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<東京怪談・PCゲームノベル>


魔女と姫君 閑話休題






「りーすしゃんのぐあいがよくないときいたので、おみまいにきたでちよ」
 或る日のこと、クラウレス・フィアートはいつもどおりのたどたどしいお子様言葉と、
それに相反した傲岸不遜な態度で”ワールズエンド”を訪れた。
 それを出迎えたルーリィは、クス、と笑って彼を店内のいつもの場所に誘う。
「どうしたの、いつになく殊勝なことしてくれるのね、クラウレスさん」
「しつれいでちね。わたちはこうみえても、れいはかかちまちぇんよ」
 ふふん、と胸を張りつつクラウレスはよいしょ、と椅子に登る。
クラウレスの体には、”ワールズエンド”店内に設置している椅子は少々高いらしく、ぶらぶらと足を揺らせる。
「ちょれで、ぐあいはどうでちか。うなってまちゅでちか?」
「そこまでじゃないんだけど。やっぱりしんどそうでね…そうね、風邪みたいなもんだと思ってもらえれば良いかもしれないわ」
 クラウレスの問いに、ルーリィは苦笑して返した。
無論、二階の自室で臥せっているリースのことだ。
「たちかに、ようりょうおーばーなまりょくをせおってちまったら、しんどくなりゅのもあたりまえでち。
おとなちくちてても、かりーながどっかにいってくれないと、かんぜんちゆはむずかちいのでち」
「そうなのよねえ…それが問題なんだけど。
普段は気配を隠しているから、引きずり出そうにも出来なくて。
やっぱり、カリーナが何かしようとしたときにどうにかするしか仕方ないのよね…。あっ」
 ルーリィはそうぼやくように言ったあと、ハッとしてクラウレスを見た。
目の前のクラウレスは、今まで二度あったカリーナの来襲にて、
二度とも散々な目にあっていたのだった。
プライドの高いクラウレスにとっては、それはもう筆舌に尽くしがたいほどの屈辱だろう。
「ごめんなさいね、思い出させちゃった?」
「ふっ……いいのでち。いかりはなにもうまないのでち…」
 クラウレスは遠い目をして、どこかで聞いたことがあるような台詞を吐いた。
ルーリィはその様子を恐る恐る眺めながら、これはかなり根に持ってるなあ、と思った。
彼女もクラウレスのことは何も知らない仲ではない。
どこか達観したような表情の裏で、ばっちり青筋が浮かんでいるのもちゃんと見つけていた。
「ちょれはちょれとちて。りーすたんにおみまいをもってきたでち」
 気を取り直して、クラウレスは持ってきた花束を、ばさっとテーブルの上に置いた。
その大層な花束を見て、ルーリィは目を丸くする。
「あら、いいの? こんな立派なもの」
「おみまいにけちけちちたら、だめなのでち。どーぞ、かざってあげてくだちゃい」
「そう? でもありがとう、きっと喜ぶわ」
 ルーリィはそう言ってリースの代わりに頭を下げ、クラウレスが差し出した花束を有り難く頂戴した。
あとでリースお気に入りの花瓶に飾ってあげようと思いつつ、花束を脇に置く。
 クラウレスはルーリィが受け取ったことで満足した表情を浮かべながら、「それと」、と付け加えた。
「るーりぃしゃん、やくそくするでち」
「うん?」
 ルーリィが首を傾げると、クラウレスはどこから取り出したのか、見覚えのある黒い正方形をテーブルに置いた。
その箱を見たルーリィは、ぱぁっと顔を輝かせる。
「あっ、ぷちぱんぼっくす!」
「……かってにりゃくさないでほちいでち」
 勝手な略称をつけられた自分の”ぷちぱんどらぼっくす”をルーリィの目から遠ざけながら、クラウレスは言う。
「いまはだめでちよ。でちが、かりーなのことがおわったら、ぜひあけてほちいでち」
「えっ、つまりおあづけってこと?」
 今まさにその正方形の黒い箱の中につっこんでやろうと、手をわきわきさせていたルーリィは、
クラウレスからの制止の言葉にガーン、とショックを受けた。
クラウレスは、はぁ、とため息をつく。
「だからでちね、これはきぼうなのでち」
「希望?」
 クラウレスの言葉の意味がつかめず、ルーリィはきょとん、と首をかしげた。
「さいごにぷちぱんぼっくすがあけられるとおもえば、このまえみたいにたおれることもなくなるでち。
……うつってちまったじゃないでちか、どうちてくれるでち」
 ルーリィの勝手な略称を無意識に口にしてしまったクラウレスは、軽くルーリィを睨んだ。
だがルーリィは全く気にせず、一人手を組みぱぁぁ、と顔を輝かせた。
「じゃあ、じゃあ、最後に開けさせてくれるのね!」
「さっきからそういってるでち」
「オッケー! じゃあ頑張って、気を強く持つわ!」
 自分の得意魔法である作成術を思わせる”ぷちぱんどらぼっくす”を再度触れる機会を与えられ、
一気に立ち直ったルーリィは、ばちん、とウインクをして親指を立てた。
そのハイテンションぶりに、提案をした当のクラウレスは少々慄きながら呟く。
「……ここまでしゅうちゃくちてたとは、ちらなかったでち…」
 ごくり、と息を呑みつつ、うっとりしているルーリィを見つめる。
だが夢心地のルーリィが次に呟いた言葉に、思わずがく、とこけてしまう羽目になった。
「それに、少しぐらい崩壊したって、またクラウレスさんに手伝ってもらえばいいんだものね!
わざわざ倒れる必要なかったんだわ」
「…………!」
「あらどうしたの、クラウレスさん。愕然とした顔して」
 きょとん、としているルーリィに、震える声でクラウレスは言う。
「……るーりぃしゃん、わたちがとばっちりうけるって、かくていちてまちぇんか…!」
「あら」
 心の中で、次のクラウレスはどんなコスプレになるのだろう、と考えていたルーリィは、
少しばかり考えてから言った。
「ほら……やっぱり、クラウレスさんだもの。ね?」
「こたえになってまちぇん!」
 











