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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


百花繚乱・捜査網




 ■Opening■

 全ての天候をシステム管理され、擬似太陽と擬似月が巡るドーム状の不夜城都市――23区TOKYO−CITYは、勿論、雨も降り雷も落ちれば気温は日々変化し、日本ならではの四季を満喫する事も出来る。
 今の季節は春。この日の管理センターから配信された天気予報は晴れ。穏やかな春の日差しに暖かな南風が吹く、絶好の花見日和であった。
 道端には色とりどりの花が咲き乱れ、街中はいつにも増して極彩色に彩られている。
 そんな都会の片隅に、ひっそりと咲く桜の木があった。
 樹齢を重ねたと思しき太い幹に雄々しく広げられた見事な枝 振りの桜の木である。しかし不思議な事に、絶好の花見日和にもかかわらず、その桜の木の下には人影も無く、その前の通りを行き交う者達でさえ足を止めるどころか振り返りもしなかった。
 いや、一人だけいたか。
 今にもゲリラ戦を始めそうな出でたちの男が一人。ジャングルはジャングルでもコンクリートジャングルのこの都会で、場違いにも迷彩柄のアサルトベストをファッションではなく実用的に着こなす司法局特務執行部員――仁枝冬也であった。
 唯一の救いは彼がライフルを持っていない事だろうか。
 但し拳銃は持っていた。
 街中の雑踏を背に、そちらからは見えないように銃を構え、彼は何の躊躇いもなく安全装置をはずす。
 標的は何であるのか。
 その銃口は誰もいない満開の桜の木に向けられていた。
 だが引鉄を引くはずだった指を止め、彼はわずかに首を横に振ると銃を下ろした。
 桜の木の根元に日本髪を結った和服姿の若い女が立っている。透き通るような白い肌は、正しくそれで、彼女の後ろの桜の木まで透けて見えた。

 ―――この世ならざるもの。

 冬也はこの桜の木の自縛霊を調伏しに来たのである。だが逆に女に捕まってしまったのか。
 ただ、女は冬也に向かって言霊を吐き出した。



「あ、あそこのさくら、ひとがいないよー」
 どこか舌足らずにはしゃぎながら、孫瑛は一本の桜の木を指差した。長い黒髪を二つ花飾りで結い上げ、薄紅色の羽衣をまるで天女が纏うそれのように身に纏った何とも愛らしい少女である。と、そこまでは普通の可愛い小学生だろう、が彼女の体は地面からわずか上をふよふよと浮いていた。ちょっとばかし普通と違うらしい、そんな彼女が指しているのは誰もが見向きもせず通り過ぎるだけの桜であった。
 これだけ見事に咲き誇っているにもかかわらず人がいないというのも、そして彼女に言われるまで自分が気付かなかったのも奇妙で、饒蒼渓は切れ長の目を更に細めて不審に桜の木をにらみつける。しかしこれといって危険を伴うような気配は感じられなかった。
「いこう」
 促すように彼の手を引っ張る瑛に、蒼渓は桜の木に向けていたのと変わらない視線を彼女に向けた。とはいえ、彼女を睨みつけているわけではない。単純に感情表現が下手なだけである。それがわかっているのか何事にも物怖じしない性格なだけなのか、瑛は蒼渓が否を言えないような愛らしい笑顔を向けた。
「…………」
 こうなっては蒼渓も手を引かれるまま、そちらへ足を向けるしかないのである。

 そんな二人とは桜の木を挟んだ反対側でも、花見の場所を探す者達がいた。
「絶好のお花見日和ね」
 そう言ってシュライン・エマは空を見上げた。眩しそうに開かれた碧眼はまるで空を映したようだ。
 天候を人が操作する事に多少の抵抗があろうとも、この時ばかりは賛同してしまう。雨が降ってすぐに桜が散ってしまったり、曇り続きでこちらの気分までどんより曇るのではつまらない。それでも普段は外の天候と連動しているのだから、この一週間くらいは花見週間でいいように思うのだ。
 その手には水筒と花見用の重箱が抱えられていた。早朝から腕をふるって彼女が作ったのだ。
 その隣をステッキをつきながらのんびりと歩いていたセレスティ・カーニンガムは、遠くを見やるように額に手を翳しながら言った。
「おや、あそこの桜の木の下が丁度開いているようですよ」
 周りは既に花見客で賑わっていたが、そこだけがポツンと取り残されたように人がいなかった。とはいえ、実際に彼ははっきりとそれらが見えているわけではない。視力のあまりよくない彼はそれゆえに突出した別の感覚でそれらを捉えていたのである。
「よし、場所取りだわ!」
 シュラインがガッツポーズを決めて桜の木へと走りだした。
「しかし妙ですね」
 置いて行かれたセレスティが独りごちる。目の見えない者ほど見えるものがあったらしい。その桜の木の下に、人の気配はないのに、娘が一人立っているような気がしてセレスティは何とも怪訝に首を傾げたのだった。

 そんな彼から少し離れた場所を一人の男が歩いていた。
 いつもは無駄にエネルギーを浪費して走り回っている天下無敵の迷子爺、紫桔梗しずめである。
 しかし今日の彼はいつもとちょっと違うらしい。まるで全くの別人のようにのんびりとした足取りで歩いていた。
「おっと、お嬢さん大丈夫ですか?」
 などと、石ころに躓いた女性に気遣わしげに声をかけるあたりも、何か変な物でも拾い喰いしたのか、と問いただしたくなるような、そんな風情である。
「いややわぁ、鼻緒さん切れてしもぉたぁ」
 緋色のワンピースに白地の着物を羽織ったその女性が、困惑げに鼻緒の切れてしまった木履を足先で転がした。
 すると、今日はいつもと違うしずめがすっと膝を付く。
「わしが直してあげましょう」
 そう言って彼女の手を自分の肩に掴まらせて足を上げさせると、切れてしまった木履の鼻緒を直し始めたから驚きだ。
「あんたはん……」
 彼女はしずめの顔を覗き込んだ。どこかで見た事のある顔だと思われたからだ。それは、テレビに出ている慌てん坊将軍に酷似していたが、彼女が描いたのはそれではない。
「うちの事、覚えたはるやろかぁ?」
 彼女――繰唐妓音が尋ねるとしずめは、彼女の顔を見上げ当惑したように首を傾げた。
 残念ながら、彼は人の顔をいちいち覚えていたり出来るようなタイプの人間ではない。今日がいつもと違っていたとしても彼女が出会ったのが、いつも、であるならしょうがないだろう。
 首を横に振るしずめに妓音は少しだけ残念そうに笑った。
「ほんでも覚えたはる方が、あんたはんらしくあれへんもんねぇ」
 しずめは困ったように肩を竦める。
 思えば、こんな事をするのも彼女が知っている彼らしくなかった。もしかしたら双子の弟とかそんなオチが付くのかもしれない。ミステリアスな男というのもそれはそれで楽しかろう。
 彼の左巻きになっているつむじを見ていると、頭を撫でたい衝動にかられて妓音はその髪に手を伸ばした。
 驚いたように見上げたしずめの頬が照れたように赤らんでいるのに、妓音は噴出すのを堪えるのが精一杯で口元を両手で押さえる。
 ――かいらしぃお人やぁ。
 あちらが慌てん坊将軍なら、こちらは甘えん坊将軍といったところか。同じ顔なだけに、そのギャップに笑いが止まらない。
「どうぞ」
 と、しずめが木履を妓音の前に置いた。
「おおきにぇ」
 妓音はそれを履いて、調子をみるように二・三歩軽やかにスキップしてみせる。
 その足を止めてしずめを振り返った。
 その後ろに一本の大きな桜の木が見える。
「綺麗な桜はん咲いたあるわぁ」
 妓音の視線を追うようにしずめもそちらを振り返った。
「あぁ、そうですね」
 彼を知っている者なら誰もがのけぞったかもしれない、何とも柔らかい笑みで応えたしずめに、妓音は腕を絡ませる。
「ほな、行こかぁ」
「え?」
「お花見やん」
 そう言って妓音はしずめを連れ、その桜の木に向かって歩き出したのだった。

