コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


The Training

 榊船亜真知(さかきぶね・あまち)が、IO2のクローン部隊の排除を行ってから、一週間ほど後。
 その時の依頼者である鷺沼譲次(さぎぬま・じょうじ)の求めに応じて、亜真知は彼のもとを訪れていた。

「いきなり呼び出して悪かったな。実は、一つ頼みたいことがあるんだ」
 今回は、武彦を通じてではなく、鷺沼から直接の依頼である。
 ということは、他の誰かではなく、亜真知でなければできないことである可能性が高い。
 だとしたら、今回もそれなりに厄介な話なのかもしれない。
 亜真知はそう考えたが――それは、ある意味では正しく、またある意味では間違っていた。

 突然、先ほどから鷺沼の隣に座っていた金髪の女性が口を開く。
「亜真知さんっ! どうか、あたしに戦い方を教えてくださいっ!」
 その唐突な申し出に亜真知が驚いていると、鷺沼が苦笑しながらこう続けた。
「……というわけなんだ。
 こいつは俺の部下でMINAってんだが、亜真知ちゃんが『コーン』のヤツを撃退したって言ったら、何が何でもその人に会って稽古をつけてもらいたいって言い出してよ」
 なるほど、確かにこれは亜真知でなければ無理な仕事ではあるが、そこまで厄介な仕事というわけではないらしい。
「迷惑なら迷惑でスパッと断ってくれていい。
 とにかく亜真知ちゃんに会わせないことには絶対に引き下がらなさそうだったんだが、さすがに直接断られれば諦めるだろうからな」

 まあ、亜真知の知識であれば、ある程度の指導ならばできないことはない。
 とはいえ、並の人間があの「コーン」とやりあうのは、控えめに言っても相当困難である。
 中途半端な自信をつけられて、返り討ちにあったなどと言われては後々寝覚めが悪い。

 しかし、考えようによってはこれはチャンスでもある。
 亜真知自身も久しく「戦女神」モードを発動していなかったせいもあって、星杖:イグドラシルを用いた戦闘のカンがやや鈍っていることは否めない。
 ここで演習と称して様々なパターンを試せれば、そのカンがだいぶ戻ってくるのではないだろうか?

 いろいろ考えた末、亜真知は小さく首を縦に振った。
「……わかりました。お引き受けいたします」
 その言葉に、ずっと心配そうな表情で彼女を見つめていたMINAが嬉しそうに声を上げる。
「本当ですか!?」
「ええ。わたくしも、いくつか確かめてみたいことがありますし」
 亜真知がそう答えると、MINAは深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします……ええと、先生? 師匠? お師様?」
 いきなりそんな仰々しい呼ばれ方をするのは、さすがにちょっとくすぐったい。
「いえ、普通に亜真知とお呼び下さい」
「わかりました、亜真知さん」

 そんなこんなで、二人の「演習」が行われることになったのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 亜真知が演習の場所に選んだのは、ちょうど以前クローン部隊やコーンと戦った場所であった。
 前回同様に偽装化結界を展開してあるため、他者を巻き込んだりする心配はない。

『準備はOKか?』
 鷺沼の声に、MINAが威勢良く返事をする。
「あたしたちは大丈夫です!」
『こっちもいつでもいけますよ、隊長殿』
 今回の演習の敵役を指揮する橋崎亮成(はしざき・あきなり)からも返事があったことを確認して、鷺沼がゴーサインを出した。
『それじゃ、これより演習を開始する。
 亜真知ちゃん、よろしく頼むぜ』





『それじゃ第一波、行ってみようかぁ!』
 橋崎のかけ声とともに、多数の小型ユニットが移動を開始する。
 高速で移動し、ターゲットにペイント弾を打ち込むだけの代物ではあるが、なにぶんサイズが小さく、また数が多いため、全ての攻撃を避けつつ戦うのは結構難しい。
「私が後方から射撃でフォローします。
 MINAさんは自分が倒せると思うターゲットだけを撃破して下さい」
 その言葉に、MINAは一度頷き……なんと、敵の集団のど真ん中に向かっていった。
 敵の射程外から霊子ビームライフルである程度の数は撃破したものの、そうこうしているうちに左右の方にいた敵がMINAを包囲するように迫ってくる。
 それに対して、MINAは一旦後退しつつビームライフルを乱射するが、機動力の差もあって、とても倒し切れそうにない。
「イグドラシル」
『Gatring shot』
 やむなく、亜真知がイグドラシルの連射モードで左右の敵を一掃する。
「ありがとうございます、亜真知さん」
 その間にMINAが正面の敵を撃破し、どうにか事なきを得たが……どうやら、問題は技術以前の所にありそうだ。

