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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


拾ってください

 ある日のこと。
 ふと、外で物音がした気がして草間武彦は興信所の扉を開けた。
 と、何かがドアにぶつかった――
「ん?」
 ドアをそれ以上開けないようにして、すべり出るように外へ回った草間は――硬直した。

『拾ってください』

 そう書かれた紙とともに、そこにいたのは、

「あ、赤ん坊……!!?」

 歳の頃、まだ一歳にも満たないだろうか――

「……の、ぬいぐるみ……」

 かごに入り、人間の赤ん坊並の大きさに作られた――赤ん坊型ぬいぐるみが、草間を見上げていた。

     **********

「……ぬいぐるみ??」
 興信所の事務員シュライン・エマは、草間がおろおろしている傍からドアの外をのぞいてきょとんとした。
「ちょっと待ってね。今確かめるから……」
 草間を押しのけ、ぬいぐるみを抱き上げる。縫い目が背中にある。衣服は本物の赤ん坊用のもののようだ。小物は……かわいらしい靴を履いているくらいだろうか?
「うーん……どういうことなのかしら」
 シュラインは首をひねり、「とりあえず……将来のために色々練習してみる? 武彦さん」
「しょ、将来……」
 草間が赤くなる。
 シュラインはいたずらっぽく笑って、
「依頼でお子さん扱うことになったときのために、とか。練習の理由はたくさんあるわよ」
 と言った。
「わわわ分かった、とりあえず……拾おう」
 草間はわたわたとぬいぐるみを抱き上げたシュラインのために事務所のドアを開け、それから電話へと駆けていった。
「こ、こういうときにこそ助っ人を……」
「武彦さん、落ち着いて」
 シュラインは母性本能でも目覚めたのか、ぬいぐるみを抱く手も優しい。
「ぬいぐるみだけあって、ふかふか気持ちよくてかわいらしい……」
 と、頬に頬ずりしたりしている。
 草間は電話を終えた後、シュラインに「おかしなところはないか?」と聞いた。
「そうねえ……事務所に置いたってことは本当に赤ん坊霊が憑いてる可能性もある?」
「おいおい、やめてくれそういう話は」
「ごめんなさいね。人形じゃなくてぬいぐるみだと、子供向け玩具っていうより供養のために縫ったというか、そういう印象受けちゃって」
「そりゃまあ……」
「突然事務所前に置かれちゃって。寂しいわよね」
 シュラインは大切に大切に抱っこして、軽く揺らしたり目を見つめてみたりして反応があるかどうかをたしかめた。
 反応はない。どうやら、本当にただのぬいぐるみであるらしい。
「武彦さんも抱いてみる?」
「え、えあ?」
「ほら、落っことさないでね。首は据わってるけど、まだまだ弱い赤ん坊だと思って」
「シュ、シュライン」
 シュラインは嬉々として草間にぬいぐるみを抱かせた。自分たちの子供代わりだと思っているのかもしれない。
 草間はシュラインにレクチャーされるままにぬいぐるみを抱いた。
 ……ぬいぐるみのつぶらな瞳に見つめられ、何だか情けない気分になった。
 と――
 バタン! と勢いよく事務所が開いた。
「おっちゃん、久しぶりーーー!」
「おっちゃんじゃない!」
 草間は思わずくわえ煙草を吹き飛ばして怒鳴った。
 シュラインが、吹き飛んでいった煙草を慌てて拾いにいった。
「そんなんええやん。遊びにきたでー」
 とけらけらと笑うのは十歳にも満たない少年、門屋将紀(かどや・まさき)。時たま遊びにくる子供である。
 そんな将紀は、ふと草間が抱いているものに目をやって、
「ん? 何やそれ?」
 それが赤ん坊の形をしているのを見て――
「ま、まさかおっちゃん、隠し子おったん!? その子のお母ちゃん誰や!?」
 仰天して、わあわあ騒ぎ出した。
「ま、待て、よく見ろ! これはぬいぐるみだ!」
「へ?」
 草間が慌てて将紀の前にぬいぐるみを差し出す。
 将紀はおそるおそる触って、そのふわふわとした感触を確かめると「なんや」と息をついた。
「ぬいぐるみかいな。ほんまもんや思たやないか。脅かさんといてぇな」
「違います!!!!」
 開けっ放しだった事務所のドアから、甲高い声が響いてきた。
「それはあたしと草間さんの子なんですっ! そんな、ぬいぐるみじゃないかなんてひどいです!」
「へ?」
 全員がばっと振り向いた。
 そこに、十代半ばを少しすぎたほどの、茶髪の少女がいた。胸元でぎゅっと両手を握り合わせ。
「草間さん、私花嫁修業も終わりました! もう、いつでもお嫁にいけます!」
