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<東京怪談・PCゲームノベル>


ALICE〜失くしものを探しに〜

 気付いたら見知らぬ森の中にいた。
 先程までめるへん堂で曰くつきの本を店長である栞に見せて貰っていたはずなのだが。
 アンティークショップ・レンに並べようと買い付けに来ていたのだ。
 そういえば。
 ある本を手に取った時、栞が何かを言っていたような気がする。その直後に意識が途絶えて・・・・・・
 ――一体なんと言われたのでしたかしら・・・?
 あれは確か・・・

『あ・・・その本は・・・。って、もう手遅れですね。吸いこまれますよ』

 吸いこまれる?
「え?」
 と、いうことは、ここは―――


【石像の国のアリス〜鹿沼・デルフェス〜】


 結論。
 ここは本の中のようである。最後に手に取った本は確か「不思議の国のアリス」。つまりここは不思議の国というわけで・・・
「・・・困りましたわね・・・」
 どうすればいいのだろうか。
 じっとしていても仕方が無いのでデルフェスはとりあえず歩いてみることにした。
「あら・・・?」
 道の途中、女性の石像を見つける。それも一体ではなく何体も。
 不思議の国のアリスにこれほど女性の石像など登場しただろうか?
「これは・・・ちょっとおかしいですわね・・・」
 首を捻っていると・・・
「ああああああ!また増えてる〜っ」
 高めの少女の声がした。視線を向けると15歳程の活発そうな少女が石像の前で頭を抱えている。
「あの・・・」
「え?」
 声をかけてみる。少女はすぐにこちらに気付き、目を輝かせた。
「良かった!無事な人がいた!」
「無事・・・?」
 どういうことなのか尋ねてみると、少女は複雑そうな表情で事情を説明してくれた。
 何でもハートの女王が自分より美しい女性を不思議な術で石化して見せしめに飾り、悦に浸っているのだという。
「あの、女王様。プライド高いからね・・・。でもあの人、あんな変な術使えなかったはずなんだけど・・・」
「それは・・・多分、わたくしの換石の術ですわ・・・」
 試しに術をかけようとしてみたが、使えない。
「君の・・・って・・・もしかして君、外の人?」
「ええ」
「そっかあ・・・。やられちゃったか・・・」
「と、いいますと?」
「女王様にその術の力、盗まれちゃったんだよ。不思議の国の住人って珍しいものが大好きだから、外の人が紛れこむと必ず誰かが何かを盗んでいくんだ」
「なるほど・・・」
 それでこんな状況になってしまった・・・というわけか。
「あの・・・あなた、お名前は?」
「え、あたし?あたしは白うさぎだよ」
「わたくし、鹿沼・デルフェスと申します。白うさぎ様、女王様の所へ案内して頂けますか?換石の術はこのようなことに使って良いものではありません。早く取り返さなくては」
 デルフェスの申し出に、白うさぎはすぐに頷いてくれた。
「了解。あたしもこれにはちょっと困ってたんだ。協力するよ」