 その後の第二波で、亜真知の予感は確信に変わった。
 彼女の見る限り、MINAの最大の弱点はその素直さである。
 バカ正直に真っ正面から仕掛けるし、挑発やフェイントにあっさり引っかかるし、すぐ熱くなってムキになる。
 素直で裏表のない性格は普段は長所にもなるだろうが、戦闘においては明らかにマイナスである。

 とはいえ、性格レベルから矯正している暇はとてもない。
 かくなる上は、技術的な指導で可能な限り隙を減らし、迅速な行動を取れるようにする他はないだろう。

「正面の敵に気を取られすぎです。もっと視野を広く!」
「はいっ!」

「ブレードの振りが大きすぎます。
 切れ味は十分なのですから、力任せに振り回す必要はありません」
「わかりましたっ!」

「攻めに転じるタイミングがずれています。
 無理な体勢から踏み込もうとしても敵の餌食になるだけです」
「……ええっと?」
「隙か誘いかわからない時は、体勢が不十分なら体勢の立て直しを優先して下さい」
「了解ですっ!」

 幸い、なかなか飲み込みは早いようで、一度言ったことは少しずつではあるがちゃんと改善されていっている。

 一方、亜真知自身の方も、先ほどの連射モードの他、追尾型の光弾を複数待機させ、それぞれを任意のタイミングで発射する追尾モードや、連射モード同様の細かい光弾をより広範囲に向けてシャワー状に放つ拡散モードなど、一通りのモードを試すことができていた。

『よっしゃ、それじゃいよいよ山場行ってみようか』
 橋崎がそう言ったのは、ちょうどそのタイミングだった。

 予定ならば、ここで出てくるのは遠隔操作型のパワードスーツ。
「A」対策班でも個人戦闘技術では群を抜く腕前の野辺右京(のべ・うきょう)が操作するそれとの一騎討ちで、MINAのスキルの上昇ぶりを確かめる、という算段だった。





 ところが。

 実際に現れたのは、予想だにしなかった相手だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 MINAを遠巻きに取り囲むようにして出現した敵、総勢十八体。
 普通の人間よりも、明らかに二回り以上大きなそれは、つい先日亜真知が殲滅したはずのクローン部隊だった。

『この間のクローンか!?』
『こんなの、予定にねぇんだけどな……どうなってんだ?』
 突然のハプニングに、慌てた様子を見せる鷺沼と橋崎。

 だが、これはこれで好都合である。
「いい機会ですから、このままわたくしとMINAさんで敵を殲滅します」
 亜真知がそう言うと、鷺沼が不安そうにこう尋ねてきた。
『亜真知ちゃんに関しては心配ないとして、MINAは大丈夫そうか?』
「見違えるほどによくなっています。
 わたくしもサポートしますから、ここはお任せ下さい」
 その言葉で鷺沼は納得したようだったが、技術者の橋崎はなおもこう食い下がってくる。
『とはいっても、MINAとあいつらじゃ二回り近くもスペックに差があるんだぜ?』
 そんな彼を黙らせたのは、当のMINAの一言だった。
「カタログスペックの違いが、戦力の決定的差でないことを教えてあげますよ」





「紅鳳! 蒼龍! MINAさんの援護を!」
 亜真知の声とともに、二体の随行神が実体化し、MINAの左右を守る。
 それによって敵の連携が断ち切られ、一対一の勝負を挑めるようになったMINAは、スペックで勝るはずの相手と互角以上に渡り合っていた。
「振りを小さく……誘いに乗らず……体勢を立て直して……一気に攻め込むっ!」
 懐に飛び込んだMINAのブレードが、クローンの装甲の薄い部分を的確に刺し貫く。
 そこからMINAがさらにたたみかけると、クローンはがくりとその場に崩れ落ちた。

