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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


アリアと銭湯
●オープニング【0】
「なるほどな……」
 草間興信所――所長である草間武彦は、手紙から顔を上げて目の前に居るアリアの姿をじっと見た。
 草間がアリアとこうして顔を合わせるのは、『白銀の姫』事件が終わった直後以来のことだろうか。面識はその時にあるが、じっくりとは言葉を交わしていない。そもそも草間がよく知っているのは、オリジナルのアリアンロッドの方である訳で。
(ま、この機会にちゃんと知っておくのもいいか)
 草間がそんなことを思っていると、アリアがゆっくりと口を開いた。
「それで……いかがなのでしょうか」
「ああ、俺は構わんよ。わざわざこうして手紙まであるんだ」
 頼まれごとを引き受ける草間。手紙の主はアンティークショップ・レンの碧摩蓮であった。そこにはアリアを銭湯に連れていってほしい旨が記されていたのである。
 何でも先日雪遊びの時に銭湯の存在を知り、アリアが興味をもったのだという。
「それでは」
「今日の夕方にでも行くか?」
 嬉しそうにしたアリアに対して、草間は机の中から入浴券を取り出してニヤッと笑った。それはいつぞやにもらった『卯月湯』の入浴券であった。
「おーい、零。今日は銭湯に行くぞ。興味ありそうな奴らにも連絡してやれ」
 草間はそう草間零に言い付けた。
 さて、アリアにしっかり銭湯を教えてあげましょうか?

●ちょっとした引率【1A】
「目立つな……」
 『卯月湯』へ向かいながら草間が苦笑いした。そりゃそうだ、総勢11人でぞろぞろと銭湯へ向かっている訳で。特にそのうち1人はメイド服着てますし。これで街行く者たちがちらちらとこの一団を見ない方が珍しい。多少なりとも気になって当然である。
 先頭を歩くのはもちろん草間。その後ろには零とアリアが続き、以下順にシュライン・エマと黒冥月、田中裕介と露樹八重、内藤祐子と隠岐明日菜という風に2人ずつ列があって、しんがりが啓斗と北斗の守崎兄弟という並びだった。ちなみに前述のメイド服を着ている1人というのは、祐子のことである。
「わ〜い♪ 銭湯なんて初めてです」
 その祐子がにこにこと皆に聞こえるように言った。明日菜が銭湯に行くと聞いて、一緒に行きたいとだだをこねてついてきたのだ。そういう経緯があったので、祐子の家主である裕介は苦笑い。まあ祐子が喜んでいるのなら、それはそれでいいのかもしれない。
「初めての人が他にも居たんですね」
 ぽつりつぶやく零。考えてみれば零も温泉なら入ったことはあるが、銭湯は初めて。どういうものかと楽しみにしているのは、アリアや祐子たちと同様である。
 ところで初めてといえば、アリアと顔を合わせるのが今回初めてという者も少なくはない。そのほとんどはオリジナルであるアリアンロッドは知っているので、多少妙な感じがあった。ともあれ、集合場所だった草間興信所では出発前に挨拶合戦が行われていたりしたのは余談だ。
「ななな? 『卯月湯』って泉質何?」
 後方から一気に先頭へやってきて、北斗が草間を捕まえて尋ねる。草間は一瞬不思議そうな顔をしたが、北斗はそれに気付かずこう続けた。
「あ、俺ね、最近ラドン温泉にはまってるんだけど!」
 北斗、満面の笑み。だが草間はやれやれといった様子で答えた。
「残念だけどな……普通の銭湯だぞ? 普通の水をボイラーで沸かしてるんだからな」
「えー、そーなのかー?」
「……だから違うんじゃないかって言ったんんだ」
 草間と弟・北斗のやり取りを一番後ろで聞いていた啓斗がぼそっとつぶやいた。詳細を知る訳ではなかったので強く否定はしなかったのだが……やっぱり啓斗の考えの方が正解であった。
「ありあしゃん、ありあしゃん♪」
 とことことアリアに近付いて声をかける八重。今日は普段の10センチほどの姿でなく、奨学生くらいの大きさだ。八重曰く、いつもの姿だときっと取水口トラップに落ちてしまいそうだ、とのことである。……十分ありえる。
「はい、何でしょうか」
