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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ 三日月の迷宮 +



■■■■



「で、一体私は何故こんな場所にいるのかな?」
「うわぁああんん!! ふんでるふんでるうぅー!!」


 私、黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は足元でうろちょろしていたオレンジ色の物体を思いっきり踏んでぐりぐりと甚振る。
 周りを見遣れば、其処には同じ顔だけれど前髪の分け目と、黒と蒼のオッドアイの配置が真逆な少年二人。そして蒼い髪に頭の上部にぴこんっと猫耳を生やした少女が立っていた。私はそれらを確認すると、笑顔を浮かべたまま睨みつける。


「はっはっは、妖と柑橘類の分際で私を妖しげな所に引込むとは」
「いだ、いだぃだいだぃだだだ!」
「ちょ、ちょっとストーップ!! いよかんさんを離してー!!」
「流石に果物虐待は……なぁ?」
「まあ、あんまりダメージないけどね〜★ にゃっははーん!」


 少年の一人が私の足から謎生物を取り上げる。
 どうやら其れは『いよかんさん』と言うらしい。なるほど、蜜柑ではなく伊予柑なのかと無駄に納得してしまった。いよかんさんはきぃいい!! とこちらを威嚇するように気配を出してくる。私に歯向かうとは良い度胸をしているな、クダモノ。
 彼らは何度か深呼吸を繰り返す。
 そして気持ちを整えると声を揃えて叫んだ。


「「「「じゃあ、かくれんぼ開始!」」」」
「何故」


 私は冷静に突っ込んだ。


「と、言うわけでお前が鬼だ。ちなみにルールは簡単。今から俺達がこの屋敷の中に隠れるから、三十分以内に見つけてタッチすること」
「四人全て見つければ貴方の勝ち。一人でも見つけられなかったり、時間が過ぎてしまったり、死にそうになってしまった場合は貴方の負けです」
「あのねー、かったらねー、すきなものあげるのー。でもねー、まけたらねー、ろうりょくぞーん」
「労力損、つまり骨折り損のくたびれもうけ〜! にゃははー!」


 四人が好き勝手に『かくれんぼ』の説明をする。
 一体何が何やら分からない。しかし彼らはすでに各自準備体操なんかを始めてヤル気満々、逃げる気満々。 無視して出口らしき扉に手を掛け、外へと出て行く。だが、其れは部屋の内部に繋がっており元に戻ってしまった。
 どうやらこの屋敷を出るためには彼らに付き合うしかないらしい。


「じゃ、デジタル砂時計をあげるね。この砂が落ちきるまでが三十分で、此処に出ている数字が貴方のHPだから!」
「ヒットポイントまであるのか。随分凝ったかくれんぼだな」
「じゃ、開始ー!!」


 その言葉を合図に三人は駆け出す。あっという間に姿を消した後には自分だけが取り残される。ふわりふわりと自分の真横に浮いているのは先ほど半ば強制的に渡されたデジタル砂時計とやら。
 ふと、前を見ればとてとてと短い足を懸命に動かしているいよかんさんとやらの姿。そして彼? は不意にぴたっと足を止め、こちらを振り向かずに呟いた。


「……とびらをあけるときは……きをつけて……ね」
「何でそんな意味深長なんだ、伊予柑の癖に」
「あぁーん! いよかんさん、だもんー!! 『さん』までがなまえだもぉーん!!」


 ひっくひっくと泣きながらちたちたとててっと走っていく謎生物、いよかんさん。
 そんな彼に対して私は自身の能力である『影』を動かす。ひゅるんっと伸びた影がいよかんさんの足を捕まえ、そしてずるるんっと引き寄せた。同じ様に逃げたはずの三人も捕まえ、四人纏めて影で拘束した。


「んにゃん?」
「何で元の位置にいるんです?」
「何で元に位置にいるんだ?」
「あれぇー?」
「逃げないのか? 捕まえてしまうぞ?」
「「「「ぎゃぁああああ!!」」」」


 何故集まってしまったのか分かっていない彼らは再度忙しなく隠れ始める。
 逃げ切った彼らを見遣った後、私は同じ様に影を動かし、しゅるるんっと三人と一匹を集めた。きょとんっと目が丸くなるのが本当に面白い。
 彼らがささっと逃げる。しかし、私はささっと集められる。
 流石に可笑しいと感づいた彼らはじぃっと私を見つめ、そして口を揃えて言った。


「「「「其れ禁止!!」」」」
「はっはっはっは、面白い奴らだ」
「と言うわけで、その能力はこの屋敷内部では使えないように設定しておくんだよねー! だからもう使っちゃ駄目!」
「はいはい」
「さぁーって隠れるよー」
「さぁーって隠れるぞー」
「ぞー」


