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<東京怪談・PCゲームノベル>


日々徒然 〜ありがとうの気持ち〜



 日々変わらない?
 日々変わっていく?
 いつもいつも、有難う
 だから今日はね―――



 九竜 啓、十七歳。見た目は十四歳、二つの人格をもつ啓だが、今はあきら。
 ほえほえと柔らかく穏やか、和みの印象を受ける。
 今日はひとつ、心に決めたことがあった。
 それはいつもおいしいオムライスを作ってくれるあの人に恩返しを。
「よし、がんばるぞぉ!」
 気合を入れて、からりとあけた引き戸。その視線の先にその、あの人の姿を捉えた。
「要ちゃーん、いつも有難うー!」
「え、わ、あ、あきら君!?」
 あきらはその人、音原要に背後からどーんと体当たりのように抱きつく。
 ちょうど本を何冊か運んでいたらしい要はそれを床へと驚いて落としてしまう。
 何が起こったのか、要は理解できていないようで。
「え、っと……どういたしまして……?」
「うん、えへへ、要ちゃんいつもオムライス有難うー」
「あ、うんうん」
 表情を緩ませて、嬉しそうなあきらの笑顔に要もにこりと笑み返す。
「要さんどうかし……お邪魔ですか?」
 この場の物音に反応してだろう、奥から奈津ノ介が姿を見せる。二人の様子にちょっと驚くが、すぐににこりと笑った。
 すると焦ったように要が手を振って違うと言う。
「や、これは挨拶みたいなもので奈津さんが思ってるようなことじゃ……!」
「あはは、わかってますよ。こんにちは、あきらさん」
「奈津君こんにちはー」
 あきらは要に向けた笑みと同じような、やわらかい笑みを奈津ノ介に向ける。
「今日はどうかしたんですか?」
「ん、今日はぁ要ちゃんに恩返しをしにきたんだぁ」
「恩返し?」
「それは良い事ですね」
「えっとぉ……好きなもの、俺が作るんだ」
 嬉しそうな笑顔でそう言われると断ることはできないし、断る必要もない。
 要はありがとう、と返す。
「要ちゃんの、好きなもの……教えて? 俺、がんばって作るよぉ」
「私の好きなもの……えっと……うーんと……」
 キラキラと目を輝かせながらその答えをあきらは待っている。
 要は何かな、と考えるのに一生懸命だ。
「甘いものは好きでしたね」
「え、はい。甘いものは大好きです」
 ずっと考え迷っている様子の要を見て、奈津ノ介が苦笑しながら助けを出す。
 あきらは甘いもの、と聞いて色々と考える。
「要ちゃん要ちゃん、えと……クッキーとか好きぃ?」
「うん、好き」
「うん、わかったぁ」
 ぱぁっと表情を輝かせ、そして要から手を離してとてとてと危なっかしい足取りであきらは奈津ノ介の元へと行く。そして和室に上がってにっこりと笑う。
「奈津君、お台所……貸して?」
「いいですよ、こっちです」
 有難う、とあきらは微笑み、そして奈津ノ介の後ろをついていく。
 とっても楽しみで、嬉しい、そんな雰囲気でだ。
「あ……材料とかあるかなぁ……俺、何も考えて、なかった……」
 ふとあきらは気がついて、そしてしゅーんとなる。
 そんな様子に奈津ノ介は大丈夫ですよ、と笑いかけた。
「多分あります。無くても買いにに走ってくれる人がいますから」
「そうなの? じゃあ……心配しなくていいねぇ」
「ええ。あ、ここが台所ですよ」
 いつもたむろする和室、そこを通り過ぎて、そして右へ曲がるとそこはこじんまりとした台所がある。
「わぁ、ありがとぉ奈津君! 俺一人でできるから……大丈夫」
「そうですか? 何か困ったことがあったら呼んでくださいね」
 一人でできる、という言葉を受けて奈津ノ介は台所を後にする。
 がんばって下さい、と一言付け加えてから。
 けれどもそのすぐ後、台所からがらがらがしゃーんと盛大な物音が響いた。
 もちろん、驚いてすぐそこへ駆けつける。
「どうしました!?」
「あ、えへへ……」
 そこで奈津ノ介が見たのはなべやらフライパンやら、色々な道具に囲まれたあきらの姿。表情は笑顔なのだけれどもちょっと涙目。
 これは放っておいたら危険だ。
 そう奈津ノ介は直感する。
「おい、どうした。派手に……要が心配してた、ぞ……って大丈夫かあきら!?」
 そしてまたもう一人、姿を見せたのは藍ノ介だった。その惨状に驚きつつも苦笑している。
「一人じゃ任せられませんね」
「あきらは何をしようとしておるのだ?」
「藍ノ介さんこんにちはー。えっとね、要ちゃんに……クッキー作るんだぁ」
「うむ、そうなのか。で、どうしてそうなっておるのだ?」
「上からお鍋が……落ちてきた、のかなぁ?」
 あきら自身、何が起こったのかよくわかっていないらしい。
 とりあえず起き上がれ、と藍ノ介が手を伸ばす。
 ありがとうとその手を受けてあきらは立ち上がった。
「まずお鍋とか……片付けましょうか」