「着替えのほかに、いつもお風呂で使ってるシャンプーとか持ってきてるでぇすか?」
「はい、用意していただきましたから」
 と言って、年代物のかごを八重に見せるアリア。恐らくこのかご、アンティークショップ・レンで扱っていた品に違いない。その中にシャンプーやらリンスやらが詰められていた。用意したのはたぶん蓮か。
「そうでぇすか。やっぱり使い慣れたもののほうがいいのでぇす♪」
 アリアが用意してあると聞いて八重は一安心。まあ銭湯ではシャンプーや石鹸、はたまたタオルなんかも売っているので、手ぶらで行ってもどうにかなったりするのだが、やっぱり自分の普段使う物の方がしっくりくる。
「色々なことを覚えるのもいいのかもね、アリアちゃん」
 後ろからふふっと笑って、明日菜がアリアに声をかけた。肩に担いだトートバッグには自分の分のみならず、複数人分のお風呂用具が詰まっていた。
「はい、分からないことは教えていただけると嬉しいです」
 アリアが明日菜の方へ振り向いて、ぺこりと頭を下げた。
「まあ、何事も体験ですよ。習うより慣れろ、という言葉もありますし」
 そう裕介がアリアに言った。その通り、初めてならよく分からなくて当然。体験して慣れてゆけば、自然と学んでゆくものだ。
 わいわいがやがやとそうこうしているうちに、『卯月湯』はもう間近であった。

●微妙な戸惑い【1D】
「零ちゃん」
 後ろからぽむと零の肩をシュラインは叩いた。
「はい?」
 くるりと振り返る零に、シュラインはそっと告げた。
「双子の妹さんて認識が近いかもよ」
「え」
 突然のシュラインの言葉に、零はどきっとしたようだった。
「後ろからそれとなく見てたけど、アリアちゃんとどう接していいか思案してるでしょ?」
「あ……はい……」
 素直に認める零。オリジナルのアリアンロッドとの時間共有は大きかったが、同じ姿形をしているアリアとはそんなことはない。その微妙な戸惑いが、シュラインが後ろから見てて伝わってきたのである。
「向こうは向こう、こっちはこっち。新しくお友だちが増えた……と思えばいいかも」
「そうですね」
 シュラインのアドバイスに、零がこくんと頷いた。

●いざ銭湯【2】
 『卯月湯』ののれんをくぐる一同。決して広いと言えない下駄箱のある場は、一同が足を踏み入れたことで一気に混み合った。
「入口が2つ……?」
 アリアが首を傾げた。男湯と女湯に入口が分かれていたからだ。どちらも扉は開いていたが、のれんが下がって中は見えないようになっている。
「銭湯は男女別々に入るんですよ」
 穏やかな口調で裕介がアリアに説明する。
「……草間のおぢちゃと一緒に男湯はイヤンなのでぇす」
 どんよりと本当に嫌そうにつぶやく八重。このつぶやきにもまたアリアが首を傾げた。
「小さな子供は例外ありなんです」
 苦笑して付け加える裕介。ある年齢以下なら、性別とは逆の方へ入っても特別問題はないのだ。
「安心しろ、連れてゆかん」
 草間も苦笑い。それを聞いた八重はほっと胸を撫で下ろした。そもそも男女比で言えば女性の方が多い訳だからして。
 そしてどやどやと入ってゆく一同。と、冥月が前に続こうとしたら、草間が不意に呼び止めた。
「ん?」
 足を止め、冥月が草間の方へ振り向いた。
「お前はこっちだろ」
 ちょいちょいと指先で男湯の方を示してから、草間が冥月を手招きする。もちろん女性であるが男前さのある冥月をからかっているのだ。
 次の瞬間――冥月の蹴りが草間の臀部に叩き込まれ、哀れ草間の身体はのれんを越えて中へ飛び込んでいってしまった。男湯の脱衣所から大きな激突音と、がらがらと何かが崩れる音が聞こえてきた。
「……一辺死ね」
 その冥月の言葉は、今の草間には絶対聞こえていない。
「また余計なことを言って……」
 呆れて顔を手で押さえているシュライン。注意しようと思った矢先にこうなってしまったから始末が悪い。
「あ、大丈夫だ、生きてる」
 ひょいと男湯の方を覗き込んだ北斗が言った。積んであった脱衣かごが崩れて、その中でぴくぴく草間が痙攣しているとのことであった。
「……とっとと入って起こしてやるか」
 ふうと溜息を吐き、啓斗が北斗の背中を押して一緒に中へ入っていった。