「か、葛城!?」
 葛城(かつらぎ)ともえはすたすたすたっと草間の傍までやってくると、ぬいぐるみを奪い取るように受け取った。
「はーい、よちよち。名前は草間ともっていうのよね、ともちゃんはね。ああこんなにかわいい。口のところとかお父さんにそっくりよね。よちよち」
「か、葛城……?」
「え、なに、この姉ちゃんと結婚すんのん? おっちゃん」
 将紀が真剣に聞いてくる。
 シュラインの瞳が燃えていた。
「ま、まさか」
 シュラインの視線に怯えながら、草間はぶんぶんと首を振る。
「葛城! 冗談はそこまでにしとけ……!」
「葛城じゃありません、あたし草間です……! 新妻です、シュラインさんもそこのお子さんもよろしくお願いします!」
「ボクは門屋将紀やで。あんた、草間さんの奥さんやの?」
 将紀がきょとんとして訊いた。
「ええ!」
 張り切って答えるともえとは対照的に、
「ふふっ、かわいいぬいぐるみよね。ねえ武彦さん、このぬいぐるみどうする?」
 シュラインがごうごうと背後にオーラを立ちのぼらせながら、ぬいぐるみをともえの腕から奪い去った。
「せや。その子どうしてここにおるん?」
 ――かくかくしかじか。話を聞いて、将紀はふうんと鼻を鳴らした。
「その子どうするん? 元の場所に戻すん? そら可愛そうや。ぬいぐるみとは言え、本物みたいやし」
 つんつんシュラインの腕の中のぬいぐるみの頬をつつきながら、将紀は言う。
「ぬいぐるみじゃありません……! れっきとした草間さんとあたしの子です!」
「わ、分かったから葛城、落ち着け」
「ああ、分かってくれたのねあなた……!」
 ともえは草間に飛びかかって抱きついた。
 草間はよろけて、がんと近くの壁に頭をぶつけた。
「武彦さん!」
「おっちゃん!」
「あああなた……! ごめんなさいあたしのせいで……!」
 ともえは慌てて草間の頭に手をやって、優しく撫でる。
 草間はシュラインの視線を気にしながら「いいっていいって、大丈夫」とともえを押しのけた。
 ともえが、ふえっと泣きそうになった。
「あなた……あたし、迷惑?」
「いや、そういう意味じゃなくてな……」
「あなた!」
 ともえはもう一度草間に抱きついて、草間はふたたびごんと壁に頭をぶつけた。
「あんた、いい加減にしなさい!」
 シュラインの我慢が限界にきて、怒鳴りつけたそのとき――
「こら」
 まだ開けっ放しだった興信所のドアから、静かな声が聞こえた。
 草間のぼんやりとしていた目が、ぱっと開いた。
「冥月!」
 ――黒冥月(ヘイ・ミンユェ)何の因果か草間と知り合い、そのままたまに草間の手伝いをしにくる腕利きの女性である。
 しかしいつまで経っても変わらないのは草間の態度で――
「男の友情で来てくれたか! まだ電話してから十分しか経っていない……!」
「誰が男だ。お前があんまり切羽つまった声で電話してくるから……何事かと思ったんだが」
 冥月は事務所を見渡した。
 ぬいぐるみを抱えているシュライン。そのぬいぐるみをつついている少年。草間に抱きついている少女。
 どこをどう見ても、切羽つまっていない。
「おい。誰か説明しろ。どれが問題なんだ」
「どれもよ、黒さん」
 顔なじみのシュラインがオーラを立ちのぼらせながら言ってくる。
「……。じゃあ、事の発端は」
「このぬいぐるみや!」
 関西弁の少年がシュラインの手からぬいぐるみを抱き上げた。
「このぬいぐるみが、この事務所の前に『拾ってください』って置いてあったんや。そしたらこっちの姉ちゃんがな、このぬいぐるみはおっちゃんと姉ちゃんの子供やゆーて」
「草間との子供……?」
「違う! 断じて違う!」
 草間はぶんぶんと首を振ってくる。
「………」
 冥月はつかつかと草間に歩み寄った。
 そして、「どけ」と半ば草間を押し倒しているともえを押しのけた。
「ああ、さすが男の友情!」
 などと感激している草間を引っ張り上げ、
「あのな草間」
 手を取ったままひねり、
「こんなことで」
 足同士をからめ、
「呼ぶなと」
 頭下げさせ、そこに足を引っかけ、
「何度言えば分かる!」
 ――容赦ない卍固め。
「ああ、私の主人に何をするの……!」
 ともえがきゃあと悲鳴をあげる。
「待て、待て、冥月……っギブアップ!」
「卍固めじゃ不満か? 十字固めでもいいが」
「こちらからしたら真剣に困ってるんだーーー!」
 どんどんとギブアップの意思を示そうと床を叩く草間を思う存分痛めつけてから、冥月はようやく草間を解放した。
「よかった……! あなた!」
 ともえが再び草間に抱きつく。
 草間は卍固めの痛みが消えないまま、再び壁にごんと頭を打った。

