コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


魂籠〜花宴〜

●序

 きらきら、きらきら。眩いばかりの光がそこにある。

 町外れに、小さな空家があった。ぽつんと存在するその空家は、昼間でもひっそりと佇んでいる為、どことなく気持ち悪い。
 心霊スポットだとか、肝試しスポットだとか、そう言う風に認識されている。
 しかし霊能者がそこを訪れても、彼らは一様に首を振っていた。何も居ない、と。霊の存在など、見当たらないのだと。かといって、取り壊される事も無かった。取り壊す計画すら、持ち上がっても来なかった。
 そんな不思議な不気味さに、人々はそこに足を踏み入れ続けていた。何かしらの理由をつけ、怖いもの見たさのように。無意識に、そこに足を踏み入れなければならないような感覚すらあるのだという。何となく、行きたい。そんな軽い気持ちのまま。
 そんなある日、三人の若者がその空家に足を踏み入れた。肝試し、という理由をつけて。だが、入ったのは三人だったが自分の足で出てきたのはたった一人だった。他の二人は突然倒れ、動かなくなってしまったのだという。ただ一人何も無い彼は、慌てて救急車を呼んだ。倒れた二人は、理由の分からぬ意識不明の状態となっていた。
 元気な一人に話を聞くと、肝試しに誘ったのは意識不明に陥っている二人だという事だった。二人が執拗に、肝試しをしようと彼を誘ってきたのだという。
 彼は言う。二人のうち一人は不思議なサイトで手に入れたというアプリを、もう一人は突如送られてきたメールによって得た画像を持っていたのだと。そして、それからどことなく二人がおかしくなってしまったのだと。


●始

 回り、廻りて光は環となる。


 草間興信所に、青年が訪れていた。深刻な表情でソファに座り、ぎゅっと拳を握り締めている。
「それで、どうしたんだ?」
 草間が青年から話を聞こうとすると、ぱたん、と扉が開いた。櫻・紫桜(さくら しおう)である。紫桜は状況を見、頭を下げる。
「依頼中でしたか」
「いや、いい。お前も無関係な話じゃないから」
 草間はそう言い、入り口で戸惑ったままの紫桜を招く。小首を傾げつつ区様の隣に座ると、青年は不安そうに紫桜を見る。草間はそれに気づき、口を開く。
「櫻・紫桜という、うちの調査員です。ご心配なく」
 草間の言葉に、青年は頷いた。
「俺は、ただ肝試しに言っただけなんです。行く気なんて全然なかったけど、あいつらがどうしても言っていうから」
「友達ですか?」
 草間の問いかけに、青年は頷く。
「ああ。同じ大学の友達なんだ。町外れにある空き家に、誘ってきて」
 青年は話し始める。
 同じ大学の友人二人と、青年の三人で町外れにある空き家に肝試しをするためにいったのだという。最初はあまり乗り気でなかった青年だが、あとの二人がどうしてもというので仕方なくついていったのだという。
 その空き家に入ってしばらく探索し、何もない事を笑いあいながら出ようとしたその瞬間、青年以外の二人が倒れてしまったのだ。
「俺は慌てて救急車を呼んで、病院に行ったんだ。友達の親に連絡して、すぐ来てもらって。だけど、意識不明のままで」
 青年はそう言い、再びぎゅっと拳を握り締めた。突然の出来事に、一番動揺したのは彼であろう。
「それで、うちに来たという事は単なる意識不明だとは思っていないんだろう?」
 草間はそう言い、苦笑する。怪奇探偵という、誇らしくない代名詞がはびこっている事は、重々承知の上である。
 青年はこっくりと頷き、口を開く。
「あいつら、最近変だったんだ」
「変、とは?」
「携帯電話でそれぞれ変なゲームアプリだとか、画像だとか持っていて」
 その言葉に、びくりと紫桜は身体を震わせる。
「そのゲームアプリとは『天使の卵』というものではありませんか?」
 紫桜の問いに、青年は頷く。
「画像というのは、守護神だというものではありませんか?」
 やはり、青年は頷く。
「おい、守護神ってなんだ?」
 草間が怪訝そうに尋ねる。
「突然、おみくじメールというものが携帯電話に来るそうです。そして、画面にしたがっていくと、おみくじ結果と守護神とかいう画像を手に入れる事が出来るんです。ただ、その画像の所為でいろいろな事を忘れていっているようですが」
「忘れるって……」
「ずいぶん偏った、忘却でしたよ。守護神といいつつも、ずいぶんと禍々しい存在でしたし」
 紫桜はそう言い、思い出す。押し付けがましい道の提示は、今思い返しても忌々しい。
(繋がっている、と考えるのが妥当でしょうね)
 密やかに、紫桜は思う。前々回と前回の事を考えれば、まだ終わっていないと考えるのが当然だ。
 すなわち、携帯電話を媒体にした諸々の事は、まだ終わってはいない。
「変になったという事は、お友達の二人には聞いてみましたか?」
 紫桜の問いに、青年は首を振った。
「今思えば変だったっていうだけで……その時はそこまでおかしいだなんて、思っていなかったし」
 当然といえば当然の答えである。それを責めても仕方のない事だ。
「たとえば、どう変だったとか……?」
 草間の問いに、青年は「たとえば」と呟きながら口を開く。
「約束していたのを忘れたりとか、急に態度が冷たくなったり……。あ、だけど別の時だったらそんな事なくて。だから、その時限りなんだと」
 青年はそう言って、俯く。何かを忘れてしまったり、機嫌によって態度がおかしかったりということは、特に珍しい事ではない。青年は「変」と思いつつも、特に気に留めることがなかった事も頷ける。
 だが、紫桜が対峙してきた自称と、符合している。
「一応聞いておきますが、別に携帯電話をいじっている時に意識不明になったのではないのですよね?」
 紫桜が尋ねると、こっくりと青年は頷いた。
「分かりました。ともかく、調べてみるだけ調べてみましょう」
 草間はそう言い、青年の連絡先をメモに書き入れる。念のため、友人達が入院しているという病院も。
「もし、俺に協力できる事があれば何でも……」
 青年は言いよどみながらそう言い、ぺこりと頭を下げて草間興信所を後にするのだった。


