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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


猫を拾う

 ある雪の日のことだった。
 大寒波により、東京は大雪に見舞われ、積雪・道路凍結により交通が麻痺するほどだった。
 焔が鳴いていた。
「どうしたの〜?」
 一緒に散歩している、座敷わらしの草間五月が駆け寄った。
 草間五月は、草間興信所に住み込んでいる。
 彼女が住んでいる事で、草間の家に幸福をもたらしているかはどうか、定かではないが。
 くたびれた段ボール箱が雪に埋もれかけている。
 しかし、その段ボール箱の中から何かが聞こえる。
「なんだろう?」
 五月はその箱の雪を取り除きを開けてみた。
「あ、これは……」


 草間興信所。
「で、持ってきた訳か……」
 困った顔で言う草間武彦。
「ご、ごめんなさい。焔ちゃんも“可愛そう”って言うから」
「にゃ〜」
 と、しょんぼりした五月が謝った。
 箱の中に入っているのは、猫。親猫に数匹の子猫がいるのだ。
 ただ、その猫自体が厄介だった。
 親猫の尾が2本以上有る。猫又なのだ。しかし、かなりからだが衰弱しており、余り声を出せないみたいだ。
 五月が通訳することには、自分ではもう育てられない。子供達を生んだときに寿命も短くなったために、困っているとのことだ。
「猫又さんですか……お兄さんどうします?」
 箱をのぞく草間零。
「ただの猫なら、子猫の里親探しをやってやるけどな……猫又だろ? どうすればいんだ? 物好きが居るのか?」
「う〜ん」
 そう、草間興信所には沢山の動物や居候が居る。ちょっとした動物園になりやすい。
 猫又の子は、まだ普通の“猫”のようだが何かしら素質があるかもしれないし、普通である一般人に渡すわけにも行かないのだ。
ここで普通というのは“超常現象の類を信じていない”などの事である。
 草間はソファーにもたれ……煙草を吹かす。
「誰かが来ればいいが……さて、どうしたモノか……探すにもかなり限られているだろうが、さすがに放置して迷惑かけるのも忍びない」
 大きなため息をついた。
「探してくれるの?」
「ああ、これ以上ここを動物園にするわけもいかん」
「ありがとう! 草間のおじちゃん!」
 五月は喜んだ。
 焔は、猫又の母親にそのことを伝えると、母親はにゃーとないた。
 よろしくお願いしますとのことらしい。
 ――俺もヤキが回ったか?
 と、自嘲するかのように草間は笑った。


《集める》
「頼ってきた手を振り払えないからこそ今までやってこれたのもあるでしょ、武彦さん。そんな顔しないの」
 と、シュライン・エマはいそいそと毛布を持ってきた。
「……」
 草間武彦は苦笑するだけ。ソレだけ彼は、人々に好かれている事になるのだろう。
 草間零は、心当たりの人に電話をしているようだ。
「てつだう!」
 草間五月がシュラインの手伝いをするため、毛布を持ち運ぶ。しかし、体が小さいままだったため、バランスを崩しかけた。
「新しい箱を用意して、五月ちゃん。それに毛布を入れるから、」
 シュラインは、五月に指示を出す。
「うん!」
 急いで奥の方にたたまれている段ボールを用意する五月。
 窓を見れば、かなりの吹雪だ。ラジオでは交通情報が流れている。かなり電車も止まっており、道路もそこら中で凍結。事故による渋滞が多く、麻痺しているらしい。TVも各駅が人で混雑している風景を映している。
「この天気で来る人がいます。大丈夫でしょうか?」
 零が不安そうに言った。
「来るだろう……。命を大事にしたい奴は、な」
 と、草間は暖房を強くした。


 零からの電話。
 弓槻蒲公英は電話を取った。
「はい、もしもし……。……です……。零さま? はい、今すぐに行きます」
[ごめんなさいね……]
 少女は暖かいコートを羽織って、戸締まりもしっかり確認する。
 この家で飼っている、様々な動物が首をかしげる。
「お友達……連れてきますから。まってて……ください……」
 と、答える。
 ペットは何かを感じたのか各々の鳴き声で叫んだ。
「だいじょうぶ……です」
 にっこりほほえんで少女は出て行った。
「さ、さむい……」
 少女は冷たく鋭い風を受け手呟いた。

