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<東京怪談・PCゲームノベル>


日常的宴会風景

 
 半ば巻き込まれる形で道場の方へと連れてこられた啓斗と北斗。
 そこで唐突に始まった宴会。
 集まっている夜倉木の親戚は十五人程。
 共通性が無く和服を着た人やスーツを着た人、果てはジャージやら制服まで多種多様だ。
 おそらく、ここでこうして集まっていなければ関係性など皆無だと感じるはず。
 ただし、それは容姿に関してだけの話。
 やたらと楽しそうにしているのは大体皆同じだ。
「鬱憤晴らしに騒ぎたいんですよ、何かある度にこうなりますから」
「良くあるのか……」
 聞かされた言葉そのままに返した啓斗の前では、テレビでやっていたのだという格闘技が実践されている。
 最初こそそう言う趣旨だったが、白熱しすぎでルール無用の殴り合いに発展しつつあったが誰も止めない。
 それどころかそれを酒の肴に盛り上がる集団。
「……だ、大丈夫なのか?」
「ああやってる間はこっちに来ませんし、死なない程度に加減はしてますから」
「……」
 無言のままの啓斗に変わり、北斗が床を軽く叩いてみる。
 固い木の感触に、誰かに問うまでもなく危険なのだと解った。
 ふと壁に目をやれば<火気厳禁>の張り紙。
 入ってきた直後にはなかった物だ。
 気になった北斗が、他に聞けないからと夜倉木に問う。
「なあ、あれは?」
「そのままの意味ですよ、禁止してるのに誰かが必ず持ち込むんです」
「室内に?」
「何度かぼやになりかけて、その度にもみ消してるんですよ。まあ最近は安全対策は取ってありますから」
 今回はそうならなければいいと言い、コップに入った酒をぐっとあおる。
「飲むペース早くないか?」
「ここだと先に酔わないと損なんです」
 完全に酔った夜倉木には悪い癖があるのだ。
 それを知っている啓斗が止めようとはしたのだが、周りから聞こえる野次の所為で飲まずには居られないようである。
 耳を澄ませれば聞こえるる単語と言えば、怪我をした夜倉木有悟を冷やかしたりするような物が多いのだから、気持ちは解らなくもない。
 危なくなり始める前にでも止めに入ろう。
 出来れば、の話だが。
「あ! そっち全然飲んでない!」
「!?」
 勝負はダブルノックダウンして決着が付いたようだ。
「誰か、一緒に組み手をしませんか」
「断る」
「却下」
 口々に断られているのは確か夜倉木辰巳だ。
 肩を落としつつ倒れた二人をどこかへと運んでいく。
 それを気にせずに酒類を手に持ち、今にもこっち来そうな様子を見つつ夜倉木に話しかける。
「大丈夫……なのか?」
「もうすぐこっちに来ると思いますよ」
「いや、そうじゃなくて倒れてた二人、怪我は? 動かないけど」
「そっちなら平気です、すぐに起きると思いますよ。出来れば……すぐにここから出るのが一番良いんですけどね」
 確かに他人事ではない。
 見る物がなくなり、幾らかの人達の意識がこっちへと向いたのははっきりと伝わる。
「啓斗君と北斗君だよね。俺はさっきライフルで有悟が出て行くのじゃました人だよ」
「あ、はい。どうも」
 そのまま早口に向こうにいるのが誰かを説明されたのだが、なかなかに覚えにくい。
 町中でバラバラに居る所を探せと言われたら、相当骨が折れそうだ。
 ぼんやりとそんな事を考えた内に、新しいコップを渡されてしまう。
「ほらほら、どんどん飲んで! ここには怒る人いないから」
「わっ!」
「これ……」
 なみなみと注がれる透明な液体はどう見ても水ではない。
「ジュースだって、透明なジュース!」
「大丈夫、ここはちょっとぐらい何かしたって捕まったりしないから」
 やたら高いテンションでさあさあと進められる。
「待ってください、飲めない場合はどうするつもりなんですか?」
 一応とばかりに夜倉木がフォローを入れるがすぐに覆される。
「実は……この中にアルコールの入ってない飲み物なんて最初から存在してない。けれど二人とも全く大丈夫。つまりかなりいける口と言うことだ」
 ぐっと握り拳を付くって語るのを見て、深々とため息を付く。
「ろくな事しないな……こういうのばかりですみません」
「大丈夫、飲める方だ」
 言われた通り、ここに連れてこられてから出された飲み物全てアルコール入りだった。
 他に無かったから飲んでいたのだが、いけるらしいとバレてはそうも行かない。
「ほら見ろ、大丈夫だって。良いのもってきたんだ、どんどん飲んで」
「そうそう、折角だしな」
 ぐっとコップをあおる北斗を窘めるように啓斗が視線を送るが、ため息を付いた後飲み始めた。
「おおっ、いい飲みっぷり!」
「そうそう、いい調子いい調子」