「ええと、代金は……」
 入ってすぐ、料金表へ目を向けようとする明日菜。シュラインがそれを制して、番台へ人数分の入浴券を出した。
「11枚ありますから」
「はい、確かに。どうもお久し振りです、その節は」
 入浴券を受け取り、番台に座っていた20代の若い女性がシュラインへ頭を下げた。『卯月湯』若旦那の妻である。
「いいえ、こちらこそ。今日は大人数でお世話になります。ところで……」
 小声でシュラインが若旦那の妻へ尋ねた。
「あの後はいかがですか?」
「あ、はい、あの後も度々。でも理由が分かりましたから」
 どうやら例の幽霊御一行は、それなりに立ち寄っているようである。しかし理由は解決済みなので、もう問題にはなっていない。
「入浴券あったんだ? 最近銭湯も高くなったからなぁ」
 シュラインが入浴券を出したのを番台越しに見て、しみじみと北斗が言った。
「便利にはなってるけど、来る度に上がってる気がすんだよな……俺」
 それはさすがに言い過ぎだが、じりじりと上がってきている感覚があるのは確かに。
「飲み物が置いてあるんですね?」
 周りを物珍しそうに見ていた祐子が、珈琲牛乳など飲み物が売られているのを見て明日菜へ尋ねた。
「そうそう、お風呂上がりに飲めるようになってるの。あ、ちゃんとお金は別に払うのよ?」
「そうなんですか、サービス品じゃないんですねー」
 ふむふむと明日菜の言葉に頷く祐子。そこへシュラインが割り込んでくる。
「最後に何飲むか、それぞれこだわり所だから、先に種類見て目星つけておくとよいかもよ。アリアちゃん、零ちゃんも分かった?」
「はい」
「はい!」
 アリアは頷き答え、零が元気よく返事をした。
「お風呂上がりに乾杯するでぇすよ〜♪」
 にこにこと八重がアリアに言った。こういうのも、風呂上がりのちょっとした楽しみなのである。
 さて、草間も気絶から復帰し、全員脱衣を始める。当然ながら男湯は女湯の、女湯は男湯の様子は分からない。が、会話や物音は上が繋がっているので聞こえてくる。ちょっと聞き耳を立ててみよう――。
「ラドン温泉て、入った後の方がガンガン熱くなってきてスポーツドリンクとか一気飲みしちまうほどなんだぜ?」
「それだけじっくり、中から温まるんでしょうね」
 これは男湯、北斗と裕介の会話だ。
「ちょっと待って! それは着ちゃダメ! 水着はそのまま置いてくのよ?」
「はい? 水着を着て入るんじゃないんですか? そう教えられて……」
「……誰が嘘教えたのかしらねー?」
 こちらは女湯、シュラインと祐子と明日菜のやり取りである。この会話が聞こえてきた瞬間、裕介が明後日の方を向いたのは気のせいですとも、ええ。
「そういや啓斗、お前……」
「どうした草間、人の顔じろじろと見て」
「最近太ったかと思ったが、違ったみたいだな。いやな、身体の線が若干丸みを帯びたように見えたんだよ」
「寝ぼけてるのか。それとも、眼鏡新調してきたらどうだ?」
「ま、冬場だったしな。着膨れしてたんだろ」
「……そっちこそ太ったんじゃないのか?」
 そして再び男湯、草間と啓斗の会話である。男性でも、体重の変動は気にはなるようで……。

●泡がいっぱい【3A】
 女湯――入って早々、アリアと零が壁画を見て立ち尽くしていた。その後に続く冥月も思わず一言つぶやいた。
「何だこれは」
 そりゃそうだ、女湯の壁には何故か東洲斎写楽の役者絵が描かれていたのだから。
「これが銭湯……」
「不思議な場所ですね……」
 アリアと零のその言葉からは困惑の色が滲み出ていた。
「2人とも、ここのはちょっと特殊な例だから」
 シュラインがそう言って2人を促す。ちなみにこれ、今は亡き先代の趣味であるらしい。
「わあ、綺麗な絵ですね☆」
 そんな反応を示したのは祐子である。どうやら初見の人間は、不思議に思うか凄いと思うか、どちらかに二分されるようだ。
「身体を洗ってから湯舟に入るのよ」
 シュラインに促されて手近な洗い場に座ったアリアへ、明日菜が声をかけた。
「そうなんですか?」
 同じく座った零が、こちらはシュラインへ尋ねる。
「そうね……それもマナーではあるかしら。少なくとも、湯舟に入る前にはかけ湯をして身体の汚れを落とさなくちゃいけないの」
