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<東京怪談・PCゲームノベル>


夜闇に鮮烈



 こつこつと靴音が響く路地。
 自分の前方からやってくる者の姿を瞳に映し、デリク・オーロフは笑った。
 しっかりとその姿も名前も覚えている。
 相手も自分の姿を確認したらしく、その表情は苦々しいというか、悔しげというか。
 歩くことをどちらも止めず、そのまままっすぐ進んでいく。
 そして短い距離での睨みあいとなる。
「オヤ、こんな処で憎たらしい顔に出会ウとは。今日は私がアナタを襲いましょうカ」
「今日は俺、仕事しねー日なんだよ。くっそ、そうじゃなけりゃもう切ってるっての! てか道譲れよ!」
「嫌デス」
 その言葉尻は楽しげ、デリクはこの出会いをおかしく、楽しく、どんなことになるかと思っていた。
 そして二人は真正面から向き合い、どちらも道を譲らず、視線をはずさない。
「相変わらず、私は標的なんですかネ?」
「そうだといいんだけどな! 個人的にはぜってー殺すのトップランカーだからな、お前」
 鋭く言葉を発し、レキハはデリクを睨む。
 と、ふっと頭上の闇が濃くなった気がして二人、上を向く。
 そこできらりと閃いていたのは鎌の刃だ。
 デリクは危険だと感じ後ろへと下がった。それはレキハも同じだったようで二人の間にその来訪者は落ちてくる。
 デリクは下がり、避けると同時に相手を確認。
 銀色の髪をなびかせながら上から落ちて、攻撃してきたのは少女だ。
 かち合う視線、片目はレキハと同じように眼帯によって隠されていた。
「危ないですネ」
「シハル!」
 デリクの声色は危ないといいつつもどこか楽しんでいるような軽い口調だった。レキハはというと相手を知っているらしく苦々しげにその名を呼んだ。
 彼女の名前がシハルとうことをデリクは知った。
「お嬢さん、中々物騒なモノをお持ちデ」
「私の得物ですからね、デリク・オーロフさん」
「ああ、名乗る手間が省けましたネ」
 自分のことを知っている、という事はレキハの時と同じように狙われているようだ。それはすぐにピンとくる。
「私は凪風シハル、あなたを殺させていただきます」
 すっと鎌を向けられ冷たく言い放つ。
 デリクはまた戦いか、と苦笑しつつもどこか楽し気。
「おい、待て、そいつは俺が殺すって決めてるんだ、シハルは手ぇ出すな!」
「レキハ、いたんですか」
「お知り合い、のようなのはわかってましたケド、どんな関係ですカ? 恋人トカ?」
「それはねぇ!」
「ありえません」
 くくっと、笑うような声色で発した言葉に二人ともすぐさま否定をする。
 その勢いのよさに仲が悪いのか良いのか、そんな印象を受けた。
 レキハはシハルにやらせるものか、と二人の間に割って入る。
「オヤ、守ってくれるんですカ? まるでナイトのようですね、ん、すると私が姫ですカ、そんなガラじゃないのですケド」
「お前、暢気なんだよ…! シハルは同業者で殺しに来てるってわかてるだろーが!」
 モチロン、とデリクは笑って返した。からかいつつ、情報収集は怠らない。
「…・・・レキハ、邪魔するんですね」
「当たり前、お前ブッ潰すのが今になっただけだ」
 レキハは自らの影から刀を召喚。便利な力だなと見ていたデリクは思う。
「私を狙っている、というコトは……レキハさんがこの前失敗したからデスカ?」
「ええ、先生に言われて来ました。いいのね、レキハ、先生の言いつけ破るけれどもそれで」
「黙ってりゃわかんねーよ!」
「そうね」
 デリクそっちのけでレキハとシハルはにらみ合う。シハルは自分の標的はデリクだとわかっているのだが私情を優先してしまっている。そんな雰囲気だ。
 デリクは二人の会話からどうやら先生、と呼ばれるものがいることを知る。その人物がどうやら自分を暗殺するように命を出しているようだ。それがその先生の意思なのか、はたまた誰かの依頼を仲介してなのかはわからない。
 どんな人なのか、あの二人の先生というのなら、きっと彼らにその技を仕込んだものなのだろう。
 そんなことを考えているうちに、いつの間にかレキハとシハルはデリクのことを忘れ去ったように鎌と刀を交じわせて戦っていた。
 何度も何度も打ち合って、刃が重なる音を響かせる。
「む、私のことを忘れているようナ……」
