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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で…… +



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「ねえ、次の日記は誰の番?」
「次の日記は誰の番だー?」
「僕じゃないよ〜? いよかんさんでしょ?」
「んー、ぼくー……!」


 三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。


 ちなみに本日はいよかんさんの番らしい。
 しゅびん! っと背中らしき場所からノートとペンを取り出す。身体より横幅の大きい其れが今まで何処に隠れていたのか気になるところ。彼? はよいしょっとノートを開く。ばふんっと倒れたノートによって起きた風がいよかんさんの顔を撫でた。
 彼? は皆の方を見る。それから大きな声で読み出した。


「三月二十八日、せいてんー、きょうはー……」



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 此処は溜息坂神社。
 宮司である空木崎・辰一(うつぎざき・しんいち)は境内の掃除をしていた。天気も良く、風も心地良い。後で縁側でお茶でも飲もうかとぼんやり考えていた矢先、『其れ』が現れた。


「うわぁああああーーーん……!!」


 何やら悲鳴らしき声が聞こえてきたので、動かしていた箒を止めて声のする方向を見遣る。
 するとちたちたちた! と何やらオレンジ色の変な物体が彼の方に走ってくるではないか。なんなんだろうと観察してみれば、其れはどうやら長細い柑橘類のよう。身体からは針金のような手足がにょきっと生えている。小粒の涙を散らしながら走ってくるのでその後ろを見遣れば、自分の式神である白黒ブチ猫と茶虎子猫の二匹が勢い良く追い立てていた。
 空木崎の足を盾にするように其れは逃げてきた。うるうると助けを求める目が彼を見上げる。……例えその目が糸目であっても、空木崎にはそう見えたのだ。
 威嚇するように毛を立てている二匹を見下げ、空木崎はめっと叱った。


「こら、この子を虐めちゃ駄目だよ」
「うぇ……ひっく。ぅぇええ……!!」
「よしよし、大丈夫?」


 二匹の猫が「こいつ、怪しい」と言う目で見上げてくる。
 だが、空木崎はそんな猫達を優しく宥めた。足にしがみつくように怯えている其れはふるふると小刻みに震えている。本気で怖がっているらしい。糸のような目からほろほろと涙が零れる。空木崎は膝を折って、視線を下げた。


「こんにちは、不思議な訪問者さん。僕は空木崎 辰一。僕の式神達が迷惑を掛けて御免ね。お詫びに一緒にお茶でもしない? 美味しい羊羹とか水切りとかあるんだけど……」
「おかしー?」
「そう、お菓子。今日は天気が良いからね、そろそろ縁側でお茶でもしようかなって思っていたんだ。こっちだよ」


 二匹の猫と『其れ』を肩に抱き上げて歩く。
 彼の身体に乗りながらも猫達に怯えている謎生物は身体ごとぎゅぅーっと頭にしがみ付く。その格好に、空木崎が苦笑した。
 縁側まで到着すると、此処で待っていてねと三匹を下ろす。もちろん式神達には「お菓子を取ってくる間にこの子を虐めちゃ駄目だよ」と言い含めておくことは忘れない。主人の命令なので二匹は仕方なく大人しくしていた。やがて戻ってきた空木崎はお茶と羊羹を謎生物に渡す。彼? は「ありがとうー」とお礼を言った。
 縁側に腰掛ける一人と一匹。
 そしてその横にふにゃぁと丸くなった猫二匹がいた。


「ぼくはねー、いよかんさんー……『さん』までがなまえだからねー。よろしくー」
「ふーん、いよかんさん、ね。ねえ、キミは何処から来たの?」
「みかづきていー……みかづきていのおやしきにはねー、たくさんのとびらがあってー……いろんなところにいけるのー」
「それは便利そうだね。それでキミはその扉から来たの?」
「んー……カガミっていうのにねー……つきおとされたー」
「……そ、そう」


 針金の先に申し訳程度に付いた手が爪楊枝を掴み、そのまま動かす。
 身体に対して大きい羊羹がぐぐっと彼? の目の前まで持ち上がった。そのまましゅびんっと一口で羊羹を食す。口が開いた様子が見えなかったので物凄い速さだと思われる。次の瞬間、ぱぁああっと背後に花が湧いたので、彼? が幸せに浸っている様子がわかった。もっきゅもっきゅと針金口が波のように動く。
 そんないよかんさんを見て空木崎は思わず。