 そこから一本のポプラの木を挟んだこちら側。
 学ラン姿の少年が一人、その桜の木に向かって進めていた足を止めた。
「何をしているんです?」
 尋ねた少年に冬也は顔だけ少年に向けて、無表情に答えた。
「どうやら掴まってしまったらしい」
「……幽霊に、ですか?」
 少年は冬也から桜の木の下へと視線を移す。
 誰もがその存在さえ気付くことのない桜の木。いや、多少霊感のある者ならその存在に気付くだろう。ただ、近寄ろうとする者は殆どいない。冬也のように、幽霊に掴まってしまうからだ。
「幽霊の……初音さんの願いを叶えてあげなくてはいけないようだ」
 わずかに肩を竦めて溜息混じりに冬也が言った。
「わかりました」
 少年は一つ頷く。
 櫻紫桜はその為にここへ来たのだ。
「しかし、どうやって?」
 尋ねたのは、冬也ではなかった。
 振り返った冬也と紫桜の前に立っていたのは、くたびれたスーツ姿のひょろりと背の高い男だった。手には手帳とペンを握っている。二人の視線に慌てたように男はペンで頭を掻いた。
「あ、いや、すまない。僕は日部伸二郎。ライターをしていてね。この辺りに幽霊のいる桜の木があると聞いて来たんだが、さっぱり見つからなくて困っていたんだ」
 伸二郎はそう言って肩を竦めてみせた。彼には霊感が全くなかったのだ。なので普段は霊感のある姪っ子を連れまわしているのだ、今日は掴まらなかったらしい。それで一人でこの辺りをウロウロしていたのである。
 伸二郎は悪意のない好奇心に彩られた子供のような笑顔で続けた。
「で、君たちには何か見えるのかい?」
「えぇ、見えますよ。桜の木と日本髪を結った和服姿の若い女性の方が」
 更に答えたのは、冬也でも紫桜でもなかった。
 烏の濡れ羽色とうたわれる長い黒髪を一つ束ね、黒のタートルネックに茶色のジャケットを羽織るラフなかっこをした男。手に持っているのは仕出し用と思しき重箱であった。東京の片隅で知る人ぞ知る小料理屋を営む山海亭の主人、一色千鳥である。
「やはり、そうか。桜の木の下の女の幽霊。許婚を待っているというのは本当なのかな?」
 伸二郎が興味津々に尋ねたとき、女がゆっくりと口を開いた。


『……藤吉郎さんを、助けてください!』


 刹那、桜の木を中心に世界は真っ白にぼやけて消えた。







 ■Where is...■

 暮れ六つの鐘が鳴っていた。
「藤吉郎さん」
 町木戸の前で赤朽葉に鹿の子の模様の入った小袖を着たまだ年若の娘が、男を心配げに呼び止めた。藤吉郎と呼ばれた男は火事羽織に野袴姿で陣笠を持っている。典型的な与力の出陣支度というやつだ。勿論、出陣といっても戦に赴くわけではないが、捕り物にも多少の危険がつきまとう。しかし藤吉郎は別段気負った風もなく、大した事でもねぇという顔で娘に陣笠を掲げてみせた。
「じゃ、ちょっくら行って来るぜ」
「…………」
 娘は心配げに藤吉郎を見つめていたが、かといって仕事に向かう男を止めるわけにもいかぬげに、ただ俯いてしまう。
 そんな二人を少し離れたところで見ていた紫桜は、得心のいった顔で一つ頷いた。
 あの娘は桜の木の下にいた幽霊、確か名前は冬也が初音と呼んでいたか。そして、この与力が彼女が助けて欲しいと言った許婚の藤吉郎さんなのだろう。となれば自分がすべき事は一つしかない。今がどうのとか、ここがどうのと考えるのはその後でいい。幸い自分は鎖帷子に鉢巻を巻いて、十手を握っていた。典型的な同心のそれである。
「最近、浅草の蔵前付近で不審火が続いてるってぇ話だ」
 藤吉郎が紫桜に向かってそう声をかけた。恐らく紫桜は藤吉郎の部下なのだろう。そしてこれからそれを調べに行く。紫桜は「はい」と応えてから初音を振り返った。
「大丈夫です」
「え?」
 初音が面食らったように紫桜を見上げる。
「藤吉郎さんは僕が守ります」
「あ、はい……」
 初音は、心配そうな顔に少しだけ安堵の笑みを混ぜて頷いた。
「何言ってんだ、こいつ」
 藤吉郎が紫桜の頭を小突く。
「すみません」
 紫桜は素直に頭を下げた。
「おら、行くぞ」
 藤吉郎が走りだす。
「はい」
 紫桜はその後に続いて駆け出した。
「…………」


