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<東京怪談・PCゲームノベル>


Change The World(前編)

〜 七不思議の残りの六つって何だろう 〜

 東郷大学にて行われた、狂乱の学園祭。

 そこでいくつかの事件に巻き込まれた守崎啓斗(もりさき・けいと)と守崎北斗(もりさき・ほくと)の兄弟は、さらなる問題に巻き込まれることを防ぐべく、ある事件が一段落した隙を見計らって、裏庭からの脱出を試みていた。

 が。

 知らず知らずのうちに、彼らは自らその「さらなる問題」へと突き進んでいたのである。
 東郷大学七不思議の一つ、「丘バミューダ」と呼ばれる区域に……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 恐怖・丘バミューダ 〜

「なぁ、ここ、どこだろうな?」
 辺りを見渡して、北斗はぽつりと呟いた。

 前後左右、どちらにもこれと言った気配はなく、ただただだだっ広い荒野が続いているだけ。
 いくら東郷大学の敷地が広大だと言っても、さすがにこれは様子がおかしすぎる。

「もう少し走れば、そのうち外に出られるだろう」
 啓斗はそう言っているが、とてもそのようには思えない。
 それとも、啓斗は本当にこの状況の異常さに気がついていないのだろうか?
「けど、兄貴――」
 念のために確認してみようと思った北斗だったが、残念ながら啓斗はそれを待ってはくれなかった。

 前を走る啓斗の姿が、突然かき消えたのである。

「兄貴っ!?」
 何となく嫌な予感がしつつも、啓斗が消えた地点へ向かう北斗。
 彼が問題の地点まであと数歩と言うところまで来た時、いきなり辺りの風景が一変した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 クリーチャーオールスターズによる大歓迎会 〜

 気がつくと、二人はコンサートホールのようなだだっ広い建物のど真ん中にいた。
「ここは……どこだ?」
「……さぁ?」
 辺りを見回しても、相変わらず人っ子一人見あたらない。
 そのかわり、ふと足下に目をやると、一枚の紙片が落ちているのが目に入った。
「なんだ?」
 それを拾い上げ、紙片に書かれた文字に目を通す。

 そこには、たった一言こう書かれていた。
『くりーちゃーはうすだ!』

 すると、次の瞬間。
 床から、壁から、天井から、無数のクリーチャーがあふれ出してきたのである。
 牛のような角と尻尾のついた真っ赤なナマコやら、上半身がカマキリで下半身が猫の生物やら、頭が三つにハサミが六つある金色のザリガニやら、背中にイソギンチャクの乗っかった巨大なゴキブリやら、サソリの尻尾を持つ青いタカアシガニやら……。

「どわあああああっ!」
「出たあああぁぁっ!!」

 一斉にわいた混沌の産物どもをかきわけつつ、必死に出口を目指す二人。
 しかし、最初に辿り着いた出口は、くぐった瞬間ど真ん中にテレポートさせられるトラップドアだった。

「なんじゃこりゃあぁぁっ!」
「聞いてないぞおおぉぉっ!!」

 化け物かき分け逃避行、有無を言わさず第二ラウンドのスタートである。
 どうにか先ほどとは違ったドアに辿り着いたものの、今度のドアは行き止まり。
 その上、ドアの向こう側には七色に塗り分けられた三つ首の牛と六枚の翼を持った光り輝くナマコが数匹ずつ、「おかわり」と書かれた紙片とともに閉じこめられていたからたまらない。

「おかわりじゃねえぇぇっ!」
「こんなのいるかあぁぁっ!!」

 建物内に三度目の絶叫が響き渡る。
 それが四度、五度、六度と続き……両手の指はもちろん、足の指でも足りなくなるか、と思われた辺りで、ようやく二人は「くりーちゃーはうす」からの脱出に成功したのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 この道はいつか来た道? 〜

 恐怖の「くりーちゃーはうす」から脱出した二人を待っていたのは、謎の鉄砲水だった。

 枯れかけた喉から叫び声を絞り出す暇もなく大水に呑み込まれる二人。
 それでも二人は必死で泳いで、泳いで、泳いで……どうにかこうにか、岸辺までたどり着くことができた。

「……全く、命がいくつあっても足りないな」
 どうにか水から上がった啓斗が、小さくため息をつく。
 そこへ、北斗が少し遅れて上がってきた。
「けど、こんな、こと、前にも、なかったか?」
 だいぶ水を飲んだのか、咳き込みながら話す北斗。
 彼の言葉に、啓斗の脳裏にある光景が甦ってきた。

 鉄砲水をどうにか切り抜けた二人は、流されたと思われる仲間を捜すべく下流へ向かう。
 そこで、彼らが見たものは。

 北斗の様子を見る限り、彼も「この先で何があったか」を覚えているようだ。
「行ってみるか?」
 啓斗の言葉に、北斗も大きく首を縦に振った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 金なら一匹、銀なら五匹? 〜

