コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


甘味処めぐりOFF

「あ〜もう、デマばっかりだったぁ」
 金曜日のネットカフェでテーブルに突っ伏した瀬名 雫がぼやく。
 お世辞にも上品とは言えない音で吐き出された声に、影沼 ヒミコは苦笑を零しつつ
「今度のはどんなお話だったんですか?」
 と、雫の零す愚痴を聞く。
 このところ、ゴーストネットOFFに書き込まれる怪奇記事の中で雫的当たり、つまり本当にあった怖い話は一つもなかったのだ。
 それ故、雫はかなり気分を害し、その度ヒミコに愚痴を零しているのだ。
「それがさぁ、結構遠くの廃校にオバケが出るって言うんで、期待して行ったのよ。学校って言ったら怪談の宝庫じゃない」
「それは確かにそうですね」
「それで、行ってみて何も出なかったから結構粘ってみたのよ。そうね……深夜の2時くらいまでなら覚えてるわ」
「2時ですか。それは大変でしたね」
「そうよ。こちとらアイドルよ? 肌が荒れたらどうすんのよ!?」
「まぁまぁ。自分でやりたいことをやっているわけですし、また次、がんばりましょ?」
「……うん、そうね。こんなことでへこたれてらんないよね」
 雫は机に伏せていた顔をあげ、いつもの笑顔を見せる。
「よっし、気合入れて、次やろ!」
「そうです。今度は私も協力しますよ!」
「流石ヒミコちゃん! ようし、やる気が沸いてきたわよぉ!」
 と言ってやる気を顕にする雫だが、すぐに肩を落としてケータイを開く。
「と、その前に」
 雫はポチポチとボタンを押しながら、ヒミコに向かって言う。
「明後日の日曜日、ヒマでしょ?」
「え、ええ。予定は無いですけど」
「じゃあ空けておいてね。甘いモノ食べ歩くから」
「え?」
「でも二人だけってのは嫌だから、もうちょっと道連れを増やすわ」
「え、え? な、何でですか?」
「二人だけで甘いモノ食べ歩いて太ったら惨めじゃない。道連れは多い方が良いわね……。そうだ、ページで告知しよう」
 雫はケータイで知人にメールを送信した後、店のパソコンに向かう。
「いえ、そうではなくて、何故甘いモノを食べ歩く、と言うことに?」
「乙女の動力源よ。今度から頑張るぞーって時に傍らに甘いモノがあればやる気が二倍、いえ二乗になるわ。マイナスでもプラスになるわよ」
「そ、そんなものでしょうか?」
「そんなモンよ。あ、ついでにヒミコちゃんに愚痴も聞いてもらおうか。日頃の鬱憤を晴らしちゃおう! ってな宣伝文句で」
「そ、そんな!?」
「なによぉ、協力してくれるんでしょ?」
「そ、それはそうですけど、ベクトルが違うと言うか……」
「気にしない気にしない。何を食べるかは参加者に決めてもらうとして……よし、ページ更新完了。さぁ、日曜日が楽しみだわ!!」

***********************************

 そんなこんなで日曜日。
 空には太陽が輝き、雲も然程ない。風もほとんどなく、心地良いくらいのそよ風が吹いている。
「絶好の甘いモノ日和ね!」
 喜色満面で雫が言った。
「さぁ、ついて来なさい、皆の衆! 今日は甘いモノ食べまくるぞー!」
 雫の呼びかけに応えた声はとても寂しいものだった。
 かろうじてヒミコが『お、おー』と控えめに手を掲げたぐらいで、本日のゲスト参加者は苦笑をもってそれに応える。
 参加者は男性が二人。
 楷 巽(かい たつみ)と阿佐人 悠輔(あざと ゆうすけ)だ。
「むぅ。反応がいまいち悪いが、この際気にしないわ! で、男子諸君は私達を何処へエスコートしてくれるのかな? かな?」
 異常にテンションが高い雫への対応に困りつつ、先に巽が答える。
「お、俺は一応、ケーキバイキングなんかを考えてたんだけど……日曜にも開いてる店を知ってるんですよ」
「珍しいね、男の人がケーキバイキングの店に詳しいなんて。……あ、さては女ですか? 女ですね? 女なんだろ、旦那」
「し、雫さん! プライベートに入り込んじゃいけませんよ」
「い、いや、普通にネットで検索したんですが……ほ、ホントですよ」
 いくらでも突き甲斐がありそうな巽に雫が突っ込んだ話を切り出す前に、ヒミコは慌てて悠輔に話を振る。
「あ、阿佐人さんは何処へ連れて行ってくれるんですか?」
「俺もケーキの美味い喫茶店を考えてたんだが、どうやら被ったみたいだな。別の場所にしようか」
 悠輔がそう提案するが、雫が会話に割り込む。
「ノープロブレム! 店が違えばケーキの味だって変わってくるわ! ショートケーキ一つとってもクリームの味が段違いだったり、中に挟んだイチゴの量が違ったりするわよ! だったらどっちも行くわ。ええ、行くとも!」
「ま、まぁ、そう言ってくれるなら別の店を探さずに済んで助かるが……」
 雫以外の三人が彼女のテンションに置いて行かれ気味で、多少というかかなり対応に困る。

