コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 フォース・ファントム



「お待たせ〜。遅れてごめんなさいっ」
 二階にあがってきた秋築玲奈は、トレイを持って窓際に駆け寄る。
 正太郎が呆れた。
「そんなに慌てなくてもいいのに」
「みんなが食べ終えた後に一人だけが食べるなんて嫌だよ」
「ああ、それなら大丈夫。朱理さんが追加注文してるから、なかなか食べ終わらないと思うよ」
 苦笑する正太郎の言うように、朱理だけはガツガツとハンバーガーを食べている。
 玲奈は空いている正太郎の横に腰掛けた。
「いつもより多く食べてない? 朱理ちゃん」
「明日補習があるんだそうですよ」
 嘆息する奈々子に、なるほどと玲奈は思う。
(食いだめってやつか……)
 こんなに小柄なのに。
(ボクの倍以上軽々と食べてるよね……。これで太らないのが不思議だけど)
 朱理を観察していた玲奈は、ふと奈々子が溜息をついているのに気づいた。
 何かあったのだろうかと思って「奈々子さん?」と声をかける。
「あ、いえ……ちょっと」
 苦笑いをする奈々子。
 玲奈は困惑してしまう。
 ふと思い当たり、横の正太郎を見遣る。
「もしかして……また何か変な写真を撮ったんじゃ……」
「正解!」
 朱理の声に玲奈と正太郎はビクッと反応した。いつの間に食べ終えたのか、朱理はジュースを片手にニヤッと笑っている。
 玲奈は呆れたような目で正太郎を見た。
「やっぱり……」
「ぼっ、ボクが好きで撮ってると思うの!?」
「そうは思わないけど……。それで、どんな写真なの?」
 正太郎が奈々子に視線を向ける。朱理もだ。
 どうやら写真を持っているのは奈々子らしい。
 奈々子は渋々というように写真をテーブルの上に置いた。
「これ……?」
 写真を覗き込んだ玲奈は怪訝そうにする。
 写っているのは二人の奈々子。なぜ二人も写っているのだ?
「……すごいね。どういう仕組みなんだろ。CG?」
 そんなわけはないとは思うが、とりあえずそう言ってみる。奈々子はすっ、と写真を取って手の中に押し込めた。
「いいじゃないですか、べつに。きっと鏡にでも映った姿ですよ」
「でも……」
 写真に写った朱理と正太郎が危険な目にあったのを、玲奈は知っている。今回もそうかもしれない。
「奈々子さん、一応……気をつけて」
「秋築さん?」
「お願い。用心して」
 きょとんとした奈々子だが、小さく頷いた。
「わかりました。秋築さんがそこまで言うなら……用心しておきますね」
 そう言って彼女は立ち上がる。鞄を手に持った。
「じゃあ私はお先に失礼します」
「奈々子、もう帰るの?」
 朱理は「珍しい」と続ける。奈々子は目を細めた。
「私にだって色々とやることがあるんです」
「ふーん」
 すたすたと歩き去っていく奈々子に玲奈と正太郎がそれぞれ別れの言葉を投げる。彼女は軽く振り向いて手を振るや、一階へと降りていった。
 二階の窓から奈々子が店の外に出て行くのを見届け、朱理が頬杖をつく。
 玲奈は心配そうに、去っていく奈々子の姿を目で追った。
「大丈夫かな……。何事もなければいいけど」
「だ〜いじょうぶだって」
 呑気な声を出す朱理は、先ほどまで奈々子が座っていたイスの上に落ちている生徒手帳に気づく。
 生徒手帳を掴み、朱理は立ち上がった。
「仕方ないなあ。あいつの学校厳しいらしいから、持っていってやるか」
「でも朱理さん、ボクに数学の宿題訊くって言ってなかった……?」
「うあ!」
 思い出した朱理が大ダメージを受けたようにイスにへたり込む。
「じゃあボクが追いかけて届けてくるよ、朱理ちゃん」
「ええ? いいの?」
 すでに幽霊のように影の薄くなった朱理に玲奈は苦笑するしかない。



「あ、居た居た」
 玲奈は奈々子の姿を見つけて大きく手を振る。
 道の真ん中に突っ立っている奈々子が見えた。なにをしているのだろうか?
「奈々子さん!」
 声をかけると奈々子が振り向いた。
 ぎょっとして玲奈は足を止める。
 振り向いた奈々子の向こうに、もう一人奈々子が居るではないか!
(え……ま、まぼろし……?)
 ごしごしと瞼を擦る玲奈は、もう一度しっかりと見る。
 見間違いではない。奈々子は二人居る。
(! これ……もしかしてあの写真の……!)
 ハッとするが、状況がよくわからない。
 なぜ奈々子が二人存在しているのか。
「なんで二人……?」
 呟く玲奈に、二人同時に口を開く。
「私が本物です!」
 重なった声はそっくりに聞こえた。
 奈々子の動作もまったく同じ。
(どっちも本物? それとも両方が偽者?)
 二人を見比べるが、違いなどないように見える。ここに朱理でもいれば、違いに気づくかもしれない。
(朱理ちゃんはここにはいない……頼っちゃダメだ。それに…………あの写真)
 写真を思い出す。
 片方の奈々子は、普段の彼女がしない表情だった。
 不敵な――笑み。
(どっちかが偽者…………でもどっちが!?)
 足もとに視線を落とした。両方とも影がある。幻ではなく、実体があるのだ。
 どうすればいい?
(どうしよう……奈々子さんしか持っていないものなんて……)
 そうだ!
