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<東京怪談・PCゲームノベル>


さびしさ、あたたかさ、やくそく

 田中裕介はいつものように仕事をし、からかわれ、普通の日常を送っていた。そんな中、何となく不安を感じることがある。其れが何に対して不安なのか分からない分、厄介だ。
「疲れているのでしょうか?」
 と、首をかしげるわけだが春のうららかさに眠たいだけだろうと、自己完結してみる。
 
 ――あいたいのう

 と、何か声がしたが、裕介は空耳と言うことで片づけた。

 彼が就寝した時、彼が起きる。
 田中裕介と契約したアーティファクトの大鎌。“彼”が意志をもてる数少ない時間だ。
「花見には逢えなかったのう」
 と、ため息をつく。
 クローゼットから、着流しをとりだし、彼は着替えた。
 長谷神社に向かうために。

 もう、桜は散り、緑を帯びてきている。昼間ならばツバメを見ることも出来よう。
「これで何度の春を越したのか?」
 と、彼は言った。
 長谷神社に着いた彼は、
「夜分申し訳ない」
 と、呼び鈴を鳴らす。
「……なに、ゆう……ちゃんじゃないわね。エロ仙人。帰ってください」
 と、ジト目で受け答えするのは長谷茜。
 気配ですぐに分かるというのもすごいことだが、対応もすごい。
「まったく、相変わらずつれないのう」
 と、じろじろ大鎌は茜を見る。
「まだ子供と言うことか、かっかっか」
「うるさいわね! お気に入りなんだから! いいじゃない! で、何のようなのよ!」
 怒り出す茜。
 ケタケタ笑いながら大鎌は言う。
「なに、静香殿は有られるかと」
「……ちょっかい出すの? まったく、裕ちゃんと同じ、いやそれ以上のエロだわ」
「ばかたれ、裕介は見境ないが、わしはおまえみたいな若造にしか手をださんわい。年上や同年代に対しての礼節をわきまえておる」
「どこが! セクハラじじい! 何年“存在”していたとしてもその顔じゃ18年かそこらじゃない!」
 “その顔”というのは、田中裕介のことを指しているらしい。
「なにげにきつい言い方するのう、茜よ」
「それはそうよ、どこかで又、誰かをナンパするんでしょう」
「たわけ。其処まで軟派ではないわ……まあ、“裕介”はアレだが……うう」
 さすがに宿主が責め立てられるのは忍びない。協力関係故のジレンマ(?)かもしれない。つまり茜が言いたいことは、この大鎌の下心の影響があるので其れを抑えて見ろと言っているのだ。何とも痛い話だ。責任は取らなくては、と思い始める。
「ご近所迷惑ですよ、茜」
 巫女さんが怒鳴り散らすところで、静香が止めに入った。
「このあたりに人が住んで無いじゃない 静香」
「それでもです」
 静香が茜を怒る。
「これはどうも、お久しぶりです」
 静香が姿を現しお辞儀をした。
「うむ、久方ぶりじゃ」
 挨拶する彼。
 普段見せない笑みを見せる静香。
「……! 全くこれのどこが良いのかしら? 全く ごゆっくり!」
 と、茜はずんずん家の中に戻っていった。
「済みません。茜には後できつく……」
「なに、嫌われているのは分かっておる。気にするな」
 と、彼は苦笑した。


 二人は純真の霊木の下で立ちながら会話する。
「花見の時は一緒にいたと思っていたが、調子はどうなのじゃ?」
 と、彼は静香に色々聞いた。
 静香は、つい最近起こったこと。大事なこと。
 そして、自分がいなかったわけではなく、遠くで桜を見ていたことなどを話していた。
「わたくしは茜が心配なので」
「今となって、母子のようなものか?」
「はい、どちらかというと、姉妹のような感じですが」
 と、茜や愉快な仲間達の関係を話す静香は、とても嬉しそうだった。
 長く、特定の人しか関わらないで“存在”している木の精霊。
 呪われた力を持っても、悪でない武器。
 どれだけ長い間生きていたかわからない。
「わしは、時期を逃したが、おぬしと一緒に花見が出来ずに寂しかったわい」
 と、彼は自嘲気味に言った。
「そ、其れは申し訳ありません。あの、それに……一緒に……花見が出来なかったのは……」
 と、静香が言いかけたところ。
「いや、今のことは忘れてくれ。こやつ、つまり人間の影響もあるのだろう。うむ」
 彼は首を振った。

 寂しい。そんな感情。
 それは、裕介の人間としての感情だ。
 儂は、私は、そういうモノではない。

 大鎌はそう、心の中で想いを抑えようとした。

 ふと、自分の頭に柔らかいモノがふれる。
「あなたと田中さまは一つであります。なので、片方を否定しないように」
「……静香殿……」
 静香の顔は見えない。
 なにせ、彼は胸に抱かれているのだ。
 心地よい草の香りに、暖かい彼女の体温。
 しばらく、二人はそのまま、動くことはなかった。


 深夜3時ぐらいになって、
「今日はせわになったのう」
「いえ、お会いできて嬉しいです」
「またくるが、いいか?」
「はい、もちろん。茜は機嫌を悪くするかもしれませんが」
「かっかっか ん?」
 彼は静香が小指をたてて差し出してきたので、
「なんじゃ?」
 と、訊いた。
「指切りです」
 静香はにこりとほほえみ、答える。
「分かった良かろう」
 と、指切りをする。
 ――人間くさいことだが、これも又良いな。
 彼はそう思った。
「では、またのう」
 と、二人は再会を約束し、別れた。

 春であるがまだ寒い夜。
 しかし、二人の心は暖かかった。


END

■登場人物
【1098 田中・裕介 18 男 何でも屋】

【NPC 静香 精霊】
【NPC 長谷・茜 学生/巫女】


■ライター通信
 滝照直樹です。参加ありがとうございます。
 静香は何を思っているのでしょうか?
 気になるところでありますが、何か大胆でしたねぇ……。

 また機会が有ればお会いしましょう。
 滝照直樹拝

 20060418