●動

 確定は、決定事項と相成らん。


 青年が帰った後、草間は早速煙草を口にし、火をつける。
「草間さん、先ほどの話はやっぱり」
 紫桜が口を開くと、草間はそれを見越したように頷く。
「一連になっていると見て、間違いないだろうな」
 草間の言葉に、紫桜はこっくりと頷く。やはり、終わっていなかったのだという思いがわきあがる。
 まだ、終わっていなかったのだ。
「それで、どう思う?」
 紫桜は「そうですね」と言いながら、考えを口にする。
「もし例のアプリがまだ動いているのならば、人を意識不明にさせる事は簡単な事でしょうね」
「そうか。となると、画像の方も同じことが言えるんだな?」
「ええ。何しろ、どちらとも精神に入り込んできていましたからね」
 草間が煙草の煙を吐き出す。ゆらゆらと、白煙が天井へと昇っていく。
「また携帯電話を壊したりすれば、とりあえずは大丈夫だろうな」
「そうでしょうね。ですが……とりあえず、終わるだけです」
 紫桜はそう言ってため息をつく。前々回と前回、結局解決したのは依頼として受け取ったものだけだ。
 実際には、もっと大勢の人間が同じような状況に陥ってしまっているはずだ。
(根本的に解決しなければいけませんね)
 ぐっと、紫桜は拳を握り締める。表面的に、一時的に何とかするのではない。根本から、なんとかするのだ。
「では、空き家から行ってみます」
 紫桜が言うと、草間は「空き家からか?」と尋ねる。
「てっきり、病院から行くのだと思ったが」
 草間がそう言うと、紫桜はゆっくりと首を振る。
「携帯電話をいじっている時ならばともかく、そうではない時に意識を失っています。という事は、その空き家に何かあるはずです」
「なるほどな。……まあ、気をつけていって来い」
 草間の言葉に、紫桜はこっくりと頷き、興信所を後にした。
 町外れにあるという、空き家へと向かう為に。