 ▼▼▼


 一方、紫桜が向かっている浅草蔵前付近である。
 瑛は半ば呆然とそこに佇んでいた。
「ふぇ?」
 桜の木の下にいた筈が、突然どことも知れぬ場所にいたのである。
「ここどこ?」
 何が起こったのかさっぱりわからない顔で瑛は辺りを見渡した。見知らぬ町にというだけではない。見慣れない家屋の並ぶ町である。少なくともここは彼女が知っている東京のどこかではないような気がした。
「蒼渓は?」
 首を傾げてみる。たったついさっきまでその手で握っていた彼の手も彼自身も見当たらなかった。
「蒼渓ー! 蒼渓ー!!」
 呼んでみたが返事はなかった。
 しかし瑛はパニックを起こすでも慌てるでもなかった。
 ただ、かくれんぼうか何かだろうかと、そんな風に考えて蒼渓を探すべく瑛はその路地裏へと入っていったのである。
「どこいっちゃったんだろ……あれぇ?」
 そこに一人の男が立っていた。痩せこけているわけでもないが頬骨が出た男である。彼女の感覚で変わった髪型をして、変わった服を着た男だった。ちなみに瑛自身もお禿のようなかっこをしているのだが、彼女自身がそれに気付くのはもっと後の事である。閑話休題。変わった服の袖から出ている腕には火傷らしい痕があった。
「…………」
 男と目が合って一瞬の沈黙が過ぎる。
 幸い、辺りが暗かった事もあってか、或いは着物の裾が長かったのも手伝って、男は瑛が宙に浮いている事には気付かなかった。
 男が一瞬固まったのは、『見られた』というその一念においてのみである。
 瑛は蒼渓の事を聞こうと口を開きかけたが、男の袂で火があがっているのに気付いた。
「あ、ひだ。たいへん、たいへん。かじになっちゃうよ」
 瑛が慌てたように右往左往していると、男は我に返ったのか、ちっ……と舌打ちして走りだした。そして瑛を突き飛ばし大通りの方へと駆けていく。
「きゃっ……」
 ふっとばされ瑛は、壁にぶつかりそうになるが何とか寸前で踏みとどまり、辺りを見回した。しかし人がいない。
「わぁん。ひ、けさなきゃー」
 瑛は慌てて火に息を吹きかけ両手で扇いだ。だが、火はおさまる気配もない。
 そこで瑛は何事か思いついたように手を振るった。
「よぉし、えぇいっ!!」
 彼女の手から放たれた風は突風となって火に強く吹きつけた。もっと小さな火であったなら、それで消えたかもしれない。
 が――――。
「あれぇ? どんどん、ひ、つよくなってく?」
 火は風に煽られ更に勢いを増していった。
 自分のせいで火事が酷くなってしまったことに、瑛はどうしていいかわからずに泣き出してしまう。
「うわぁーん! 蒼渓ー! 蒼渓ー!!」
 泣きじゃくりながら瑛は助けを求めた。
 すると銀色の長い髪を一つ束ねた変わった服の男が宥めるように瑛の頭を撫でてくれた。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん」
 瑛はしゃくりあげながら男を見上げる。
「おじさんは?」
「うん? その前に、火を消そう」
 そう言って男は優しく笑った。
「どうやって?」
「こうやって」
 男は手にしていた杖を軽く振ってみせた。まるで魔法のステッキを振るっているように瑛には見えただろうか。
 ぽつりぽつりと雨が降り始める。
「わぁ……ありがとう」
「一人かい?」
「あのね、蒼渓とはぐれちゃったの」
「蒼渓?」
「うん!」
 瑛は元気よく頷いた。

 その少し前、蒼渓は瑛のいた路地から一本西に入ったところに立っていた。
「!? ここはどこだ!?」
 桜の木が忽然と消たかと思うと、晴れやかな空は夜空に変わり、コンクリートジャングルは、TVの時代劇で見るような街並みに変わっていたのである。
 その上、お花見用に持っていたビニールシートも弁当も水筒もなくなっていた。
 そして何より――――。
「はっ!? 瑛!?」
 自分の手を引いていたはずの彼女がいないのだ。
 まだ七歳の女の子が見知らぬところではぐれてしまったという事実に、蒼渓は血の気が退いていくのを感じた。
「瑛!? 瑛はどこだ!?」
 蒼渓は瑛を探して西へと走りだした。
 それは丁度、瑛のいる場所とは反対方向である。
「火事だー!! 火事だー!!」
 近くで火の手があがったのだろう。声を張り上げながら駆けて行く人々と行き交う。しかし彼には正直火事などどうでもいい事であった。ついでに彼らが髷を結ってる事も、着物姿であることも、自分が素浪人のかっこをしている事さえも問題ではなかった。ただ、火事から逃れる人々と野次馬とで道がごった返してしまう事だけは、彼にとって最悪ともいえたが。
「瑛ー!!」
 彼女の名を呼びながら人ごみを泳いで進む。
「瑛を知りませんか?」
 手当たり次第に尋ねた。
 しかし皆、返答は素っ気無い。というより、瑛と名前を言われても、みんなそれが誰であるのか知らないので「知りません」としか答えようがなかっただけである。ただ、蒼渓も完全にテンパってしまっていたので、彼女の見た目について説明しなくてはいけないという事に思い至らなかったのだった。
「瑛ー!!」
 大声を張り上げて走り回る蒼渓に、火事の声に誘われるようにやってきたしずめが眉を顰めた。
「探し人か……。しかし、先にこの火を何とかしなくてはいけませんね。水です! 水を持ってきてください!!」
 誰ともなしにしずめが周囲に声をかける。
「何言ってんでい! 水なんてあるわけねぇよ」
 ぬ組と書かれた半纏を着た一団の、○の中に『ぬ』と書かれた纏を持った男が言った。
「何ですって!?」
 しずめが驚いたようにぬ組の男を見やる。
「運んできてる間に、燃えちまわなぁ」
 鳶口を持った男が笑った。他の連中も笑っている。
 そこへ一人の町人態の男が近寄ってきた。町人態ではあるが髷を結ってない。冬也であった。
「この時代は破壊消火といって、火事が広がらないように周りの建物を壊してしまうんですよ」
 冬也がしずめに説明する。
「何! そうか、ならば!!」
 しずめはさっそく壊しにかかった。
 ぬ組の親方が火事場の屋根の上で纏を振るっている。
「のぉわぁ!!」
 しずめは次々に周りの米蔵を破壊していった。
 その手際のよさに、ぬ組の一団は全員呆気にとられて見ている。町火消しは正に彼の天職だろうと思われた。それほどの手際の良さである。ちなみにこれは言うまでも無い事だが、常の彼なら火事でなくても、破壊し尽くしていたところであろう。
 必要最小限を壊して彼は人心地吐いた。
「いい腕してんなぁ。あんた、是非、うちのぬ組に来てくれよ」
 ぬ組の親方らしい男が、本気とも冗談とも取れない声をしずめにかけた。
「しかし、わしはぬ組に入る事は出来ません」
「そりゃ当たり前だ。その大小はどこのお武家様だい?」
 親方が聞いた。ちなみに大小とは2本差しの刀の事である。
「貧乏御家人の三男坊です」
 しずめは適当な事を言った。
「なら、うちに居候したらどうだい。お家も食い扶持が減って助かるんじゃねぇか。よし、決まりだ」
 親方はそう言ってしずめの肩を叩いた。
 こうして、慌てん坊改め、甘えん坊将軍はぬ組に居候する事になったのである。

