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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Seven Colors −Mellow Yellow−



「すごく嫌な予感がする」
 草間・武彦はそう呟いた。
 雨のふりそうな空を見上げて。
 こんな天気のときは、そうきっとやつらが来る。
 虹を作る玉が落ちた、一緒に探せ。
「赤、橙……黄色か、黄色ものか……バナナでいいじゃねーか」
「お兄さんバナナが食べたいんですか? 自分で買ってきてください」
「は?」
「いってらっしゃい」
 草間・零に変に解釈をされて、武彦は興信所のドアから押し出される。
 ちょっとだけ、掃除をするのに俺が邪魔なだけじゃ、と思いつつもあたってそうで確認はできない。
 ばたん、と閉められた扉がなんとなく寂しい。
「……バナナじゃなくて煙草を買いにいこう……」
 ぽつりと自分が興信所から出かける理由を武彦はこじつけ、そして階段を降りる。
 そしてふと空を見上げた。
 それがいけなかった。
「ぶっ」
「ちゃーくーちー」
 べしょっと武彦の顔の上に、あの、あの人形が。
 べりっとそれをはがして武彦は掴んだものを確認する。
「うあーうーあー、あ? くさまさん? たーすーけーてー」
「やっぱりか……黄色か、黄色なのか」
「うん、こんかいはーやわらかなーきいろー」
 へらへらっと、人形は笑う。
 武彦はがくっと肩を落として興信所に向かう階段で座り込んだ。
「お前を手伝うやつは、これから来るやつだ」
 武彦、やる気ゼロ。



 武彦が階段で座り込むこと十数分後、最初に巻き込まれることになったのはシュライン・エマだ。
 座り込んでいた武彦と視線がばっちりと合う。
「あら、座り込んでどうしたの、武彦さん。て、言っても頭の上の子でなんとなく状況は読めるんだけど……」
「察しが良いな。バナナが食べたいと勘違いされて買いに行けと追い出されそこにこいつが来たんだ」
「なんとなくわかるようなわからないような。まぁ、いいわ。それより今回はどんな黄色かしら?」
「やわらかなきいろをさがしてますー」
 武彦の頭の上でぴょこん、と黄色に身を包んだシュラインにとってはお馴染みの人形が跳ねる。
「やわらかなきいろ、ねぇ……」
「もうバナナでいいじゃねーかと思う」
「バナナにこだわってるわね。そう思うなら探しに行ってみたら?」
 くすくすっとシュラインは笑いながら言った。
 と、そこへもう一人、来訪者は宝剣束だった。
「こんにちは、また何かあったんですか? って、ああ。なるほど」
「束さんも察しが良いみたいよ。こんかいはやわらかなきいろ、ですって」
「そうだ、今回も関われ」
「おねがいしますー」
 武彦の偉そうな言葉の跡に、黄係の人形がぺこっと頭を下げた。
 それはすごく、可愛らしい。
「うん、もちろん探すの手伝うよ」
 束はにこっと笑って答える。その笑顔に面々釣られて同じように笑んだ。
「さてと……それじゃあ私は外を探してみるわ。束さんはどうするの?」
「私は……やわらかなきいろのイメージがケーキのスポンジ、クレープとか……うっとり甘くてふんわりやわらかなお菓子で……うう、しばらく食べてないからそういうの食べたいって気持ちが働いてるのかもしれないけど」
 束は苦笑しながら言う。少し照れくさそうだった。
「その気持ち、わかるわ。じゃあ手分けしてやりましょうか」
「そうだね、まだ雨は降りそうに無いけど急ごう。私は……興信所の台所借りようかな」
「台所? 私はちょっと外を探してみるわね」
「たけひこ、ごー」
 のんびりとした声色なのだけれども、有無を言わさぬ強さで人形は言う。武彦はしぶしぶと立ち上がって人形の指差す方向に進みだした。
「ん、いってらっしゃい」
 束もシュラインもその様子に笑む。シュラインは武彦の後を追い、束は興信所の階段を上がっていった。



