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<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

「櫻・紫桜。15歳。高校生。性別・男」
 書類をそこまで読み上げて紺乃綺音は大きな溜息をついた。
「え、何。何か問題でもあった?」
 書類を覗きこむのは鎌形深紅。
「いや・・・どうせなら女が良かったな・・・と」
「は?」
「だってこいつ男の上に柔道・合気道・古武術やってんだってよ。護ってやる気が沸かねーんだけど・・・」
「あのねえ・・・綺音。仕事に私事を持ちこむのはどうかと思うよ・・・ってあれ?今の仕事と私事で洒落になってなかった?面白かったよね?」
「・・・お前こそ真面目に取り組め、馬鹿」
 書類をポケットに突っ込み、道の先を見つめる。一人の少年が歩いてくる所だった。
「さてと。仕事はきっちりこなしましょーか」


【命燃え尽きるまで〜櫻・紫桜〜】


「は?俺が死ぬ・・・ですか?それも今日」
 紫桜の問いかけに目の前の青年達は大きく頷いた。
 なんでも人間の生死を管理している「ナイトメア」とやらにある「死亡予定リスト」に紫桜の名前が載ってしまったというのだ。
 ・・・手違いで。
「それはまた・・・随分と急な話ですね」
「世の中、急に死んじまう人間の方が多い気もするけどな」
「確かに」
 綺音の言葉には苦笑して同意する。できることなら安らかに死んでいきたいものだが、人の死というのは大抵突然やってくるものだ。
「僕達、君を助けにきたんだ。紫桜君はどうしたい?」
「・・・そうですね。もう少し生きていたいので、ギリギリまで生き残る方法を考えたいな。・・・手違いなら余計に」
 手違いという言葉を敢えて強調してみた。もちろんちょっとした嫌味だ。綺音の方はすぐに頬を引き攣らせたが、深紅の方は含みにさっぱり気付かないようで変わらずにこにこしている。
「おい、深紅。こいつちょっと性格悪そうだぞ」
「え、何で?礼儀正しくていい人じゃん。ねえ紫桜くん?」
「ええ」
「自分で頷くなよ・・・」
「僕達、頑張って君を護るからさ。大船に乗ったつもりでいてよ!」
「お前の船は確実に沈みかけだからな・・・」
 綺音と深紅。
 随分とでこぼこで騒がしい二人である。
 彼ら、生命の調律師は世に言う「死神」と似たような役目を担っているらしいが、とてもそのようには見えなかった。
 ちなみに深紅が純粋な調律師であり、綺音は助手らしい。これも意外といえば意外だ。
「それで深紅さん。死因はわかっているんですか?」
「ええっと・・・何だっけ、綺音?」
「お前なあ・・・しっかり把握しとけ、ボケ!」
「痛っ!」
 いや・・・意外過ぎる。
「事故死だよ。よくあるパターンだな」
「事故死・・・ですか。なかなか防ぐのが難しい死因ですね」
 事故といっても色々ある。何も交通事故だけ・・・というわけではないだろう。
「とりあえず車の多い場所は避けるのが無難だな」
「ですね」
「人とか建物が多い所も避けたいよね」
「ええ」
 と、なると・・・・・・