     **********

「武彦さん、ぬいぐるみとは言え赤ん坊よ。ほら、大切にしましょう」
 ともえを完全無視し、シュラインはぬいぐるみを将紀から受け取った。
「手をにぎにぎ。――わ、柔らかくて気持ちいい」
 自分で見本を見せるつもりでやってみたら思いの外ぬいぐるみが柔らかくて、シュラインは驚いた。
「本物の赤ん坊の手の柔らかさとは違うけれど……これもいいわね。ほら、武彦さんも」
 草間はおそるおそるぬいぐるみの手をにぎにぎする。
「たしかに……何だか、父親の気分になってくるな」
 そんなことをつぶやく草間に、
「傍に置くだけでもやってみましょう」
 とシュラインは人肌のあったかさのミルクを作ってみたりした。
「シュライン……」
「私も、お母さんになった気分だわ」
 この子は女の子よね――ともう一度たしかめると、リボンや花飾りを持ってきて飾ってあげたり。
「だっこして、子守唄歌ってみましょうか」
「歌はお前に任せるよ」
 草間は言った。
 シュラインは微笑んだ。
 そして、静かに口を開いた。
 伸びやかな声が、優しい旋律の甘い子守唄を奏でる。
 ――シュラインは歌がうまい。音声に関しては元々人並みはずれた才能があるが、それにしても単純に言って歌がうまい。
 柔らかく、甘く、切ない子守唄――
「それなら……そいつも気持ちよく寝られるよ」
 言った草間は――
 自分自身があくびをしていた。
「武彦さんが寝ないでよ」
 シュラインは苦笑しながら、腕の中のぬいぐるみを優しく揺らした。
「いい子ね……ねんね」
 穏やかに言う声は、母親のそれそのものだった。