『やったか!?』
『すげぇじゃねぇか!』
 歓声を上げる鷺沼と橋崎に、MINAは自慢げにこう言った。
「見ました? ざっとこんなもんです!」

 それを見届けて……亜真知は空のある一点に目をやった。
 残りのクローン十七体は、MINAが戦っている間にすでに撃破している。
 あとは、このクローンを送り込んだ張本人をどうにかするだけである。

 結界の片隅から、隠しきれない微かな魔力が感じられる。
 どうやら、出てくる気はないようだが……それならば、そのまま撃ち抜くのみだ。

「イグドラシル」
『Eraser Cannon... ready』

 先日の戦いで、コーンを撃退したのと同じ技。
 だが、イグドラシルを扱うカンが戻ってきたこともあって、威力はあの時よりさらに強化されている。

「……そこっ!」
『Fire!!』

 光の帯が、その一点に向かって突き進み……複数回の「何かが割れるような音」とともに、問題の気配は消え去った。

『今、一瞬だけどすごい反応があったな。今のが黒幕か?』
「ええ。おそらく」
 おそらく、彼がクローンを送り込んだ張本人。
 そして……おそらく、今の一撃でも、彼を倒せたかどうかはかなり怪しい。

 その「彼」が誰か、亜真知はうすうす感づいていたが、そのことを彼らに話す必要性は感じなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 演習を終え、鷺沼たちと別れての帰宅途中。
 辺りに人通りがなくなるのを待って、亜真知は人払いの結界を展開した。

「……そこにいらっしゃるのでしょう?」
 亜真知は呼びかける。
 結界を張ったとたんに生じた気配――先ほど感じたのと同じ気配に向かって。

「さすがですね。
 念には念を入れて三十層のシールドを張っていたのですが、まさか二十七枚目まで破られるとは。
 この前と同程度の威力ならば、二十二枚あれば防げていたはずなのですが……二十五枚にしなくて正解でしたよ」
 彼女の誘いに応じて、気配の主――「ヘリックス」が姿を現す。

「一体、何が目的であんなことを?」
 亜真知が尋ねると、彼は表情一つ変えずにこう答えた。
「実験ですよ。それ以上の意味はありません」
 まあ、彼がこういう男であることはわかっている。
 そこで、亜真知は質問を変えてみることにした。
「以前、『プリズム』さんにお会いした時に、IO2を巡る陰謀の裏にはあなたたちの仲間がいるようなことを聞きましたが……本当ですか?」

 彼女の知る四人――プリズム、コラム、コーン、そしてヘリックス――この四人ではありえない以上、そこには他の「誰か」がいると考えねばならない。
 そして、もしその「誰か」が、プリズムやヘリックスのような探求者型ではなく、コーンのように邪悪な存在であったとしたら。
 その時は、自分の力で叩くより他あるまい。

 そんな彼女の考えを知ってか知らずか、ヘリックスは軽く苦笑しながらこう答えた。
「ああ、『キューブ』のことですか。
 彼は混沌から生まれたがゆえにこそ『秩序』を求める変わり者でしてね。
 全てを正しき秩序の下で管理したいと考えているようですよ」

 なるほど、それでようやく納得がいった。
 彼は、現在のように「多くの異能者が秩序の埒外にいる」状態を歓迎していないのだ。
 故に、彼はそれに対処すべく、現在存在する組織の中で、最もそれに向くと思われるIO2を利用することを考えついた……といったところだろう。

「ちなみに、彼自身が直接手を下すと言うことはあまり考えられません。
 彼は、自らが『秩序』をもたらす者であると同時に、自分自身はその『秩序』の外にいる存在であることも自覚していますから」
 それだけ言い終わると、ヘリックスは軽く一礼して姿を消した。

 はたして、このことを鷺沼たちに教えるべきだろうか?
 亜真知は少しの間そう考えて、やがて「今はまだその時ではない」と結論づけると、結界を解いて家路についた。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1593 / 榊船・亜真知 / 女性 / 999 / 超高位次元知的生命体・・・神さま!?

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

 亜真知さんの描写の方、こんな感じでよろしかったでしょうか?

 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。