「そういうこと。皆で同じお湯を使う訳だから、誰かが汚れたまま入ればその後全員汚れたお湯に入ることになるでしょう?」
 シュラインの説明を受け、明日菜がさらに理由を解説した。
「せーかつの知恵なのでぇすね〜♪」
 なるほどといった様子の八重。共有する湯をいかに綺麗なまま保つか、かけ湯などのマナーはそういうことである。湯舟でタオルを使わないなども、その流れであるだろう。
 という訳で、皆して身体や髪を洗い始めることに。アリアへは、明日菜や祐子が洗うのを手伝ってあげるようだ。
「日本では裸だけど、海外では水着着用の国もあるの」
 湯をかけてあげながら、アリアへ豆知識を教える明日菜。
「やっぱり水着着るんじゃないですか」
 とは祐子の言葉。まあ日本では着ませんから、祐子さん。
 ところで……『プログラム的存在』であったアリアに湯をかけていいのかと、疑問に思っている者も居ることだろう。これは大丈夫、問題ない。問題あるのなら、先日の雪合戦の時に何かしら問題が発生しているはずだし。
 ともあれ問題ないことを確認し、明日菜はアリアへ湯をかけているのである。
 やがてアリアの身体が泡だらけになる。祐子と明日菜の2人がかりで洗われているのだから、あっという間のことだ。
「アリアさんて肌が綺麗ですよね〜」
 肩を洗っていた祐子が、惚れ惚れするように言った。
「そうなんですか? よく分かりませんが、ありがとうございます」
 比較してみたことがないけれども、褒められて悪い気はしないアリア。ひとまず祐子へ礼を言った。
「そうですよ〜。ほんと、綺麗で……」
 と言って、たっぷりの泡を手で掬う祐子。その手がすっとアリアの身体の前の方へ回った。
「ひあっ!? ちょ、ちょっと……くすぐっ……きゃ……ひゃはっ!!」
 くすぐったいポイントに手が当たったか、身をよじって笑ってしまうアリア。
「じっとしてもらえないと、前もちゃんと洗えません〜」
 ぺたぺたと、泡だらけの手でアリアを洗う祐子。いつしか背中へぴったりくっつくくらい密着していた。
「はいはい、くすぐったがってるみたいだし、その程度でね」
 苦笑した明日菜から祐子へストップがかかる。
「……いつもこういう洗い方なんですか?」
 息の上がったアリアが祐子へ尋ねた。
「はい、お家ではいつものことです♪」
 笑顔で答える祐子。ややあって、男湯の方から裕介の慌てた声が聞こえてきた。
「ち……違うっ! 違いますっ!! そういうことは一切ないですから!!」
 それは必死に否定する裕介の声であった……。

●風呂上がりの楽しみ【4A】
 身体も洗い、湯舟にも浸かり、ほかほか状態で一同は上がってくる。湯舟にまだ残っているのは男湯では草間、女湯では冥月のみである。ちなみに祐子も幸せそうな顔で動くことなくぼーっと浸かっていたのだが、どうやらのぼせてしまったらしく、このちょっと前に他の者たちに抱きかかえられて強制的に出されてしまったのは非常に余談である。
「あーーーーーーーーーーーーーー」
 男湯では濡れた髪のまま扇風機を動かし、北斗が声を出して遊んでいた。回転する羽根に声が当たり、微妙な音になってこれがなかなか面白かったりする。
「北斗、風邪ひくぞ」
 そんな北斗へ冷ややかな視線を向け、しれっと言い放つ啓斗。一番先に上がったからか、もうすっかり服を着終わっていた。
「こういうの、皆あんまりやらねーのかね……」
 しょうがないといった様子で扇風機を止める北斗。そしてそのまま飲み物を取りに行く。
「俺フルーツ牛乳にしよっと。何にするー?」
 北斗が裕介と啓斗に飲み物の希望を尋ねた。
「珈琲牛乳で」
「牛乳だ、普通の」
「ほいほいっと。珈琲牛乳と……兄貴は普通に白いのか」
 ひょいひょいっと瓶を取り、裕介に珈琲牛乳を、啓斗へ牛乳を各々手渡した。
「身体中へ染み渡りますよね」
 珈琲牛乳を一口飲んで裕介が言った。それだけ風呂上がりの身体が水分を欲しているのだろう。
 そして裕介は何気なく北斗を見て驚いた。何ともうフルーツ牛乳の瓶が空になっていたのだ。
「……アイスは売ってないのか。帰りにコンビニ寄るかな」
