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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で…… +



■■■■



「ねえ、次の日記は誰の番〜?」
「次の日記は誰の番ですか?」
「ぼくじゃないー……!」
「あ、俺だ俺」


 三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。


 ちなみに本日はカガミの番らしい。
 彼はよっこいせと交換日記を取り出し、ゆっくりノートを開けた。すでに文字が書き記されている紙の上に目を寄せ、それから彼は大きな声で読み出した。


「四月三日、晴れ時々曇り。今日は……」



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「んぎゃぁあああ!!??」


 どったーん!!!
 勢い良く俺、玄葉 汰壱(くろば たいち)は思いっきり前に転げる。咄嗟に受身を取ったので、軽く身体を打ち付けただけに留まったが、それでも痛いものは痛い。身体を起こし、くぅううーっと唸ってしまった。どうして自分はこけなければいけなかったのだろう。目の前には段差や躓く様な石なんてなかった。むぅーと記憶を巻き戻し、再生する。確か自分は自身の嫁さんを探しに街に出かけようとしていたはずだ。本当は十八になるまで探さなくてもいいのだが、其処はそこ。そんな年齢まで待てない自分は若干七歳にして自分の嫁探しを始めたのだ。


 そして今日も運命の女性を探そうと出かけるはずだった。
 なのに自宅の扉を開いた瞬間、何やら変な力に引っ張られて……。


「あれ? 子供が来ちゃったよっ」
「あーあー、馬鹿社。子供はやばいから止めとけっていつも言ってるだろ」
「それに幾ら暇だからって外の人引っ張り込むどうかと思うんだけど……」
「いやいや、運が悪いこの子が悪いんだよぅ!」
「だからって屋敷の扉を開かなくたっていいじゃねーか」
「だってこの扉、幾らでも変な世界に繋がるんだもんーっ! 人生、刺激は大切だよぅ〜?」
「……かわいそー」


 目の前には蒼髪をちょっと前に垂らした女。
 それから前髪の分け目と左右の目の色が違う双子らしき男二人。
 あとは……長細い蜜柑?


「違う違う。この子は蜜柑じゃなくって『いよかんさん』だよ。さんまでが名前だから覚えてあげてね。ちなみに僕はスガタ、こっちはカガミ。あ、そうそう。悪いんだけど僕らは双子じゃないよ。あとあっちの女の子が三日月社ちゃん。君の名前は?」
「あ、俺は玄葉汰壱。宜しく……って、あれ? 今俺、蜜柑だとか言うの声に出したか?」
「出してねーよ。俺達のちょっとした能力だ」
「出してませんね。これは僕達のちょっした能力です」
「「ま、頭の中身をちょっとだけ覗けるって話」」


 男二人が声を揃えて俺に言う。
 だが、どう見ても顔は同じだし、服装もお揃い。髪型と目の色が反対だって言う事くらいしか違いがない。ああ、あと性格。双子じゃないなら兄弟なのだろうか。良く似た兄弟だって言うならまだ納得出来るかもしれない。


「はずれ」
「はずれです」
「気にしなくても構わねえよ」
「気にしなくても構わないですよ」
「「だって、気にしたって答えは何処にもないのだから」」


 くすくす。
 二人が笑う。俺は何となくその笑い方が気に食わなくてむっと眉を寄せた。立ち上がった俺はぱんぱんっと身体に付いた埃を叩き落す。転んだのは何処かの邸の廊下。目の前には広い庭が広がり、池もあるし、邸に至っては立派な日本家屋である。見遣れば廊下には幾つもの扉が並んでいた。随分広い邸だな、と素直な感想を心の中で零す。


「ところで俺は帰りたいんだが……」
「あ、無理っ! この扉一度閉めちゃったら同じ場所に出る可能性低いからねー。まあ、誘拐するわけじゃないから明日には返してあげるよーんっ」
「明日!? 待て、俺はまだ子供なんだぞ!? 学校もあるし、無断外泊なんてしたら……」
「だいじょーぶー……どーせ、くうかんゆがんでるからー」
「そうそう、此処はどうせ歪んだ場所にあるからねぇー。戻る時は五分と経ってないんじゃなーい? と、言うわけで」


 とむ。
 社と紹介された女が俺の肩に手を乗せる。それからにぃーっと微笑み、こう言った。


「君は掃除と洗濯、どっちが好き?」



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「やしろはねー、ひまきらいなのー。だからー……ときどきおきゃくさんよぶのー」
「お客さん、ね。つーかそうか。暇だからって……そんな理由で引き込まれたのか、俺……」
「……げ、げんきだしてー、ね? ね?」