 青年が話していた空き家は、あたりに何も無い場所にぽつりと存在していた。周りは全て空き地に囲まれている。
「こんな場所があったんですね」
 紫桜は苦笑し、あたりを確認する。特に何かの力を感じるわけではなく、ただ空き家だけがぽつんと建っているだけだ。
(それでも、慎重に行きましょうか)
 ふう、と一つ息を吐き、紫桜は中へと踏み入れる。中は昼間だというのに薄暗く、荒れ放題になっている。人が住まなくなって何年だろうか。人が住まないとあっという間に荒れてしまうものだとはいえ、その空き家はずいぶん古いものに思えた。
「霊は、いないようですね」
 紫桜は辺りを見回しながら、呟く。霊の気配は見えない。アプリや画像を持っている事によって、力の磁場が発生するのかもしれない。
(前も、そうでしたからね)
 画像を消去しようとすると、微弱だった力が尤も満ちた。それは、間違いないのだから。
 紫桜はふう、と息を深く吐き出す。アプリや画像が無ければ、磁場が発生しないのかもしれない。だがそれでも、何らかの気配があるはずだ。
 全く何も無いところに、磁場が発生するとは考えにくい。
「それでも、何かしらの媒体があるはずですね」
 紫桜は呟き、空き家の中を進む。小さな声で「お邪魔します」と呟き、土足のままあがった。靴を脱ぐ必要は、ないだろう。荒れ放題になっている割に、床はぎし、と軽くきしみはするものの、おおよそしっかりしている。うっかり踏み外してしまう事はないだろう。
 空き家は一階建てだ。間取りだけならば、ちょっと昔の日本家屋といったところだろうか。廊下が無く、仕切りをはずせば一つの大きな部屋になるようになっている。端のほうには台所と風呂場があった。更に奥へと続く渡り廊下があり、小さな小屋のような場所に繋がっている。おそらくは、便所だろう。
「肝試しをして、帰ろうとした時に倒れたんでしたね」
 依頼人である青年の言葉を、紫桜は思い返す。ならば、この家を一通り見たはずだ。紫桜は少しだけ迷ってから、一応便所も確認した。つん、と異臭が鼻につくだけで、特に何も見当たらない。
 足早に戻り、風呂場と台所を確認するが、やはり何も無い。あってないような襖の陰から大きな部屋を除く。ぼろぼろになった畳が、痛々しい。
「あ」
 紫桜は何かに気づき、ゆっくりとそれに近づく。
 仏壇と神棚だ。
 同時に二つを置いているあたり、日本らしいように思えた。曖昧だと思われがちだが、それはある意味寛容さを指し示しているとも言える。
「まだ、こんな風に残っているんですね」
 仏壇も神棚も、思ったよりも綺麗だった。ぼろぼろの中にぽつんと佇む姿は、逆に禍々しく思えるが。
 右に神棚、左に仏壇。
 紫桜はその間に立って二つを見た後、何事もない事を確認してから踵を返す。
「……神棚、仏壇……」
 紫桜は小さく呟き、再び振り返る。相変わらず、二つともそこに佇んでいる。
「最初の天使は、分身と言っていましたね」
 ゲームアプリ『天使の卵』から出てきた天使は、自らを分身と名乗った。何の分身かは、答えはしなかったが。
「守護神は、道を教えるのだと言っていましたね」
 『おみくじメール』の画像である守護神は、堕落した世の中を正すために道を教えるのだと言っていた。その道は、酷く不愉快をもたらすものであはあったが。
「似ている気がしますね」
 神棚や仏壇は、信仰する為の本体の代わり。分身といえなくも無い。そしてまた、信仰とは道を切り開く事だ。正しいと思われる道を、指し示す事だ。
 更に言えば、全く異なる神道と仏教の二つが混在するこの場所は、天使と守護神という異なっていつつも同じような事をしているという存在と、酷似していた。おそらくは、この空き家の中で、一番。
「ここ、なのですか?」
 ぽつり、と紫桜は呟く。
「ここが、そうなのですね?」
 疑問は、確信に近い。
 紫桜は大きく息を吐き出し、呼吸を整えた。磁場の中心が、今いる場所以外に存在するとは到底思えなかった。