 まだ欲しますか、北斗さん。
 啓斗はテレビを何気なく眺めながら、噛むように牛乳を飲んでいた。流れているのは夕方のニュース、ちょうど芸能情報のコーナーであった。
「……今回の新飲料のCMに選ばれたのは、石坂双葉さん16歳。モデルからタレントになった彼女ですが、この明るい笑顔が採用の決め手となったそうです。さらに、あの有名監督のドラマに出演が決定したとの情報もありまして……」
 一方女湯――やはり男湯同様、飲み物のチョイスが行われていた。
「ありあしゃん、どーぞでぇす♪」
 とことことアリアのそばへ行き、珈琲牛乳を差し出す八重。もう一方の手には自分の分の珈琲牛乳が握られていた。
「ありがとうございます」
 受け取りキャップを開けるアリア。するとぴょこぴょこ跳ねながら八重が言った。
「ありあしゃん! 乾杯するでぇす♪」
「あ、はい」
 身を屈め、アリアが八重と乾杯。瓶と瓶の軽くぶつかる音が聞こえた。
「腰に手を当てて飲むといいらしいでぇす」
「こ、こうですか?」
 空いている方の手を腰に当て、瓶を口元へ持ってゆくアリア。それを見ていた明日菜がくすくすと笑っていた。
「定番よね」
 と言ってビールをこくこく飲んでから、祐子の方へ振り向いた。すると祐子、のぼせてちとふらふらになりながらも、同じように腰に手をあててバナナオーレを飲んでいた。素直というか、何というか。
「シュラインさん、どうぞ」
 零が珈琲牛乳の瓶を両手に持ち、大きな鏡とにらめっこしていたシュラインの所へやってきた。
「ありがとう。悪いけれど、そこに置いておいてくれる?」
 シュラインはちょうど化粧水を顔につけていた最中であった。
「はい、ここに置いておきますね」
「……零ちゃんたちは問題ないわよね。私なんかだと、冬場特に必需品だから」
 鏡に映った零の顔を見てシュライン苦笑い。そしておもむろに零の頬を撫で撫でした。
「ほら、綺麗綺麗」
 なすがままにされる零。そんな零の頬はすべすべであった。
「ありあしゃん、楽しかったでぇすか?」
 満面の笑みで八重がアリアへ問いかける。大きく頷くアリア。
「はい、楽しかったです。共有する物を大切にするということも学べましたし」
「それはよかったのでぇす♪」
 女湯から大きな音が聞こえ、湯舟に水柱と水しぶきが上がったのはその時であった。何が起こったのか、それはあえて語らないことにしよう……。

【アリアと銭湯 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】
【 1098 / 田中・裕介(たなか・ゆうすけ)
         / 男 / 18 / 孤児院のお手伝い兼何でも屋 】
【 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)
     / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒 】
【 2922 / 隠岐・明日菜(おき・あすな)
                  / 女 / 26 / 何でも屋 】
【 3670 / 内藤・祐子(ないとう・ゆうこ)
                / 女 / 22 / 迷子の預言者 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全10場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここにアリアが銭湯初体験する模様をお届けいたします。色々とまた、アリアは学ぶことが出来たようです。ありがとうございます。
・前回や今回みたく『アリアと何とか』みたいなシリーズは、出来れば定期的にやってみたいですね。もしご希望などありましたら、ファンレターなどで記していただければと思います。
・シュライン・エマさん、105度目のご参加ありがとうございます。若旦那夫婦も元気で、あれから困ったこともないようです。そして飲み物は、前回同様に珈琲牛乳を。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。