 先ほど社から部屋の掃除を命じられた俺は箒を手にぶつぶつと文句を零す。
 掃除を手伝ってくれているいよかんさんは太股辺りをとむっと叩いて元気を出すように促がしてくれた。耳を澄ませば隣の部屋からスガタとカガミの声が聞こえる。彼らもまた掃除を命じられていたので、俺同様箒でさっさか部屋を掃いているのだろう。
 どうやらあの社と言う女はこの邸の中で一番偉いようだ。迂闊に逆らえば「空間が開かない」とか言われ、一生自宅に戻れないように細工されるかもしれない。そう考えると今は大人しく居候を決め込んでおいた方が良いだろう。


 雑巾を持ったいよかんさんが丁寧に棚の上を拭いていく。先程から掃除の仕方や、この邸の説明をしてくれたりと結構親身に接してくれる。見慣れればちみちみっとした手足も可愛い。


「なああんた、男? 女?」
「んー? どーしてー?」
「女だったら、俺の嫁さんにしてやるのになぁ……」


 なでぐりなでぐり。
 俺の小さな手でいよかんさんの頭を撫でる。蔕らしき部分のちょっと硬い感じが伝わってきた。すると、何やら走ってこちらに向かってくる音がする。何だろうと扉を見遣っていると……。


「駄目ぇええ!! いよかんさんは僕のなのー!!」
「だからお前はどうしていよかんのことになると素早いんだっ!!」


 行き成りスガタの方が部屋の中に飛び込んできた。
 そんな彼の腰元には止めようとしたらしいカガミが引っ付いている。だが、敵わなかったらしくずりずりと引き摺られていた。目を丸めながら見ていると、いよかんさんがスガタの方にちたたたたっと駆け寄る。そんな彼? をスガタはぎゅーっと抱き締めた。二人の間にほわあーんっと花が飛んだり、点描が発生する。『二人のためだけに世界はあるのっ!』的なその光景に俺は彼らを指差しながらカガミを見遣る。体勢を立て直した彼は疲れた声を出した。


「あいつらは変に無駄なカップルでな……。まあ、そういうわけだからいよかんは諦めてやってくれ……」
「何かあんた大変なんだな」
「……まぁーな」


 げっそりと本当に疲労している相手の肩を思わずぽんっと叩いてしまう。もちろん同情だ。
 ふと外を見遣れば日が落ち始め、辺りが暗くなり始めている。もうそんな時間なのかと瞬きを繰り返す。すると遠くから声が掛かった。


「ご飯だよー! 早くおいでー!!」



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「なあ、あの女って実は料理下手?」
「何で?」
「いや……うん。実はつかぶっちゃけた話なんだけどさー。米の方は兎も角、味噌汁の方マジで不味か……」
「悪い。それ俺が作った」


 布団を部屋に敷きながらカガミが困ったように笑う。
 全部あの女が作ったのだと思っていた俺は、悪いと素直に謝罪する。だが、彼は別に気にするなと言ってくれた。


「つーか僕らも食事作るけど、やっぱり其処まで上手じゃないよね」
「社の方はまだ料理上手い方だぜ? あんまし作らねーみてーだけど前作ってくれたクッキーとか結構美味かったし」
「そーそー、僕らなんて最近料理始めたばっかりだもんねーっ。社ちゃんと出逢ってから物を食べるってことを覚えたくらいだしねっ」
「物を食べることを覚えた? 何だお前ら。それじゃあ、まるで」
「「そう、出逢うまで食事と言うものをしたことがなかったんだよ」」


 二人の声が揃う。
 ほんの少し困ったような……寂しいような声。俺はもしかして悪いことを聞いてしまったのだろうか。こういう時はどう良いのだろう。うーんうーんっと唸っていると、カガミの方がひょいっと俺の身体を抱き上げる。相手も別に大人って言うわけじゃないけれど、自分よりかは格段にでかい。軽々と抱き上げられた俺はそのままぽんっと布団の上に寝転がらされてしまう。


「ほれ、そろそろ寝ろ」
「そうそう、明日には帰っちゃうんだからね」
「んむ。子供扱いすんな! 俺は一人でも寝れる!」
「してないしてない」
「してませんよー」
「そうだな、強いて言うなら」
「そうですね、強いて言うならば」
「「弟扱い?」」


