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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


◆ 深い闇の底から ◆




◆ ◇


   どれだけ叫んでも、決して届く事は無い
   どんなに声を限りに叫んでも
   どれほど、必死に足掻いても・・・


   そんな事は知っている
   それなのに・・・


    未だに助けを叫び続けているのは



     何でだろう・・・・・・・・・


◇ ◆


 それほど冷たくない風を受けながら、月浦 壊璃は校庭を突っ切って歩いていた。
 砂埃が微かに立ち上り、視界を曇らせる。
 それに対して目を薄めながら、そっと・・・青く澄んだ空を見上げた。
 高い空にかかる雲は透き通るような白で、何処に行くとも知れずに風に流されては徐々に形を変えて行く。
 変化する雲の形は、ずっと見ていても飽きないほどで―――
 しばらくそうしていた後で、壊璃は視線を下げた。
 下を向けば、茶色い砂についた誰かの靴跡。
 スパイクの靴底だろうか?
 靴跡には、いくつもの小さな穴が開いていた。
 ・・・再び視線を上げようとした、その時だった。
 ふっと、風に乗って微かな声が流れて来た。
 風の方向を見れば体育倉庫で・・・そんなところで“用事”のある生徒なんて、体育教師のお手伝いを頼まれた生徒か、もしくは・・・
 チラリと見れば、大人しそうな男子が悪そーな奴らに絡まれている。
 ツカツカと歩んで行くと、溜息混じりに
 「・・・俺って、タイミングがいーのか悪いのか。」
 そう言うと、絡まれている男子生徒の顔を覗き込んだ。
 怖かったのだろうか・・・薄っすらと涙を浮かべた顔から視線を逸らす。
 「・・・んでさー、アンタら何してんの?」
 絡んでいる数人の男子生徒にそう声をかけると、壊璃はニヤリと口の端を上げた。
 「俺ともイイコトしましょ?」
 その言葉に一番手前に居た生徒が拳を振り上げ・・・
 喧嘩のルールを知らない奴だ。
 壊璃はそう思うと、難なくその拳を避け、代わりに右足を鳩尾へと蹴り入れた。
 ―――喧嘩は先に手を出した方が負け
 そのルールを知らないようでは、話にならない。
 相手の攻撃を難なくかわし、代わりに挨拶程度のお返しをする。
 そんな一方的な攻防も、直ぐに終わりを告げた。
 さっすが俺、危なげなく勝利。
 ・・・ま、あんな奴らが相手じゃね・・・。
 逃げて行く背中を見詰めながらそう思い―――
 「何事だ!?」
 そう言って走って来た相手を見た瞬間、壊璃は思わず目を見開いた。
 相手、月守 裕真が男子生徒を見、壊璃を見、段々顔色が変化して行く。
 それもそのはずだ。
 乱闘の末に肌蹴ている壊璃と、泣いている彼。
 ―――あー、誤解されてそう。
 瞳が鋭く光る。
 それは、明らかな壊璃への敵対心だった。
 これってやっぱ、俺が悪者になっちゃいそーな雰囲気・・・??
 ナイトが現れたのはいーんだけど、ちょっと遅いし・・・ま、タイミングが悪かったとしか言いようがナイ。
 悪者を蹴散らした俺が、結果悪者になって・・・
 俺ってこう言う星の下に生まれたわけ??
 そんなのって・・・・・・・・・


◆ ◇


 闇の中でただ助けを求めている。
 決して引き上げられる事のない深い暗闇の中、たった一筋の光だけを信じて。
 ・・・信じられるほど、その光は力強いものではない。
 それどころか、今にも消え入ってしまいそうなほどに淡い色で・・・。

 アンタは絶対に駆けつけるだろ?
 ・・・彼が、助けを求めれば・・・
 それが羨ましくて、泣けそうに笑える。
 俺も、そうやって助けに来て欲しいだけなんだ。
 この暗闇から、救って欲しいだけなんだ・・・。

 だけど、アンタは俺を助けには来ない。
 絶対に・・・

   どれだけ好きだと、叫んでも・・・・・・・


◇ ◆


 校内中で俺がついに・・・なんて噂が駆け巡った。
 今までの悪い噂を聞いてたら、そりゃ疑われるのは分かるけど・・・。
 何?俺ってそんなに攻め顔ですか?
 つか、表情?
 そいや、校内一攻め顔似合うだの言われたっけ。
 ・・・みんなの図式的には、くっついてんじゃねーの?な騎士とお姫様がいて、それにちょっかい出した不届きな俺、の図。
 そりゃ、彼は可愛いし・・・俺の弟に似てるから好きっちゃ好きだけどさ。
 俺がホントに好きなのは・・・違うのに・・・。
 やっぱ、無理だったのかな―――――
 悪い魔法使いはお姫様にはなれなくて、騎士は俺の王子様じゃなくて、元から王子だったのさ。
 可愛いお姫様と、それを守る王子様。
 ・・・うん、それがピッタリ来る。
 元から、俺の入る隙間なんて無かったんだ。
 だってさ・・・物語的に、悪い魔法使いって最終的に倒されるのがオチじゃん?
 王子様の剣によって滅びた悪い魔法使い。
 世界は平和になり、王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしました・・・って、お決まりのパターンじゃん?
 それが本来のあるべき姿だと思えば―――
 多少なーんか胸が痛むっての?は、無視すればいい。
 見なかった事にしてしまえば、全ては・・・上手く行くから・・・。



 空を見上げる。
 東京の空は低く、どんよりとしていて。
 それでも、この街に暮らす者にとっては、空はどこまでも高くて・・・青くて・・・
 届かない、距離は遠く―――――
 遠く、高く・・・触れられない、切ない気持ちからは・・・




     ――――― 目を背けてしまえば・・・












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