 雑多な世界が白くなっている。
 少女は歩く。
 凍った道。
白い世界を。
 服も白く、靴は少しだけ黒い。
 長靴が良かったのかもしれない。
 足を滑らせてこけてしまう。
「……くぅ」
 起きあがろうとすると、
 目の前に手袋をした手が見えた。
「大丈夫か? おぬし、どこ行くのじゃ?」
 見た目は中学生ぐらいの少女だった。
 起こしてくれるのを助けてくれるようだ。
「草間様の所に……」
「なら、燐もおなじじゃ……呼び出されての」
 と、彼女は言った。


 1時間後のことである。
「こんな天気に、わざわざ来てくれてありがとう……」
 五月と零がやってきてくれた人に礼を言った。
 来てくれたのは全員子供だった。
 弓槻 蒲公英。
 水無瀬 燐。
 施祇 刹利(しぎ・せつり)。
 の3人だ。
 草間の観測的希望なら、蒲公英と燐ぐらいだろう。
「……ねこさん……だいじょうぶ?」
 蒲公英が親猫を抱きしめた。
 力無い声で鳴く猫。
 子猫は5匹。寒い環境から暖かいところになったのか、箱の周りで遊んでいたり、シュラインが用意した猫ミルクを飲んでいたり、そのまま毛布にくるまって眠っていたりする。母親の状態が分からないみたいである。
 刹利は、一匹に近寄って、
「おいで、おいで〜」
 と、呼んでみるが、
 猫は驚いて、燐の陰に隠れてしまった。
「……」
 項垂れて、悄気る刹利。
「警戒しているのかしら」
 シュラインは困った顔をした。
「で、草間。 零から呼ばれて来たのは良いけど、動物園になっても困るのは燐も同じじゃ!」
 水無瀬燐は草間に怒鳴る。まだ子供なので、それほどうるさくはない。
「俺も困っているし猫も困っている。何より五月が悲しむ」
 草間は、世話を一生懸命している五月を指さす。
 蒲公英と五月、そして親猫が“嘆願”を意味する悲しい目をしている。さすがに
「むぅ……。わ、わかったのじゃ! 燐も1匹貰う!」
「助かった。ありがたい」
「ありがとう! 燐ちゃん」
「しかしじゃな! ああ、其処のおまえも貰うんじゃろ!?」
 と、隅の方で悄気ている刹利に聞いた。
「猫好き何だけど、嫌われやすいみたいだ。それに」
 刹利はあまり、物をさわれないと言うらしい。
「どういう事だ?」
 草間が訊いた。
「付与師としてボクは出来損ないで、さわるとその対象を滅ぼしてしまうんです……。今の親の所では世話できないし。出来れば、猫たち一人で生活できるように狩りの仕方とか、危ないこととかを教えたくて」
 ソファーに座って答える施祇。
 その滅びの気配を知っているためか、猫は寄りつかないのだろう。ここに住んでいる、焔も距離を置いている。動物好きにとってこれは悲しい事だ。
「地域猫としての活動をする訳か……。猫は猫でも猫又だからなぁ。ソレも一つの手段か」
 草間はため息を付いた。
 このところ地域猫としてのボランティアは多い。人と猫の共存をよくしようと言う団体はいる物だ。
「むう、難儀な体質じゃな」
 燐は、むうと、ふくれる。
「では、集まったから、再度、事情を説明するわね?」
 シュラインが皆に声をかけた。

《命の行き先》
「……というわけなの。親猫さんを安心させないと…… え?」
 シュラインが親猫の寿命がないことと、子供達を幸せにしてくれる事を願って居ることを話したとたん、親猫を抱きかかえていた蒲公英に、生命力が吹き出していた。
「!? な、何をする気だ! 弓槻!」
 草間が叫ぶ。
「蒲公英ちゃん!?」
 シュラインと零が叫ぶ。
 生命力の授与。蒲公英の能力。親猫は「むりだ」と言っているかのように鳴いて、逃げようとしているが力が出ないために、逃れなれない。
 シュラインと燐が親猫と蒲公英を引き離したが、既に
「猫さん……猫さん……死なないで……」
 と、涙を流しながら蒲公英は倒れた。
「蒲公英さん!」
「大丈夫気を失っているだけ……」
 シュラインが蒲公英を抱きかかえ、ソファーに寝かした。
 子猫たちが彼女に集まって“にゃあ”と鳴いている。
 燐が親猫を抱きかかえているが、やはり生命力の授与はない。
 それも、そうである。寿命と生命力は似て非なる物だ。

