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<東京怪談・PCゲームノベル>


日常的宴会風景


 慌ただしく出て行った啓斗と夜倉木が酒を持って戻ってきて一時間程。
 唐突に飲み比べになってしまった原因は一体何だったのか?
 北斗が幾ら首をかしげても思いつかなかった。
 全てはうやむやの内に始まったので理由は定かではないが、今この場にいる誰かの言葉を借りるのであれば。
 今起きている出来事、つまり啓斗と夜倉木の飲み比べに集中しろと。
「飲むペース、早くないか?」
「さあ?」
 何とも微妙な台詞を吐きつつ、日本酒を飲み続けている。
 酔っているかいないのかまだ現時点では解らないから質が悪い。
 言動がおかしくなり始めたら確実に酔っているのだろうが……見た目で判断できない。
 何時噂通り危険なことになるか解らないと、啓斗は最初の方こそ気をつけていたようだが次第に真剣に飲み始めているようだった。
「どうして夜倉木はそう酒が好きなんだ?」
「おいしいと感じるからですよ」
「そう言えば最初の頃や倉木の家の冷蔵庫殆ど酒だったよな、あれは普通あり得ない」
「今はましになったでしょう、啓斗の好きな牛乳何時も入れてありますし」
「ん」
 他愛もない会話に、なんだか頭痛がしてきた。
 側にあった刺身をつまみにしつつコップの中を飲み干す。
 どう話しかけたらいいか解らなくなってきた北斗の肩を背後からぽんと叩き、楽しげに声をかけてくる。
  確かライフルを撃ったと自己申告していた人だ。
「どっちにする?」
「へ?」
「ああ、賭ね。どっちが勝つかとか、どうなるかとか」
 手帳にメモを取りつつ、全員に聞いて回っているらしい。
「参考までに他はどんな風に賭けてるか聞けるのか?」
「時と場合によってはだけど、基本的に話かな」
「そっか、じゃあ……」
 啓斗と夜倉木を見比べて少し考える。
 上がり始めたペースを維持しようとしてはいるが、瞼が重くなってきたらしい啓斗。
 一見してしらふの時と変わらない夜倉木。
 このままで行けば先にどっちが潰れるかは明白だ。
 だがどうなるかという言葉も気になる。
 どっちが勝つかだけではなく、この後どうなるかの予想も賭けられるのだろう。
「じゃあ……俺ってのは?」
「俺って、北斗君?」
「そう、俺」
 ニッと笑い自らを指さした北斗に集まる視線、中には啓斗と夜倉木の視線もしっかりと含まれている。
「今からって……?」
「構いませんよ」
 あっさりと言ってのけた夜倉木に、啓斗が何かを言おうとして口を開きかけるが。
「………―――」
 何も言葉は出てこなかった。
 更には手からコップが滑り落ち、床へと中身を零し転がっていく。
「啓斗?」
「あっ」
 返答はなかった。
 ふらりと傾いた体を夜倉木が受け止める。
「まあこのぐらいかと」
 限界を超えれば途端に眠くなってしまうのが啓斗だ。
「決まりか?」
「惜しい、後一杯だったのに!」
「よしきた!」
 ちらほらと声の飛び交う中。
「その前にここは危ないですからね」
「まあ確かに……」
「少し待っててください、すぐ戻ります」
 すっかり熟睡してしまった啓斗を更衣室に移動させ、用意してあった布団に寝かせて安全を確保しておく。
 先にダウンしたらここに寝かせてもらえる辺り夜倉木の行っていた早く酔った方が得だという言葉もうなずける。
 そうして戻ってきた夜倉木に改めて宣言した。
「今度は大将の俺と勝負だ!」
「いつからそうなったのか解りませんが、構いませんよ」
 即座に受けて立たれ、ニッと笑う。
「賭は続行みたいだな」
「じゃあ次は……どっち?」
「有悟か北斗君かって?」
「いや、うんまあ。どうなるかの方が」
 周囲で交わされる言葉を聞き流しつつ、北斗も飲み始める。
 ちゃっかりと水を多めにして割りつつではあったのだが、都合良く誰も咎めはしなかった。
 この時よくよく考えれば、そろそろ言動がおかしくなり初めていたのだが……その事に気付かない程度にこの場に全員が酔い始めていたのである。