「うん、散らかしちゃって……ごめんねぇ」
「それはかまいませんよ」
 奈津ノ介は床に落ちた鍋やらフライパンを拾いことん、と流しへと置く。
「なんだか汝だけでは不安だなぁ……よし、わしも手伝おう」
「いのししの丸焼きしか作れない人が何を言ってるんですか」
「いのししの丸焼きしか作れない、の……?」
 冷たい視線をあきらと奈津ノ介は藍ノ介に送る。
 その視線に何か文句あるのか、と藍ノ介はたじたじする。
「藍ノ介さん、いのししの丸焼きしか作れないなら……邪魔しないでね?」
「おおお!? なんだその視線は……馬鹿にしておるのか!?」
「そうじゃないけど……ね、奈津君」
「そうですねー」
 二人は仲良く笑いあう、残された一人は疎外感。
 そんな様子を気にせずに片付けを軽く。
「あ、親父殿はどこか行くかそこから動かないでくださいね」
「動いちゃ駄目だよぉー」
「うむ……って邪魔者かわしは……!」
 今頃気付いたんですか、と子には言われ、あきらにはうん、と頷かれなんだか散々な気もするがあえて深くは考えないように藍ノ介はする。
 あらかた片付いた台所であきらと奈津ノ介はさて始めようと材料を出す。
 小麦粉にバター、砂糖、卵。他にも色々と。
「んっとぉ、まず小麦粉を……ふるって……けほっ!」
 小麦粉をボウルに盛大に出して粉が舞う。それが鼻に入ったのかのどに入ったのかくしゃみと咳をあきらはする。
「落ち着いてやれば大丈夫ですよ」
「うん、ゆっくりやるよー」
 けほけほと言いながら粉をふるっていく。それが終わると今度はバターだ。
「バターはクリーム状に……なるまでがんばる!」
 がしっと泡だて器を持ってがしゃがしゃと。
 これは結構な重労働で作業に集中してしまう。
 これは問題なく終わりそうだな、と奈津ノ介は思っていたがそうはいかない。
「…………あ」
 がしょがしょとかき混ぜていたあきらの口から声が漏れる。一生懸命かき混ぜる、その手から泡だて器が飛んだ。
「!」
 それをしっかりと受け止めたのは少し後ろにいた藍ノ介。いきなり顔面前に飛んできたそれをばしっと反射的にとったらしい。
「危ないな……」
「藍ノ介さん、ありがとー、役にたったねー」
「そうですね、珍しく」
「一言多いぞ!」
 文句を言いながら藍ノ介は泡だて器を返す。また気をつけるんだぞ、と一言付け足しつつ。
 あきらはそれをにこーっと笑顔でわかってる、と返してまた作業再開だ。
 がしょがしょとバターをクリーム状へ。ちょうどいいところで砂糖を加えてほわほわになるようにしていく。
「ん、もういいかなぁー」
「じゃあ次は卵ですね、ときほぐしておきましたよ」
 あきらの持つボウルにちょっとずつ奈津ノ介が卵を入れる。
 そしてそれをあきらがかき混ぜること数回、この肯定も無事に終了。
 次は小麦粉を入れる工程。
 ばさーっと一気に粉を入れさっくりと混ぜ合わせていく。
「んしょ……ん、うまくできてる、かなぁ」
「できてますよ」
「うん」
 奈津ノ介はちょっと不安そうだったあきらに言う。するとあきらも嬉しそうに笑った。
 あとは形を作って焼くだけだ。
 オーブンの加熱はいつの間にか奈津ノ介がしていてくれたらしい。
 てっぱんにクッキングシートを広げて作ったクッキーのタネを置いていく。
「奈津君のうちはなんでもあるねぇー」
「台所のものは要さんがそろえてくれたんですよ」
「おお、要ちゃんすごいねぇ」
 仲良く雑談しつつの二人を微笑ましくか、それとも羨ましくみているのか、藍ノ介はにこにこしている。その視線に気がついてあきらは振り向いた。
 そしてしばらくじーっと見詰めてにへら、と笑った。
「藍ノ介さんもやる? たのしーよ」
「ん、汝らでやってしまえ。わしはそういうのは向かない」
「あきらさん、いのししの丸焼きしかできない人ですから」
「あー……うん、そうだねぇ」
 もう返す言葉もない藍ノ介は微妙そうな表情。もちろん自分の気に触ることをわかって奈津ノ介が言っているのはわかっている。だけれどもあきらはわかって言っているのか、そうでないのか恐ろしくて聞けない。
 と、できたとあきらはつぶやいて表情はにこにこと満足気。
 あとは焼くだけだ。
「綺麗に並んでますね。きっとうまく焼けますよ」
「うん、奈津君手伝ってくれて……ありがとう」
「僕は何もしてませんよ」
 危ないから、とオーブンに鉄板を入れるのは奈津ノ介の仕事。あきらはそれを後ろから見守っている。
「じゃあできるまで和室にいましょうか、先にお茶の準備とかして」
「俺も手伝うよっ」
 にこっと満面の笑みであきらは言う。もちろんお願いしますと奈津ノ介は返した。
「わしも手伝うか?」
「邪魔なので和室の隅っこにで丸くなっててください」
「…………奈津がいじめる……!」
 冷たい一言に藍ノ介はだっと走る。そんな様子を見てあきらは子供だねぇ、とつぶやいた。