「ボクはどうしたらいいのでしょう?」
 刹利が草間に訊く。
「今はすることは……ないな。まだ雪がやんでいないし。それに猫の世話が出来ないとなると……な」
 今の刹利に猫と遊ぶとは出来ない。猫が逃げているのだから仕方ないことだ。
「あ、誰か通訳出来る人って居ます?」
「あたしなら出来るけど……焔ちゃんは怖がっているからねぇ。あ、焔ちゃんもしゃべれないかヒトの言葉」
 五月が焔を見た。隅っこの方で縮こまっている。
 結局、猫語を分かる五月が、通訳になった。
「できれば、子猫たちにこれが危ないとか教えたいんです」
「いいけど?」
 五月は一匹を抱いて刹利の横に座る。
「じゃ、通訳お願いします」
「うん」
 こうして、刹利は猫に車が危ないことなどを教えることにした。

 燐も親猫と子猫を抱いており、
「おぬしの子、燐が引き受けた。一人だけですまぬの……」
「にゃあ」
「み?」
 親猫は“ありがとう”と鳴いて、子猫は首をかしげている。
 燐は安全便の針を出して、指に刺した。
 赤い液体がそこから垂れる。
「おぬし! 燐と契約するためにこれを飲むのじゃ!」
 と、親猫と子猫に言う。
「にゃあ……」
「み゛?」
 その言葉に深い意味はない、形だけ。
 親猫がぺろりとなめる。
 子猫も倣ってなめた。
 ザラリとした下の感触が不思議と気持ちよかった。
 ――寿命が延びるとは思わぬが、燐の血でもまだ生きて欲しいのう……
 と、彼女は思っていた。
 悲しいじゃないか。巣立っていく姿も見られずに逝くなんて……と。
「燐さん、ソレは危ないですよ」
 零が困っている。
「いや、契約する以上こういう事は必要なのじゃ!」
 と、燐がえらそうに言う。
「燐の飼い猫になった以上、びしびししごくから覚悟せい!」
 と、胸を張って偉そうに子猫に言っている。
 しかし、子猫はそんな態度を気にせず、元気よく走り回っている。
「こらまつのじゃ! ぎゃあ!」
 しかし、他の子猫も合わせて4匹が燐に飛びついて来た。
「うわあ! 爪が! 爪が! 頭に乗るなぁ!」
 懐かれてしまったらしい。
 既に猫又なので、彼女の体質が気に入ったのだろう。
 草間と零は、ソレを見て安堵している。
 そういうことで、応接間では色々騒がしくなっているわけだが、
「親猫さんが亡くなったときに霊的な結びつきが問題よね……」
 シュラインは考えていた。
「そうだな」
「あやかし荘か、長谷茜さんに頼む方が良いかしら? ほら、零ちゃんの件と同じように。ほかに、エヴァちゃんが里親になれば、情緒面でも良いかな、って思うんだけど?」
「ソレはナイスアイデアだ。あいつ何して居るんだろうか? 俺はあやかし荘、おまえは茜の所に」
「分かったわ」
 と、携帯と黒電話で心当たりの箇所に電話した。
 必死に、何かをする行動を見て親猫は
「にゃあ……けふ……」
 と、泣いた。
 エヴァは飛んでやってきて。
「猫かわいそう……いいよ」
 と、快諾。
「そういうことなら歓迎します。シュラインさん。猫さん、猫さん〜」
 長谷茜も、やってきてにこりと笑って猫を抱きかかえた。

