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<東京怪談・PCゲームノベル>


日々徒然 〜一緒にイタズラを〜



 日々変わらない?
 日々変わっていく?
 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ
 悪気はないの―――



 からりと、引き戸を開ける。そこはいつもと変わらない銀屋。
 小坂 佑紀の目に最初に写ったのは、ちょっとばかり困ったような表情の店主、奈津ノ介。だかれどもその表情は佑紀の来訪ですぐ消え、笑顔になる。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃいませ。今日はどうしました?」
「この間商品がゆっくりと見られなかったから……何かいいものあるかなって思って。あ、これお茶菓子。お土産よ」
「ありがとうございます、あとでいただきますね」
「何か、困っているの?」
 佑紀は先ほどの表情が気になって尋ねる。奈津ノ介は顔を上げて少し、と苦笑した。
「実は急用が出来たんですけど、お店に小判君一人おいていくわけにも行かないし……と思って。要さんも親父殿もいないし……」
「あら、じゃああたしが店番しててあげるわ」
「本当ですか?」
「ええ、その間に色々と見れるだろうし……あたしもお店のもの見ながらのついで、みたいな感じだけど」
「じゃあ……お言葉に甘えて。一時間くらいで帰ってきますから。お客さんは多分来ないと思いますけど……」
 大丈夫よ、と佑紀は笑う。奈津ノ介は確かに佑紀さんはしっかりしてそうだし、と安心したようで、手近にあった荷を持って行ってきます、と店を出て行った。
 そして店には小判と二人きり。
 小判は、というと和室で昼寝をしているようで。佑紀は傍によってその姿を観察してみる。
 時折耳がぴこ、と動くのが気になる。良い夢を見ているのだろう、その表情は幸せそうだ。そして耳と同じように二本の尻尾も、時折揺れる。
「……さ、さわってみたいかも……」
 さわり心地良さそうな、綺麗な黒い毛並みの尻尾。耳も魅力的なのだけれども尻尾が、とても触りたい。
「えい」
「ふぎゃっ!」
 きゅっと、揺らめく尻尾の誘惑に負けて佑紀はそれを握る。そんなに力は入れていないはずなのだけれども、触った瞬間に寝ていた小判は飛び起きる!
「し、尻尾! あ、う!? お、おねーさん!」
「あ、ごめんなさい、起こすつもりはなかったんだけど……」
 しゅる、と佑紀の掌から尻尾は逃げ、ぽてっと畳の上に落ちる。
「び、びっくりしたよ……おねーさんもイタズラ好きなんだね!」
「ええと、そうね。そういう事にしておくわ」
「そっか、じゃあ俺ともっとイタズラしよ!」
 すくっと小判は立ち上がって、そして満面の、イタズラッ子の笑みを浮かべる。
「とりあえずお店に来る人狙おう! ね!」
「奈津さんがいない間にして……大丈夫なの?」
「うん、平気平気! 皆甘いからね」
 とん、と軽やかに店に下りて小判は振り返る。
「おねーさんも早く早く!」
「しょうがないわね」
 イタズラ、と言ってもそんなに大した事ではないだろう。佑紀は小判に、ちょっとうきうきしながら付き合うこととした。
 小判は何時の間にか、店からイタズラに使えそうなものを集めてきている。
 そこにあるのは糸やら洗面器、瓦、ダーツの矢などなど。
「……全部お店にあった、のよね?」
「うん、隅っこのほうによく使えそうなものあるんだ」
「ふーん、そうなんだ」
 佑紀は一緒にしゃがみ込んで、そこにあるものを見る。どれが、どう使えるのかは想像が追いつかない。
「イタズラの定番って言えば……扉を開けて落ちてくる黒板消し、とかよね?」
「そうだね……うん、じゃあそれの応用」
「応用?」
 にぱっと小判は笑う。
 どうするのかな、と佑紀はもちろん思うわけで。小判は嬉しそうに糸と、洗面器を抱える。
「おねーさん、台所からお水持ってきて! やかんあるから!」
「お水……ああ、なるほど」
 佑紀はやろうとしていることがわかり、くすっと笑う。きっと戸が開くと同時に水がざばーっと落ちるイタズラを作る気なんだろう。
 ちょっと、それはお客さんにやっていいのかな、と思いつつも楽しそうと反面思ってしまう。
「台所は……」
「奥あがって、右!」
「わかったわ」
 お願いするね、という言葉を背中に受けながら佑紀は銀屋の奥へ。
 台所はすぐに見つかって、そしてやかんもすぐに見つかる。水を入れて、そして戻ってみるとどこからか脚立を持ち出して、小判はその上で細工をしている。
