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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


対決! カードの呪い!?

「んあ? 何これ」
 瀬名 雫が学園に到着し、自分の席に座って何の気なしに机の中に手を入れると、指先にぶつかるものが。
 もちろん、置き勉している授業道具ではなく、教科書やノートとは異質なものだ。
 取り出してみると、プラスチック製のカードが一枚。
 市販のトランプのような大きさで、色も手触りも、裏の模様もそれと変わりないが、表には本来描かれるはずのマークや数字は無い。
「……文字? なんか書いてある」
 そこに書かれていたのは文字。
『お前のシャープペンは全て頂いた。返して欲しくば我輩の元にたどり着くが良い』
 その文を読み上げたあと、雫は慌てて筆入れを確認する。
「な、ない! シャープが無い!!」
 カードに書いてあった通り、シャープペンは一つも見当たらない。
 昨日までは予備も含めて三本、キッチリ筆入れに入っていたはずなのに。
 置き勉がアダになった。
「な、なんてこと! 誰よ、こんなことしたのは!!」
 激昂してカードの文の続きを読む。
『我輩の居場所はこの学園のある一室。世界と繋がることのできる部屋だ。貴様が来るのを待っているぞ。 by黒マント』
 最後の差出人名を見た瞬間、雫はカードを破り捨てようとしたが、プラスチック以上の強度を持っているらしいこのカードはなかなか破れなかった。
「くっそ!! もぅいいよ、誰か、誰かシャーペン貸して!」
「どうしたんですか?」
 影沼 ヒミコが近付いてなんだか知らないが怒り散らしている雫をなだめながら理由を聞き出した。
「……そんな事が……」
 理由を聞いたヒミコも苦笑気味。
「あ、でもこのカード、まだ続きがありますよ?」
「え〜、別に良いよ、読まなくても〜」
 ヒミコは『でもまぁ、とりあえず』と言ってカードの続きを読み始めた。
『P.S.因みに制限時間は今日の日没までだ。時間を越えてしまうと、貴様の鼻の頭に妙に黒く目立つホクロが一つ出来るだろう』
「……ですって」
「いくわよ、ヒミコちゃん。乙女の一大事だわ!!」
 こうして雫はホクロを回避するためにシャープペンを探しに学園を歩き始めるのだった。
「え、でも授業が……」
「時間が無いの! そんなのサボりよ、サ・ボ・り!! あ、でもカスミセンセに言えば公欠にしてもらえるかもね。こないだの貸しもあるし」
「……生徒が教師を脅すなんて……」
 ヒミコは苦笑しながらも雫について行った。

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「だ・め・だ!」
「うわぁ!?」
 雫が勢いよくドアを開けて廊下へ飛び出そうとした瞬間、目の前に障害が現れる。
 小柄ながらもその障害は威圧感に溢れ、雫を足止めしている。
 その障害とは鋼鉄番長こと不城・鋼(ふじょう・はがね)。
 幾度か雫やヒミコと共に黒マントを追いかけた少年である。
「今回もなにやら面倒なことになってると聞いて来てみれば、お前ら、またサボるつもりかよ?」
「あ、いや、これには色々訳があってね、鋼ちゃん」
「ほぉ? 聞かせてもらおうか?」
「あ、えっと……その……」
 そんなこんなで雫は今回の前振りを鋼に話した。
「なるほど。そりゃ大変だな。まぁ、時間制限があるとしてもかなり余裕があるだろうが。しかも置き勉を狙われるのは自業自得だ」
「……っう。は、鋼ちゃんてば厳しいなぁ。ここはサラッと見逃して欲しいなぁ。鋼ちゃんだって置き勉くらいするでしょ?」
「しねえよ。ちゃんと持ち帰ってる」
「嘘ッ!?」
「嘘じゃねえよ。嘘ついてどうする。とにかく、ちゃんと授業を受けてから探せよ。授業の合間にも休み時間はあるんだから、そういう時間に探せば良い」
 鋼の気迫に圧され、雫は口篭って渋々自分の席に戻っていった。
「影沼。お前もお前だぞ。雫が暴走したらお前が止めなくてどうする?」
「あ、はい。す、すみません」
「授業を途中で逃げ出しそうになったらしっかり妨害しろよ?」
「わかりました。きっと止めて見せます」
 ヒミコは鋼の言葉に力強く頷き、自分の席に戻っていった。
「ふぅ、やれやれ。あの様子ならちゃんと止めてくれるだろうな」
 鋼も一つため息をつき、自分のクラスへ帰っていった。