 やっと四人は素直に隠れることに成功する。
 私はくっくっと笑いながらも辺りを見遣った。さて、今度はきちんっと探さなければいけない。何処から探そうかと考えながら取り合えず先ほどと同じ扉から部屋の外へと出てみた。今度はあっさりと廊下に出ることが出来たので、彼らに認められたと言う事が分かる。このまま逃げても構わないが、空間を捻じ曲げられているだろうと言う事くらいは簡単に予想出来る。下手すれば他の空間に飛ばされてしまう可能性もある。
 それでは意味がない。


「じゃあ、まずはこの並びまくった扉でも探してみることにするか」



■■■■



「一人発見」
「げ、見つかった!?」
「捕獲」
「ち……、負けた」
「はっはっは、案外一人目は簡単だったな」


 ジャングルの木の上であっさりと少年の一人を見つけ出した私は持ち前の運動能力で彼を捕獲する。
 取り合えず見つければ良いとのことらしいが、何となく肩に抱き上げふぅっと満足げに額の汗を拭く真似をした。少年がじたばた暴れるのでぽいっと手を離してみる。当然彼はそのまま落ちたが、床にぶつかる瞬間にくるんっと猫のように引っ繰り返ってそのままふわりと着地した。


「ちえー、全然HP減ってねえし。さてっと、俺は居間の方にいるから他の二人と一匹探すの頑張れよー」
「ヒントは?」
「んーそだなぁー。……もしかしたらどこぞの一人と一匹は一緒にいるかもな」
「そうか、それは良い事を聞いた」
「んじゃなー!」


 そう言って捕まった少年は姿を消す。
 私は部屋から出て、隣の扉へと手を掛けた。これで幾つの扉だろうか。適当に自身が感じるままに開いていたから数えていない。だが、開いた部屋の数々は本当に『変』だった。開けば花畑が出現したり、行き成り海の中だったり……。しかも扉は開いてしまうと消えてしまう仕組みになっているらしく、後戻りは出来なかった。大体直線距離に出口である扉があったので扉を探すこと自体はそう難しい問題ではない。


「さぁーって、次の舞台は……うを!?」


 開いた扉の向こうに展開されていた舞台は……。


「ケ……ケーキバイキング!? ケーキぱらだいす!?」


 そう、色とりどり種類も豊富な極上ケーキバイキングシチュエーションである。
 美味しそうなケーキがテーブルの上に並べられている状況に思わずじゅるりと唾液が零れそうになる。みっともないので慌てて唾液を口を拭いた。そしてふらふら〜っとそれらの前に立ち、食べて良いのかな? 食べて良いのかな? と辺りにハートを飛ばす。


「お、美味しそう……た、食べたい。これは食べて良いんだろうか」


 きょろきょろと周りを観察する。
 誰もいないことを確認すると、私は小さく切られた其れを一つ手で摘み、そして口の中に放り込んだ。


「う、美味いっ! ああー、ケーキなんて暗殺業やってたころはあんまり食べられなかったからなー!」


 暗殺業を行なっていた頃は極度の節制生活だったため、あまりケーキは食べられなかった。しかもイメージに合わないので周りの面々には秘密にしていたが、私は大のケーキ好きなのだ。そんな自分にとって目の前の光景はまさにぱらだいす。思わず亡き彼にしか見せた事のない乙女モードを発動させてしまう。口の中に放り込んだケーキをあむあむと咀嚼し、うっとりっと悦に浸る。
 だが、もう一つ食べようとした瞬間はっと気が付く。


「いけないいけない。此処で食べていては時間は過ぎるし敵の罠に嵌ってしまう。さ、さあ。かくれんぼの続きを……」


 そこまで呟いてから私はなにやら気配を察する。
 そして顔を持ち上げ、ある一点を見遣った。


―――― 何かが、自分を見ている。


「そこだ!!」
「……!?」
「其処だ! 其処のウェディングケーキの上で変なポーズをつけているオレンジ色のクダモノだ!!」
「……ち、ちが……ぼ……ぼくはただのーかざりー……ふんふーん」
「普通、縦長蜜柑がウェディングケーキのメインにはならんと思うぞ」
「ああーん! いよかんだもーん!! みかんじゃないもー……ん! まちがえないでぇー!!」
「よし、二人目ゲットだな」
「……は!」