 すっきりと飲みやすいが、胃の中がカッと熱くなる。
「――おいしい」
「あ、うまい」
 思わず似たような言葉を発した啓斗と北斗のコップに、勢いよく次が注がれた。
「あまりハイペースで飲ませるな」
「そう言わずに、大丈夫だろ?」
「まだ、どうにか」
 同意を求められ、啓斗は苦笑を返す。
「所で年は?」
「えっと、最近誕生日過ぎたばっかりで……」
 何気なく飲むペースが速くなりつつある北斗が告げたその一言に、ぱっと場の空気が変わる。
「ああ、そりゃあいい!」
「お祝いって事で!」
 よってたかって囲まれ、酒瓶を並べられたのを見て夜倉木が頭を抱えた。
「どうしてもう少し大人しくしてられないんだ」
「構わないじゃないか、親しいんだろう?」
「そうですよ」
 すぐに夜倉木が返した言葉に、にっこりと笑い返す。
「ならここにいる全員と親しいも同然! と言う事で、もうお祝いとかした?」
 会話の勢いから見ていただけだったが、尋ねられた啓斗が答えを返す。
「誕生日は、それなりに兄弟二人で祝った」
「―――……」
「夜倉木? どうし……」
 驚いたように振り返った夜倉木に啓斗が気づき、何事かと尋ねようとした矢先。
「ちょっと良いですか」
「えっ?」
 軽々と肩に抱えて道場の外へと連れて行かれる。
 足場は人や物で溢れていて相当悪かったが、全くそれを感じさせない。
「あっ、おい!」
「すぐに戻りますから、北斗をお願いします!」
「俺かよ、ちょっとまて!」
 制止の声を一切無視し、外に出るなり道場の戸にかんぬきを差し込む。
 その一連の動作の素早い事と言ったら。
「かなり飲んでたのに」
「酔っても動きは鈍くならないんですよ。そもそもまだ酔うほど飲んでませんが……そうじゃなくて」
 そこで一端言葉を切り、何かを考え込み始める。
 こうなるに至った単語はすぐにわかった。
「誕生日?」
「そうです、ちゃんと覚えてたんですけど」
「気にしなくて、忙しかったのは知ってるし」
 それに、今ここでこうして騒いでいるのもとても楽しい。
「そうだとしても……」
「今も、楽しいから」
 中から聞こえる賑やかな声と、そこに混ざっている北斗の声に小さく笑みを零す。
 一体どうなっている事やら?
「……今からでも、遅く無いですよね」
 耳へと届く言葉に顔を上げる。
「意外だな、そう言うの気にする性格だとは……」
 くしゃりと頭を撫でられ、啓斗は言葉を失う。
「誕生日おめでとう、啓斗」
「―――………」
 話の流れから考えれば何の不思議もないその台詞も、相手によってはこうも驚く物だとは初めて知った。
「……そんなに意外ですか?」
「かなり」
 目を見開いたままの啓斗の頭をもう一度撫でてから、道場とは別の方へと歩き出す。
「どこにいくんだ?」
「台所の方です、このまま戻ったら何か言われますからね、酒でも持って戻らないと」
 確かにかんぬきで閉じられたままの戸の向こうは、確かに騒がしい。
「壊れないのか?」
「戸や壁、床にも鉄板が入ってますから」
「鉄板って、なんで?」
 見た目には解らないが、壁と壁の間に中に埋め込まれているのだろう。
 一体何故?
「練習中に壊れかねませんから、後は外から壁を蹴って入ろうとした人への罰もかねてるんですよ」
「なるほど……って、外から?」
「偶にいるんです、道場破りとか言ってくる人が」
「ここに!?」
「表向きは普通の道場ですから、あとは武術としての楼籠景射を目当てに来る人もいますし」
「すごい道場破りだな」
 知ってか知らずかわざわざここを選ぶだなんて。
「滅多にありませんが、面白かったですよ。ドアを蹴破ろうとした道場破りが声も上げずに座り込んだのを見た時はは」
 おそらく後者がメインなのだろう、滅多に来ない相手のために鉄板を仕込むなんて相当だ。
「こういうの好きなのか?」
「『やるなら徹底的に』が家訓の一つですから」
 その言葉を夜倉木が実行しているのは、色々な時に目撃している。
 使う箇所によっては、良くも悪くもなる家訓だ。
「……面白いな」
 くすくす笑いつつ、啓斗も並んで歩き出す。
「良かった、ああいう家系ですから。引かれたらどうしようかと」
「それこそ気にしなくても良かったのに」
「まったくです、もう少し巻き込まれていってください」
「ん、大丈夫」
 頷き返した啓斗だったが。
 この後夜倉木と二人で持って帰った酒により、さらに宴会がエスカレートしていく火種となってしまったのは……この時は予想もしなかった事である。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。
なにやら暴走しつつありますが
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。