 と、それは、さておき――――。
「くそっ……瑛が見つからない!!」
 しずめが米蔵を破壊している間、蒼渓は火事場を走り回っていた。
 まさか、あの火の手のあがっている中に……などと、そんな嫌な予感さえ過ぎる。
 蒼渓は手近にあった水の入った玄蕃桶を取り上げると、頭から水を被った。
 そして、未だ燃え盛る米蔵の中に飛び込もうとする。
 その肩をつかまれた。
「なっ……」
 しかし肩を掴んだ男は掴んだだけで蒼渓に見向きもせず言った。
「どうだ?」
「……藤吉郎さん!」
 未だ燃え盛る米蔵の入口の方から声がした。
「どうした?」
 藤吉郎がそちらへ顔を出した。
 たまたま浅草のこの辺りを巡回しに来てみたら、火の手があがっていたので、現場に駆けつけた二人である。
 紫桜が米蔵の中を見ながら答えた。
「米がありません」
「やはり、か」
 藤吉郎は米蔵を覗いて呟いた。
「やはり?」
 紫桜が首を傾げたが、藤吉郎はそれには答えず言った。
「やべぇぞ。こっちまで火がまわってきちまいやがった」
「はい」
 米蔵から出て行く藤吉郎に紫桜も続く。
「一旦……っと」
 言いかけた藤吉郎の言葉がそこで途切れた。
 その足も止まる。
 紫桜も足を止め、頬を濡らすそれを指で拭った。
「……雨?」
 ゆっくりと空を仰ぐ。
「幸いというべきか」
 藤吉郎も空を見上げた。
「しかし、晴れた夜空に雨とはな……」
 勿論、言うまでもない事だが、この雨はセレスティの仕業である。

 と、それは、さておき――――。
「瑛を知りませんか?」
 蒼渓はまだ瑛を探していた。
「瑛さん?」
 声をかけられ千鳥は訝しげに首を傾げた。
 自分の店らしい料理茶屋にいた彼は火事の声に思うところあってやって来たのである。
 こいつも知らないのか、とばかりに踵を返す蒼渓の肩を咄嗟に千鳥が掴んだのは、蒼渓が東京の人間と察しての事だろう。
「瑛さんとはどんな?」
 尋ねた千鳥に蒼渓はイライラと答えた。
「これぐらいの小さい女の子で、こう髪を二つにだんごみたいにしていて……」
 説明する蒼渓に千鳥は心当たりもなく首を傾げる。
「残念ながら来る途中には見ませんでしたが……」
 言いかける千鳥の言葉に蒼渓は即座に踵を返した。千鳥が歩いてきた方とは別の方向へ走りだそうとする。
「っと、待ってください」
 せっかちな蒼渓に千鳥はやれやれと苦笑を滲ませながら再び呼び止めた。
「…………」
 俺は忙しいんだと言わんばかりに睨んでくる蒼渓に千鳥は小さく溜息を吐いて申し出る。
「お力になれると思いますよ」
 ここが江戸艇なら、必ず見えるというものでもないが。失せもの探しは昔から彼の得意分野であった。
「なに?」


 ▼▼▼


 桜の木の下に向かって走っていたはずである。それが真っ白に解けて、気付いたらTVの時代劇のようなこの景色。
 シュラインはわずかに溜息を吐き出した。
 さらしを巻いて小袖の片袖を脱いでつぼを握っている。
 そんな自分の立場は確認せずともすぐ理解できた。後は、何故自分がここにいるのか、それだけである。
 暮れ六つを過ぎ、ある者は丁半札の数を確認し、またある者は今日の売り上げを計算していた。
 江戸時代、暮れ六つを過ぎると程なくして町木戸が閉まってしまうため、一部の茶店などを除き、殆どが店じまいしてしまう。それはどうやらここも、例外ではなかったらしい。
 それらを横目にシュラインは湯飲みにお茶を注いで一服した。焦っても仕方がないので、ここはのんびり構えて情報収集に努める。幸いアングラ情報はたっぷり入ってきそうな場所だった。心の片隅で、新調したばかりの春物ジャケットの行方に思いを馳せたりなどしながら茶を啜っていると、傍らから男たちの話声が聞こえてきた。
「また、浅草で火事があったらしいぜ」
 と、頬に傷のある男が言った。
「またかよ。今月に入って何件めだ? これでまた米の値があがらぁな」
 眇目の男が言う。
 シュラインは思わず首を突っ込んだ。
「火事?」
「ああ。今月に入って五度目だな」
 と、頬傷の男。
「……どれも火の不始末が原因なの?」
 シュラインが尋ねる。
「火盗改めの連中はそう言ってるがな」
 眇目の男は肩を竦めてみせた。
「さすがにこう頻繁だと、ここだけの話、火付じゃねーかって噂もある」
 頬傷の男は声を潜めて言った。
「確かに、変よねぇ」
 火の不始末で、同じ地域で五度も火事。
 確かに江戸時代、火事は多かったが、偶然にしては出来すぎているような気もしなくもない。
 ――――つまり、今回はそういう事かしら。


 ▼▼▼


「……ってんしゃん」
 軽やかなステップを踏みながら妓音はふと、そこで顔を上げた。
「また、こないなとこ来てしもぉたぁ」
 そこに突然現れた江戸の街並みなんてのは初めてではない。いつの間に着替えたのか、菖蒲の小袖もしっくり馴染む。
 ただ、向こうにあがっている火の手はちぃとばかし初めてだ。
「火事と喧嘩は江戸の華かいなぁ」
 そんな事を呟きながら、野次馬根性丸出しでそちらに歩き出した妓音の足が止まった。
 人気を避けるように二人の男が何やら金袋をやり取りしているのが見えたからだ。
 金袋を受け取った男が通りの向こうに駆けて行くのをぼんやり目で追っていると、金袋を渡していた男が妓音に声をかけてきた。
「こんな夜更けに女の一人歩きとはよくありませんね」
 随分と柔らかい物腰の男のそれは、穏やかな物言いであったが、口ほどに語る目は穏やかとは無縁のような鋭さを増していた。殺気さえ感じさせる男の眼差しに妓音は困惑を装う。
「いややわぁ、うちなんちぃとばかし、道ちごぉただけやしぃ」
 妓音ははんなりそう言って艶やかな笑みを浮かべると軽く手を振ってみせた。
「どこへ行くところだったんです?」
 男が尋ねる。
「あんたはんに会いに行くとこ」
 妓音はさらりと答えてみせた。
「は……?」
 面食らったように自分を見返す男の腕に、妓音は自分のそれを絡ませる。
 それは天性の勘というやつだろうか。人と騒ぎが大好きな彼女が、火事現場を捨てて彼についていこうと言うのだ。
「連れてってくれはらへん?」
 世の男どもが抗うのも難しいほどの甘えた声で目を潤ませて男の顔を覗き込む妓音に、男は半ば呆れたように、そして半ば、満更でもない風に答えた。
「ふっ……どうぞ」
「おおきに」