 避難場所に選んだのは河原の土手だった。ここなら人通りも疎らだし、周りに大きな建物もない。自転車は通るが車が通ることはない。
 のんびり川でも眺めて一日過ごせば何とかなるんじゃないかというのが深紅の言い分だった。
 まあ、無闇に動くよりも1箇所に留まっていた方が確かに安全だろう。
 深紅にしてはなかなか良い選択だ。
「お前も日々成長してるってことなんだな・・・」
「え?何か言った?」
「別に」
 深紅から視線を外し、紫桜の方を見た。彼は草の上に座り、川を見つめながらぽつりと呟く。
「それにしても・・・手違いで死ぬなんてとんでもない死に方ですよね」
「あー・・・それはまったく・・・。上の奴らも何してんだかな」
「まあ、自分はろくな死に方しないんだろうな・・・とは思ってたんですけど」
「あ?」
 思わず顔をしかめていた。
「ちょっと物騒なもの持ってるんですよ。そういう人って大抵ろくな死に方しないでしょう?」
 そう言って「はは」と笑う姿に何だかカチンときた。
「何だよ、それ。そうやって諦めるわけか?」
「まさか」
 すぐに否定の言葉が返ってきて、今度は少し拍子抜けする。
「俺、何としてでも生き延びてやりますよ。寿命ならともかく手違いで殺されるなんて冗談じゃない。俺はそこまで諦めの良い人間じゃないので」
 紫桜の瞳は真っ直ぐで、はっきりとした意志の強さが感じられた。
「・・・お前、いい性格してんな」
「そうですか?」
「そういう奴は長生きするよ」
「今日死ななければ・・・でしょう?」
「ま。そういうことだ」
 顔を見合わせ、何となく苦笑しあっていると間に深紅が入ってきた。
「何?二人とも何時の間に仲良くなったの?」
「別に仲良かねーよ」
「俺は仲良くしたいんですけどね」
「はあ?」
 何を言い出すこの男は。
「こんな出逢い、なかなかないですから。大切にしたいとは思っていますよ」
「・・・」
 言葉を返せない。
 何だか不思議な雰囲気を持っていた。この紫桜という少年は。
 と・・・
「・・・・・・あ」
「どうした?」
 紫桜が急に僅かに腰を浮かせたので、綺音も体を強張らせた。
「女の子が・・・」
「え?」
 川の方に目をやる。まだ5歳に満たないくらいの女の子が川の水に飲みこまれようとしていた。
「大変だ・・・!」
 走り出そうとする紫桜の腕を掴み、引き止めた。
「何故止めるんですかっ」
「あの子、死亡リストに名前が載ってる子なんだよ」
「え?」
 深紅の言葉に綺音も続ける。
「死亡リストは絶対だ。基本的に例外は許されない。あの子を助けたらお前が死ぬことになるかもしれないんだよ」
「俺は事故で死ぬんでしょう?」
「水難事故ってのもありうる」
「でもそうじゃないかもしれない。それなら俺は死なないんじゃないですか?」
「それはそうかもしれないけどな・・・っ」
 そんなのは一か八かの賭けだ。書類に記されていた死因は「事故死」とだけ。何で死ぬかは神のみぞ知る。
 それに、本来死ぬはずの女の子を助けたりするのは大問題だ。何かしら影響が出るというのは目に見えていて・・・
「・・・離してください」
「紫桜っ」
「死亡リストがなんだっていうんだ!救える命を放っておくくらいなら、死んだ方がマシだ!」
「っ」
 手を・・・離していた。
 紫桜が土手をかけおり、川に飛び込む。
 彼が女の子を川岸に運ぶまで、綺音は事の成り行きを呆然と見つめているしかなかった。


「死ななかったじゃないですか」
 夕焼けが街を包み込み、もうすぐ夜が来る。女の子は無事に母親に引き取られた。怪我などはなかったようだ。
 綺音が大きな溜息をつく。
「お前・・・もう大丈夫だよ。何かもう殺しても死なない感じ・・・」
「それはどうも」
「あーもう、どーすんだよ。あの子死ぬ予定だったんだぜ?帰ったら絶対絞られるじゃねーか・・・!始末書じゃすまないぞ、まったく・・・」
 ぶつぶつ文句を言い続ける綺音だったが・・・
「でも、助かって良かったでしょう?」
「・・・・・・」
 彼は複雑そうに顔を歪め本当に小さな声で「まあな」と呟いた。誤魔化す様に大きく伸びをする。
「さーて、帰るぞ、深紅」
「あれ?もう大丈夫なの?」
「死亡予定時刻は今日の正午から午後18時まで。もう過ぎただろ。俺らの仕事は終わりだよ」
 腕を下ろした綺音は紫桜の方を振り返り、言い放った。
「大口叩いたんだ。きちんと寿命を全うしろよ」
「努力はしてみましょう?」
「おう」


 そう、この命の炎が燃え尽きるまで


fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【5453/櫻・紫桜(さくら・しおう)/男性/15/高校生】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターのひろちです。
今回は発注ありがとうございました!
お届けするのがかなり遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした・・・!!

調律師の綺音との絡みを中心に書かせて頂きました。
文句を言いながらも綺音は紫桜さんみたいなタイプの人間は結構好きなようです。
ちょっとイレギュラーな出来事を起こしてみたのですが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

本当にありがとうございました!
また機会がありましたらよろしくお願いします。