コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で…… +



■■■■



「ねえ、次の日記は誰の番?」
「次の日記は誰の番だー?」
「僕じゃないよ〜? いよかんさんでしょ?」
「んー、ぼくー……!」


 三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。


 ちなみに本日はいよかんさんの番らしい。
 しゅびん! っと背中らしき場所からノートとペンを取り出す。身体より横幅の大きい其れが今まで何処に隠れていたのか気になるところ。彼? はよいしょっとノートを開く。ばふんっと倒れたノートによって起きた風がいよかんさんの顔を撫でた。
 彼? は皆の方を見る。それから大きな声で読み出した。


「四月五日、ちょっとくもりー、きょうはー……」



■■■■



「暇だ」


 俺、門屋将太郎(かどや しょうたろう)はそう漏らす。
 個人運営で『門屋心理相談所』と言う診療所を開いている自分は、その一室にてふぅっとため息を吐いた。イスの背凭れに体重を乗せ、ぐーっと背を伸ばす。反り返った後左右に捻ると、ごきっと骨が鳴った。
 ぼんやりと外を見遣ると其処には歩道を歩く人々の話し声やそして道路を通り抜けていく車の雑然とした物音が聞こえてくる。
 自慢じゃないが診療所に来る人は少なく、俺は良く暇を持て余していた。今日もそう。


「今日も暇だぁ〜。外はあんなに賑わってるのに、どうしてここは閑古鳥なん……」


 ぴーんぽーんっ。


「チャイムだ。相談者かも!」


 不意に鳴ったチャイムによって言葉を切られる。
 跳ねるようにイスから立ち上がった俺はそのまま勢い良くダッシュした。それから扉の方に手を掛け、素早く開く。
 だが、其処には誰も居なかった。
 念のためきょろきょろと左右を見渡すが、それでも誰もいない。


「誰もいない。ピンポンダッシュかよ!」
「……っく、ひ……ぅ、っく」
「あームカツク! こっちは真剣だっつーのにっ……!」
「う、ぁあ……ぁん! むししなーでぇええ!!」
「え? どっから聞こえるんだ、この泣き声」
「ぁああんん! あーんん!!」


 ぐいぐいぐい。
 なにやらズボンが引っ張られるので下方を見遣る。すると其処には……。


「な、なんなんだ、お前」
「ぁあああんん!! ぼくいよかんさんー! 『さん』までがおなまえなのぉおお!」
「そうかそうか、『いよかんさん』って言うのか。変わった名前だな」


―――― 外見も変わっているけど。


 ぽそぉり。
 心の中でそう呟く。すんっと息を吸えば柑橘類特有のフルーティな香りがした。名前から察するに蜜柑ではなく伊予柑なのだろう。ただし、普通のサイズではない。伊予柑を縦ににょいーんっと引き伸ばしたように細長かった。
 あーんあーんっと針金のように細い目からは小粒の涙が零れる。其れらはぽたぽた零れ、床に染みを作った。ひっくひっくと泣く様子は何処か子供の様。俺はしゃがみ込んでから相手の頭を撫でてあやしてみた。


「で、何の相談だ?」
「ふ、ふぇっく。え、えとえと、まよったぁー……!!」
「何? 迷子になった? んなことは交番に行け」
「こーばんしらなぁいいい!」
「……分かった。俺が交番まで連れてってやるから」
「ほんとぉー?」
「本当本当。さてっと、流石に閉めなきゃまずいよな……」


 ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで診療所の扉を閉める。
 もちろん「本日臨時休業」と書いた紙を張り出すのも忘れない。休憩中の方が良いかもしれないが、いよかんさんの迷子具合によっては時間が掛かるかもしれないのでこれで良しとする。
 鍵閉めを終えた俺はいよかんさんに手を伸ばし、その針金のような手を掴む。子供は良く親の手などを繋いで離れないように歩く。だから俺も、と思ったのだが……。


「うわぁああんん! いたいいたいぃ、うでぬけるぅう……!!」
「わ、悪い悪いっ。身長差が有りすぎたな」


 ぷらーんっとぶら下がってしまったいよかんさん。
 そんな彼? を慌てて抱き上げると、「ばかばかぁあ!」とぽかぽかぱんちを繰り出されてしまった。



■■■■



「ほれ、交番に着いたぞ」
「こーばんー! あッ! おーい!」
「ん? どうした? お前、誰に手を振ってるんだよ」


 一番近くの派出所に着くと、何故かいよかんさんが手をぶんぶんと振る。
 誰か知り合いでもみつけたのかと彼? の視線の先を見遣れば、其処には自分も出逢ったことがある二人組が居た。短く切られた黒髪、黒と蒼のオッドアイを持つ双子のように瓜二つの少年二人。彼らは俺達にはまだ気が付いていないらしいので、俺は少しだけ叫ぶように声を掛けた。