 ちたぱたたーっと手足を動かして抗議するのは背の高いいよかんさん。
 彼は自分の間抜けさによって自爆した。


「しかしお前他のいよかんよりかは背が高いとは言っても良くそんな高いところに登ったな……ほら、降りて来い」


 私はそう言って手を伸ばしてやる。
 いよかんさんの方も針金の先にちょんっと付いた手をこちらに差し出してきた。だが、私たちが手を重ねようとした瞬間……。


 さささささ。


 ケーキが、動いた。
 足を進めて再度いよかんさんに手を出し、下ろしてやろうとする。すると待たしてもケーキがささっと動いた。近付いて手を差し出す。ケーキは逃げる。差し出す。逃げる。差し出す。逃げる……。
 私は流石に溜息を吐いた。


「今度は誰だ?」
「……ぼ、僕はただのウェディングケーキです、ふんふーん」
「ケーキも動かないと思うぞ?」
「え、ケーキって動かないの!?」
「普通は動かんな。と言うわけで、三人目ゲット」
「……ぁ」


 こいつら、同レベルか。


 ケーキからひょっこりと出てきたのは残りの少年。
 どうやらウェディングケーキは被り物、だったらしい。食べなくて良かった。彼? といよかんさんは抱き合うと、ぷぅーっと頬を膨らませる。どうやら彼らはこれでも必死に隠れていたらしい。ある意味可愛らしいと言うべき、なのか?
 だが、これで探し出せていないのは蒼髪猫耳少女のみ。


「ねーねー」
「何だ?」
「デジタル時計を見てもらえます?」
「ああ、そういえば忘れていたが残り時間は……」


 あと三十秒です。


「ぎゃぁああ!! うっかり大好きなケーキに目を取られて時間を奪われてしまった!! 何たる不覚! 何たる心理戦!!」
「あっはっは、僕達は居間の方にいますから頑張って下さいねー」
「がんばってー」
「くそっ、これでは扉を選んでいる余裕がないではないか。仕方ない隣の部屋を……っ!!」


 ばたばたと走りながら扉に向かう。
 ああ、さようなら私のケーキバイキングぱらだいすっ!


 出口を抜けて廊下へと出る。
 それから扉へと手を掛け、勢い良く引くと……。


―――― ざっばぁあああんん!!


 雪が、雪崩れてきやがった。



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「にゃっははーん、今回は貴方の負け〜★」
「残念ですけど、景品はあげられません」
「残念だけど、ケーキバイキングはなしだな」
「ごめん、ねー?」


 私は囲炉裏の前で身体を温めながら三人と一匹の声を聞く。
 最後の最後に身体が冷えるような出来事に見舞われた私はがたがたと震えていた。服は何とか妖かし連中に乾かして貰えたが、流石に自分の身体までは温めて貰えない。
 がたがたと歯が噛みあわない音がする。少々情けない。


「わ、私は景品にケーキバイキングがいい、とか言ったか?」
「ケーキを思う存分食べたいって思ったでしょう?」
「ケーキを思う存分食べたいって思ってただろう?」
「「俺達やこの屋敷には<迷い人>の考えていることが分かっちゃうから」」
「プライバシー侵害だ、ぅうう、寒い」


 少年二人が声を揃えてくるので、ぎろりと睨む。
 するといよかんさんがなにやら盆を持っててこてこ寄ってきた。何だ? と見れば盆の上には湯気のたった湯のみが乗せられている。どうぞと差し出されたので有り難く其れを受け取り、ふぅーっと冷ます様にしながら飲んだ。体の内側から温められえる感覚にやっと落ち着きを取り戻す。
 すると今度は少年二人が何かを差し出してきた。


「ほれ、ケーキはないけど団子なら山ほどあるぜ」
「だから一緒におやつでも楽しみませんか?」


 言葉と同時にくいくいっといよかんさんが私の腕を引く。
 奥の方では女の子もまた手招いてくれていた。仕方なく、立ち上がり、卓袱台の前に腰を下ろす。目の前には少年の言うとおり、色んな種類の団子が並べられていた。一本手に取り、口の中に入れる。その和菓子特有の甘さに心が和んだ。


「と言うわけで本日の暇つぶし終了★」
「「「「お疲れ様でしたー!」」」」


 目の前で三人と一匹が声を揃えて終了の合図を叫ぶ。
 まあ、ケーキは食べ放題ではなかったがこれはこれで良いか。お茶をずずっと啜りながら私はそう思った。



……Fin





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女 / 20歳 / 20歳】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は三日月の迷宮楼にご参加頂き真に有難う御座いましたv
 ケーキらぶーなところを楽しく書かせて頂きましたが、こんな感じでしょうか? 普段はクールでも、乙女モードに一変した黒様はとても可愛らしいかと(笑)
 選択された数字と行動、そしてサイコロ様のお導きにより勝負は負けとなってしまいましたが如何なものでしょう?