「やわらかやわらか……クリーム色……で。クリームぱん? バナナとか言ってたらお腹すいたのかしら」
「バナナをひっぱるな!」
 くすくすとシュラインは苦笑をする。武彦は少し居心地が悪そうな表情だ。
「ともあれ、思いついたもの探してみましょ」
「さがすー」
 武彦の頭の上、黄係の人形はあたりをきょろきょろと見回している。
 何か気になるものでもあるのかな、とその様子をみたシュラインは思う。
「どうかしたの?」
「んー、さがしてるのー」
「なるほど。そうね……小学生の黄色い帽子、とか……新品の一年生の帽子。たゆたゆと風に吹かれてたりしたら怪しいかもね」
 シュラインはそれを想像する。イメージに浮かんだのは本物じゃなくて写真だった。
「やわらかなと聞いたせいかしら。なんとなく動きが緩やかというか、柔らかく曲線的な動きをするイメージがあるのよね。それに前回のように途中で形を変えちゃうこともあるんだろうし……」
「なんだかめんどくさいモンだな」
「でも、楽しいわよ」
 と、視界の端にちょっと不振なものが映った。
 まだ昼間なのにちかちかとついたり消えたりする街頭の灯り。
 そこから視線が外せない。
「ねぇ、あれちょっと怪しくない?」
 シュラインは指を刺し、それを見た人形はぴょーんと武彦の頭の上で跳ねた。
「うん、たぶんあれー。はやくみつかってよかったのー」
「そうね、行きましょう武彦さん」
「そうだな、そして早く帰るぞ」
 武彦の足取りが少し軽くなっているのを感じシュラインは笑って言う。
「ええ、早く見つかったからお土産話は少ないけど、バナナやクリームパンお茶請けにして事務所でお話しましょ。掃除ももう終わってるだろうから、ね?」
「そうだな。ただ問題はひとつある。街頭まで手が届かない」
「あら、そういえばそうね」
 ちかちかと不振に明かりがついたり消えたり、やわらかな光を発するそれは確かに手を伸ばしたくらいでは届かない。
 ジャンプしても少し際どいくらいだ。
「だいじょうぶ、僕がとってくる」
 すくっと武彦の頭から人形は立ち上がるとふわん、と宙に浮き街頭へとゆっくり近づいた。
 と、彼が触れるか触れないか、ふっと街頭の灯りは消えて沈黙する。それと同時にゆらゆらとどこからともなく写真が一枚ゆらゆらふわふわと舞っていた。
「あれ、あーあっち、あっちになったー」
「え、これ?」
 ゆっくりとした速度でゆれるそれは簡単につかめそうなのだけれども中々そうはいかない。タイミングを見計らってシュラインは手を伸ばすが何度も掠めるだけだった。
「なかなか手強いわね……」
 じりじりと距離を詰め、そして勢い良く手を伸ばしてパシッと写真を掴み取る。
 知らずのうちにやった、と声が漏れ出ていた。
「やっと捕まえたわ。あら……綺麗な色」
 捕まえた写真。そこには黄色いものがたくさん映っていた。
 シュラインが思っていた小学生の黄色い帽子もあり、そしてクリームパンやバナナも写っている。
「ありがとー、わーい」
「よかったわね、それじゃあ興信所にかえ……」
 これで一段落と安心した瞬間、ぴゅうっと風が吹きシュラインの手からはらりと写真が飛ぶ。
 あっと思ったときにはそれはゆるゆるとまた空を飛んでいた。
「私としたことが……! 追いましょう!」
「走るのか、走るのか……!」
 シュラインと頭にまた人形を乗せた武彦は見失わないように後を追いかける。
 そしていつの間にか、また興信所の前へとたどり着いていた。
「どこにいったの? 気をつけていたのに……」
「なーどっちだ?」
「んーこっちー」
 武彦が尋ねると、人形はぴっととある方向を指す。それは興信所へと続く階段だった。
 駆け上がって興信所のドアを開けた途端、奥から叫び声が響く。
「な、なんでー!? ちゃんとセットしたのに!!」
「どうかしたんですか?」
「どうした!?」
 零が何事かとたたっと走り寄ると同時にそこには外に探しに出たはずのシュラインと武彦も現れる。
 そして束の手の上、取り出したものをみた。
「ケーキが出来てるはずが出来てない……うう、悲しい……その前におかしい……!」
「それー、それやわらかなきいろー」
 ぴょん、と武彦の頭から跳ね上がってべしゃっとケーキのタネの中へとダイブ。
 その瞬間にそれはほわっと暖かな光を発して姿を変える。
 まぶしさに目を一度閉じ、そして瞳を開けるとケーキの型の中、やわらかなきいろをもった黄係がちょこーんと立っていた。
 淡く柔らかく。
 ゆるゆると輝く黄色。
「綺麗……ってそれどころじゃない、私のケーキ……!」
「束さんの作ったケーキになってたのね」
「えへへ、ありがとー、これで今日も虹作れるよー」
 ほわっとそれを持ち、人形は浮かび上がる。そして窓の方へ手を振りながら後退していく。
「あ」
「あら」
「あうっ! いたいいたい……窓あけてー……それじゃねー」
 ゴン、とガラスに当たり、でもしっかりやわらかなきいろは手放さず。ちょろっと窓をあけて彼は空へと上がっていく。
 そんな姿を見送ると、空からぱたぱたと雨が降ってくる。
「今回もちゃんと見つかってよかったわね」
「そうですね、でもケーキ……」
 束はしゅーんとする。そんな様子をみてシュラインは微笑んだ。
「もう一度作りましょうか。手伝うわ」
「そうですね、そうします」
 シュラインと束は台所にもう一度入る。シュラインはやわらかなきいろ探しの話を束にし、束は零と掃除をしていたことを話していた。
 そして残された武彦はというと。
「兄さん、掃除もう少しなんです」
「……手伝えって言うのか」
「はい、外は雨が降ってるからバナナ買いに行くの、めんどくさいでしょう?」
「や、もうバナナはいい!」
 武彦の叫びは台所に響き、ちょうどそのあたりの話をしていたシュラインと束は顔を見合わせて笑んだ。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4878/宝剣・束/女性/20歳/大学生】
(整理番号順)

【NPC/草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
【NPC/草間・零/女性/--歳/草間興信所の探偵見習い】

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■         ライター通信          ■
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 ライターの志摩です。ご参加ありがとうございました!
 虹色三回目、黄でした。次は緑色です。『かわりのみどり』です。英語表記だろ『Alternative Green』です。また気になりましたら是非どうぞ〜!
 今回も頂いたプレイングを拝見し私も楽しく書かせていただきました。やわらかなきいろというイメージ色々あると思うのですがあったかくてとてもウフフでした。

 シュライン・エマさま

 赤橙に続き黄参加ありがとうございました!武彦さんとバナナで絡みつつ(バナナにこだわりますね)書かせて頂きました。また楽しんでいただけると幸いです。そしてシュラインさまらしさというものも少しずつ感じていただければ嬉しいです。
 では、またどこかでご縁が会ってお会いできれば嬉しいです!