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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「胸部・むね」



 どうして彼女は自分の気持ちを受け入れてくれないのだろうか?
 焔乃誠人はぼんやりと頬杖をついたまま、そう思っていた。
 いつものほうがいいと言われたけれど。
(それじゃあ……ヒナちゃんは俺を好きになってくれない……)
 はあ、と大きな溜息をつく。
 なにがいけないんだろうか。誠人はそれがわからない。
 日無子の言う通りにしたのに彼女はそれも気に入らないようだ。
 日無子以外の女の子を見ないこと。
 けれど無理はしないこと。
 それは決して両立できないことだと、この間わかった。
(うーん……)
 でも、そうだとしたら自分は彼女に好かれる可能性がほとんどないことになる。
(どうしたら……ヒナちゃん……)
 ぼんやりしたままハンバーガーをゆっくりと食べる誠人。完全に、心ここにあらずの状態だ。
 周囲には誠人が喜びそうな若い娘がたくさんいる。ついついそちらを見てしまう。
 ハッとして誠人は頭を振った。
(み、見るのもダメなのかな……)
 側に日無子がいれば、さぞや冷たい目で見てくることだろう。
 それを想像してがっくりと肩を落として苦笑する。
 綺麗で可愛い女の子に目が向くのは男として当然のことだ。だけど彼女はそれではダメだと言った。
 確かに日無子が誠人のように……女性ではなく、様々な男に愛想を振りまいていたとすれば……。
 それは、ちょっと、ヤだ。
 悶々と考えていた誠人はハンバーガーを食べ終えてから再び周囲を見遣る。
 明るく喋っている女子高生たち。中学生もいる。
(かわいいなぁ……)
 今時の若い娘は化粧もするのだから、余計に綺麗だ。
 可愛いアクセサリーもつけるし、香水もつけている。
(……そういえばヒナちゃんは、お化粧とかしてないなぁ)
 化粧などしなくても美人なのだから、する必要などないだろう。
 でも元々が美人なのだから、化粧をすればもっと美人に磨きがかかるに違いない。
(う、うわ……見てみたいかも……)
 想像するものの、どうやら誠人の頭では無理のようだ。イメージがもやもやと浮かぶものの、どうもうまく形にできない。
 化粧をすれば大人っぽくなる、と世の女性はみな言う。では大人っぽい日無子とは?
(うぐ……想像できない…………)
 そうだ。
(悩んだっていいことない! そんなことよりヒナちゃんにアタックするのに時間を費やしたほうが有意義だ!)
 我ながらいい考えだ!
 元々頭を使うことは苦手なのだから、余計なことを考えないほうがいい。思ったように行動したほうが早い。
 日無子にアタックするのはいいとして、何をすれば彼女に振り向いてもらえるかが問題だ。
(考えてみれば……俺ってヒナちゃんのこと何も知らないんだよな……)
 なんだか今さらという感じである。
 誠人が知っている日無子のことといえば、危険な仕事をしていることと、高校に通っていないことくらいだ。
 会うたびに猛烈なアタックをしていたように思うが日無子は自分のことは一切語らなかった。
 オバケを相手に戦っているという日無子。
 誠人は彼女のことが好きだが、自分のことばかりで日無子のことについて訊きはしなかった。
 彼女に振り向いてもらうために一生懸命で。
 新しく店内に入ってきた女子高生の二人組を眺め、誠人は「そうだ」と思う。
 この間の薬のお礼に彼女に何かプレゼントをしよう。
(なにがいいかな……あの二人はピアスしてるけど……)
 シンプルなものなら日無子に似合いそうだが……。
(ネックレス……? それともブレスレット……)
 それほど高いものは買えない。なにせバイトを三つも掛け持ちしてなんとか食いつないでいる状態なのだから。
 だが高価なものを買ったとしても日無子は受け取らない気がする。
「よし!」
 決めた!



 日無子に似合いそうな可愛いブレスレットを購入し、誠人は彼女を探して街のあちこちを奔走していた。
(いないなぁ……)
 もうすぐ夜になる。夕暮れの空の赤さが目に痛い。
 誠人は肩から力を抜き、嘆息する。
 この間……自分が風邪で熱を出していた時。
 その時の日無子の言葉が今も耳に残っている。
(なんだか……恋愛するのを嫌がってるふうにも……みえなくもないけど)
 それとは少し、違うような気もする。
 好きになって欲しくないみたいだ。
(…………そうだよ。考え過ぎだよね。ヒナちゃんは俺を危険に巻き込まないためにああ言ったんだよ)
 そう言い聞かせないと、なんだか不安になる。あまりそのことを考えないようにしているが、ふとした瞬間に思い出してしまうのだ。
 ――――嫌われたかもしれない。
 彼女に嫌われたらどうしよう。誠人はその考えに行き着きそうになると頭を振って追い払った。
 もしもそうだとしたら…………。
(だったら、なんとかして好きになってもらう!)
 気合いを入れ直して誠人は再び走り出した。