●舞

 花弁がごとく、舞いて宴を始めよう。


 しん、と静まり返っている。この空き家は、自分より他に誰もいない。そしてまた、あたりに家は殆ど無い。
 この辺りにいる人間は、自分以外におそらくは無い。
 紫桜は、ポケットから以前真っ二つにしてしまった携帯電話を取り出す。アプリを譲り受けたが、邪気を吹き飛ばすために犠牲にしてしまったのである。
(もしも、まだこの携帯電話に残っているのならば)
 キイワードは、アプリか画像を持っている事。それが、磁場の発生にも繋がるのだ。
(邪気は吹き飛ばしましたが、それでも残っているのならば)
 ほんの少しだけでいい。ただそれだけで、この場所に磁場を発生させる手助けとなりうるのだ。
 紫桜は、壊れている携帯電話を仏壇と神棚のちょうど中間あたりに置いた。磁場が発生するであろう中心におけば、鍵として存分に力を発揮する可能性は高くなる。
 じっと見守る中、携帯電話に光が灯った。
 普通に考えれば、ありえない話だ。すっかり壊れてしまった携帯電話に光が灯る事など、現実に起こる話ではない。
 それなのに、光が灯った。
「来ますか」
 紫桜は小さく呟き、武道の構えを取る。既に、携帯電話に灯ったのは光だけではなかった。
 過去に二回、対峙した禍々しい邪気の磁場。
 それが目の前の携帯電話を中心にして発生していた。異なる二つの、それでも似通った存在たちが交差する場所。
 紫桜が構えを取ったまま目の前を見据えていると、光はやがて一つの人影となった。
「あなたが、光ですか?」
 人影はゆらゆらと揺れ、やがて幼い子どもの姿となった。性別は良く分からない。だが、その姿からは似つかわぬ程の禍々しさを纏っていた。
 子どもは紫桜をじっと見つめる。深淵でも見ているかのような、深い深い虚のように思えた。意思というものが見えず、ただ紫桜という存在を捉えているだけ。
「この世は、本当に正しいのか」
 ぽつり、と子どもが呟く。
「この世は、在っていいのか」
「その答えを出すのは、決してあなたではありません」
 紫桜は子どもを睨みつけ、構えを崩さない。見た目は子どもだが、今までに退治してきた天使やら守護神やらとなんら変わりの無い気を纏っている。
 否、もっと禍々しい。
「繰り返し問う。問うたび、答えはこの身を蝕む」
 子どもはそう言い、くつくつと笑う。にたりと笑ったままの表情は、背筋をぞっとさせる。
 深い深い、闇。
 逃れられぬ、負の気。
 そういったどろりとした気が、磁場が、支配していた。子どもを中心にし、ぐるぐると渦を巻いているかのように。
「電波、は。簡単にこの問いを、繰り返させた。今の、この世の、在るべきかを」
 子どもは、ふっと笑うのをやめた。そしてじろりと紫桜を見つめる。吸い込まれてしまいそうな、飲み込まれてしまいそうな、泥沼のような瞳。
「正そうとしても、正そうとしても、上手くいかない。修正も、できぬ」
「俺は、あなたがどれだけ偉い存在かは知りませんが……酷く、不愉快です」
 紫桜はきっぱりと言い放ち、じろりと子どもを睨みつける。
「光と称し、携帯を通じて一方的に自分の主張を押し通す。それが、とても不愉快です」
「光……!ああ、ああ。光と、なる筈だったのに」
 子どもはそう言い、けらけらと笑った。目は笑っていない。虚のまま、何処を見ているのかも分からぬ。
 そうして、しばらく笑ってから、じろりと紫桜を睨んだ。
「それを、阻んだ」
「違います。俺はただ、あなたのやり方に反発をしただけですよ」
 紫桜はそう言い、子どもを睨みつけたまま構えを取る。
 邪気を祓う、古武道の構え。
「あなたの主張は、子どもの我侭や口だけの文句と何ら変わりません。上からものを言って、反発が起きないとでも?」
「阻んだ、から」
「あなたが強く押さえつけようとするだけ、強い反発は必ずあるんですよ」
「阻んだから……!」
 子どもはそう言い、紫桜に向かって地を蹴った。紫桜は「はぁっ!」と気合を入れ、向かってきた子どもに対して気を放つ。
 紫桜の気に当てられ、子どもは後ろに吹っ飛ぶ。が、すぐに立ち上がって紫桜に再び向かってくる。
「阻むから、阻むから、阻むから!」
「俺が阻まなかったとしても、必ず同じ事は起きる!」
 子どもが放ってくる黒い気の塊を振り払いつつ、紫桜は叫ぶ。そうして、子どもが放った気をそのままやってきた方向に振り払う。
「ぐっ!」
 戻ってきた自らの気にひるんだその瞬間、紫桜は子どもを捉えた。
「もっと、別のやり方を考えるんですね!」
 だんっ!
 紫桜の放った気が、再び子どもを吹き飛ばす。今度は子どもにも構えが無かったため、綺麗に気が子ども全体を捉える事ができた。
 子どもは後ろに飛ばされ、仏壇と神棚のある真ん中辺りの壁に強く打ち付けられる。ばたりと倒れ、動く気配も無い。
 しん、とあたりが再び静まり返る。
 紫桜は小さく息を吐き、子どもに近寄る。すると、動く気配も無かった子どもがゆらりと起き上がる。
「……いいだろう。少しだけ、猶予を」
 子どもはそれだけいうと、にたりと笑って、ふっ、と消えてしまった。
「猶予、ですか」
 紫桜は苦笑する。最後まで、上からの言い方だった。
「一体、何者だったんでしょうね?」
 そう呟き、紫桜は仏壇と神棚の中間地点においていた自分の壊れた携帯電話を手にする。もう、光は灯っていない。
 そうして、あたりは再びしん、と静まり返ってしまうのだった。