「奈々子さん、正太郎くんが撮った写真を出してくれる!?」
 あれなら本物の奈々子しか持っていないはずだ。
 慌てて奈々子が写真を取り出す。しかしそれは一人だけ。
 刹那、玲奈はなにもない空間から槍を出現させて握りしめる。
 ぶんっ、と槍の先端を一人に向けた。
「あなたが偽者だね」
 写真を持っているほうの奈々子は驚いて、写真を持っていないもう一人の自分を見つめる。もう一人は表情を消し、フンと鼻で笑った。
「正解。と、言いたいところだけど私も『奈々子』なの」
 不敵な笑みを浮かべて言う偽者。
 玲奈は距離を少しずつ詰め、本物の腕を掴んで自分の背後に引っ張った。
「大人しく帰って」
「帰る? どこへ?」
 低く笑う偽者は持っていた鞄を地面に落とす。邪魔だと言わんばかりに。
 鞄は地面に到達する前に消えてしまった。
「私は奈々子自身。消えるのはそちらのほうでは?」
「なにを言うの!? あなたは何者?」
 ぐっ、と刃を突きつけるものの偽者は怯みもしない。
 彼女は喉を鳴らした。
「その『答え』を知っているのは人間……おまえたちだ。私はおまえたちであり、そうではない」
「?」
「私が奈々子となったのは偶然……必然とも言える。変化を望む人々の願いが私だ」
「変化?」
「私は『前兆』にすぎない……」
 囁くように言う偽者の言葉の意味は玲奈にはわからない。
「よくわかんないけど……あなたは奈々子さんに何をするつもりなの?」
 薄く笑う偽者の姿が朱理のものになる。驚愕する玲奈と奈々子。
「私は『挑戦』でもある。一ノ瀬奈々子、おまえは高見沢朱理のように強くなりたいと願っていたな?」
「私は……」
「デタラメ言わないで!」
 否定する玲奈に偽者は苦笑した。
「人間というのは貪欲で、常に上を目指す。下に落ちるのが我慢ならない。井戸の底から這い上がり、地上を目指す。そして地上にあがれば天を目指す」
「……あなたは『試練』を与えているとでも?」
「その通りだ。耐えられるかどうかは本人次第。
 秋築玲奈。おまえの望みは――――」
 玲奈の脳裏にある男性の姿が浮かんだ。
 大好きなあの人。だけど……………………。
「どうして『自分』ではないのか……。人間というのは『自分ではない誰か』になりたがるものだ」
「ぼ……ボク、は……」
 指先が震えた。
 槍がカタカタと小さく鳴る。
 朱理のようになりたい奈々子のことを、玲奈はとやかく言えない。
 自分だって……あの人の横に立ちたかった。あの人に見てもらいたくて……。
 『あの人の横に立つのは自分のはずなのに』。
 あの人の横に立つ人に、なりたい。
「無限ほどにある全ての可能性の一つ。それがいま、おまえたちの目の前にある。さあ……理想の自分になるか?」
 偽者の声がぼんやりと聞こえる。まるで精神攻撃を受けたかのような感じだ。
(ダメだ……奈々子さんを守ら、ない……と……)
 震えが止まらないのに?
 なんという誘惑……。これでは逆らえるはずもない。
 玲奈の背後にいる奈々子も息を呑んでいる。
「ち、がう……よ」
 呟いた玲奈に、偽者は「ん?」と小さく首を傾げた。
「なりたい……けど……ボクが『あの人の恋人の女性』のようになっても……それは、違う」
「……違う?」
「真似ても、ダメだよ。それでもやっぱりボクは、ボクにしかなれない……!」
 きっとそうだ。
 苦しそうに言う玲奈に、偽者は沈黙してしまう。だが彼女は微笑んだ。
「挑戦を放棄するというのか……それもまた、道の一つ」
「え……?」
「挑戦して私に敗れれば、おまえたちは消えることだろう。ドッペルゲンガーを見た者は死んでしまう」
「ドッペルゲンガー……?」
 玲奈もその名は聞いたことがある。自分そっくりの者を見たら……死んでしまうという、あの……。
「一ノ瀬奈々子、おまえも放棄するのか?」
「私は私ですから……」
「それもまた答え。いいだろう。
 本当はそっくりの自分に対して言わねばならんのだが、大目にみてやろう」
 玲奈が邪魔をしたため、ドッペルゲンガーは奈々子のフリをやめた。本来なら本人そっくりの姿で問い掛けていた、ということなのだろう。
 さらさらと光の粒子になるドッペルゲンガーは奈々子の姿に戻る。
「だがいつまた私が姿を現すことになるやもしれん……。その時、おまえたちは幸福か、絶望しているか……」
 笑みを浮かべて彼女は完全に消えてしまった。
 呆然とする玲奈と奈々子は顔を見合わせる。
「と、とにかく無事で……良かった」
「え、ええ。ありがとう」
 ぎこちないやり取りをした後、二人は苦笑した。
「でもどうして秋築さんがここに?」
「生徒手帳落としたでしょ? 届けに来たの」
「そうだったんですか!」
「はいこれ」
 奈々子に生徒手帳を渡す。
「ありがとうございます。ああそうだ。良ければうちに寄っていきませんか?」
「え! いいの?」
「勿論ですよ」
 奈々子と一緒に歩き出した玲奈はふと、ドッペルゲンガーが立っていた場所を見遣った。
 いつかまた目の前に現れるかもしれない『可能性』。
(ボクはまた退けられるかな……)
 その時、自分が死にたいほど絶望していれば……もしかしたらということも――――。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC
【4766/秋築・玲奈(あきつき・れな)/女/15/高校一年生】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ご参加ありがとうございます、秋築様。ライターのともやいずみです。
 今回は奈々子のお話でしたが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!