「お水、持ってきたわよ」
「うん、こっちももうすぐ終るよ。ありがとうおねーさん!」
 引き戸を開けると糸が切れて、そして洗面器が傾くらしい。あの短時間で器用なものだな、と佑紀は感心する。
「器用なのね」
「うん、いつもやってるからね! きっと、ひっかかる人いないと思うんだけどねー」
「そうなの? でもちょっと、楽しみね」
 佑紀はふふっと笑う。小判も楽しみ、と頷いて、そして水を入れて準備完了。
 あとは、誰かが引っかかってくれるのを待つだけだ。
 端に脚立を寄せて、そして戸が見える位置に二人は待機。
 まだかな、と二人ともドキドキしながらじっとその戸を見詰める。
 と、カタンと引き戸を開けるような音。
 イタズラ設置から数分といった時間経過だ。ごくりと息を飲む。
「きたね!」
「そうね」
 誰だろう、と思いつつ。
 ガラリと勢いよく扉が開いて、それと共に糸がぷつりと切れる。
「なっつー、あそ……」
 ばしゃーっと、水音が言葉尻を止める。
 水の入っていた洗面器も落ち、それは店に入ろうとした人物の頭へすこっと綺麗にはまった。
「ひっかかっちゃった!」
「うわぁ……大丈夫かしら」
「っつあ! あーちょっとびっくりしたー」
 頭に落ちた洗面器を取り、ぶるっと頭を振って水をはじく。顔を上げたその人物はへらっと笑顔だ。
 小判はたたっとその人のほうへ走る。佑紀もその後に続いて、その人物をみる。
 青い髪は水にぬれてぺそっとしていて、ちょっと額に張り付く前髪の間からは優しそうな緑の瞳がちらっと見える。
「南々にーさん! ごめん、俺のイタズラ!」
「あの、大丈夫ですか?」
「あはー、コバのイタズラかー。ん、大丈夫。えっと、はじめましてだよね、ボクは南々夜っていうんだー」
 佑紀はちょっと心配そうに見上げる。けれどもなんともない、というような様子に少し安心だ。
「あたしは小坂佑紀。髪とか濡れちゃったわね、タオルとか……あ、でもどこにあるか分からないか……」
「んーすぐ乾くし気にする事ないよー、ゆーきちゃん」
「そう? ならいいわ」
「あはっ、でもイタズラするならもっと徹底的にやらないとー。ちっさい時しかイタズラは許されないんだよー」
 わしゃわしゃと、小判の頭を南々夜は撫でながら言う。
 そしてきょろきょろと店を見回して、佑紀を見た。
「なっつーは? 今いないのかな?」
「なっつー……? 奈津さんのことかしら。急用が出来て出かけてるわ。あたしが店番してるの」
「あ、そうなんだー。んー、じゃあボクも一緒に店番しよーっと」
「わーい、南々にーさんも一緒にイタズラしよー!」
「まだやるの?」
 佑紀はまだイタズラしたりないの、と苦笑する。小判はまだだよ、とにこにこと笑顔だ。
 南々夜の方も、いいよというような雰囲気だ。
 佑紀は止めてもむだかな、と思う。それなら、自分だって楽しみたい。
「あたしも付き合うわ。やり過ぎそうになったら止めてあげる」
「あはー大丈夫だよー。コバ、バケツ、バケツでさっきのやろう!」
「うん、探してくるよ!」
 バケツ、というと水の量は確実に増す。軽く三倍くらいだろう。
 佑紀はその洗礼を受けることになるだろう被害者にちょっと同情する。
 たたっと小判は店の中を走り、見当たらないと思ったのか店の奥へ消える。
 そしてすぐ、バケツをもって戻ってきた。
「ん、ばっちりだねー。はい」
 南々夜は戻ってきた小判を抱えあげて、そのイタズラの細工をさせる。
 先ほどと同じように糸を使ってうまく固定して。その様子を佑紀はじっと見る。
 感想としては手馴れている。先ほどは器用だなと思ったのだけれども、ちゃんと見るとバケツのどこを糸で固定するかなどわかりきっているようだった。
「おわりー。あとはお水入れなくちゃ!」
「それならあたしも手伝えるわね」
 俺もやる、とぴょんと小判は南々夜の肩から降りる。そして勇気の手を取ってぐいっと早くと引っ張った。
「そんなに急がなくても……」
「駄目だよ、何時誰が来るかわかんないし!」
 楽しそうに声をあげて小判は言う。
 確かに言っていることは正しいものだ。
 佑紀と小判は台所から水を汲んで、それを南々夜に渡す。南々夜がバケツに水を注いで準備万端。
 あとは待つだけ。
「誰が来るかなー」
「……奈津さん、一時間くらいで帰ってくるって言ってたのよね。もしかしてそろそろなんじゃない?」
「あはー、なっつーなら避けるだろうねー」
 三人で和室に座って、じーっとまだかなと待つ。
 小判の今までしてきたイタズラについて話したり、南々夜がしている何でも屋の話、そして佑紀のいつもの生活。
 と、ぴくっと南々夜が戸の方を見る。