「可愛い……」


 と呟いてしまった。


「んむぅー?」
「ううん、何でもないよ。それでキミは元の場所に帰れるの?」
「んー、だいじょー……ぶぅー。いつももどれるのー……だから、さんぽしてたんだけどぉー……い、いじめられたぁあ……!!」
「ああ、泣かないで。もうこの子達はキミを虐めないから、ね? ね?」


 ぴぴぴっと涙を飛ばすいよかんさんの頭を撫でてやる。
 どうやら猫達に襲われたのが心の傷になっているらしい。空木崎は後でもう一回式神達を叱っておこうと心に決めた。いよかんさんを宥めるためにお茶を勧める。自身の顔の大きさほどある茶碗をよっこいせっと持ち上げ、そのまま口をつけて傾ける。はっふーんっと再び幸せそうなオーラが出たので、空木崎はほぉっと息を吐いた。


 『いよかんさん』と名乗ったからには彼? は伊予柑なのだろう。
 こうして喋ったり動いたりする様子に妙に和みを頂きつつ、つくづく変な生き物だなと思った。空木崎もまた羊羹を食す。一人と一匹で仲良くもっきゅもっきゅと食べていると、何だか心が幸せのほほん気分。


 いよかんさんが空木崎を見る。
 空木崎もいよかんさんを見た。
 視線があうと何故か照れくさくて、思わず同時にえへへっと笑いあう。


「ようかん、おいしーねー」
「うん、美味しいね」


 そんな和やかな時間を、今日は少しだけ過ごした。



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「はい、これ今日食べた羊羹。お土産にどうぞ」
「ありがとー……っ!」
「今度はキミのお友達を連れて来てくださいね」
「ん、つれてくるー! たのしみにまってて、ねー!」
「ええ、楽しみに待ってます」
「つぎはー……いじめないで、ねー?」


 猫二匹に首らしき部分を曲げて言う。
 二匹の式神猫はいよかんさんに身体を擦り寄らせた。すりすりすり、どうやらさようならの意味らしい。いよかんさんもなでなでと二匹の身体を撫でた。それから空木崎に持たされたお菓子を背負ってちたちたたーっといよかんさんは境内を駆けていく。
 その背中を少々寂しげに思いながらも彼? を見送った空木崎は箒を手に取った。


「次はいつ来てくれるかな。新しいお菓子用意しておかなきゃね」


 くすくすくす。
 再びさっさっと境内を掃き始めた彼は本日の訪問者に対して、ほんの少しだけ嬉しそうだった。



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「……はい。おしまーい」
「へー、今日はお前そんなところに行ってたのかよ」
「カガミがつきおとしたくせにぃー……」
「ずるいよ、いよかんさん! そんな和みを頂いていただなんて!」
「でねー……これがもらった、ようかーん!」


 じゃっじゃーんっと風呂敷に包まれた羊羹を取り出し、卓上に広げる。
 美味しそうな羊羹がででんっと現れ、三人はおーっと声を零した。社はしゅびっと包丁を取り出し、四等分する。スガタはお茶を用意して、カガミは皿を取り出した。


「んじゃま、今度はこっちが三色団子でも持って遊びに行こうかねぇ〜」
「んむんむ。あ、これマジでんまいわ」
「そうだね、お茶と良く合う。何処の羊羹なんだろう?」
「こんどはねー、みんなであそびにいこうねー!」


 三人は羊羹をもっきゅもっきゅ。
 いよかんさんもまたもっきゅもっきゅ。彼? は日記をはいっと次の人に渡してお茶をずずずーっと啜る。毎日が変化のある生活。毎日が出会いと別れ。


「きょうのおはなしはおしまぁーい」



……ぱたん☆





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2029 / 空木崎・辰一 (うつぎざき・しんいち) / 男 / 28歳 / 溜息坂神社宮司】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして。発注有難う御座いましたv
 今回は迷い込んだいよかんさんとのほのぼのシチュでしたのでこうなりましたv少しでもほのぼの感が伝われば良いなと思っております!