 ▼▼▼


 雨も止み、火事も無事燃え尽きた頃、千鳥は蒼渓を伴って、自分が板前をしている料理茶屋に帰ってきた。
 既に暖簾はかたづけられていたが、しかし店内には先客がある。
「瑛!?」
 蒼渓はそこに瑛を見つけて思わず声をあげた。
「蒼渓ー」
 瑛がふよふよと蒼渓に駆け寄ってくる。
「良かった」
 自分の胸に飛び込んできた瑛を抱きしめ、蒼渓はホッとしたように安堵の息を吐いた。
「どうやら再会出来たようですね」
 千鳥も目尻を下げる。
「ありがとうございます」
 瑛と一緒にお座敷に座っていた男に蒼渓は頭を下げた。
 セレスティは良かったね、と笑みを返して千鳥を振り返る。
「今回は一体何なのでしょう?」
「まだわかりませんが……」
 千鳥は困ったように首を傾げた。
 ここへ訪れる直前の事を思い出す。桜の木の下には女の幽霊がいて、彼女は藤吉郎という男を助けて欲しいと言っていた。しかしそれが誰なのかもわからなければ、それが今の状況にリンクしている保障もない。
「大丈夫か?」
 傍らで蒼渓が瑛に尋ねている。
「うん。あのね。わるいひとがね、あそこに、ひつけててね、瑛ね、けそうとおもったんだけど、かぜばーってやったら……」
 話す瑛に、千鳥とセレスティがハッとしたように瑛を振り返った。
「見たんですか!?」
「え?」
 二人の勢いに気圧されて瑛は驚いたように二人を見返す。
「火付の下手人を」
 千鳥が尋ねた。
「うん!! あっ、ていったら、瑛のこと、ぺいってやったの。ぜったいわるいひと」
 瑛はその時の事を思い出したのか興奮気味に話して悪い人と言い切ってみせた。
「変な服着てた……あれぇ? そういえばみんな変な服着てる?」
 などと。
「……まずいですね」
 セレスティが顎に手をやって考え深げに呟いた。
「何がまずい」
 蒼渓が睨む。
「彼女が口封じに狙われる可能性があるという事ですよ」
 千鳥が答えた。
 しかし、その一方でこちらにとっても有利ではないのか。彼女を囮にする事は憚られるが、彼女がしっかり見たのであれば、こちらから男を探す事も出来る。
「火付の下手人を捕らえるだけならいいのですがね」
 千鳥は小さく息を吐いた。藤吉郎という男の事も気にかかる。ここが江戸艇だとしたら、いつもと様子が違う気がする。
「私の方でも調べてみましょう」
 セレスティが言った。
「はい」
 千鳥が頷く。
 それから、二人のやりとりを不審そうに見つめている蒼渓に気付いて千鳥が言った。
「こちらはどうしましょう?」
「私の店で預かりましょう。用心棒に」
 冗談とも本気とも取れない口ぶりでセレスティが笑った。
「…………」
 それからムッとしている様子の彼に肩を竦めてみせる。
「大丈夫ですよ。彼女はあなたが守ってください」
「無論」







 ■Welcome to Edo■

「あな、ほんまにお金持ちはんやぁ」
 全面ヒノキのお風呂にまったりと浸かりながら妓音はしみじみ言った。彼女がくっついてきた金井与平という男はよほど羽振りがいいと見える。
 そこは桶を置くとカコーンと小気味いい音が響くような広い浴室であった。
 妓音は手ぬぐいでうなじを軽く拭いながら、丁度いい湯加減に上機嫌である。
 程よく温まって、洗いざらしの髪を手ぬぐいで纏め上げると、与平の家の者が用意してくれた夜着を着込んだ。
 案内された部屋は与平の書斎だったのか。
 与平は何やら紙束を筆箱にかたづけていた。
 それを覗き込んだ妓音に、
「地獄の沙汰も金次第ってね」
 与平は柔らかい笑みを向ける。
「うち一人くらいかこぉてもえぇのんとちゃうん?」
 妓音は与平の首に後ろからねだる様な仕草で自分の腕を巻きつけた。
「そうだな」
 与平は別段煩わしがるでもなく、妓音の腕に自分の手を重ねて彼女を振り返る。
「せやけど、こんなようけぇ、どないしはったん?」
 妓音は好奇心に任せて聞いてみた。
「さてね。私の願いを聞いてくれたら、教えてあげようかな」
 与平が笑って言った。
「お願い?」
 妓音が首を傾げる。
「そう、お願い」
「うち、お金もらえんのやったら、何でも聞くえぇ」
 妓音が答える。
「消して欲しい女がいる」
 与平の言葉に一瞬息を呑んだ。
「…………」
「なぁに、小さい女の子だから、簡単だよ」
 与平が何でもない事のようにさらりと言って微笑んだ。
「まかしときぃ」