「…ちょれで、かんじんのかりーなのことでち」
 ふぅ、と額に掛かった前髪をぬぐいつつ、冷静を取り戻したクラウレスが言った。
「そうそう、カリーナね。お見舞いと一緒に、その話も聞きに来てくれたんでしょう?」
 ルーリィの言葉に、クラウレスはこくん、と頷く。
クラウレスも一連の事件に巻き込まれた口である。今までと、そしてこれからのために、
事情を詳しく知る必要があると思ったのだ。
「その前にね。…カリーナのこと、どう思う?」
 もったいぶった口調のルーリィに、クラウレスは少々違和感を覚えながら、
自分が感じていたことを口にした。
「”てき”でちね。…もしちゅかまえられたら、ばちゅをあたえまちゅ」
「…罰?」
 首を傾げるルーリィに、クラウレスは不敵な笑みを浮かべた。
「わたちがやられたよーないろんなかっこうさせて、”わーるじゅえんど”および”まじょのむら”にそのしゃしんをかざってもらうでち!
これはくつじょくでちよ……ふふふ。じぶんでもあじわってみるといいでち!」
 自分のナイスアイディアに陶酔しているクラウレス。
その彼を少々唖然として見つめながら、ルーリィはぼそっと呟いた。
「……やっぱり根に持ってたんだわ…」
「あたりまえでち! わたちがあのあと、どれだけへこんだか…って、けっちてちえんじゃないでちよ!
これはかりーなに、じぶんのやったことをおもいちらすためのばちゅなのでち!」
 クラウレスは、ぐっと拳を握りながら力説した。
ルーリィはその勢いに、思わず唸ってしまう。
「さすがね…闇の騎士は私怨が絡むと怖いわ」
「だから、ちえんじゃないでち!」
 また新たな誤解を生んでしまった、と落胆しながら、クラウレスはそれでもツッコんでおいた。
大して効果はないと知りつつも、だ。どちらかというとお約束に近くなっているが。
「まあ、ちょれででちね…。こーでぃねいととか、しゃしんをとるのとかは、るーりぃしゃんにおまかせちたいでち」
「私に?」
 ルーリィは驚いた顔で自分を指す。
気を取り直したクラウレスは、またもやにやり、と笑って言った。
「るーりぃしゃんのほうが、あいてにとってだめーじがおおきいでちからね…」
「…それは褒められてるのかしら、一体」
「いちおう、ほめてまちゅ」
 クラウレスは、けろりとした顔で頷いた。
「それは嬉しいし、私も、是非いろんな洋服着させてカメラマンにもなりたいけど。
…どうやら、ちょっとそれは厳しいようなのよねえ」
「? なぜでちか?」
 今度は、きょとん、とするのはクラウレスの番だったようで。
首を傾げる彼に、ルーリィは一枚の手紙を取り出して見せた。
「例の、カリーナの詳細。ここに書かれているんだけど―…どうやら、カリーナにはもう実体が無いらしいの」
「……たましいだけ、ということでちか?」
 お子様の姿をしていても、元々は暗黒騎士。さすがに察しが早い。
「ええそう。…うちの村はね、アンクル、コーシア、カルカツィアっていう三人の魔女が創ったの。
彼女たちの名前は伝説となり、私たちが時折使う呪文にも入ってるわ」
 自分の村の由来を語りだしたルーリィを、クラウレスは神妙な顔で見つめた。
「それで、カリーナの本名は、カリーナ=ウィル=カルカツィア。 …つまり、カルカツィアだったってこと。
創始者のうちの一人ね。カルカツィアは精神に関する魔法が得意でね、魂と肉体を分離出来たんですって。
肉体は滅んでしまったけれど、魂だけはずっと精神牢に入れられていたから、まだ残ってるの。
…最も、精神に関する魔法は危険だからって、もう随分と前にうちの村じゃ失われてしまったんだけど」
 ルーリィはそこまで言うと、ふぅ、と息を吐いた。
「じゃあ、かりーなのにくたいは、もうないのでちね。
…なぜなくなってちまったのでちか?」
 クラウレスはいつになく真剣な顔で、そう尋ねた。
ルーリィは軽く頷いたあと、クラウレスの問いに答える。
「このことがね、多分彼女の”姫君病”に関係してると思うんだけど。
カリーナは他の二人と村を創ったあと、暫くしてから人間の男性に恋をしたんですって。