     **********

「葛城が熱を出したんだ」
 色々と面々にやられてしまった草間が、ボロボロになりながらソファに寝かせたともえを示す。
 シュラインはそれを一瞥して、
「だからおかしなことを口走っていたのかしらね」
 冥月がソファに近づいていき、ともえの額に手を触れる。
「うん? これはかなりの高熱じゃないか?」
「そう思う」
「なんや、ねえちゃん熱だしとんのか」
 しゃーないねえちゃんやなあ、と将紀が腕を組んだ。
「そないで歩き回ったら余計熱出るで。熱出したときは安静が一番や」
「そうね」
 シュラインが毛布を持ってくる。ついでに濡れタオルも持ってきて、丁寧にたたみともえの額に乗せようとした。
 と、
 がばっとともえが跳ね起きた。
「――あたしと草間さんの子……!」
「まだ言っているの、あんた……」
 シュラインがにらみつけるようにしながらともえを見る。
 ともえはソファから起きだした。せっかくシュラインがかけてくれた毛布もその辺に払いのけ、今は草間が持っていたぬいぐるみを再び手に取る。
「ああ、かわいい……あたしと草間さんの子供……」
 ね、あなた、と草間をにっこりと見る。
 草間は引きつった顔で、
「あ、ああ……」
 ――熱を出しているための言動と分かった以上、無下に扱うわけにはいかなかった。
 ともえは草間にすりより、
「あなた、優しい……」
 とつぶやく。
「いいから、お前は寝てろ。子供の世話は俺たちがするから……」
「この子はあたしの子です。あたしが世話します……!」
「いい加減になさい、ほらあんた自分の体が熱いと思わないの?」
 シュラインが横から色んな意味で怒りを含んだ声を出す。
 ともえは、いやいやをした。
「にしても……不思議だな」
 冥月が冷静につぶやいた。
「そのぬいぐるみはどうしてこの興信所にあったんだ?」
「そうよ、本当のお母さん……製作者のことが恋しいものなのかもって気がして……」
 シュラインが草間のほうを向く。
「かご持ってビル入った人影とか、目撃した人がいないかしら。このコ置いた人さがしたいわね、武彦さん。置いた理由も確認したいもの」
「ボクの推理ではな」
 将紀がえっへんと胸を張り、「犯人は手芸店の人やで! こんな本格的なぬいぐるみ作れるんやさかい」
「置いた理由がはっきりしないな……よりにもよってなぜこの興信所だったんだ?」
 冥月が首をひねる。「たしかにここは何でも屋だが……」
「探偵だ!」
 草間が悲痛な声で叫んだ。しかし探偵とは、つまるところ何でも屋に近い。
「ぬいぐるみの処分に困って置いていったか?」
「それ、ありそうね」
「これだけリアルに作っちゃ捨てられへんよなあ」
「ぬいぐるみじゃありません! あたしと草間さんの子です!」
 ともえは叫んだ。「間違いなくあたしが作ったんです、あたしと草間さんの子です!」
 ――ん?
「今……何か……引っかかる言葉を聞いた気がするんだが……」
「私もよ、武彦さん」
「私もだ、草間」
「ボクもや、おっちゃん」
 ――よもや。まさか。
「おい葛城……」
「ともえって呼んで、あなた」
「……その子はお前が作ったのか?」
 ともえはぽっと頬を染めた。
「そんなこと……人前で言わないで……」
 そんなことを言うともえの指先に――
 いくつもの、ばんそうこう。
「さっき見たときに思ったんだけどな」
 冥月がぽつりとつぶやいた。
「そのぬいぐるみは手作りだ。ところどころ……妙に雑なところが……ある……あまり慣れた人間が作ったものじゃない……」
 ………………
「ええと……」
「葛城さん」
 シュラインが優しく語りかけた。「その指の怪我、どうしてできたの?」
 ともえがぬいぐるみを抱いたまま、自分の手を見下ろし、
「この子を作っているときに……やっちゃいました」
 えへっと笑った。
「―――。ああ――」
 冥月が天井を仰いでため息をついた。
「こんなくだらんことで、私を呼ぶな……草間……」
「……すまん」
 草間が珍しく素直に謝った。
「なんや、ねえちゃんが作ったんかいな、そのぬいぐるみ」
「ぬいぐるみじゃないわ……!」
「もういいわ」
 シュラインがにっこり笑った。「その子はあんたが作った。それでいいでしょう」
 ともえが顔を輝かせた。
「草間さん……! とうとうあたしたち公認になれたのね……!」
「あー……」
「公認してあげるから、とりあえず寝なさい。大切な赤ん坊もだっこしてね?」
 シュラインがともえをソファに導く。
 ともえは他ならぬシュラインに認められた嬉しさからか、素直にそれに従った。
 ソファに寝たともえに、シュラインが毛布をかける。
「あなた……こっちへ来て」
 ともえが甘えるような声で草間に言う。
「………」
 草間に選択権はなかった。相手は病人だ。
 近づくと、ともえは手を伸ばしてきた。
 仕方なく、草間はともえの手を握ってやった。
「……許すのは今回だけですからね、武彦さん」
 背後からぼそりとつぶやかれたシュラインの言葉が恐ろしかったが――
 草間に手を握られて、ようやく安心したのかともえが目を閉じる。
 もう片方の腕には、大事そうにぬいぐるみを抱いたまま――