「誰か来たよ」
「え」
「ほんとっ!?」
 視線は引き戸へ。
 かたっと開いてそれと同時に糸がぷつっと切れる。それはさっきと一緒、違うのは水の量。
 ばしゃーっと水音と、そしてそれにかき消されるように驚いたような声が聞こえる。
 そして最期にガインと、バケツが落ちる音。
「うぐっ! 誰だ、こんなことをしたのは!!」
「あ、ひっかかったの藍ちゃんだー」
「藍ノ介さんおかえりなさーい!」
「汝らかぁ!!」
 がっとバケツをつかんでびしょびしょのまま、藍ノ介はどすどすとやってくる。
 その表情は苦々しい。
「イタズラしたのは誰だ! や、小判か、小判だろう!」
「違うわ、三人でよ」
「ぬ、佑紀もか!」
「そー、三人で。ひっかかる藍ちゃんがトロイんだよー」
 そう言われてしまうと藍ノ介は返す言葉がないらしく、言葉を飲み込む。
 佑紀はそんな様子にくすくすっと声を殺すよう努力しながら笑う。
「笑うな!」
「だって……おかしいのはしょうがないでしょ……」
 イタズラが成功して小判はご満悦、南々夜も笑っている。
「ただいま戻りました……なんで入口びしょびしょ……」
「あ、奈津さんおかえりー!」
 と、丁度奈津ノ介も戻ってきたらしく。濡れた後のある入口を不審そうに見ながら奥へとやってくる。
 そしてびしょ濡れの藍ノ介とその手のバケツを見て、納得したような表情を浮かべた。
「小判君、イタズラしましたね……まぁ、引っかかったのが親父殿だしいいか」
「奈津までもこやつらの味方か!」
「避けられないほうがいけないんです。あ、佑紀さん、店番ありがとうございました」
「ううん、いいのよ。楽しかったし、ね?」
 佑紀はそう言って、小判と南々夜を見る。
 二人はそうだね、と笑い返してくる。
 イタズラに引っかかった藍ノ介には悪いけれども、引っかかるまで待つ時間の楽しさは本物だった。
 久しく童心に帰った様な、そんな気持ちになった。
「なっつー、お茶淹れてー」
「はい、良いですよ。じゃあ佑紀さんのお土産もいただきましょうか」
「この前頂いたお茶、おいしかったのよね。あたしも飲みたいわ」
「ええ、もちろん。親父殿はまずタオルですね」
「うむ」
 奈津ノ介は和室に上がり、そして台所のほうへ向かう。
 きっと茶を淹れる準備をしているのだろう。
 佑紀は藍ノ介を見上げる。その視線に気がついて、藍ノ介は何だと佑紀に問う。
「イタズラ、ごめんなさいね」
「ん、汝が謝る事はないが……まぁ、ありがとうな」
 藍ノ介は笑い、ぽんと佑紀の頭をひと撫で。
 くすぐったいような気持ちをそれに感じ、佑紀は表情を緩める。
 と、背中の方から小判がぎゅっと抱きついてくる。
「おねーさん楽しかったね!」
「ええ、そうね」
 小判の言葉に佑紀は笑って答える。
 自分がイタズラの対象にされるのはちょっとイヤだけれども、自分がイタズラをするのは楽しかった。
 また一緒にイタズラしようね、と言われるのに知らずのうちに頷いてしまう。
「やった、じゃあ約束!」
「ええ、約束ね」
 小判と一つ約束。
 また一緒にイタズラをしよう。
 その時が来るのを、次はどんなイタズラになるのかと佑紀は想像してみる。
「お茶淹れてきましたよ。はい、親父殿はタオル」
「うぬ、ありが……ぶっ。顔に向けて投げるな!」
「それぐらい受け取ってください。はい、佑紀さんどうぞ」
 にっこり笑顔で奈津ノ介が差し出した湯のみを受け取る。それを一口。
 変わらずおいしい。
 前に飲んだときよりもおいしいような気がするのは、なんでだろう。
 イタズラが成功して自分の心がまだ弾んでいるからかしら。
 そんなことを思いながら、佑紀は面々とのお茶を楽しむのだった。




 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ
 悪気はないの―――
 一緒に童心に帰っただけ



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】

【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 小坂・佑紀さま

 お世話になってます、ライターの志摩です。
 店番、ということで店番になっていないような気もしつつ小判と戯れていただきました!小判に懐かれてます懐かれてます!今度出あったときはアタックかましそうです…お気をつけください(ぇ)背後から、背後からアタックがきます!(危険です
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!