彼は魔女の村がある森から近いところに住んでた人でね。
手を取り合って、村から出て行ってしまったんですって」
「……なんとなく、おちがみえるでち」
 かすかに眉をしかめたクラウレスがそう呟く。
ルーリィは苦笑を浮かべ、
「多分クラウレスさんの予想で正解よ。
大昔のことだから、その当時は魔女に対する迫害がすごくってね。
男性の生死は分からないけれど、結局カリーナは他の人間に殺されてしまった―…ということよ」
「いっしゅのまじょがり、でちね。たちかにむねんのきもちはわかるでちが…やっていいこととわるいことがあるでち!」
 クラウレスは一転して憤慨し、ドン、とテーブルを叩いた。
ルーリィの話を聞いて、なおさら闘志がわいたのか、拳を握りつつ叫ぶ。
「ちょんなことでは、じょうぶつできないのでち! これはやはり、それなりのばちゅをあたえないとでちね…!」
「わ…クラウレスさんが燃えてるわ」
 猛々しい炎を背中に背負うクラウレスに、ルーリィは慄いて呟いた。
「…やっぱり根に持つと怖いわね…」
「たとえかりーながなにをたくらんでりゅとちても! わたちはぜったい、くっちないのでち!
ぜったい、それそうおうのばちゅをあたえてやるでちよ…!」
「…まあ、やりたい放題やらせるのも癪に障るわよね。クラウレスさん、その意気よ!」
「ということでるーりぃしゃん。ゆーれいでもきれるふくをつくってくだちゃい」
「へ?」
 突然話がこちらに振られ、きょとん、としているルーリィに、
クラウレスは最近覚えた最終兵器”にっこり笑顔”を装備して告げた。
「そうおうのばちゅをあたえるためでち。がんばって、ゆーれいせんようのふくをかいはつちてくだちゃい」
「えっ、私? あの…裁縫あんまり得意じゃないんだけど」
「もんどうむようでち! わたちもみまもってあげるでちから、がんばるのでち!」
「ええええ、せめて手伝ってよ!」
 突然自分の手に余る宿題を押し付けられたルーリィは、すっかり他人事気分のクラウレスに泣きついた。
だがにっこり笑顔を搭載した今のクラウレスに勝てるわけもなく。
「るーりぃしゃんのまほうはばんのうでち。きっとなんとかなるでち」
「ひどいっ、私に寝るなっていってるの?!」
「ひつようとあらば、でちね」
 クラウレスはショックを受けるルーリィにそう告げると、笑顔を外してまたもや拳を固めた。
「かりーなたん、いまにみるでちよ…! おもいちらせてやるでち!」
 そしてまた、ごごご、と炎を燃やすクラウレス。
…魔女の幽霊がコスプレ衣装を纏ってポーズをとらされる日は、案外近いのかもしれない。













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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【4984|クラウレス・フィアート|男性|102歳|「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】



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▼ ライター通信
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 こんにちは、いつもお世話になっております!
今回も楽しいプレイング、ありがとうございました。
連作の最後で実現できたらいいなあ…とひそかに思っていたり。(笑

 連作のほうでも、いつもお世話になっております。
ルーリィではないですが、私も次のコスプレは何だろうとこっそり楽しみに!
クラウレスさんにとっては災難なのですがね…!

 ちょこっとカリーナのことが分かるノベルになりましたが、
これからの連作でクラウレスさんのお役に立てたらいいなあ、と思っております。
またお会いできましたら、是非活用して頂ければな、と!

 それでは、またお会いできることを祈って。