●結

 儚き光よ、愚かな明かりよ、雅な灯火よ。


 紫桜は提出するレポートを手にし、草間興信所を訪れた。
「意識不明だった人たちは、無事に起きたらしいぞ」
「そうですか」
「ああ。何も覚えてはいなかったようだが」
 草間はそう言い、煙草に火をつける。ふわり、と白煙が天井に昇る。
「アプリや画像は、どうなったんでしょうか?」
「消えていたみたいだな。それも、それらを自分達が持っていた事すら覚えてないらしい」
 すっかり消していったのだ。携帯電話からも、記憶からも。
 紫桜はその手際のよさに思わず苦笑した。
「一体、なんだったんだろうな」
 草間はそう言い、コーヒーメーカーからコーヒーをマグカップに注ぎ、紫桜に手渡す。紫桜は「どうも」と言ってそれを受け取り、一口すすってから口を開く。
「俺は、あれは神と呼ばれるものだと思うんです」
「神?」
 怪訝そうな顔をする草間に、紫桜はかまわず頷く。
「曖昧な定義でしかありませんが。上からの物言いに傲慢な態度、挙句の果てに猶予を与えるなどといった事を言う辺りから、何らかのきっかけがあればこの世を壊そうとする神なのではないかと」
「神、ねぇ」
 草間は苦笑する。スケールが大きすぎて、妙に可笑しい。紫桜もちょっとだけ笑い、コーヒーを口にする。
(もっとも、神だとしても従事する気はありませんが)
 道は、自分で切り開くものだ。決して、上から押し付けられるようなものではない。たとえ、相手が神だとしても。
「にしても、また現れそうだよな。何しろ、猶予を与えられただけなんだから」
 草間がそう言うと、紫桜は「構いませんよ」と言い放つ。
「俺は、猶予に甘んじる事はしませんから」
「そうか」
 紫桜の言葉に草間はそう答え、続けて小さな声で「ま、ほどほどにな」と付け加えた。
 紫桜はそっと微笑み、マグカップのコーヒーをぐっと飲み干すのだった。

<ほろりと苦味が後に残り・了>


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 5453 / 櫻・紫桜 / 男 / 15 / 高校生 】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度はゲームノベル「魂籠〜花宴〜」にご参加頂き、本当に有難うございます。
 第一話「雪蛍」と第二話「月戯」の結果を反映させつつ書かせていただいております。そして、この「花宴」を以って、完了となります。最後までお付き合いくださいまして、有難うございました。
 一話完結でありつつも緩やかに繋がっているという世界を、少しでも楽しんでいただけましたら光栄です。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。