 ▼▼▼


 彼がその料理茶屋を覗いたのは、単なる偶然ではなかった。
 誰もが髷を結っているこの世界で髷を結っていない、それだけで充分目印になったからだ。霊感のない自分がこんな体験をするとはよもや思っていなかった伸二郎は、いつの間にか手帳が帳面に、ペンが小筆に変わってしまっている不便に多少の困惑を見せながらも、この状況に意気揚々とその料理茶屋を覗いたのだった。いい記事が書けそうである。
 店の奥には銀色の髪を結った男と、小学生にあがるかあがらないかくらいの小さな女の子と、不機嫌そうな若い男が席を一つ陣取っていた。
 いらっしゃいと奥から顔を出したのは先刻、桜の木の下で出会った男だ。あの時は茶色のジャケットを着ていたが、今は着流しにたすきをかけている。しかしそれが妙に似合ってもいた。
「おや、あなたは」
「また会いましたな」
 伸二郎は笑って奥の開いた席に座った。
 千鳥はさっそくお茶を淹れて伸二郎の元へ運ぶ。
「そういえば、ライターでしたね。もしかして、あの幽霊について何かご存知なのではありませんか」
「えぇ、少しぐらいない」
 千鳥の問いかけに伸二郎はそう答えて、お茶を一口啜った。人心地吐く。それから、何かのスイッチでも入ってしまったのか、まるで壊れたラジオのように幽霊について知っている事を話始めた。オカルト専門記者というだけあってか、知識だけは無駄に豊富らしく、本人も分類しきれずに虚実交えての壮大な物語と化していたが、要約するとこんな感じであった。
 始まりは果たしてどこであったのか。
 幕府から武士たちに支給される蔵米を現金化し時に蔵米を抵当に金を貸す高利貸し業、札差。その札差――金井与平は、借金している者達をいいように金で動かしていた。なんて話は何もここだけの話はないだろう、古今東西どこにでもある話だ。
 そして金欲しさに与平に従った中に、火盗改め先手頭水野正嗣という男がいた。
 その一方で彼らに立て付いた男もいた。火盗改めの与力、甲斐藤吉郎である。
 彼は、与平らの悪事を暴き、証拠を掴んで上訴しようと考えていた。
 そして、全てがかたづいたら許婚の初音と祝言をあげる約束をしていたのである。しかし藤吉郎は上訴に向かったその当日、初音との約束の場所には現れなかったのだった。
「なるほど、それで藤吉郎さんを助けて欲しい、と。そして彼女の言霊が我々をここへ飛ばしたというわけですか」
 千鳥が言った。最初は、桜の木の下の娘とこの世界の関係に自信のもてなかった彼だが、蒼渓が昨夜の火事現場で藤吉郎と呼ばれている男に会ったというので、繋がっていると確信したのだった。
「あぁ、恐らく」
 と頷いたのは、いつの間にそこに立っていたのか、絣の着流し姿の冬也だった。
「しかし、ここは江戸時代とも少し違うようだが」
 伸二郎が首を傾げる。総髪はこの時代も普通にあったが、こんなバラエティーに富んだ髪型があったとは思えない。そして色とりどりの目。セレスティの見事な銀髪さえ、見咎める者は誰もいないのだ。
「それには多少の心当たりがありますが」
 千鳥が言った
「心当たり?」
 伸二郎が首を傾げる。
「彼らも恐らく彼女の言霊に巻き込まれたんでしょうね」
 セレスティが言うところの彼ら――江戸艇。しかしいつもの江戸艇とは何かが違う。それは初音たちのおかれている当時の状況が再現されているからだろう。
「……初音さんは桜の木の下で待っているのですね」
 きっと、藤吉郎と祝言を挙げるために。
「私はその水野という先手頭をあたってみましょう。それと、藤吉郎さんがどこまで証拠を掴んでいるのかわかりませんが、危険である事は変わりません」
 千鳥の言葉に冬也が頷く。藤吉郎の護衛をとは言葉に出さなかったが、互いに通じたようであった。
「そういえば、先日の米蔵は空だったそうだ」
 冬也が思い出したように言った。
 米蔵は空。米は焼けていない。しかし米の値はあがっている。表向きは米が焼けてしまったことになっているからだとすれば、この火付けには札差の他に米問屋らも関わっている可能性がある。
「私は米問屋の方をあたってみます」
 セレスティが言った。
「はい」
 千鳥が頷いて、それから瑛と蒼渓を振り返る。
「瑛さんが見たという下手人は」
「そちらは、彼女に頼もうかと」
 セレスティが笑みを返す。
「彼女?」
 千鳥は首を傾げたが、勿論、心当たりがないわけでもなかった。そもそも彼があの桜の木のある公園に訪れたのは、仕出し用のお花見重を届けにきたからなのである。


 ▼▼▼


 賭場を他の者たちに一時任せて、シュラインは三和土に立つ男に誘われるように外へ出た。
 こんな場所に不釣合いな上質の羽織を着た男である。言わずと知れたセレスティであった。
「やっと見つけましたよ」
 開口一番セレスティが声をかけるとシュラインは「やっぱり来てたのね」肩を竦めてみせる。
 セレスティはずっと、店の者達に彼女を探させていたのだった。
「火付ね」
 シュラインは何の前置きもなく声を潜めて尋ねた。浅草の蔵前付近で起こっている火事は、表向きは火の不始末が原因であるとされている。
「話が早いですね」
 セレスティが笑みを返した。やはりそこに行き着くのだろう。自分たちがここへ呼ばれた理由も。
「それで、この子は?」
 シュラインはセレスティの連れている女の子に気付いて尋ねた。何となくこの場には不釣合いな気がしたからだ。それは勿論、セレスティもそうなのだが。
「瑛、がんばる」
 女の子が拳を握ってシュラインを見上げている。
「火付現場の目撃者です」
「何ですって!?」
 紹介するセレスティにシュラインは思わず声を荒げた。
 それにセレスティは更に声を潜めて続けた。
「犯人の顔を見ています」
 と。匿うのではなく、恐らくその犯人がここへ訪れる可能性を考え、彼女に首実検をさせようと考えているのだろう。そこまで察してシュラインは頷いた。
「わかったわ」
 ここは賭場だ。どんな男かはわからないが、いずれどこかの金で動くような拗ねに傷持つ連中なら、臨時収入に訪れる可能性は高い。そういて、最近やたらと羽振りのいい男がいるという噂がなかったか。
「お願いします」
 セレスティが頭を下げる。
「で、彼は?」
 シュラインが女の子の傍にぴったり張り付いている男に目を止めた。
「彼女の護衛です。元傭兵だそうですから、頼りになりますよ」
「了解」


 ▼▼▼


「ここが、先手頭水野の屋敷ですか」
 火盗改め先手頭水野の屋敷の前で千鳥が門柱に掲げられた表札を確認していると、中から火盗改めの与力が一人出てきた。
 火盗改めは町奉行のような奉行所があるわけではなく、先手頭の屋敷を役所としているのだ。
「何か用かい?」
 声をかけてきた与力に、しかし千鳥は与力の後ろについている男に目をやっていた。
「おや?」
 千鳥の視線を追うように与力が部下の同心を振り返る。
「知り合いか?」
 尋ねた与力――藤吉郎に、紫桜が頷いた。
「あ、はい。こちらは……」
言いかけて、しかし彼の今のここでの役柄がわからなくて言いよどんでいると、それを察したように千鳥が続けた。
「そこの料理茶屋で板前をしている千鳥といいます」
「おぉ、そうか。おらぁ、火盗改め与力、甲斐藤吉郎だ」
 それに千鳥は営業用スマイルを返す。
「是非、非番の際にはうちにも食べに来てください」
「おお。今度行かせてもらうよ」
 藤吉郎が頷いた。
 それから千鳥はすっと紫桜の傍らに並ぶと、声をひそめて彼に尋ねた。
「やはり、先手頭が?」
 それには何の前置きも説明も確認もなかったが、互いに心得ているのだろう紫桜は一つ頷く。
「はい。不始末の一点張りです。火のあがった米問屋の女中がそう証言しているため、こちらもこれ以上は動きにくくて……」
「その女中は?」
「自殺しました。いえ、或いは自殺に見せかけた他殺の線も……」
 紫桜はゆっくりと息を吐いた。
「……そうですか」
 紫桜の言に何か考えるように頷いた千鳥が、そこでふと顔をあげ水野の屋敷を振り返った。
「?」
 怪訝に紫桜が千鳥の横顔を見上げていると、それに気付いて千鳥は誤魔化すように笑った。
「いえ、何でもありません。それより藤吉郎さんをお願いします」
「はい」