「これで大丈夫ですね。出来ればここでも一匹飼って……」
 零が言うが、
「焔が居るのにか!?」
「にゃ!?」
 草間と焔が驚いた。
「だって、焔ちゃんなら……いい親代わりになると思うんですが」
「いや、ここには“すぴ”も居るし、動物園になっては困るんだ……」
「既に遅いと思うんだけど……」
 シュラインの部屋には宇宙ひよこにアフロウサギその他諸々、五月の部屋(?)には饅頭ウサギがいる。
「結構居るんですね……動物。草間さんの家」
 刹利が笑う。
「なんだかんだで、増えた……ってことだ。親猫の体に悪いから外で吸ってくる」
 苦笑して外に出る草間だった。
 煙草を吸う時間だったらしい。
「おそらく、蒲公英のことだし……大丈夫だろう」
 彼はそういって、外(といってもビルの屋上)で煙草を吹かすのであった。

「にゃあ……」
 親猫は安堵したのか、
 そう、一声鳴いてから、眠ってしまった。
「? 猫? どうした?」
 近くにいた燐がさわる。
 彼女は、はっと……した。


《別れ》
 蒲公英は目を覚ました。
 子猫の声が騒がしい。
 蓋の開いた小さい段ボール。それに群がる子猫。
 泣いている女の子。悲しそうにしている少年。
「では、こちらで……いたします」
 聞き覚えのある声もする。
 長谷おねえさんの声?
「ど、どう……したん……ですか?」
 起きあがる蒲公英。
「蒲公英ちゃん」
 シュラインが近寄った。
 段ボール箱を持って。
 箱には、親猫。
「寿命だったの……だから……」
「そう、そうなのですか……」
 と、目を閉じる……。
 子猫が一匹、蒲公英に近寄った。
 その猫を抱いて。
「……わたくし……が……面倒を……みます……」
 彼女は抱きしめて、泣いた。

 長谷神社に向かう。
「親猫さん……おやすみなさい」
 刹利が静か言った。
「燐が、燐がしっかり面倒見るのじゃ……」
 燐が泣きじゃくって別れを告げた。
 簡単な葬儀を行い、猫を墓に納めた。
 子猫たちは、何かを感じ取ったのか、泣いていた。
 結局、燐と蒲公英、エヴァに1匹ずつ、そして残り2匹は長谷経由にて影斬宅に。
「ペットOKのアパートなので大丈夫です」
 影斬は猫2匹が入ったかごを持っている。
「これで安心よね……親猫さんも」
 シュラインが安堵のため息をついた。

 蒲公英は子猫をだいて、話す。
「まだ、名前は……決まって……いなかったの……ですね……。わたくしが……決めます……から」
「にゃあ」
「お友達……たくさん……います……」
「にゃあ」
 子猫はゴロゴロ喉を鳴らした。


《それから……》
 燐の家。
「うう〜お、おもい……」
 目覚ましが鳴る10分前。
 妖怪動物園となっている(らしい)燐の家。懐いている妖怪が燐の布団に潜り込んだり、布団の上に乗っかったり
 特に、“契約”した子猫。それは彼女の身体に乗って気持ちよさそうに眠っている。おなかが減ったので、早く起こしたかったのだろう。しかし、気持ちよかったので寝入ってしまっている。たまにボディプレスをして、ちょうどみぞおちに入る事もある。燐の目覚めの悪さの原因になっているのかは、定かではない、念のため。
 蒲公英の家でも、他の所でも平和に暮らしているらしい。月に一回は、妖力の調整のために、長谷神社に集まるのだ。
 大きな庭で遊ぶ猫たちと飼い主達。
 その風景を眺める草間達だった。


 寂しくはない。
 居なくなったのは悲しいけれど。
 幸せになるよ
 
 と、猫は鳴いた。

END


■登場人物
【0086シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1992 弓槻・蒲公英 7 女 小学生】
【4239 水無瀬・燐 13 女 中学生】
【5307 施祇・刹利 18 男 過剰付与師】


■ライター通信
 滝照直樹です。
 『猫を拾う』に参加して頂きありがとうございます。
 テーマ通り、悲しく切なく書けたと思いますが如何でしょうか?
 可能な限りの行動が反映されて、良い話と感じて頂ければ幸いに存じます。
 水無瀬燐様、施祇刹利様、初参加ありがとうございます。
 弓槻蒲公英様、水無瀬燐様、には『猫又の子猫』を進呈します(「飼う」というプレイングがあるため)。ご確認ください。

 では、又の機会が有ればお会いしましょう。

 滝照直樹拝
 20060323