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 一時間目と二時間目の間。
「さて、休み時間になったわけだけど……」
 休み時間が始まってすぐ、雫の席にヒミコと鋼が集まっていた。
「やたら出席率が悪いわね」
「流石に飽きたんだろ。なんたって敵が敵だからな」
「飽きたって言うのもどうなんでしょうね……」
 ヒミコが苦笑しながら呟く。
「そんな事より、今は黒マントのヤツが何処にいるか、探さないとな」
「そうですね。当たりをつけると言っても、ヒントは少ないですよね?」
「世界に繋がることのできる部屋……ねぇ……?」
 いつに無く神妙な顔をして考え込む雫に、鋼は可笑しさを感じながら笑いを堪えて言う。
「黒マントがいつもの恰好ならさぞ目立つだろ。それなら目撃者も居るんじゃないか?」
「そうですね。目撃証言を取りながら探すのが手っ取り早そうです」
「でも、考えてみてよ? 世界と繋がるなんて、今の時代、何処でもできるわ」
「は?」
 雫の言葉に鋼は訊き返してしまった。
「だってケータイがあるじゃない? アレを使えば何処でも世界とつながれるわ」
「ま、まぁそうだろうけどな」
 ガラに無く、というヤツだろうか。雫にしてはいささか考えすぎのようにも思える。
 単純に世界に繋がることができる部屋を考えれば一つの部屋が思いつくはずだが、無駄に考えすぎると『携帯電話』という文明の利器が出てきても仕方ない、か。
 とりあえず、面白そうなのでその『すぐに思いつく部屋』のことは黙って雫の動向を見守ることにした鋼だった。
「という事は手がかりはあの変態の妙な服装だけね。よぅし、証言を集めるわよ!」
「わかりました」
「俺のほうもファンクラブの連中に声かけて、情報を集めてみる」
「お願いね」

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「わかった。変なカッコしたヒト探せば良いんだね? はがねんの頼みなら何でも聞いちゃうよ!」
「ああ、悪いな。他にも声かけといてくれると助かる」
「らじゃ! その代わり、今度遊びに行くの、付き合ってよね!」
「あ、ああ、考えとく」
 鋼は軽く手を振ってファンクラブの女子の一人と別れた。
「ふぅ……。まぁ、この調子なら早めに見つかりそうだな。大体居所もわかってるし」
 鋼が考えた『すぐに思いつく部屋』とは、言わずもがな大量のパソコンが置かれるコンピュータールーム。
 授業でもインターネットのことを扱う部屋だ。世界と繋がらないわけがない。
 だが気にかかるのはそんな簡単な場所に犯人が居るだろうか……という話だが―――
「……まぁ、あのアホっぽい黒マントならやりかねないな……」
 と、苦笑交じりに不安を蹴飛ばすのだった。
「さて、雫たちがサボってないか、見てくるとするか」
 そう言って鋼は廊下を歩き出した。
 途中、大き目の紙袋を持った男子生徒とすれ違ったのだが、そのことには全く気付かなかった。

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 昼休み。
「ああ、もぅ!! なんで見つからないの!?」
 激昂して今にも箸を噛み砕きそうな雫。ヒミコはそれを必死でなだめていた。
「お、落ち着いてください」
「落ち着いてられないわよ! あと半日もしないうちにあたしの可愛いハナの天辺にホクロができちゃうのよ!?」
「だとしても冷静さを欠いて、人探しができるかって。まずは弁当でも食って落ち着けよ」
 鋼にも言われて雫はやっとギリギリと噛み締めていた箸を口から離し、弁当のおかずを突き始めた。
「むぅ……。それにしてもおかしいわよね、あの黒マントの行動」
「は? 何が?」
「最初は辻斬りでしょ? その後には下着ドロしてあたし達を一網打尽にしようとして、今回はこんなカードを残して小学生の盗みみたいなことよ? 変だと思わない?」
「……まぁ、言われてみれば」
 最初の辻斬りからして常軌を逸した行動であるから、そこをおかしいと思うのはどうにも揚げ足取りのようにも感じられるが、おかしいと言われればおかしい気がする。
「辻斬りの時はただの『強いヤツに会いに行く』みたいな武者修行で、下着ドロの時はあたし達に仕返しをしに来たってのは予想がつくけど、今回の行動はなんなのかしら?」
「今回も仕返しだろ? ホクロができれば笑いものにされるだろうしな」
「それにしては変じゃない? 仕返しがしたいなら……イヤだけどすぐにあたしにホクロをつければ良いじゃない? なのに、自分を見つけて欲しいみたいに居場所のヒントなんてカードに書いてさ」
「……そうか。確かに自分を見つけて欲しいみたいに思える」
「でしょ? だから、もしかしたら何か意図があるのかもって思ってさ」
 朝に見た真剣な表情はここまで考えてのことだったのか。
 雫が本当に真剣に考えていたと思うと、面白がってコンピュータールームのことを黙っていたのが少し悪かったように思えてきた。
 鋼はバツの悪そうに頭を掻きながら口を開いた。
「あー……それはさておきなんだが」
「何よ? 今、あたしが黒マントの意図について真面目に考えてるんのよ?」
「その黒マントの居場所なんだが、世界に繋がることが出来る場所、だったよな?」
「そうね。確か、そう書かれていたわ」
「もしかしてそれって、コンピュータールームなんじゃないか?」
 鋼に言われて、雫は数瞬首をかしげながら考える。
「…………あ、そうか」
「お前、気付くの遅くないか?」
「え? 鋼ちゃん、前から気付いてたの?」
「……ま、まぁ」
「何で早く言ってくれないのよ!? あ、もう昼休みも終わっちゃうじゃない!!」
「五時間目は確か、移動教室ですよね……。そしたら放課後まで探す時間が無いんじゃ……?」
「ああ、もぅ! なんてこと!?」
 そんなこんなで昼休み終了の予鈴は学校に鳴り響いた。