 ▼▼▼


「あ、あのひと。ここにやけどのあとがある。ぜったい、あのひと」
 瑛が右腕をパンパン叩きながら小声で言った。
「うん」
 蒼渓が頷く。
 賭場の片隅を借りて首実検をしている彼らであった。瑛と蒼渓のいる小部屋の襖の向こうでは丁半博打真っ只中であり、そこではシュラインが肩膝ついて見事な手さばきでツボを振っている。
「入ります」
 そう言って壷にサイコロを入れて畳の上に裏返しに置いた。それから今、賭場に入って着た男に一瞬視線を馳せてから、襖の隙間にチラリと視線をやる。そこでは瑛がしきりに男を指差していた。
「奴が火付の実行犯か……」
 蒼渓は襖の隙間から男をじっと睨みつけていた。
 それは、あの顔だけは絶対忘れないぞ、といった顔付きだった。今にも飛び出してきそうな彼の気配を感じてシュラインは反射的に立ち上がった。賭場の客が驚いたようにシュラインを注視する。シュラインは慌ててその場を取り繕うように笑みを浮かべると、軽く手を振ってみせた。
「ごめんなさい。ちょっと、はばかりに。あはは」
 なんて笑って誤魔化しながらその場を立ち去り瑛たちのいる部屋に素早く滑り込むと声を潜めて蒼渓に釘を刺す。
「出てこないでよ。それに、少し泳がせてみましょう」
「だが、瑛が……」
 瑛を狙おうとしているあの男を泳がせるなんて、蒼渓としては、直ちに危険は取り除きたい所存なのである。いきり立つ蒼渓にシュラインはまぁまぁと宥めすかした。
「必ず裏で糸を引いている人間がいる。その繋がりを確認するまで待ってちょうだい」
 しかし蒼渓はきっぱりと言い切った。
「俺達には関係のない話だ」
 正義感とか勧善懲悪などとはあまり縁がない性質らしい。
「この件を解決しなければ元の世界には戻れないのよ」
「……他にも方法があるかもしれない」
「協力して」
「面倒ごとはごめんだ。これ以上、瑛を危険な目に……」
 言いかける蒼渓の袖を瑛が引っ張った。
「おうち、かえれないの?」
 瑛が不安げな顔で蒼渓を見上げている。他の方法を探すより、この件をかたづける方が、多少の危険は伴うかもしれないが早いように思われた。そうだ。瑛は自分が守ればいいのである。
「わかった、協力しよう」
 瑛の一言であっさり手の平を返した蒼渓に半ば絶句しつつシュラインはひきつった笑いを零して言った。
「……そ、そう。助かるわ」


 ▼▼▼


 しずめが、居候先のぬ組で茶を啜っていると、玄関先で一人の娘がうろうろとしていた。入ろうか、入るまいか迷っている様子の娘に気付いてしずめが声をかける。
「おや、ぬ組に何か御用かい?」
 娘は驚いて困惑げに俯いた。
「あの……」
 しずめの腰に佩いている大小を見つめている。
「うむ?」
 しずめは怪訝に娘の顔を覗き込んだ。
「あの、お武家さまですか?」
 尋ねた娘にしずめはわずか首を傾げている。この時代、帯刀を許されているのは武士だけであったから、いかにもその通りであったのだが。
「何か困った事でもあったのですか?」
 優しく尋ねると娘は躊躇いの色を滲ませて更に俯いてしまった。自分でもどうしていいかわからないと言った風情だ。
 しずめは彼女をぬ組の中へと促した。
 中にはしずめの他に誰もいなかった。皆出払っているのだ。勿論、火事でというわけではない。町火消しの本職はとび職であるから、皆仕事に出払ってしまっているのである。
 しずめは仕方なく自ら慣れない手つきでお茶を淹れた。
「わしに出来る事なら手伝いますよ」
「でも、もしかしたらお武家様にも迷惑が……」
 娘が言い淀む。
「うむ?」
「火盗改めは旗本や御家人でも容赦なく検挙しています」
「大丈夫ですよ。火盗改め如きに手出しなどさせません」
 しずめは胸を張って請け負った。
「…………」
「どうしたんですか?」
 俯く娘にその先を促してやる。
「実は……」
 娘はやっと重い口を開いて話始めた。
 火盗改め先手頭水野正嗣の事、浅草蔵米の火付けの事、金井与平の事などを彼女が知っている限り、つまびらかに話す。
「そうですか。わかりました」
 しずめは最後までしっかりと話を聞いて、静かに頷いた。
「あの……」
 娘は心配そうにしずめを見上げる。
「安心なさい。これ以上の悪行は私が許さん」
 しずめはそう力強く言って娘の肩を叩いたのだった。
「はい」







 ■Intersection■


 その日、一人の与力が十人の同心達を引き連れて千鳥の料理茶屋に駆け込んできたのは、昼八つの鐘が鳴って半刻ほど経った頃だろうか。
 丁度、夕食の前の仕込みをしているところだった千鳥は、慌しい彼らに眉を顰めつつ店先へと顔を出した。
「千鳥だな」
 先頭に立っていた与力が確認するように言った。
「これはこれは、火盗改めの皆さん」
 千鳥は愛想のいい笑みを返す。
「浅草蔵米屋敷の連続火付の下手人として連行する」
「え?」
 驚いた声をあげたのは千鳥ではなく、何故か店先に座ってお茶を啜っていた伸二郎だった。
「ひったてぃ!」
 与力が同心たちに号令し、同心達は千鳥に縄をかけた。
「なっ……何かの間違いでは?」
 伸二郎が慌てて与力に駆け寄った。
「…………」
 千鳥は抵抗するでもなく、縄をかけられるままになっている。
「うるさい! 邪魔立てすると、お前たちも共犯者としてしょっぴくぞ」
 与力が伸二郎を手で追い払った。それに伸二郎が縋りつこうとするのを千鳥が制す。
「大丈夫ですよ、伸二郎さん」
「しかし……」
「水野とは話してみたいと思っていたので、よい機会です」
 千鳥は笑って伸二郎にそう言うと「行きましょう」と同心たちを促したのだった。
「…………」