***********************************

「さぁ、まずは楷ちゃんオススメのケーキバイキングとーちゃーく!!」
 店のドアを開けて、道場破りの如く声を張り上げる雫。
 当然、店に居た店員、客問わず、全員が一行に目を向ける。
「し、雫さん! 恥ずかしいですから!」
「旅の恥はかき捨てよ、ヒミコちゃん!」
「で、でもここは楷さんの案内できた店ですよ!? 後で楷さんに迷惑かけたらどうするんですか!?」
「楷ちゃんが再びこの店に来た時、店員から白い目で見られるでしょうね。でも安心して! たとえ暴徒と化した店員が楷ちゃんに襲い掛かってきても、骨はあたしが拾ってあげるわ! さぁて、食べるわよー!」
 何の回答にもなってない気がするが、これ以上言っても何にもならない事を理解したヒミコはため息を吐いて巽に必死に謝った。
 その内に雫はトレイを取り、ケーキの並ぶカウンターに赴いて、どれを食べようかな、と目をギラつかせて必死に選択しに行った。
「す、すみません」
「いえいえ、俺一人じゃこんな所に来られませんし、当分彼女も出来そうにないですから」
「本当にすみません」
 と、ヒミコが何度も謝っている内に雫はカウンター一週目を終えたようだ。
「ヒミコちゃん! モタモタしてたら全部あたしが食べちゃうわよー!」
「は、はーい」
 雫に呼ばれて、ヒミコもトレイを掴んで雫の隣に並んだ。

***********************************

 たっぷり三十分吟味した結果、二人合わせて七種類九個。
「あたしはガトーショコラとフルーツタルトとロールケーキ二つ、あとプリンがあったからそれも二つ」
「私はイチゴのショートケーキとミルフィーユ、それと紅茶のシフォンケーキです」
「あれ、男子諸君はなんも買わなかったわけ?」
「え、ええ。俺達はおなかが減ってるわけでもないしね」
「あ、ああ。紅茶だけで十分だよ」
 正直、目の前でこれだけ甘いモノを並べられて、そしてそれを食べられたら見てるだけで胸がモヤモヤする。胃がニルニルする。

