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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


不死鳥を追え! 3

------<オープニング>--------------------------------------

 我々は山に登った
 特定の人にしか見えない幸運の鳥。
 しかし、特定の人というのは不幸か不運を持つモノだけという。
 私が不幸という人は確かにいるが、本当にそうなので悲しいことこの上ない。
 だって、見えるんだから。
 でも、僕も幸運に恵まれたい。明日を見たい。
 なので、ほ、本当はいやなんだけど……冬の富士山に登るのです。
 僕は編集者として記者として頑張らなきゃいけないんですよ!

   三下忠雄の手記より。

 山に登る事になった三下忠雄。
 不死鳥を見てから何故、登山服に着替えて、
 なにゆえ、山を登らなきゃいけないのか……と、とほほとなる。
 しかし、ここであきらめると減棒どころか首になりかねない。
 だから、登るのである。幸運と特ダネをつかむまで
 元旦の初日の出を見に行くというわけではないのだが、
 まあ、汚れきった都会の空気より良いかもしれない


 ただ、彼の体力が続くならいいのだが……

《計画》
「この冬に、富士山を登るのは危険よね」
 シュライン・エマが唸っている。
 この数ヶ月は、豪雪だった。各所で雪による事故、登山遭難が多発しており、専門家が居ない状態での登山は至難を極める。三下が居ることで、更に倍から∞。 この時期は、山小屋は閉鎖されている。よほどのイベントがない限り。
「私、登山経験はありますし、アンジェラ姉さんも居ますからから大丈夫と、おもいますが山は厳しいですからね」
 アリス・ルシファールがそういうが、自分と“姉”だけなら大丈夫、いう限定条件だ。魔法少女に不可能はないが……三下を連れていく事は難しいだろう。
 ――魔法少女ですか?(アリス)
「はぁ……」
「どうしたの? 三下さん」
「もう少し後にしませんかぁ?」
「そうよね、春まで待つのは厳しいけど。まずは誰かガイドが見つかるかどうかよね……」
 シュラインはため息をついた。
 この豪雪な冬でも富士山登山の経験を持つ人は居る。エレベストに登るための訓練をするためらしい。しかし、訓練なのに初心者と同行するというのは難しい相談かもしれないが。結局、他に同行者が居ないので4人となった。
「しっかり計画を立てていきましょう」
 入念にルートを計画し、冬の山でも難しくないルートを探し出した。
 標準的な装備を手に入れ、富士山を登る。
 バスは閉山地区でも可能な範囲まで進んでくれた。
 ごく普通の登山ルートになる。
「気を引き締めていないと、迷いますから気をつけて」
 実際全員健脚ではないので、ゆっくりと進むことにした。
 命綱をつけて、真ん中が三下。先頭がアンジェラでしんがりがシュラインだ。

 5合目までは無事に進んだ。
 問題は……ここからであった。

 下界では晴れていたのに、数メートル先は何も見えない霧。これでも進むしかないと言うのは本当に試練だ。幸い、アンジェラ自身は“生き物”じゃないために大丈夫なのだが、他の3人の体力を削る。徐々に徐々に。
 山小屋は閉鎖しているために、アンジェラに重い荷物を持ってもらいテントをたてた。
 その中で休憩をする。
「ね、三下君」
 シュラインが温めたお茶を飲んでいる。
「しょしょらいんさん……な…んです……すすか?」
 鼻水垂らしながらガチガチ震える三下。
 鼻声になっているのは仕方ない。
「質問考えた?」
「う、まだです」
「やっぱり。あのね、歩いている最中に考えないようにしなさいね。危険だから、ね?」
「あ、はい……」
「ゆっくり、ゆっくり進みましょう」
 夏場の山開きなら良かったのに、と思うシュラインと三下だ。アリスはその辺分かっていない感じである(此処の世界の住人じゃないので)。