 女王の城の前には森よりも更に多くの女性の石像が飾られていた。
「これはまた・・・悪趣味ですわね・・・」
「ほんと、こんなことして何が楽しいんだか」
 城の前の門番に白うさぎが声をかける。意外にも門番は簡単に中に通してくれた。門番も今のこの状況をあまり好ましく思っていないのかもしれない。
「私に何か用かしら?」
 門をくぐるとすぐに女王が姿を現す。すらりと背が高く、どこか攻撃的な目をした女性だった。
「すぐにその換石の術を返して頂けませんか?このようなことをしても何の意味もありませんわ」
「何をしようと私の勝手でしょう?」
「それは貴方のものではありません。わたくしのものです」
「あなたみたいな小娘がこんな力を持っていて何をするというの?」
 ・・・小娘ではないのだが。
 少なくともこの女王よりは生きているはずである。まあ、言っても信じては貰えないと思うので言わないことにしたが。
「貴方みたいに己の私欲を満たしたり、誰かを悲しませるようなことには使いませんわ。力を持つ者は、その力を良い方向に使う義務があります」
「・・・綺麗事ね」
 鼻で笑う女王。
「あー、もうっ!聞く耳なし!?」
 白うさぎが喚いた。
「そういえば・・・あなたもかなりの美人ね」
「まあ・・・それはどうもありがとうございます」
 女王の突然の褒め言葉にデルフェスは思わずおっとりと応えてしまう。
「ちょっとデルフェス!何呑気に礼なんて言ってんの!遠回しにあんたも石像にしてやるーって言ってんだよ、女王様は!」
「あら・・・そうなんですか?」
「しっかりしてそうで意外に天然なんだね・・・君・・・」
 白うさぎが溜息をつく。彼女の言うように女王は今まさにデルフェスに向けて術を使おうとしている所だった。
「あなたも石化してしまいなさい!」
「あーもうっ!」
 白うさぎの声。
 気付いた時には・・・・・・
 白うさぎの石像が目の前にあった。デルフェスを庇ったのだ。
「白うさぎ様・・・っ」
「あら、間違えちゃったわ」
「・・・」
 デルフェスは女王を睨みつける。
「彼女は何の関係もないはずですわ。すぐに石化を解きなさい」
「嫌よ。そんなに戻して欲しいなら私と勝負しなさい。貴方が勝ったらそこのうさぎも、他の女も元に戻してもいいわ」
「その言葉に・・・嘘はありませんね?」
「武道に関しては正々堂々がモットーなの」
 女王の瞳に揺らぎは無い。どうやら本当のようだ。
「わかりました。勝負致しましょう」
 女王が腰に刺した剣を構える。こちらに向けてもう一本の剣を投げてきた。
「あなたも構えなさい」
「・・・」
 剣を取り、女王を真似て構える。正直、武道の心得など皆無に等しい。
 ただ、勝つ自信は充分にあった。
「いざ!」
 女王が叫ぶ。これが合図。
 女王の動きは速く、とても目で追いきれなかった。一瞬で、こちらに接近してくる。
 剣の刃がデルフェスの腰に当たり・・・
「え?」
 そのままぴたりと止まった。
 デルフェスの体は鉄より硬いミスリルゴーレムでできているのだ。剣で切れるわけが無い。
 怯んだ女王の頬に、デルフェスは思いきり平手打ちを食らわせていた。
「な・・・っ」
「わたくしの勝ち・・・ということでよろしいかしら?」
 にっこりと笑ってみせる。
 女王は目を瞬かせ・・・力が抜けたようにその場に崩れ落ちてしまった。


「ええ!?嘘!勝ったの?あの女王に!?」
 石化が解けるなり、白うさぎは心底驚いたような声をあげた。
「ええ」
「へえー!デルフェスって見かけに寄らず強いんだあ」
「白うさぎ様にもお見せしたかったですわ。わたくしの勇姿」
 胸を張ってみせると、白うさぎはよりいっそう大きな声で「すごーい」とデルフェスを称賛する。
 反則ギリギリな方法で勝っているので、少しばかり良心が痛みはしたが。
 無事に換石の術を取り戻したデルフェスは全ての女性の石化を元に戻した。
「うん。これで一件落着だね」
「あの・・・白うさぎ様。先程はありがとうございました」
「え?」
「わたくしのこと、庇ってくださったでしょう?」
 デルフェスの言葉に白うさぎは「ああ」と頷く。
「あれは体が勝手に動いたっていうか・・・。結局デルフェスに助けられたんだから、格好悪いよね」
「いいえ、格好良かったですわ」
「へ?」
「格好良かったです」
 もう一度繰り返すと、白うさぎは照れ臭そうに笑った。



 めるへん堂にはあっさりと戻ってくることができた。
「なかなか興味深い体験をして参りましたわ」
「そうですか。それは良かったです」
 本を棚に戻しながら、栞が応える。
「あの・・・その本、是非うちのお店に並べたいのですが」
「それはちょっと無理ですね」
「何故ですの?」
 デルフェスが尋ねると、栞はいたずらっぽい笑みを浮かべ・・・
「こんな面白い本、そう簡単に手放せると思います?」
「・・・・・・確かに」
 納得してしまった。
「でもわたくし、諦めませんわ」
「え?」
「栞様が折れるまで、しつこく通いつめます」
「それはまた・・・お手柔らかにお願いしますよ」


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女性/463/アンティークショップ・レンの店員】

NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターのひろちという者です。
発注ありがとうございました。
納品遅の大幅遅延、申し訳ありませんでした・・・っ

デルフェスさんのおっとりした雰囲気に癒されつつ・・・
大変楽しく書かせて頂きました。
栞とは本を巡って一悶着ありそうな感じですね。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

今回は本当にありがとうございました!
また機会がありましたらよろしくお願いします!