***********************************

「で、愚痴零し大会だけど」
 モフモフとガトーショコラを食みながら、雫がそうやって切り出す。
 そういえば、宣伝文句は『ヒミコちゃんに愚痴を聞いてもらおう』だった気がしないでもない。
「いや、愚痴というほどの愚痴もないんだけど」
「俺のほうも別に……」
「なんだ、じゃあ宣伝文句も必要なかったじゃん。二人とも甘いモノを食べたくてついてきたの?」
 ついてきた、というか連れて来たの方があってるのだが、そこは深く突っ込まないことにした。
「あ、じゃあ俺から質問でも良いかな」
 そう言って巽が手を上げる。
「はい、楷ちゃん、どうぞ!」
「あ、えと、今後の参考として女の子がどんなケーキが好みなのか訊きたいんだけど」
「おや? 今後、という事は女の子と付き合う予定でもあるんですかな?」
「い、いや、未定だけどさ。一応訊いておこうと思って」
 多少狼狽する巽にヤラシイ視線を向けてウヒヒと笑う雫。
 ヒミコは雫の脇を小突いてそれを止めた。
 気を取り直し、雫が咳払いをして答える。
「まぁ、好みって言っても一概には言えないわよね」
「そうですね。私と雫さんの持ってきたケーキを見ても、共通性はあまりないですよね」
 強いて言うならフルーツタルトとイチゴぐらいだろうか。
 それを見て巽はふむ、と唸る。
「雫さんは味の濃いもの、ヒミコさんは逆にあっさり系って事ですか?」
「あたしだってあっさり系が嫌いなわけじゃないわよ。でも今は甘いモノが食べたいの」
「私もどちらかと言えばこういう味の方が好きですが、濃い味のものも嫌いではないですね」
「まぁ、つまりは美味しければ何でも良いのよ」
 そんな投げ槍のようで的確な雫の結論を受け、何となく巽はなるほど、と頷いた。
「逆に男の人はどうなの? 甘いモノとか」
「俺に限って言えば、甘いモノは好きですね。偶にコンビニのデザートとかを買ったりしますし」
「じゃあ阿佐人さんはどうですか?」
「俺は別に好きでも嫌いでもないな。腹が減っててそれしかないなら食う、って感じかな」
「淡白〜。甘いモノは定期的に摂取しないと!」
「アンタみたいに甘いモノをバクバク食えるような胃じゃなくてね」
 実際、見てるだけで胃がもたれ始めている。
 悠輔はテーブルから視線を外して紅茶を啜った。
「じゃあ楷ちゃんは結構甘いモノ食べたりするんだ?」
「はい。甘いモノは疲労回復とかストレス解消にも良いですしね。……あ、でも食べすぎは良くないですけどね」
「良いの! あたしの胃は鉄で出来てるから!」
「ははは、まぁ、今日は特別って事でしょうね」
「そうよ。オンナノコには甘いモノを食べないとやってられない時だってあるの!」
 そう言って雫はガトーショコラを完食した。

***********************************

「さぁ、お次はどこかな」
 結局おかわりを含め十個近くケーキを食べた雫。
 それでも食欲は衰えていないらしい。すぐに悠輔に次の場所へ案内するように指示する。
「ここからなら近くの喫茶店。ケーキが美味いって評判なんだよ」
 そう言って悠輔が一行の先頭に立って歩く。
「近くってどれくらい〜」
「あと十分くらい歩いたところだ」
「長い〜。おんぶしてって〜」
「し、雫さん!」
 雫のテンション変わらず、三人が対応に困るのも変わらず。
 そんなこんなで一行は悠輔の案内する店に向かうのだった。

***********************************

 店に着いた四人は窓際の席に陣取る事ができた。
「あ、オススメデザートセットなんてあるじゃない」
「ホントですね」
 雫がメニューを開いて発見したデザートセット。
 お好きなデザート二種とドリンク一つ。
「うん、これが良いかも」
「そうですね。私もそれにします」
 注文を決めた後、雫が店員を呼びつけた。
 男性陣はここでも適当に軽い飲み物を頼む事にした。

