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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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+ 時間書直し +
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「しまった。やっちまったねぇ……」
アンティークショップの主人、蓮は溜息を吐く。
目の前には棚。そう、思いっきり倒れた棚がある。彼女は自分の足を擦りながら其れを見遣る。
「まさか漫画みたいに棚を思いっきり倒すなんて……おー、痛い痛い」
引っ掛けた足を何度も擦る。
それから目の前で崩れ落ちてしまった書物達を見遣った。棚は天井近くまであった大きなもの。その中に詰っていた本もまた沢山。だが、今それらは全てぐっちゃぐちゃに飛び出ている。
「まさか時間書の棚を倒しちまうとはねぇ……仕方ない、誰かに手伝って……」
「御免下さいー」
その瞬間、アンティークショップの扉が開かれた。
蓮は嬉しそうに客に微笑み、そして彼女は客に言う。
「あんた、ちょっと良いところに来てくれた。悪いんだけどこの棚を起こすのと、散らばった本を直すのを手伝ってくんないかい?」
「え……」
「散らばってる本は時間書というんだけどね。高峰んとこみたいに細かくはないけど、うまく引き当てればあんたのちょいとした過去が見れる。まあ、宜しく頼むよ」
蓮は足を擦りながら、再度客を見る。
客は散らかった大量ぉおおおの本達を見ると……一瞬頬を引き攣らせた。
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「よくもまぁこんだけの量集めたもんだ……。しゃあないね、手伝うよ」
そういったのは客の一人である日置 紗生(ひき さお)。
軽くしゃがみ込みながら散らばった本を素早く脇に寄せる。スペースを開け、倒れた棚を軽く起こす。するとまだ中に収まっていたらしい本がざさっと音を立てて落ちた。
落ちた本を集め始めたのは秋月 律花(あきづき りつか)。彼女は本を腕に集めながら本の表紙を軽く撫でる。落ちた衝撃で傷んだのか、それとも年月が傷めたのかは分からないが、表紙の装飾が剥げ掛かっていた。
「さすが碧摩さん、面白い書をお持ちですね」
「すまないねぇ。客として来てくれたんだろうけど、あたしは此れをこかした時に足を痛めちまって上手く片付けが出来なくってねぇ。ああ、こっちに持って来てくれたら年月別に分けるくらいは自分でやるさ」
「分かりました。じゃあ、そっちに持って行きますね」
「よし、じゃあ、棚を起こすかね。悪いけど手伝ってくんない?」
「あ、はい!」
日置に呼ばれ素早く秋月が駆け寄る。
空になった棚なら女性二人でも起こすことが可能だ。蓮は位置を指定しながら足を擦る。まだ痛いらしい。手が届く範囲で本を引き寄せ、其れを年代別に分けていく。積み上がっていく本の上に手を乗せると、僅かに空気が舞った。
「これって過去が見れるんですよね?」
「ああ、そうだよ。此れは見ての通り書物だから過去を記す程度しか出来ないけどねぇ。それでもたまに自分の過去が見たいってやってくる客がいるんだよ」
「過去、かあ……どちらかといえば私は、私自身の過去より世界の過去を知りたいですけどね」
「おやおや、勉強熱心だねぇ」
「蓮、此れはそっちだよ。受け取っておくれ。あと、此れは秋月の方かな。本当に良く此れだけの本があの棚に納まっていたもんだよ」
三人で談話しながら本を分けていく。これは此処、此れはあっち。それは向こうだ。たまに日常会話を交わしながら本を年代別に分け、大体分かれた分から棚の中に収めていった。
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと、秋月が何かに惹かれ、ある一冊の本を開く。其れに記されている年月はまだ遠くない。
ページを開いたまま固まってしまった彼女を見た蓮は自身の煙管を口に銜える。それから先に火を入れる。先からは細長い煙が登り、ゆらりゆらゆらと辺りを満たした。そして紅の塗られた唇をくっと持ち上げ、楽しそうに声を掛けた。
「ああ、『見つけた』んだねぇ」
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「……っ!」
「……、……ッ、!!」
なにやら二人の男女が言い争いをしている。
制服に身を包んだ彼らはどうやら高校生。女子は男子が何かを言う度に言葉を返す。其れに対して男子もまた反論を繰り返していた。
場所は放課後の学校、そして誰も居ない教室の中。二人分の声が辺りを響き渡らせていた。
「そろそろはっきり認めたら? 『俺は自分より成績の良い女とはつきあえない古い男尊女卑思考の持ち主です』って」
「ッ、なんだよそれ」
「ああ、それから『志望校が同じ地元じゃない、東京の学校だから遠距離恋愛にも自信がない』かしら? それとも『先生から太鼓判を押された』ことかしら?」
「……言わせておけば、お前っ」
「本当のことでしょ? ええ、ええそこまで言うなら別れてやろうじゃない。むしろこっちから貴方なんて願い下げよ!」
そう言うとカバンを手にして素早く早足でその場を去る。
後ろからは「ッ、可愛くない女だな」と捨てセリフのような声が聞こえてきた。苛立つ思考を必死に抑えながら、女生徒……高校生の頃の秋月は足を素早く動かす。唇は怒りに震え、けれど其れを押さえるために噛み締める。
叫んだせいで喉が痛い。喉頭を押さえながら下駄箱の前で上履きから外靴へと履き替えた。
「可愛くなくて結構。それでも私は東京に行くの。東京で、もっと色々な人と出会ってもっと沢山の事を識っていくのよ」
顔を伏せ、ぽそぽそと一人呟く。それから一度顔を叩き、意識を奮い立たせる。
カバンを取って正面玄関まで歩んでいく足取りは、しっかりしたものだった。
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トン……。
蓮が棚に本を戻す音にはっと意識を戻す。
片足を若干引き摺るようにしながらも立ち上がり、それから棚の中にきちんと書籍を収めていく蓮。積まれていたものは既に収められていて、後は手にしている本だけとなっていた。二人は慌てて自分が持っていた本を彼女に手渡し、彼女は其れを本棚に収めた。
「ほい、終わり。有難うね、二人とも。ああ、今日は一体何の用だったんだい?」
「ああ……いや、なんでもない。また後日来るよ。今日はもう遅くなっちまったからねえ」
「そうですね。私も出直すことにします。ちょっと甘酸っぱい過去でしたけど見れて良かったし」
「今日は懐かしいもん見させてもらったよ、ありがとうね」
「時間を取らせてすまなかったね。今度来た時にはあんた達が望むいいものを用意しておくよ」
足を引き摺るようにしつつも客二人を見送る蓮。
彼女に対して秋月は「酷いようでしたらお医者さんに言って下さいね」と言い、日置も深く頷いた。外は既に暗く、日の光がない時間帯。其処まで時間が掛かってしまったのかと秋月と日置は顔を見合わせ、苦笑した。それから手を振り合って分かれる。
「……別れたこと後悔してないわよ」
ぐっと拳を作って呟く。
んーっと伸びをするように手を組み合わせて上の方に持ち上げた。
東京に来たことを決して後悔したりしない。
今も……そして昔も。
電柱に取り付けられた電柱が秋月を照らし、彼女は歩き出した。
……Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【6157 / 秋月・律花 (あきづき・りつか) / 女 / 21歳 / 大学生】
【4412 / 日置・紗生 (ひき・さお) / 女 / 37歳 / 追跡屋ときどきヘルパー】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、初めましてv
過去のシチュエーションはこのように仕上がりましたがど、どうでしょう? 時間書直しのお手伝い、有難う御座いましたv
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