 二人もまた俺を挟むように寝転がる。
 それから掛け布団を体の上に乗せられ、そのまま二人の手が胸の上をぽんぽんと叩いてきた。声が両脇から聞こえ、重なるのはもう慣れた。だが、弟扱いにはちょっとムカついてしまう。
 ぽんぽんぽん。
 定期的に与えられるリズムは正直心地良い。うとうとし始めた自分はそれでも文句を言おうとする。だが開けた口は、そのまま欠伸に変わってしまった。



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 そして次の朝。


「んー、よぉっし。これで大丈夫のはず!」


 社が扉を開き、きょろきょろと辺りを見渡す。
 それから彼女が手招くので俺は近寄った。そしてそのまま同じ様に辺りを見遣る。其処は見覚えのある景色。どうやら先日の言葉通り、自分は帰して貰えるらしい。ほっと胸を撫で下ろしながら背後を振り向く。後ろにはスガタとカガミといよかんさんが居た。


「じゃあ、世話になった」


 一応礼儀として頭を下げる。
 二人と一匹はまたなーと手を振ってくれた。真横を見れば今回の元凶らしい社がにこにこと微笑んでいる。取り合えず彼女にもお礼の言葉を述べておくことにした。
 ゆっくりと足を進ませて扉を潜る。一歩、二歩、三歩。それだけで完全に扉を通り抜けた俺。
 もう一度お礼を言おうと振り向けば――――其処にはもう扉も何もなかった。



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「つーわけで、ヤツは帰りましたとさー」


 カガミが最後の言葉を読み終え、そのままノートを閉じる。
 団子の櫛で歯の間を引っ掻いていた社はそのまま背中を伸ばすように腕を持ち上げた。


「あっはっは! カガミの作る味噌汁は飲めないことないけど美味しくもないもんね〜!」
「でも随分料理上手になっただろ?」
「そりゃあ、僕の指導の甲斐でしょ〜? 最初の頃は壊滅的だったもんね〜っ」
「俺よりスガタの方が今でも壊滅的だしな」
「ひどーい! 僕お掃除とお洗濯は得意だよっ!」


 ぷんぷんっと頬を膨らませ怒るスガタ。
 そんな彼の膝に乗っているいよかんさんが同情の意味を込めて肩を叩いた。


「ま、どうせ二度と逢うことないだろうしな」
「逢ったらどうする?」
「今度は美味いと言わせる」
「にゃっはっは! それまでに料理が上達していると良いねっ! ……と、言うわけでかがみん! 今日の飯は〜?」
「お前今まで団子食ってたじゃねーか!」
「何を言うのさ。三度の食事は大切何だよぅっ!! つーわけで早く台所に行けっ!!」
「蹴るなー!!」


 ていていっと社がカガミの背中を蹴る。
 しかたねえなと言いながら彼は立ち上がり、そのまま台所に向かった。残った社とスガタは閉じられたノートを見遣る。スガタはふぅーっと息を吐き出し、少しだけ笑った。


「彼のお嫁さん、見つかると良いね」
「んにゃん? でもでも、すがたんにはあの子のお嫁さんの姿見えてるんでしょー?」
「えー、僕と言うよりもカガミかなーっ。あっはっは」
「教えてあげなくて良かったの〜?」
「どうして? 彼は自分で探すと言っているんだよ? それならば僕達が『案内』する必要なんて全くないんだよ。僕らが案内するのは求めてくれている人だけ。自発的に頑張る彼には助言なんて要らないよ」
「ふんふんー。本当、二人お兄さんみたいだねー」
「弟がいないから、そうなっちゃうのかな?」


 くすくすくす。
 三日月邸の居間に笑い声が響く。その声を聞きながらいよかんさんが新しくお茶を注いだ。スガタはノートに手を伸ばし、それから紙を突付いた。


「まあ、彼なら大丈夫だよ。秘密、だけどね」


 本日の話はこれにて御終い。
 次は誰と遊べるのか、皆でこっそり楽しみにすることにした。



……終わり。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6334 / 玄葉・汰壱 (くろば・たいち) / 男 / 7歳 / 小学生・陰陽侍】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いますv
 彼のお嫁さん探しはどうなるんでしょうね。ちょっぴり気になっておりますっ。我が家のNPCのカガミにはどうやら見えているようですが、そこら辺は彼には秘密で。でもこっそり本当にお嫁さんが気になります(笑)