 さくっと一口。出来立てのクッキーを頬張る。
「……おいしい……さくさくー、ありがとうあきら君」
「おいしい? 本当においしい?」
「うん、おいしいよー」
 心配そうに見上げる視線を受け止めて、まっすぐ返して要は言う。
 そしてできたてのクッキーの二枚目を手に取る。
「えっと、私だけ食べてるんだけど、皆食べないの?」
「あとで頂きますよ、やっぱり最初は要さんが食べないと」
「うんうん、要ちゃんが食べないとねぇ」
 要がおいしい、と言っているその事実が何よりも嬉しくて、ちゃんといつもの恩返しができたなとあきらは満足だ。
 自分で作ったクッキーを一枚とって食べてみると確かにおいしい。それは自分で作ったからかもしれない。
「奈津君も食べてー、藍ノ介さんも」
「はい、じゃあ」
「うむ」
 あきらは二人にもお裾分けとクッキーを差し出す。それを受け取った二人はそれをぱくっと食べてはおいしいと笑顔を浮かべた。
「あきらは料理上手なんだなぁ」
「うん、料理できるんだよぉ」
「じゃあ今度、私と何か作ろうか」
「いいよ……ええと……要ちゃんと作るのならなんでもいいやぁ」
 それじゃあ私が考えておくね、と要は言う。それは一緒に何かを作るということが楽しみだということがひしひしと伝わってくる表情だった。
「わし、それなら肉じゃがが食べたいぞ……」
「しっかりリクエストして……食い意地が張ってますね」
 ぽつりと藍ノ介が呟いた言葉を聞き落とさず、奈津ノ介は深い深い溜息をついた。
 そんな親子の様子をあははと笑って見ながらあきらは思う。
 ちゃんとできてよかった。
 喜んでもらえてよかった。
 とってもうれしい。
 何度も何度もそう思うけれども思い足りないような気がする。
 でもちゃんとそう感じているのは事実だから大丈夫だと安心もする。
 この穏やかな平和な時間はまだまだ続いていく。




 いつもいつも、有難う
 だから今日はね―――
 一生懸命ありがとうの気持ち、伝えたかったんだぁ



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5201/九竜・啓/男性/17歳/高校生&陰陽師】

【NPC/音原要/女性/15歳/学生アルバイト】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 九竜・啓さま

 お世話になってます、ライターの志摩です。
 今回はいつもの恩返しー!ということでクッキー作りにいそしんでいただきました。色々と(私が)はらはらしつつとなりました。あきらさまに怪我なんて絶対させられない!と、何事もなく書かれている文章ですが、きっと際どいところでひっそり奈津がフォローってたと思います。あきらさまらしさが出てるとよいなと思っております!
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!