 あんなに目立つ袴姿なのに、日無子は影も形もなかった。
 薄暗い裏道を覗き込み、誠人はその度に溜息をつく。
(悪霊とかを相手にしてるって言ってたけど……そういう怪しげなのがどこにいるか俺は知らない)
 本当に日無子と自分は違うのだ。
 誠人は打ちのめされそうになる。
 初めてきちんと自分をみてくれた人なのに。
(俺はヒナちゃんの何を見てたんだろう……)
 ただ日無子と居るのが楽しくて。
 もっと自分を見てもらいたくて。
「…………」
 まただ。どうしたんだろう。
 すぐに暗くなってしまう。
 とぼとぼと歩いていた誠人は、暗い道を向こうから歩いてくる人影に気づいた。
 誠人は目を見開く。
 闇の中から現れたのは日無子だった。
「ヒナちゃ……!」
 探していた彼女が、いま目の前に居る……。
 わけのわからない感動が胸に溢れ、誠人は嬉しそうにした。
「ヒナちゃん! 探してたんだよ!」
 そう言って駆け寄ると、日無子は足を止めた。彼女はちら、と誠人を見遣る。
「なんか用?」
「あのね、この間の薬のお礼に……これ」
 差し出した紙袋を見遣って、日無子は視線を伏せて軽く頭を振った。
「そんなつもりで薬をあげたんじゃない」
「これは俺の気持ちだから。受け取って。きっと似合うよ」
「いい。いらない」
 きっぱりと日無子は断る。
 誠人は悲しそうに眉をさげた。
「…………ヒナちゃんのために選んだんだけど……。安物だから……?」
「そうじゃない。真剣に選んでくれたのはわかるよ」
 冷たく言う日無子を見遣り、誠人は紙袋を持っている手を降ろした。
「どうすればヒナちゃんは喜んでくれるの……? これを訊くのは反則だと思うけど……」
「…………前に言ったのに、あたしを諦めないんだね」
「諦めるわけないよ! 俺はヒナちゃんが好きなんだから!」
「……そう」
 ぽつんと呟く日無子は嘆息した。
「誠人さん、あたしは……あなたが求めるような相手じゃないと思う」
「……どうしてそんなこと言うの?」
「あなたは普通の恋愛がしたいんだよ。あたしじゃ無理」
「そんなこと思ってないよ、俺!」
 なんで決めつける!?
 否定する誠人を彼女は冷たく見てくる。
「あたしは『普通』じゃない」
「そんなこと気にしない。俺はヒナちゃんがいい!」
「それがわかんない。あなたは……確かに何か違うけど、そうじゃない。あたしとは『違う』」
「ヒナちゃん……」
 なんだか、互いに通じない言葉で喋っているような感覚。
 どうして自分の言葉は日無子に届かないのだろう?
「最初に出会った時に言ったけど、あたしは危ない仕事をしてる。それに合わせて生活してる」
「うん」
「だけど誠人さんはそうじゃない。あなたはそういう意味では『普通』なの」
 淡々と言う日無子は苦笑した。
「世間一般の人が見ても、あなたは誰も不思議に思わない存在」
「俺は……」
 自分を『普通』だなんて、誠人は思ったことはない。そういうことを考えたことがないからだ。
 それに、自分を『普通』だなんて言ったのは……日無子が初めてではないか?
(やっぱり……ヒナちゃんはどの女の子とも違う…………)
 それはひどく誠人にショックを与えた。
 それと同時に、小さな恐怖すら。
 彼女のことが好きだ。それは今も変わらない。
 けれども…………自分は彼女を好きになっていいのだろうか……。
「あたしの職業を聞いて、怪訝に思う人のほうが世の中は多い」
「俺はそんなこと思わないよ? ヒナちゃんのことを変に思う人がいても気にしないよ」
「…………あたしは常に闇の中にいる。あなたはそれに耐えられないよ」
「そんなこと……!」
 す、と日無子は一歩進んだ。そして振り向く。
 ちょうど街灯の明かりが届かない場所に彼女は立っていた。闇の中で日無子の色違いの瞳――黄色の眼が怪しく輝いている。
 まるでそこが境界線だと言わんばかりの…………。
「あたし、仕事が終わったからもう帰るの」
「え?」
 いきなりのことに誠人は瞬きをする。理解するまで数秒かかってしまった。
「か、帰る!? 帰るって???」
「実家に帰る。東京での仕事は終わったから」
「そんな!」
 急すぎる!
「待ってよ! 帰っても、また東京に来るんでしょ!? また会えるよね?」
 焦る誠人に日無子は小さく笑ってみせた。
「目的は果たしたから、もう用はないけど」
「目的……?」
 日無子はただ仕事をしに来たのではないのか?
「東京でまた仕事があれば、会うこともあるかもね」
「じゃあ俺が会いに行くよ! ヒナちゃんの家に!」
「……それは無理だね。追い返されるだろうし…………家の場所は教えちゃいけないことになってる」
「……ヒナちゃんに会えなくなるなんて……」
 そんなことって、ない……。
 愕然とする誠人に、闇の中の彼女は囁く。
「あなたがあたしの何をそんなに気に入ってくれたのか、本当に理解できないけど…………あたしはあなたの気持ちには応えられない」
「ヒナちゃ……」
「わざわざアクセサリーを選んでくれてありがとう。じゃあね」
 その声が、とても冷たく響いた。
 ちりーん。
 鈴の音が鳴った。
 刹那、日無子の姿が闇に溶け込むように消えてしまう。
「……………………」
 誠人はただ呆然と彼女が消えた闇を凝視していた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5777/焔乃・誠人(えんの・まこと)/男/18/高校生 兼 鉄腕アルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、焔乃様。ライターのともやいずみです。
 最後まで日無子がけっこう容赦なく……申し訳ないです。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!