 仲間はずれにされているような疎外感。それを感じてデリクは少しばかり不愉快になる。
 標的のはずの自分を差し置いて喧嘩のような戦いを本気で繰り広げる二人。
 なんとなく納得がいかない。
 デリクは踏み出し、その戦いの中へと入る。
「私を狙っているんじゃナイのですか?」
「そう、なんですけどあなたは後です」
 すれ違いざまに交わす言葉は簡潔で、自分よりレキハを重要視しているのがわかる。
「む、コッチを見なさいってバ、失礼な!」
 デリクはシハルの背後から自らの影にいる古き魔物を呼び出し襲わせる。
 それにシハルは気がついてしっかりと避け、デリクを意識する。
「っ! レキハを助けるんですか?」
「そんなコトしませんヨ、ただ放っておかれるのはちょっと寂しくなっテ」
 軽く笑いながら言ったデリクの言葉にシハルはそうですか、と単調に返した。
「では二人まとめて、お相手します」
「そうデスか。や、どうするのか楽しみデス」
「あ、おい、俺だけで十分だって!」
 レキハはデリクが混ざることが不服なようだがお構いなし。
 シハルは二人の間に踏み込んで薙ぐ。
 それは攻撃というよりも二人を分断するのが目的のようだった。
 短く早く踏み込んで、距離を詰める。
「あなた、レキハよりも強い。だから私も本気でいきます」
 デリクの懐に踏み込んだ彼女は見た目から想像できないような重さの拳をデリクの腹部に打ち込んだ。
「っ……! 私も遊んでちゃ駄目なようですネ」
 油断できない、とデリクは感じ気を引き締める。軽口をたたく暇を与えてくれそうにない。
 先ほど呼び出した魔物、影犬を向かわせシハルとの距離をとる。近距離ではあの拳が、中距離では鎌で攻撃をされる。
 デリクが離れたと同時にレキハが踏み込み、そしてシハルの鎌をはじくように刀で払う。
「っ! 相変わらず馬鹿力」
「るっせ!」
 あからさまにライバル心むき出しの二人を興味深く眺めつつデリクはどうしようかと思う。
 もちろん殺される気などさらさらない。
 レキハと軽く共闘している分一対一よりも楽なのは楽だ。
「アハハ、たまにはこうゆうのも楽シイですネ、おっと」
「楽しい……?」
 攻撃をかわしながら発した言葉にシハルは眉をひそめる。それはあからさまにわけがわからないと思っているようだ。
 シハルの振るう刃によって体に傷はつかないものの、紙一重で避けているため服は所々ぼろぼろに。それはレキハも同じなようだ。
 デリクは自分の姿を見て、これはあまりよろしくないと思う。
「でもそろそろ飽きてきましたネ。私は逃げさせて頂きましょうカ」
 レキハの首根っこをいきなり掴んでぐいっとひっぱり後退させる。レキハは驚きよろめきつつ、何をするんだとデリクを睨んだ。
「ちょっと邪魔デス」
 デリクは笑顔で言う。それにはレキハを押し黙らせる強さがあった。
「お嬢さん、突っ込んできてもイイですが、身の安全は保障しませんヨ」
 掌の、普段は見えないはずの魔方陣がぼうっと光る。
 何が起こるのか、と目を細め静観するシハルはその瞳にデリクの周囲が歪むのを見た。
 空間が裂けていく、そしてデリクを飲み込むように背後から包み込んでいく。
 わけのわかっていないレキハと、笑顔でソレデハと言うデリク。
 シハルは咄嗟に足元に転がる石を蹴ってその空間の安全性を確かめる。
 意思は見事に弾かれて自分がそこへ踏み込むのは危険だと感じたんだろう、動かない。
 デリクはなかなか観察力があるな、と関心しつつ、彼女の姿が見えなくなるのを確認した。
 そして振り向くと、そこは暗闇。自分のほかにもう一人、レキハが不機嫌な表情でそこにいる。
「こんなズルっちいことできるんだな。俺まで巻き込んで……逃げる気なんてさらさらなかったっての」
「この前は使いませんでシタからね。レキハさんは……まぁついでデス」
「ほんっと食えねーやつ」
 二人の周りだけぼうっと明るく、互いの顔ははっきりと見える。
「このままお前を殺しちまうってのもアリかもな」
 レキハはすっと刀の刃先をデリクに向ける。だけれどもそれをデリクは笑顔で交わす。
「強がりデスか? 気がついてないとデモ」
「あ?」
「その体で勝てると思うナラやってみればいいですヨ」
 デリクは瞳を細めつつ、言う。
 気がついていたか、とレキハは舌打ちをし、そして刀を収めた。
「シハルのやつ、同じ場所ばっかり殴りやがって……」