***********************************

 ヒミコが頼んだのはレアチーズケーキと抹茶ケーキと紅茶。
 雫はショートケーキとザッハトルテとブドウジュース。
 二人がケーキを粗方食べ終わり、四人で何となくマッタリした時間を過ごしていた。
 すると、いきなり雫がテーブルをドンと叩く。
「何であたしがデマに振り回されなきゃいけないのかしら」
 突然意味のわからない言葉を吐く雫。
 全く話の流れがかみ合わないが、それでも雫は淡々と話す。
「こないだだって書きこまれた話題全部、デマだったし。なんなの? あたしに喧嘩売ってるわけ?」
「いや、そういうわけでもないだろう」
 何となくその尋常じゃない雫の雰囲気に気圧されながらも悠輔が答える。
 先程からテンションがおかしかった雫だが、今の雫はおかしいにも程がある。
 下手に刺激をしないように慎重に言葉を選んで口を開く。
「適当な事を書く奴も多いんだ。デマが紛れ込んでしまうのも仕方ない事だろう? ……気持ちは、わからなくも無いが」
「デマを書いてるヤツなんて、きっとあたしがデマに踊らされてるのを見て笑ってるんだわ! ヤなヤツ!!」
「ああ、そうだな」
「そんなにか弱い女の子をいじめて楽しいわけ!? くそぅ、いつか雫ちゃん特製の呪いをプレゼントしてやるわ!!」
「まぁ、それはわかったから、一度落ち着け、な?」
「落ち着いてられないわよ!」
 叫んだ雫はその場に立ち上がる。
 店内に居た全員が驚いた。そりゃもう、誰一人として肩を飛び跳ねさせなかった人間は居ないくらいに。
「ああ、もぅ! イラつく! ちょーむかつく! チョベリバ! MK5!! ちょっと店員さん、ジュースおかわり!」
 死語連発して空になったコップを店員に差し出す雫。
 本格的について行けないレベルに達してしまったようだ。
「なぁ、雫。アンタが飲んだブドウジュースって本当にブドウジュースだよな?」
「何言ってるのよ、当たり前でしょ?」
「いや、もしかしたら酒何じゃないかと思って」
「そんなわけないじゃない! お酒は二十歳になってからよ!」
 そういわれても怪しまずには居られない。
 なんと言うか挙動が酔っ払いのそれに似てきている気がする。
「なあ、楷さんよ。アンタ精神科なんだろ。カウンセリングとかしてやってくれないか」
「ええと、酔っ払いのカウンセリングは辛いかな、とか……」
「そう言わずにさ。このままアイツを放っておくと大変な事になりそうだし」
「いや、でもカウンセリングで直る程度のものじゃないと思うんだけどなぁ」
 今も頑張って暴走を止めようとするヒミコの横で、雫はビクつく店員から受け取ったジュースをゴクゴクと飲んでいる。
 心なしか顔が赤いような気もするのだが、気のせいだろうか。
「警察沙汰にも発展しかねないな」
「……では、そろそろおいとましましょうか」
 男性陣はため息をついて、すぐに行動に移した。

***********************************

 喫茶店を出た後、雫を抜いた三人は揃って深いため息をついた。
「本当に、今日はすみませんでした。雫さんがお二人にご迷惑をかけてしまって」
 深々と謝るヒミコに二人はとりあえず手を振って返した。
「いえいえ、気にしてませんよ」
「多少予想外だったが、退屈はしなかったしな」
 二人がそう言ってくれたので、ヒミコはもう一度謝って、雫に呼びかけた。
「ほら、雫さん。そろそろ起きてください」
 雫は先程の喫茶店を出てすぐ寝てしまい、今は巽に負ぶされていた。
 なんと言うか、すぐ寝る、というところあたりも先程のブドウジュースを疑る余地を広げている。
「……ジュース、だったんだよな」
「それはそうでしょう。客にお酒を飲ませるような場所でもないですしね」
 巽の答えを聞いて、悠輔も『まぁ、確かに』と頷いた。
「ほら、雫さん」
「う……うん〜」
 雫は眠たい目を擦り擦りしながら巽の背中で覚醒した。
「あれ、ここ何処ー?」
「もう外ですよ。しっかりしてください。楷さんに迷惑かけてますよ」
 一応目を覚ましたらしい雫は巽の背中から降り、ちゃんと地面に立った。
「ごめんね、楷ちゃん」
「いえいえ」
 雫はまだ多少ヨロついているが、ヒミコの支えがあれば何とか歩けそうだった。
「じゃあ私は雫さんを送っていきますから、ここでお開きです。今日はありがとうございました」
「いえ、俺のほうも参考になりましたよ」
「何となく楽しめたから、結果オーライだろ」
 ヒミコのお辞儀を受け、二人は手を振って彼女達を見送った。
 ……と、すぐそこの角を曲がる寸前に雫がパッと顔を上げる。
「今度はあたしのオススメコースを教えてあげるわー」
 とりあえず、今日のような事になるなら全力で拒否しよう、と思った。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【2793 / 楷・巽 (かい・たつみ) / 男性 / 27歳 / 精神科研修医】
【5973 / 阿佐人・悠輔 (あざと・ゆうすけ) / 男性 / 17歳 / 高校生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 楷 巽様、シナリオにご参加くださり本当にありがとうございます。『実は、甘いモノとかあんまり……』ピコかめです。(何
 ケーキの情報集めに奔走しました。探してみると結構種類があるんですね、ケーキ。
 取り合わせとかはあんまり気にしてませんが。(ぉ

 女性関係が気になりますね。
 ええ、麗しい顔立ちのお医者様といえばモテそうなものじゃないですか。しかも過去には暗い影が!?
 そこんとこ、小一時間でもかけて問い詰めたい気もしますが、それはまたの機会って事で。(何
 では、気が向いたらまた是非!