     **********

 ともえの家へ連絡を入れ、それから数日間ともえを興信所で預かった。
 高熱だけに、そう簡単には下がらなかったのだ。
 熱にうかされたともえは、訳の分からない言動をくりかえした。
「おなかを痛めて産んだ子なの」
 とか、
「指が痛かったわ」
 とか。
 シュラインはかいがいしく世話をした。――早く治って出て行ってもらいたかったらしい。
 草間も熱にうかされたともえに言われるままに、優しく優しく接した。
 冥月は結末が気になって、しばしば様子を見に来た。
 将紀はぬいぐるみが気に入って、毎日遊びに来てはぬいぐるみと戯れていった。
 そして――
 熱がさがり――
「え、あたしなんで草間さんの事務所に……はっ。あたしたちついに……!?」
「そんなわけないでしょ」
 ぺしんとともえの後頭部をシュラインが軽くはたく。
「なんだ。熱がさがってもこの阿呆に惚れているのは変わらないのか」
 冥月がつまらなさそうに言う。
「このぬいぐるみに覚えはある?」
 シュラインが某ぬいぐるみをともえにさしだした。
 とたんにともえが悲鳴をあげた。
「そ、そのぬいぐるみ……! あたしが夢の中で作ってたぬいぐるみ……!! どうして!?」
「……とりあえず、あんたにあげるわ」
「え、あげてまうんか」
 将紀が残念そうにぬいぐるみを見た。「ボク、欲しかったなあ。妹みたいやったし」
「この子……あたしと草間さんの間にできた子と思って作ってたんです……」
 ともえがぽっと頬を染めた。「でも、夢の中なのに、どうして?」
「いいから。あんたにあげるわ」
「それが一番だろうな」
 冥月が腕組みをしたまま冷めた目でともえを見ていた。
「そうだ、お前にやるから。ともえ」
 草間が真顔でともえにぬいぐるみを押しつけた。
 ともえが顔を輝かせた。
「あたしのことを名前で……! 草間さん!」
「……あ、しまった」
 熱にうかされていたともえがしつこく「名前で呼べ」と言うので、癖になっていたのだ。
 シュラインが一瞬すさまじい目つきで草間を見た後、にっこりとともえに言った。
「ぬいぐるみ、ちゃんと処分してね? もうこの事務所の前に『拾ってください』なんてややこしい置手紙と一緒に置き去りにしちゃだめよ。もうあなたは熱を出していないんだから、これ以上のことをやったら本当に変人よ?」
「え???」
 ともえは目をしろくろさせた。
 ……熱を出しているときのはちゃめちゃ言動を完全に忘れたらしいともえに、全員がため息をつき。
 そして、
「……もう、二度とこんなことはごめんだから……頼むぞ、葛城……」
 草間はぐったりと言った。
 草間のくわえていた煙草から、ぽろりと灰がこぼれた。

 一連のぬいぐるみ騒動は、こうして幕を閉ざしたのだった。
 人間、病気になると怖いぞと、草間にしみじみと思い知らせて……


 ―Fin―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2371/門屋・将紀/男/8歳/小学生】
【2778/黒・冥月/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4170/葛城・ともえ/女/16歳/高校生兼近々新妻?】

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■         ライター通信          ■
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シュライン・エマ様
こんにちは、いつもありがとうございます。笠城夢斗です。
納品が遅れてしまい、申し訳ございません。
シュラインさんに子供はとても似合うと思います。子守唄、きっとお上手でしょうねv
またお会いできる日を願って……