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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Seven Colors −Mellow Yellow−



「すごく嫌な予感がする」
 草間・武彦はそう呟いた。
 雨のふりそうな空を見上げて。
 こんな天気のときは、そうきっとやつらが来る。
 虹を作る玉が落ちた、一緒に探せ。
「赤、橙……黄色か、黄色ものか……バナナでいいじゃねーか」
「お兄さんバナナが食べたいんですか? 自分で買ってきてください」
「は?」
「いってらっしゃい」
 草間・零に変に解釈をされて、武彦は興信所のドアから押し出される。
 ちょっとだけ、掃除をするのに俺が邪魔なだけじゃ、と思いつつもあたってそうで確認はできない。
 ばたん、と閉められた扉がなんとなく寂しい。
「……バナナじゃなくて煙草を買いにいこう……」
 ぽつりと自分が興信所から出かける理由を武彦はこじつけ、そして階段を降りる。
 そしてふと空を見上げた。
 それがいけなかった。
「ぶっ」
「ちゃーくーちー」
 べしょっと武彦の顔の上に、あの、あの人形が。
 べりっとそれをはがして武彦は掴んだものを確認する。
「うあーうーあー、あ? くさまさん? たーすーけーてー」
「やっぱりか……黄色か、黄色なのか」
「うん、こんかいはーやわらかなーきいろー」
 へらへらっと、人形は笑う。
 武彦はがくっと肩を落として興信所に向かう階段で座り込んだ。
「お前を手伝うやつは、これから来るやつだ」
 武彦、やる気ゼロ。



「あれ、あそこにいるのって……」
 興信所の階段で座り込んでいる武彦の姿、そしてそこで何事か話しているシュライン・エマの姿を宝剣束は視界に映し、また何かあったのかなと思う。
 歩く速度は好奇心から少しずつ、速まってゆく。
「こんにちは、また何かあったんですか? って、ああ。なるほど」
「束さんも察しが良いみたいよ。こんかいはやわらかなきいろ、ですって」
「そうだ、今回も関われ」
「おねがいしますー」
 武彦の偉そうな言葉の跡に、黄係の人形がぺこっと頭を下げた。
 それはすごく、可愛らしい。
「うん、もちろん探すの手伝うよ」
 束はにこっと笑って答える。その笑顔に面々釣られて同じように笑んだ。
「さてと……それじゃあ私は外を探してみるわ。束さんはどうするの?」
「私は……やわらかなきいろのイメージがケーキのスポンジ、クレープとか……うっとり甘くてふんわりやわらかなお菓子で……うう、しばらく食べてないからそういうの食べたいって気持ちが働いてるのかもしれないけど」
 束は苦笑しながら言う。少し照れくさそうだった。
「その気持ち、わかるわ。じゃあ手分けしてやりましょうか」
「そうだね、まだ雨は降りそうに無いけど急ごう。私は……興信所の台所借りようかな」
「台所? 私はちょっと外を探してみるわね」
「たけひこ、ごー」
 のんびりとした声色なのだけれども、有無を言わさぬ強さで人形は言う。武彦はしぶしぶと立ち上がって人形の指差す方向に進みだした。
「ん、いってらっしゃい」
 束もシュラインもその様子に笑む。シュラインは武彦の後を追い、束は興信所の階段を上がっていった。