「お、スガタにカガミじゃないか。誰か探しているのか?」
「いよかんさん、見つけたー!!」
「いよかん、見っけー!!」
「ん? お前らが探してるのって、このいよかんさん?」
「「その通り!!」」


 二人が声を揃えて答える。
 いよかんさんは俺の腕の中からぴょんっと地面に降り立ち、そのままスガタの方に駆け寄っていった。
 ちたちたちた。
 だっだっだ。
 駆け寄りあう二人の間には何故か色とりどりの花が咲き乱れ、辺りがピンク色に染まる。どうなってんだ?! と目を瞬かせていると、一人と一匹はひしっと抱き合って感動の再会を果たした。


「有難うな、将太郎。いよかん保護してくれてて」
「いや、別に俺は大したことはしてないんだが……」
「スガタがいよかんの姿が見えない見えないって煩くってさー。いやー、本当に見つかって助かった」


 両腕を組み、しみじみと頷きながらカガミは俺の方に寄って来る。自分はと言うと「はぁ……」という少々間抜けな声を出してしまった。
 目の前では『二人のためだけに世界はあるの!』的なシチュエーションを作り上げているいよかんさんとスガタ。本当に心から再会を喜んでいるようなので、俺もほっと胸を撫で下ろす。クライエントではなかったが、困っている人……じゃなく果物ではあった。問題を解決出来たのならばいい事だと思う。


 ふと、いよかんさんは俺の方を向く。
 それからスガタの手をすり抜け、ちたちたと走ってきた。彼? は手をそろえてお辞儀をすると、丁寧にお礼を言う。


「こーばんつれてきてくれて……ありがとー、ねー?」
「お迎えが来てよかったな、いよかんさん。もう迷子になるなよ」
「なりたくてなったんじゃない……もーん」
「はっは、そう膨れるなって。そだ、悩み事があるんだったら、俺が相談に乗ってやるよ」
「おなやみぃー?」
「そう、悩み。まあ何は兎も角気をつけて帰れよ。お前らもな」


 スガタとカガミの方にもにっこりと微笑んで忠告してやる。
 彼らは一度肩を竦めると、互いを見遣った。二人はいよかんさんを挟むように立つと、そのまま彼? の手を掴む。そして同時に持ち上げてやると、いよかんさんはぷらーんっとぶら下がった。俺みたいに片方に負担が掛かるわけではないので特に痛そうにはしていない。むしろ楽しそうだ。


「じゃあ、またあえたらあそんでねー……」
「おう、今度は迷子にならないように来いよ」
「はぁーい」


 軽快に返事をするいよかんさん。
 彼? は二人に吊られながら帰路に着く。その様子が何となくかの有名な宇宙人の写真に似ていて、俺ははくっくっと笑った。



■■■■



「そんなこんなでかえってきましたぁー」


 いよかんさんはふぅーっと長い息を吐いてノートから顔を持ち上げる。
 他の三人はふむふむと頷きながら目の前の和菓子を手に取った。スガタは茶碗にこぽぽっとお茶を注ぐ。湯気が立った其処には一本茶柱が立っていたので、縁起が良いねーと皆で小さな幸せを噛み締めた。


「いやはや、いよかんさんって本当迷子になりやすいよねぇー」
「何であそこまで迷うかな。毎回何とか帰ってきてるから良いけどよ」
「僕達と出会ったのも迷ってたからだもんね。ねー、いよかんさんっ」
「ねー」


 スガタといよかんさんがぴっと指を突付き合わせる。
 無駄に暑苦しいカップル……略して無駄ップルに対して残り二人はやれやれと首を左右に振った。
 これにて本日の日記発表は終了。
 最後に、いよかんさんがゆっくりとノートを閉めた。



……ぱたむ★





□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1522 / 門屋・将太郎 (かどや・しょうたろう) / 男 / 28歳 / 臨床心理士】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、こちらへの発注有難う御座いますv
 いつもうちの子達が本当にお世話になっております! はてさて、いよかんさんとの手繋ぎは身長差が御座いますので、抱っこに変えさせていただきましたがこれはこれでらぶりーではないかと(笑)