 二人の記憶に違わず、川沿いに下流に向かって歩いていくと、やがて川は小さな池に流れ込んでいた。

 ここは、おそらく「あの」羽根つきカエルの池だ。

「やっぱりな」
「そうだよな」

 二人は顔を見合わせて頷き……覚悟を決めて、池を覗き込んだ。

 池の水を黒く染めるほどの大量のオタマジャクシが、見る見るうちに変態を遂げ、さらに脱皮する。
 このとんでもないプロセスといい、脱皮後のカエルの凶悪な視覚的インパクトといい、相変わらず精神的にはかなりクるものがあるが、すでに相当免疫ができてしまっている今の二人にとっては、どうにかこうにか耐えられる範囲である。
 大量の羽根つきカエルにまとわりつかれながらも、二人は池の底にむかって手を伸ばす。

 そして――その手が、何かを掴んだ。
 おそらく、こいつが元凶なのだろう。
 ためらうことなく、二人はその「何か」を引き上げた。

「や、やめてくださいっ!」
 二人が引き上げたのは――羽根つきカエルたちと同じような狂った配色の服を纏った、一人の少女だった。
「金のカエルでも、銀のカエルでもお好きな方をさしあげますからっ!」
 ぶんぶんと首を激しく横に振りつつ、妙なことを口走る少女。
 予想を遙かに超えた事態に、二人が呆然としていると……やがて、少女も少し落ち着いてきたらしく、暴れるのをやめて二人の方をじっと見つめてきた。

「えーと……悪い。まさか女の子がいるなんて思わなかったからさ」
 どうにか先に我に返った北斗が、慌てて弁解する。
 すると、少女はにっこりと微笑み、逆に二人の手を握りかえしてきた。
「お二人には、金のカエルよりも、銀のカエルよりも、もっと素敵なものをさしあげますわ」

 これは?
 もしや?
 まさか?

「どうか……私を、もらってくださいませ」
『遠慮します』
 二人の声が、見事にハモる。
 まあ、見た目的にはなかなかの美少女なのだが……羽根つきカエルの生息地である池の中から出てきた少女が、見た目通りの存在であるとはとても思えない。

 とはいえ、そう簡単に諦めてくれるほど、少女も甘くはない。
「もらってくださらないのなら、私がお二人をいただきますわ」
 その声とともに、周囲の羽根つきカエルが一斉に動く。
 狙いはもちろん、二人を池に引きずり込むことだ。

「……に、逃げるぞっ!」
「おうっ!!」

 ここまでの冒険で疲れた身体に鞭打って、まとわりつくカエルを引きはがし、必死で逃げる二人。

 と、不意に二人の周囲の景色が歪んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 クリーチャーと行く温泉サバイバル旅行 〜

 二人が「以前カエルの池を抜けたあとどうなったか」を思い出したのは、大量のカエルとともに温泉に背中から落ちた後だった。

 前回は確か腰からだったが、今度はまともに背中から、である。
 痛みに耐えつつどうにか二人が起きあがると……いつの間にか、隣で先ほどの少女がのんびりと湯に浸かっていた。
「いいお湯ですわね……お二人とも、お背中をお流ししましょうか?」
『結構です!!』
 再びダッシュで逃げようとする双子であったが、お湯の深さは泳ぐには浅すぎ、走るには邪魔になる中途半端さで、泳いでよし飛んでよしの羽根つきカエル軍団との追いかけっこでは非常に大きなハンデとなる。
 たちまち先ほど以上の数のカエルにまとわりつかれ、前も後ろもさっぱり見えない状況になってしまった。
 それでも、二人は懸命に真っ直ぐ真っ直ぐ走り続け、ついにお湯から上がることができた。

 こうなれば、あとはもうこっちのものである。
 再びカエルを引きはがしつつ、温泉の出口を駆け抜ける。

 ところが。
 外に出た二人を待ち受けていたのは、いつぞやにこの温泉に紛れ込んだ時に出会った女性の姿であった。
 確か、あの時は運悪く(?)女湯に落ちてしまったところを見つかったせいで、妙な勘違いをされてしまったのだが――どうやら、今回も同じような勘違いをされることはほぼ確実だ。
 なぜなら、二人が出てきたのは――今回も、女湯だったのだから。

「あんたらはいつぞやの……性懲りもなく!」
 女は有無を言わさぬ調子でそう叫ぶと、何かに合図をするように口笛を吹いた。
 それに応えて、何匹もの「空飛ぶ筋肉質の巨大クラゲ」が姿を現す。

 これは、どう考えてもものすごくまずい。

「な、なんでこんな目に!?」
「とにかく走れっ! この前はこれで逃げられたんだ!!」

 二人は走った。
 走って、走って、走って、走った。
 ベタベタと貼りついてくるカエルに気をとられることなく、ただひたすらに走った。

 その甲斐あって、二人はどうにかこうにか巨大クラゲをまくことができたのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 タイムマシンよりはマシだろうと思う 〜

 なんとか巨大クラゲをまくことに成功した二人であったが、闇雲に走り回ったせいで、自分たちがどこにいるかまでわからなくなってしまった。
 もっとも、この混沌が支配する空間で「自分が今どこにいるのか」などという情報はほとんど無価値に等しいのだが、そうはわかっていても「自分がどこにいるかわからない」というのはやはり気分が悪い。