 ぺろっとレキハは服をめくる。するとそこには紫色の痣がしっかりとついていた。
「痛そうデスネー」
「痛ぇよ。お前は怪我ひとつしてねーんだな」
「避けるのは得意デス」
 捉え所のない笑みを浮かべデリクは言う。なかなか用心深く、楽しいお嬢さんだったな、とシハルの姿を思い出しつつ。
 あれがレキハならきっと突っ込んできていただろう、そんなことを思いながら。
「サテ、それじゃあとりあえず、アナタはその怪我をしっかり治して、私を狙うなら狙ってくださいネ」
「そーだな、とりあえず先生にも、聞かねーとなぁ……」
「先生? さっきも言ってましたネ」
「ん、俺とシハルの先生だな。仕事くれんのも先生」
「ナルホド」
 仕事をくれるということは、きっと依頼を受けてそれを二人に任せているのだろう。いずれにせよ黒幕のようなものだ。
 デリクはそのうちなんとなく、出会うような、そんな気がした。
「てか早く外だせよ、なんかここには長居したくねー」
「はいはい、我侭デスネ」
 デリクは苦笑しながら、空間を開く。
 一歩出ると普通の街並みだ。場所は先ほどいたところより幾分か移動はしている。
 とん、と異なる空間から一歩出て、レキハは振り返る。
 何か言いたいことでもあるのか、とデリクは感じ取った。
「今日のはひとつ借りにしといてやる」
「そうですカ、じゃあしっかり百倍返ししてもらいましょうカ」
「してやるよ、しっかりとな!」
 デリクのからかうような言葉にレキハは声を上げて返す。
「なんか遊ばれてるような気がするんだけどな……」
「それは気のせいデスよ」
 そうだと良いんだが、とレキハは呟く。
 実際、レキハを扱うのはデリクには簡単で、いじって面白い。
 反応が予想できるからやりがいがあるというもので。
 命がかかっている危険性があるのもわかっているけれども自分に向かってくる相手を交わすそのスリリングさにちょっとばかり心惹かれ、病み付きになりそうだ。
「ほいじゃ、ぜってー殺しに来るからな」
「綺麗に返り討ちにしてあげマス」
「この前は逃げやがったくせに! 覚えてろよ!」
 それは負け犬の台詞デス、とデリクは笑いながら去っていくレキハを見送る。
「当分、退屈しないでいられそうデス」
 命を狙われて、平凡な日々は少し遠ざかる。
 けれどもたまには、そんな刺激も良い。
「と、レキハさんにはばれなかったようデスネ、彼もマダマダ、といったところ」
 ふと、デリクは表情を歪める。
 最初に受けた一撃が、まだ痛い。
 的確にそれは急所に入っていた。今まで堪えていたものの、気を抜くとそれはじんじんと体の奥にまで響いてくる。
「うーん、恐ろしいお嬢さんダ」
 空海レキハと、凪風シハル。
 デリクにとって障害となるのかならないのか、それはまだわからない。けれども波乱はまだ続きそうだ。
 それまでに、きっとしっかりついているだろう痣も取れるかな。
 そんなことを思う。



 デリク・オーロフと、空海レキハ、そして凪風シハル。
 今の関係はちょっと仲良し、でも油断はできない。そして要注意の恐ろしいお嬢さん
 デリクにとってまだまだこの二人は波乱をもたらしそうで。
 次に出会う時、この関係がどうなっているのかは、まだ誰も知らない。
 知るわけが、無い。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【3432/デリク・オーロフ/男性/31歳/魔術師】


【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】
【NPC/凪風シハル/女性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 デリク・オーロフさま

 いつもお世話になっております、志摩です。
 無限関係性の二話目お届けでございます!なんだか仲良しになりそうでならないデリクさまとレキハです。恐ろしいお嬢さんは今後も向かってきてくれるでしょう、微妙な距離感を保ちつつ…!デリクさまのお茶目さが今回でていればと思います!
 次にレキハ、シハルと出会ったときに今回の続きなのか、それとも他の形での出会いか、それはデリクさま次第でございます。三話目は彼ら出てきませんが…(…)
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!