 興信所の扉を押し開くとそこでは掃除をする草間・零の姿。視線がはたとあった。
「こんにちは、ちょっと台所借りて良いかな?」
「ええ、どうぞ。何か作るんですか?」
 束はありがとう、と零に笑いかけ足取り軽く台所へと向かう。
 久しく食べていないケーキなどなど。
 食べたい、という気持ちがどこかにあってやわらかなきいろ、からこんな連想をさせているんだろう。やわらかなきいろがどんなものか考えているうちに食べたい気持ちは膨らみ、作ろうと考えたのだ。
「材料とか、勝手に使ってもいい? 作ったものはもちろん、お裾分けするよ」
 くるっと身体を半分ほど零に向けて束は言った。何でも好きに使ってくださいと零は言い、そして掃除を再開していた。
「よーし、張り切って作ろう、うん。まずは冷蔵庫の物色からだな」
 興信所の冷蔵庫を開けてしゃがみこむ。
 卵に牛乳、他にも使えそうなものは多々そこにあった。
「お、皆が色々持ってくるからかなー。あとは……小麦粉か」
 冷蔵庫の戸をぱたりと閉めた束の腕には材料がしっかりとある。小麦粉もきっとその辺にあるだろう、と思って探してみるとしっかりとあった。それらを並べて服の袖をまくる。
 この並んだ材料からできるものは、と考えをめぐらす。色々と作って食べたいが一応、やわらかなきいろ探しを忘れてはいない。
「蒸しケーキにしよう。黄色くて、ほわほわだしね」
 ぴっとまず最初に電子レンジを暖める。そして束は手際よく材料を合わせ蒸しケーキのタネを作っていく。中々良い出来に束は満足する。
「あとは、型……あったあった」
 少しばかり奥の方、あまり使われていないケーキの型を束はみつけ、そして洗う。水滴を取り、バターを塗って粉を少し振り、出来たときに外しやすくなるようにする。そこにタネをゆっくり流し込み、そして空気を抜く。と、同時にレンジが温まった事を知らせる音が鳴った。
「良いタイミングだ。お水張って……」
 天板に水をはり、そしてそこに型に入ったタネを置いてそのままレンジへ。時間を入力しレンジの扉を閉める。あとはしばし待つだけだ。
 レンジの前で腕を組んで仁王立ち、でずっと待っているわけにも行かない。
 ふっと視線をめぐらすとまだ掃除をせっせとしている零の姿。
「私も手伝おうか?」
「え、いいんですか?」
「うん、まだ出来上がるのに時間あるし……ぼーっとしてるのはもったいないから」
「そうですか、じゃあお願いします」
 零はにっこり、嬉しそうに笑ってそう言い、そして束に掃除道具を渡した。
 束はそれを受け取りせっせと掃除を開始する。
「綺麗になっていくって気持ちよくて良いね」
「はい」
 二人は他愛のない話をしながら掃除に励んでいた。
 と、レンジがチーンと出来上がりの音を鳴らす。
「あ、出来たみたい。楽しみ。ちょっと良い匂いもするし」
 束は掃除の手を止めてレンジの方へと歩む。
 そしてレンジを開けるとそこにはできあがった蒸しケーキがあるはず、だった。
「な、なんでー!? ちゃんとセットしたのに!!」
「どうかしたんですか?」
「どうした!?」
 零が何事かとたたっと走り寄ると同時にそこには外に探しに出たはずのシュラインと武彦も現れる。
 そして束の手の上、取り出したものをみた。
「ケーキが出来てるはずが出来てない……うう、悲しい……その前におかしい……!」
「それー、それやわらかなきいろー」
 ぴょん、と武彦の頭から跳ね上がってべしゃっとケーキのタネの中へとダイブ。
 その瞬間にそれはほわっと暖かな光を発して姿を変える。
 まぶしさに目を一度閉じ、そして瞳を開けるとケーキの型の中、やわらかなきいろをもった黄係がちょこーんと立っていた。
 淡く柔らかく。
 ゆるゆると輝く黄色。
「綺麗……ってそれどころじゃない、私のケーキ……!」
「束さんの作ったケーキになってたのね」
「えへへ、ありがとー、これで今日も虹作れるよー」
 ほわっとそれを持ち、人形は浮かび上がる。そして窓の方へ手を振りながら後退していく。
「あ」
「あら」
「あうっ! いたいいたい……窓あけてー……それじゃねー」
 ゴン、とガラスに当たり、でもしっかりやわらかなきいろは手放さず。ちょろっと窓をあけて彼は空へと上がっていく。
 そんな姿を見送ると、空からぱたぱたと雨が降ってくる。
「今回もちゃんと見つかってよかったわね」
「そうですね、でもケーキ……」
 束はしゅーんとする。そんな様子をみてシュラインは微笑んだ。
「もう一度作りましょうか。手伝うわ」
「そうですね、そうします」
 シュラインと束は台所にもう一度入る。シュラインはやわらかなきいろ探しの話を束にし、束は零と掃除をしていたことを話していた。
 そして残された武彦はというと。
「兄さん、掃除もう少しなんです」
「……手伝えって言うのか」
「はい、外は雨が降ってるからバナナ買いに行くの、めんどくさいでしょう?」
「や、もうバナナはいい!」
 武彦の叫びは台所に響き、ちょうどそのあたりの話をしていたシュラインと束は顔を見合わせて笑んだ。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4878/宝剣・束/女性/20歳/大学生】
(整理番号順)

【NPC/草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
【NPC/草間・零/女性/--歳/草間興信所の探偵見習い】

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■         ライター通信          ■
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 ライターの志摩です。ご参加ありがとうございました!
 虹色三回目、黄でした。次は緑色です。『かわりのみどり』です。英語表記だろ『Alternative Green』です。また気になりましたら是非どうぞ〜!
 今回も頂いたプレイングを拝見し私も楽しく書かせていただきました。やわらかなきいろというイメージ色々あると思うのですがあったかくてとてもウフフでした。

 宝剣・束さま

 橙に続き黄参加ありがとうございました!ほわほわケーキ作りで束さまの素敵女の子な一面を見れ、私自身も嬉しかったです。ケーキはこのあとしっかり作られ、そしておいしく頂かれたことと思います。このノベルで楽しんでいただければ幸いです。
 では、またどこかでご縁が会ってお会いできれば嬉しいです!