別に、兄さんでもいーぜ?」
 くしゃくしゃと、撫ぜられる掌は温かくて・・・
 俯いた先で、佑紀はにっこりと微笑んでいた――――――



 【今の2人の関係は・・・】



 【 ――― 兄妹のような、慕い慕われる関係 ――― 】 




          ≪END≫ 


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  5884/小坂 佑紀/女性/15歳/高校一年生


  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『ココロを変えるクスリ』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、続きましてのご参加まことに有難う御座いました。(ペコリ)
 冬弥と兄妹の関係・・・如何でしたでしょうか??
 お兄さんお兄さんとした雰囲気と言うより、友達感覚のお兄さんと言った雰囲気にしてみました。
 今回は佑紀様を可愛らしく、それでいて2人の温かく柔らかい雰囲気を中心に・・・と思いながら執筆いたしました。
 仲の良い兄妹を描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。