 さらに1時間ほど経過した頃。
 薄くしたり、北斗に賭けていたりする親戚に協力してもらったりしてどうにか飲む量を減らしていたのだが……それでもかなり酔い始めてきている。
 当然と言えば当然だ。
 それなのに目の前の男と来たら……。
 まったく酔ってるように見えないのだ。
「何で、全然、酔わねーんだよ!」
「さあ……それよりも、こんな話を知ってますか?」
 ビシリと突きつけた指を無視して、唐突に話題を切り替える。
「……?」
「なに、ちょっとした怪談話だ」
 何を言い出すのかと思い眉をひそめる物の、続きが気になってついつい聞いてしった。
 周りの話し声が減ったのも、北斗と同様の理由からだろう。
「ある新米警察官の話だ。」
 そう言って話し出したのは、確かにどこにでもあるよう怪談だった。
 夫が失踪したと妻から通報があって、警官二人が様子見もかねて話を聞きに行った所。
 電話をしてきた女性は、疲れてはいたがとても丁寧な人だったそうだ。
 詳しい事情を聞く間に、料理まで作って振る舞ってくれる。
 彼女はフランス料理の教師もしているらしく、とても料理がうまかったそうだ。
 仕事の話や夫の事。
 最近どうしていたかを聞き、それらを書類にまとめていく。
 そうして出来た書類を受け取り、また何かあったら連絡をくださいと言い残して家を後にした。
 警察にとってはただの失踪事件でしかなく、直ぐに他の事件に忙殺され大した調査は出来なかった。
 古くから刑事を続けていた男の方はすぐに捜査を切り上げてしまう。
 だが、新米の方はどうしても気になって暇を見つけては様子を見に行き、その度に料理を食べさせてもらって居たある日。
 新米刑事が家の前にパトカーが止まっているのを見て何があったのかと話を聞いて絶句した。
「失踪した夫が家の中で見つかったそうだ、何処にいたかというと……」
 渦巻く嫌な予感に黙って聞いていたのだが……やけに溜めが長い。
 堪えきれずに北斗が言葉の最後を拾い上げて問いかける。
「……と言うと?」
「………? 何の話だ?」
 まさか。
 頭の中を過ぎる話の展開よりも、さらに質の悪い展開に嫌な汗が頬を伝い落ちた。
「か、怪談話。新米刑事はどうなったんだよ」
「何の話だ?」
 ああ、やはり。
「酔ってるだろっ、あんたはっ!!!」
 勢いよく立ち上がり怒鳴った北斗はそのままがくりと膝をつく。
 まずい、今ので完全に酔いが回った。
 動機や眩暈を感じつつ、予想通り質が悪い事になってしまっていると気付いた時には手遅れな状態である。
「酔ってませんよ」
 失礼なと言いたげな口調に、なんだか頭が痛くなってきた。
 周囲の続きを促す声やそれはないだろう言う声に、さらに悪化してくる。
「っだーーー!!!」
 酔いを吹っ切るように吼えつつ立ち上がる北斗に、パシンと軽い音をさせて足払いを決める。
「―――っ!?」
 急すぎて受け身も取れずに床へと倒れ込む。
 痛む背中を押さえつつ転がる北斗に心配そうに声がかけられる。
「大丈夫? 息子がごめんなさいね」
「あ、はあ」
 顔を上げるとそこにいたのは詩織さんだった。
 上手く決まりすぎていたせいか、あるいは酔っているせいかそれ程痛まない。
 道場の端の方へ移動するのを手だってもらいつつ、乱闘になり始めている集団の方へと目を向ける。
「人が黙って聞いてたら細かいことばかり指摘して!」
「細かくないっ!」
「よっし、予想通り!」
「誰かっ、麻酔銃もってこい」
「物事は大抵火力で何とか」
「火は禁止だって言ってるだろうがっ!!」
「あー、じゃあ止める役を」
「辰巳さんは却下!」
「ええ、そんな」
 かなり危険ではあったが、ここなら蚊帳の外でいられそうだ。
「……何時もこうなんだ?」
「そうねぇ、慣れれば回避も難しくないわよ。あ、唐揚げ出来たけど食べる?」
「食うっ!」
 揚げたてを食べつつ、さらに激しくなっていく乱闘をぼんやりと眺める。
 何故あれだけ飲んだのに動きは変わらないままなのだろうか?
 その分頭の方はかなりアレだから、釣り合いは取れているのかも知れないが腑に落ちない。
「あ、いたいた。北斗君」
 ぽんと肩を叩かれ、振り向く。
 ライフルを撃った人だ。
 手には、メモ帳。
「最後、何人ぐらい無事でいられると思う?」
 どうやら早くも次の賭けに移っていたらしい。
 次はどう答えようかと北斗は考え始めた。





 翌朝。
 お約束のように酷い二日酔いに見舞われる中。
 主犯の夜倉木は案の定、宴会後半の記憶をどこかへと葬り去っていた。
 幸いにして啓斗は隣の部屋で寝ていた巻き込まれる事はなかったのだが。
 夜倉木の家に近づけないよう、今度は啓斗の嫌いな桜の木を植えに来ようと固く心に誓ったのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。
なにやら暴走しつつありますが
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。