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<東京怪談・PCゲームノベル>


夜闇に鮮烈



 夜の闇の中で視線が、交わる。
 ぼうっと淡い光を外灯が注ぐ中でだ。
 まっすぐ自分の進む方向からやってきた青年。見覚えがあるようなないような、そんな印象を受ける。
 向こうは、金髪の青年は自分を見つけると驚いた顔をして、そして眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔でどすどすと自分の方へ、やってくる。
「てっめ、ユア・ノエル! 俺のこと覚えてるよなあ!?」
 胸倉を掴んできそうなほどの勢いで睨まれる。その距離は近い。
 ぎん、と鋭い視線をぶつけられた。
 ノエルは、ユア・ノエルは誰だったか、と記憶の糸を手繰る。
 こんなに強く言われると、覚えていないというのが少し不憫に思えて、変なところで優しさを見せてしまった。
 この前会ったな、そういえば。確か名前は、空海レキハ。忘れる予定だったのだがまだ覚えていたか。
 ノエルは心の中でそう思い、声にはしない。
 そう、月夜に自分の命を狙ってきた青年だ。
「何も言わねーし! 俺は忘れてねーからな! 忘れるわけねーっての!」
 つっかかる声に、ノエルは一つ溜息をついた。
 面倒事に巻き込まれそうな気がしてならない。レキハの手に獲物はない。
 いきなり刀を向けられる事はないようだが、それでもなんというか、このレキハは熱い、正直うざい。
 関わるとろくな事が無さそうだとノエルは思う。
「くっそ、今日は仕事しねー日だからお前ブッ殺せねぇ!」
「そうか」
 仕事をしない。
 と、ゆう事は自分に用は無いという事だろう。
 用がないのならなんで声をかけてくるのか、ノエルは不思議に思いながらくるっと背を向け歩き始める。
「あ、おい、待てよ!」
 待てと言われて待つはずないだろう、と心の中で思いながら気にせずノエルは進む。
 と、ふとレキハよりも後ろから、殺気を感じる。
 それは鋭く冷たく、影に潜むような鮮烈さ。
 本能が、これは危険だと感じさせ、確認するように促し背後を向く。
 思うよりも早く体のほうが反応した。
 レキハも何か感じたようでそちらを向いていた。その瞳は真剣な色のみ。
 空から、上から降りてくる、降ってくる少女。
 その手には大鎌、それは振り下ろされる寸前。
 ノエルもレキハも、上から勢いよく下ろされる鎌を避ける。鎌ががっと音を立てながら地に突き刺さり、その威力を示す。コレを食らえば大怪我は免れない。
 ノエルは鎌の持ち主を見る。銀色の髪、眼帯で隠す左目。レキハとは対照的だ。
 ふわっと、銀の髪が揺れている。
「てっめ、シハル! 何のまねだコラ!!」
「あなたが失敗したから、私がユア・ノエルさんを仕留めるように言われただけです。どきなさい、レキハ。あなたの顔を見るのは嫌です。どうしてここにいるの」
「顔見たくねーのは俺もだっての! お前の方が後に来てなーにがここにいるのだ!」
 二人はいがみ合っているよう。
 どちらも睨み合い、その表情は嫌悪より深いものを露にしている。
 それはこのやり取りだけで手に取るようにわかる。ノエルはどうしようか、と考える。
 あからさまに面倒事の部類だ。まともに相手にするのは疲れるのは見えている。
 それならば、この二人がいがみ合っている状況を利用するのが一番有効な手だろう。
「私は凪風シハルと言います。あなたを殺させていただきます」
 シハルはレキハを通り越して、ノエルを見、構える。
 ぐっと鎌をしっかりと持ち、そして踏み込む。
 まっすぐ冷たい視線で自分の方に向かってくる。レキハよりも甘くない、そうノエルは感じ取った。
 一歩後ろに取り、間合いに気をつける。相手の方がリーチが長い、その分動作は大きくなる。その隙を狙うしかない。
 彼女の一撃目は難なくかわした。そして二撃目は先ほどの一撃目の威力を生かして打たれる。
 とん、と軽やかに動き、ノエルはレキハの傍らに立つ。
 そしてそこで、小さく彼に対して声を発する。
「……レキハ、俺を殺すのがあの女でいいのか?」
「よくねぇよ!」
 思った通りだ。レキハはノエルの一言にたきつけられる。
 ノエルとシハルの間に入り、そして自らの影から刀を召喚。
 シハルの鎌の刃と、レキハの刀の刃が高い音を立てて交じり合う。
 その様子をノエルは静観する。
「! レキハ、邪魔しないでください」
「するっての!」
 二人は同タイミングで離れ、そして睨みあう。
 シハルは鎌を下げ、レキハは刀を構え、どちらも引く気は無さそうで、それぞれを相手として認めたようだ。
 うまくいった、と見て良いようだとノエルは思う。
「それぞれの仕事の邪魔はしない、という決まりでしたが?」
「そんなもん知るか!」
「……先生に怒られても知りませんから」
 シハルは溜息を一つついて、そしてレキハを睨み、その後でノエルを見る。
 ノエルはその視線を受けても、怯まない。
 このまま、そのままたきつけたようにレキハとシハルが戦ってくれれば、自分は動かなくて良さそうだ。
 ただその方向へちゃんと転んでくれるか、それはもう少し見極めようと思う。
「ノエルさん、そこを動かずにいてくださると私には好都合です」
 シハルの言う事を聞く気はまったくない。返事も面倒で、ノエルはただ沈黙を守る。 それをシハルは是をとったのだろう、ノエルから視線をレキハへと戻す。
「レキハを倒さないといけないみたいですね」
「シハルとはケリつけなきゃなんねーよな、それが今この場ってだけだぜ」
「そうですね」
 静かに静かに、二人は睨みあう。
 そして同じタイミングで踏み込み、二度三度と刃をかわしていく。
 レキハが上から振り下ろすのなら、シハルは下からはじく。
 シハルが上から薙ぐのであれば、レキハは下から受け止める。
 力では男のレキハの方が上のようだが、臨機応変さにおいてはシハルの方が上のようだと冷静にノエルは観察する。
 ノエルは、シハルは私情など仕事に持ち込まないようなイメージを持っていた。けれどもどうやらそれは違うようで、レキハと戦い始めてからそれしか見えていないようで、自分は忘れ去られているようだ。
 それはレキハについても同じようで、もう目の前のシハルしか見えていない様子だ。
 これは好機だ。
 面倒事を避けるにはもうこのまま去るのが一番だろう。きっと気付かれない。
 ノエルは細心の注意を払いながら一歩、二歩、とゆっくり後ろへ下がる。
 夜の闇に溶け込むように、気付かれないように。
 キィンと、高い音が何度も続く。
 罵声のような声はレキハで、落ち着いた声はシハル。
 その声が少しずつ、遠くなっていく。
 ノエルはその気配を完全に消して、その場を後にした。