「なぁ、この後俺たちどうなるんだろうな」
 くっついてくるカエルを引きはがす気力すら失せた、といった面持ちで、北斗が大きなため息をつく。
「どうなるかはわからないが、どうにかはなるだろうな」
 やや投げやりにそう答えて、啓斗は辺りを確認し……どこかで見たことがある、神殿のような建物があるのに気がついた。
「北斗、あの建物に見覚えはないか?」
「ん? あれって確か……あのオブジェのあった?」
 やはり、「あの時」と全く同じルートをたどっている、ということで間違いないらしい。
 だとすれば、きっとあそこからもとの世界に帰れるはずだ。
 まあ、そう言いきれる根拠は全くないのだが。





 神殿の内部は、あの時とは幾分様変わりしていた。
 あの時空間を歪める原因となったオブジェもなく、前衛芸術部の部室だったことを思わせるような絵や画材の類もない。
 その代わりに、何やら怪しげな壺のようなものや、明らかにイヤガラセでデザインしたとしか思われないような狂ったデザインの大きな机などが置かれていた。
「やっぱり、どこかの部屋に繋がっている可能性が高いな」
 早速、出口を求めてあちこちを調べ始める啓斗。
 しかし、壁にも、床にも、それらしいものは見あたらなければ、クリーチャーがわき出してくる気配さえない。

 と、その時。
「ひょっとして、引き出し開けたら出口だったりして」
 そんな冗談を言いながら、北斗がいきなり机の横の引き出しを開け、そのまま絶句する。
「……どうした?」
 北斗の様子に不審を抱きつつ、啓斗もその引き出しを覗き込む。

 引き出しの中に広がっていたのは、美しい星空だった。

「……なんだ、これは」
 常識の通じない空間も、ここまでくれば大したものである。
 二人が呆然と引き出しの中の宇宙を見つめていると、突然引き出しの中から腕のようなものが伸びてきて、二人を引き出しの中へと引きずり込んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そして 〜

 気がつくと、二人は何か大きな机のようなものの下にいた。
「……ここは、どこだ?」
 机の下から這いだし、辺りの様子を確認する。

 飾られている壺、大きな机、立派なソファー。
 その配置はどこか先ほどの神殿内部に似てはいたが、あの空間特有の神経に障るようなイカれた配色のものは一つたりともない。
「戻ってきたのか?」
 カーテンを開けて、窓の外を見る。
 すでに真夜中なせいか、外はすっかり暗くなってしまっていたが、窓の外に見えるのは、間違いなく東郷大学のキャンパスだった。
「どうにか、戻ってこられたみたいだな」
 ここがどこで、どうしてこんな所に出たのかはよくわからないが、とりあえず、現実世界に帰ってくることには成功したらしい。
 そのことを喜び合う二人だったが――全てが終わったというわけではなかった。





「ここがあなた方の世界ですの?」
 不意に、背後から少女の声が聞こえてきた。

 そんなはずはない。
 あの時引き出しに引きずり込まれたのは、啓斗と北斗だけのはずだ。
 そこまで考えて――啓斗は、あることに気づいてしまった。
 北斗の背中に、引きはがし損ねたカエルが一匹、ずっと張りついていたことに。

「あのカエルの化身……か?」
 啓斗の言葉に少女は小さく頷くと、机を軽くなでながらこう呟いた。
「この世界はずいぶんと安定しているみたいですわね。
 これでは、もうもとの世界に戻れませんわ」
 二人としては今すぐにでもお帰り願いたいところなのだが、どうやら彼女にも次元跳躍能力はないらしい。
 いや、まあ、いくら怪生物とはいえ、そんな能力がある方がおかしいのだが。

 ともあれ。
 そんなこんなでこっちの世界に漂着してしまったらしい彼女は、一瞬寂しそうな表情を浮かべ……次の瞬間、にっこり笑ってとんでもないことを口にしたのであった。

「責任、とって下さいますわよね?」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0568 /  守崎・北斗  / 男性 /  17 / 高校生(忍)
 0554 /  守崎・啓斗  / 男性 /  17 / 高校生(忍)

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは特殊な構造になっており、北斗さんと啓斗さんには全く違ったものが納品されています。
 北斗さん側に納品されたものが前編、啓斗さん側に納品されたものが後編となっておりますので、その順番にお読みいただけますようお願いいたします。

・個別通信(守崎北斗様)
 このたびはご参加ありがとうございました。

 というわけで、とりあえず前半部分はドタバタメインで書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?

 主カエル(!?)ですが、捕獲するまでもなく勝手についてきてしまいました。
 どうやらもとの世界には帰れなくなったようなので、放っておくと東郷大学の池にでも住み着くんじゃないかと思われます。
 ちなみに本性は人間でもなければ女の子でもないようなので、あんまり気にする必要はなさそうです。
 近隣で行方不明者が出たりとか新種の羽根つきカエルが東京中を飛び交ったりとかすることもないでしょう。多分。

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。