《登山の困難さに三下の不幸》
「今休憩の時間じゃないから、はい! 進む!」
「つかれましたよう!」
「仕方ないなぁ」
 と、彼の体力は何故か彼女以下だった。
 おそらく、休む暇もない編集者の運命であった。しかし、小刻みに休憩を入れるとしても、これは休みすぎになる。先ほど6時間は休憩していたのだ。この時期に休む事を多くしても、問題がある。個人差が有るわけだが。
 アリスもシュラインもやっと、8合目と分かる。
「もう少しよ。頑張って! 三下」
「ひいい! 編集長……!」
 声色を変えての叱責で三下は歩く。
「アンジェラ……耐えられる? 大丈夫よね?」
 と、アリスも自分のプログラムに異常がないか心配になってくる。
 とたんに三下が、足を滑らす。
「ぎゃあああ!」
 悲鳴を上げる三下。
 とっさにシュラインは腰を落とし、力を込める。
 先頭のアンジェラはロープを引っ張った。
「大丈夫!?」
「アンジェラ! フルパワー!」
「いやあ! きゃああ! うおおおお!」
 三下は元気な悲鳴を上げている。
 ロープはちぎれず、3人は踏ん張ってなんとか、彼が転げ落ちないように助けることが出来た。このままだったら、全員お釈迦である。
「大丈夫? 三下君」
「ひいい。だ、だいしょうぶ でふ」
 シュラインとアンジェラが彼を起こして、もう少し進んだところで休憩した。
「何度も言ったのに……」
 シュラインがため息をつく。
 つまり、彼がこけた理由は、質問つまり取材内容を考えていたのだ。
 其れはするなと、休憩に何度も言っていたのに……。
 其れが三下と言えば其れまでだが、其れで締めくくることは出来ない。
 休憩をふまえ、シュラインやアリスに怒られる三下であった。


《ご対面》
 頂上まであと少し。
 霧のトンネルから抜けると、雲海が下界を覆い尽くしていた。
「綺麗」
 珍しく、この季節に晴れ。
 頂上から見える方が美しいのだろうが、ここから眺める日の出も格別だった。
「……わああ」
 疲れを忘れるような感動が頂上にあった。
 今は4人以外誰もいない。
 大パノラマの大空。
 言葉に出来ない感動。
 三下は、呆然と立ちすくんでいた。
「鳥さんはどこなんでしょう?」
 と、アリスはきょろきょろあたりを見渡す。
「? アレじゃないかしら?」
 シュラインが指さした。
 火口の底。その場所に鳥が飛んでいる。

『来ましたね おめでとう』
 と、鳥がテレパシーで伝えてくる。
 そして、鳥が近寄ってきた。
『困難を乗り越えた達成感は如何ですか? 運悪き人よ』
 と、鳥は言う。
「綺麗です。なんかすごいです! もう……こあう!」
 彼は感激の言葉を口にして、舌を噛む。
 それでも、取材協力を申し出る三下。鳥は少し考えてから頷いたようだ。
 さっそく、休憩中にメモをしていた質問をする三下とアリスに受け答えする鳥。
「この試練をクリアした人は?」
『あなた方が初めてです』
「まあ! 一番乗りですよ! 三下さん!」
「ぼ、僕が一番? う、うそでしょ!?」
 驚く三下。
「では、この試練に何の意味があるのでしょうか?」
『努力しても其れが報われないことが多いのです。ただ、運が悪いとあきらめるのでなく、またこうした別の景色を直に見て考え直し、努力を惜しまないように頑張って生きていこうという決意を分かって欲しいと思ったのです。それに、私の力を使い祝福を与えるのはこうした場所でのみなのです』
 不死鳥は答えた。
 もっともらしいが、苦労して「おめでとう」だけなら危険など冒したくはないだろう。
 まあ、この景色を見れば分からないわけでもない。
「綺麗ですね」
 雑踏の中で生きている人間。自然の雄大さを見れば、如何にちっぽけかと言うことを思い知らされる。
 ただ、三下は努力をしていないのだろうか?
 只、空回りしているだけか?
 それは、本人のみぞしる。
「あの、不死鳥さん」
 アリスが鳥に尋ねた。
「羽を頂いても宜しいでしょうか?」
「構いませんよ」
 と、鳥は快諾する。
「では、そのお礼に歌を……」
 頂上では、アリスの歌が響いた。

 歌が終わると、不死鳥は姿を消した。


《編集中》
 “我々は山に登った……凍える冬の富士山は危険きわまりない。初心者だけでの登山は……”

 三下は必死に原稿を書いている。
 しかし、アリスやシュラインに、これはこうよと言われて、泣く泣く訂正が続く。更に裏取りをするために動き回らなければならなかった。
 これが仕上がるのは何時のことだろう?
「この取材結果がOK出れば良いですよね。其れが彼にとって最大の幸運もしれません」
「よねぇ……でも彼は変わったのかしら?」
 アリスとシュラインは、必死に仕上げをしている三下を眺めて言った。

 見た目では分からない。何かがあると思う。

“富士山頂は息を呑むように……美しい。我々は……そこで不思議な鳥に追いついたのだ”

4話に続く

■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【6047 アリス・ルシファール 13 女 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】


■ライター通信
 こんにちは、滝照です。新年が明けましたね。
 「不死鳥を探せ! 3」に参加していただきありがとうございます。
 記念品の不死鳥の羽根をどうぞ。
 4話から、何かしら三下に劇的な変化が見られます。
 不死鳥を追え4話はアトラス編集部やあやかし荘で!

滝照直樹拝
20060423