 
 二人と出合った場所よりもう十分離れただろう。
 そう思い、今まで歩んできた方向をノエルは一度振り返る。
 追ってくる気配は、ない。おそらく気がついていないのだろう。
 それにしても何故、面倒事はやってくるのか。
 これで最期にしてほしい、と思いつつもそうならない様な気がする。
 ノエルはふぅ、と長い吐息ひとつ。
 自分の、封印士としての力を使う事は無かった。それはありがたい。首飾りも失わなかった。
 でもそれでも、何故だか疲労している。
 自分でも知らないうちに、気を張ってあの場から離れていたのだろう。
 今になってそれを自覚する。
 これ以上の面倒事はごめんだ。
 ノエルはそう思い、歩み始める。
 と、この方向は自分が歩んできた方向だ。どうやら遠回りをしなければいけない。
 進み行く先は、また闇の中。
 戦う事に比べれば、遠回りは小さな面倒事だった。
「何も起こらないのが、一番なんだが……」
 ノエルの呟きはゆっくりと、夜の闇へと溶け込んでいく。



 ユア・ノエルと、空海レキハ、そして凪風シハル。
 今の関係は、狙われ、狙って、きっとまたいつか出会うような気がする。
 ノエルは自分の手を使わず、二人が勝手に揉めて放置、そんな感じだ。
 次に出会う時、この関係がどうなっているのかは、まだ誰も知らない。
 知るわけが、無い。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6254/ユア・ノエル/男性/31歳/封印士】


【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】
【NPC/凪風シハル/女性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 ユア・ノエルさま

 無限関係性二話目、夜闇に鮮烈に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 今回は二人がごちゃごちゃしているのをもうお約束のように放置。お手を煩わす事も無くよかったと思っております(ぇ)はい、ごちゃごちゃしてるのを放置、これはとても正しい選択の一つでございました!
 次にレキハ、シハルとであったとき、またこれもノエルさま次第でございます。でも三話目はこの二人出てきません!(ぉぃ
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!