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「あ、はがね〜ん!」
 鋼が五時間目と六時間目の休み時間に廊下を歩いていると、ファンクラブの女子が声をかけてきた。
「おう。何かわかったか?」
「うん、関係ないかもしれないけど、ウチの隣のクラスの男子が、妙な布がはみ出た紙袋を持って消えて一時間目からサボってるんだって」
「紙袋を持った男子?」
「そう。で、その紙袋からはみ出てた布の色が黒かったんだって。もしかしたらその男子が犯人かと思って」
「それだけじゃ何とも言えないが……参考までにその男子の名前は?」
「ええと……確か、黒満 透だったかな」
「くろまん……とおる?」
 ギャグみたいな名前に鋼はしばし呆然としていた。
 黒満 透。くろまん とおる。黒マント おる。
 そんなバカな!

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 そして放課後。
 日は大分傾きつつある。
 日没まであと二時間くらいだろうか。
「さぁ、チャッチャとコンピュータールームに行くわよ!」
「そうですね。もう時間もありませんし、きっと廊下を走るのも許してくれますよね」
 と、そんなわけでコンピュータールームの前。
 放課後の喧騒はかなり遠く、コンピュータールームの前は切り離されたように静まっている。
「ここよね?」
「ここですね」
「ここだな。中は……よく見えないな」
 ドアについた窓はどう加工されたのか、中が見えないようになっている。
 つい先日までは透明なガラスがここにあったはずなのに、今は真っ黒で不透明なガラスがついている。
 多分、黒マントがペンキか何かで塗ったのだろう。
「で、黒マントの中の人はその黒満 透って男子で良いの?」
「十中八九そうだろうな。部屋の中でマントに着替えたなら人目にはつかないはずだし」
「今日はこの教室、使わなかったんでしょうかね?」
「それは判らないけど、ここに居るんだろうから関係ないわ。とりあえず突入よ!!」
 雫が言い終わるや否や、ドアに手をかけ、勢いよく扉を開ける。
「黒マント、覚悟!!」
 叫びながら入って来たは良いが、中はとても静かなものだった。
 暮れかけた日が窓から差し込み、いくつも並ぶ白い箱を照らしている。
 そして部屋の中には全く人気がなく、黒マントは愚か、放課後にインターネットを楽しむ学生も居ない。
「……あれ?」
「どういうことでしょう?」
「……まさか、間違えた?」
「あ、これ見てください……」
 そう言ってヒミコが教卓の上から紙切れを取り出す。
『ハズレ』と下手な字で書かれたそれは鋼と雫の精神を逆なでする。
「「ぐあああ! ムカつく!!」」
 その苛立ちは黒マントの仕打ちにも、黒マントにしてやられた自分にも向いていた。
「世界と繋がることのできる部屋ってここじゃないのかよ!?」
「だって、インターネットが繋がってる部屋なんてここくらいしかないじゃない!!」
「職員室にもパソコンはありますけど、あそこじゃ目立ちすぎますしね……」
「どこだ…・・・? 一体何処だって言うんだよ?」
 鋼と雫は苛立ちながらも必死に頭を動かすが、ヒミコは一人、閃いた顔をした。
「あ、もう一つあります」
「何処!? それ何処!?」
 最早時間がなくて必死な雫はヒミコの肩に掴みかかって鬼気迫る表情を見せた。
「えっと、部室棟です。確か愛好会でしたけど、テレビゲーム愛好会があった気がします」
「てれびげーむあいこうかいぃ? テレビゲームって世界と繋がるわけ?」
「そうか! ネットワークRPG!」
 最近は家庭用ゲーム機でも遊べるMMORPG。
 勿論、テレビゲーム愛好会でも取り扱っております。
「部室棟なら授業中には誰も来ませんし、うってつけじゃありません?」
「確かに! 今度こそゼッタイそこよ!!」
 そうして三人は再び廊下を走って行った。

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「黒マント覚悟ぉ!!」
 走ってきた勢いのまま、雫はテレビゲーム愛好会の部室のドアを開けた。
 狭い部室の中にいくつか棚と小さめのテレビと多くのゲーム機が並び、そして部屋の中心には逆光を浴びる人影が。
「よく来たな、瀬名 雫。そしてその仲間たち」
 言わずもがな、その人影は黒マントである。
 テレビゲーム愛好会の活動は本日休みらしい。部員らしき影は一人も見当たらない。
「さぁ、ホクロの呪いを解きなさい! ついでに私のシャープペンを返してもらうわよ」
「ふ、そんな呪いなど元々かけてないわ。シャープペンはこの通り返してやろう!」
 そういうと黒マントのマントがはためき、その奥から何かが閃く。
 飛び出してきたのは三本のシャープペン。
 雫の顔の横スレスレを飛び去ろうとしたそのシャープペンは、鋼によって止められた。
「また貴様か、不城 鋼」
「ったく、嫌な縁持っちまったぜ」
 鋼は心底嫌な顔をしながら黒マントを見た。
「とにかく、シャープペンが戻ったならもうお前に用はない。さっさと帰るぞ」
「そうはいくか。もう少し付き合ってもらうぞ!」
 黒マントは再びマントをはためかせて中から何かを取り出す。
「我輩の呪力で作り出した護符。この一撃を喰らうが良い!!」
 声が消える前に黒マントの両腕が光り、その手に瞬時にナックルがはめられた。
 そして、大して空いても居なかった間を詰め、黒マントは雫の顔面に向かって拳を突き出す。
 だが、それも鋼の掌に止められる。
「お前、何してやがる?」
「なんだと?」
「手前ぇも男なら、女に手を上げるんじゃねぇ!!」
 鋼の怒号と共に、黒マントの腹部には強烈な回し蹴りが打ち込まれた。
「ぐぉふっ!?」
 気を込めた一撃はギリギリ致命傷を逃れたが著しく行動を制限するほどのダメージを与えた。
「今度こそお縄につけよ、黒マント。いや、黒満 透!」
「……ッ!? 何故、その名を!?」
「ネタは挙がってるんだよ。もう逃げられないぞ」
「……っちぃ! 覚えておけ! 次こそは貴様らと決着をつけてやる。この黒マントの名にかけて!!」
 そう言って黒マントはもうひとつ札を取り出した。
 そこから強烈な光が放たれ、鋼たち三人の目を晦ませた。
 光が収まるとそこにはもう黒マントの姿は無かった。
「……また取り逃した……」
「次で決着ってことは、もうすぐ終わるって事ですから良いんじゃないですか?」
「それに、相手の正体はわかってるし。明日にでもとっ捕まえられるわ!」
「そんなに簡単にいくかね……?」
 神妙な面持ちで鋼は沈み行く夕日を眺めた。

 鋼の思ったとおり、黒満 透は次の日から欠席を続けたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2239 / 不城・鋼 (ふじょう・はがね) / 男性 / 17歳 / 元総番(現在普通の高校生)】


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■         ライター通信          ■
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 不城 鋼様、シナリオにご参加くださりありがとうございます! 『黒マント騒動がキッチリ終わるか少し心配』ピコかめです。(何
 もう少し早く仕上げたかったのですが、微妙に時間がかかってしまいました。すみません。orz

 引っ掛けてみました。コンピュータールームだと思わせるのは囮だったんだよ! な、なんだってー!!
 最初は普通にコンピュータールームにしようと思ったんですが、それでは面白くないので、ちょっと捻ってみましたよ。
 PLの方にちょっとでも悔しがってもらえたら俺は小さくガッツポーズを作っちゃいます。(ぉ
 ちょっと捻くれた話の運び方に憧れる今日この頃です。
 では、次回も気が向いたら、是非!