 ▼▼▼


「千鳥さんが火付の下手人として番屋に連行された」
 その報を携えてきたのは江戸の町で情報収集をしていた冬也だった。
 火付けの実行犯を特定し、今後の対策についてセレスティの屋敷の一室で話し合っていた、シュラインと蒼渓と瑛は、まるで忍者か何かのように突然庭先に現れた彼に目を見開いたが、彼の言に更に腰を浮かせた。
「何ですって!?」
 シュラインが縁側に飛び出す。今にも冬也に詰め寄りそうな勢いだ。
「どういう事でしょう」
 セレスティが座したまま尋ねた。
「恐らくは水野をかぎまわっている彼が邪魔になったのでは」
 冬也が答える。
 そして、もう一つ。火付けでは、という噂にさすがに不始末を押し通すのが苦しくなってきた為、犯人をでっちあげたというとこだろう。
「まずいですね」
 セレスティは考えるように腕を組んだ。
「火盗改めは町奉行のような取調べがありません。一方的に断定されたら、冤罪だろうと即裁かれます」
 セレスティの言葉にシュラインは息を呑む。
「助けに行かなきゃ。仁枝くん」
「ああ」
 庭先に出たシュラインに冬也が続いた。
「では、我々はこのまま実行犯の監視を続けておきます」
「お願い」


 ▼▼▼


「さぁ、吐いてもらおうか」
 火盗改め先手頭水野正嗣は十手を手の中で弄びながら、捕らえた千鳥の周りをゆっくり歩いていた。
 通常吟味は与力が五人一組で行うのが常であったが、その場には先手頭の水野が一人いるだけである。
 それだけでも、今回の一件が異様である事は容易に伺い知れただろう。いや、恐らくは、他の者達には聞かせたくないような事を千鳥が口走るのを懸念しての措置であろうが。
「難しい事を仰いますね」
 千鳥は困ったように首を傾げてみせた。
「うるせぇ! 浅草の蔵米の火付はお前がやったんだろ」
 水野は千鳥の余裕顔にイライラしながら吐き捨てた。
「痛いのは出来れば、勘弁願いたいのですが」
 相変わらず千鳥はのんびりとした口調で言う。
「なら、さっさと白状するんだな」
 水野が言った。
「難しい事を言わないでください」
 肩を竦める千鳥を水野が睨みつける。
「しらきろうってのか?」
 水野の言葉に千鳥は溜息を吐き出して別の事を言った。
「ところで水野さん。ご尊父殿のご病気はいかがなんですか?」
「!? てめぇ……」
 水野が動揺をその面に走らせる。
「唐渡の薬は大層値がはるとか」
「うるさい!!」
「残念ながら、私に医学の心得はありませんが、料理人としてお力になれることも……」
「黙れ!!」
「薬膳粥など作ってさしあげますよ」
 千鳥の申し出に水野はイライラと床を睨みつけていたが、やがて顔を上げて吐き捨てるように言った。
「……誰か! こいつを牢屋にほりこんどけ!」
「はっ!!」
 隣の部屋に控えていた同心二人がやって来て、千鳥を牢へと連れて行く。
 千鳥は一つだけゆっくりと溜息を吐き出した。


 丁度その頃、千鳥の吟味が行われている番屋の前――。
 水野が出て行くのを確認して冬也とシュラインはその裏口へ回った。冬也は屋根から音もなく飛び降りると、そこに立っていた見張りを二人手刀で昏倒させると、小便担桶に隠す。小便担桶というのは今で言う公衆トイレの事だ。
「こっちです」
 窓から侵入し天井裏へ上がると、そこから千鳥の捕らえられている牢を目指す。
「おや?」
 見知った顔が天井から顔を出したのに千鳥が目を細めた。
 冬也が牢の外へ目配せすると、千鳥は廊下の方を確認して一つ頷いた。
 冬也とシュラインが天井から下りる。
「大丈夫?」
 シュラインは千鳥の手鎖を簪ではずしながら尋ねた。慣れた手つきとまではいかないが、微妙な音の変化を読み取って、カチャリと音のする場所へ簪を差し込む。程なくして手鎖ははずれた。
「えぇ、何とか」
 千鳥は自由になった手首をさすりながら答えた。
「ありがとうございます」
「開いたぞ」
 牢の鍵を開けていた冬也が二人に声をかける。
 三人は牢の外へ出た。自然と冬也が先導し、二人が後に続く形になった。
「とりあえず、大店のご主人のところへ」
 まずはセレスティのところに合流して態勢をたてなおそうとシュラインは言ったが、千鳥は首を横に振る。
「いいえ」
「え?」
「私は少し行きたいところがあります」
 千鳥が言った。
「そう」
「はい。水野がやった事は償うべきだとは思いますが、彼の憂いは取ってあげたいと思います」
「わかったわ」
 冬也が二人の会話を遮るように手を伸ばした。
「奴らに気付かれた、急げ」
「えぇ」


 ▼▼▼


 火付けの実行犯である男の後をつけていく。
 行き先は恐らく金井与平の店と思われた。
 その繋がりを確固たるものにしようとした時、男がすっと闇に解けた。まかれてはならぬと慌てて蒼渓が追いかける。
 その前に、行く手を阻むようにふわりと天女が舞い降りた。そんな形容がしたくなるほど艶やかな女が軽やかに現れたのである。
「誰だ!?」
 蒼渓の誰何に女ははんなりとした口調でにこやかに言った。
「あな、おっとこ前はんやぁ」
「あなたは……」
 見知った顔にセレスティが意図を察しきれず眉を顰める。
「うちは、遊び人の妓音ちゃんいいますぅ。ほんで、そこのかいらしおじょーちゃんを消しにきたん」
 妓音は笑顔でとんでもない事をさらりと言ってのけた。
「な…に…?」
 蒼渓が身構える。
「見たあかんもん見はったんやってね?」
 妓音は艶やかに笑って瑛の顔を覗き込んだ。
「あなたもわるいひとね」
 瑛が一歩踏み出したのに、慌ててセレスティが割って入る。
「待ってください! 妓音さん?」
「妓音ちゃん」
 そう正して、妓音はゆったりとした足取りで彼らに近づいた。それから、セレスティの耳元にそっと口寄せて囁く。
「ここは消えたことにしといてもらえへんやろか?」
「どういう事です」
 セレスティが尋ねた。
「与平はんは火盗改め先手頭はんと繋がったはるのん。これ、証文え」
 妓音が袖からそっと紙切れを取り出しセレスティに手渡した。
「!?」
「他にもおるんやけどな。後なん、うち、もうひとり消さなあかんお人がおるんよ」
 妓音が言う。
「甲斐藤吉郎さんですか?」
 セレスティが尋ねた。
「ちゃう、ちゃう。うちみたいなかよわいおなごに、をのこはんを倒せやしませんやろ?」
「え?」
「初音はんいうお嬢はんやぁ」
 妓音が笑った。
「なっ……」


 ▼▼▼


「この直訴状をお上に持っていけば……」
 まだ証拠は完全に揃ったわけではなかったが、多少なりと上が動いて捜査をしてくれれば、きっと良い方に動く。そう願って藤吉郎はその直訴状を懐にしまった。
 それから、彼は紫桜を巻き込むまいと思い、一人で行くと言い張った。しかし紫桜は頑なにそれを拒んで同行を願い出る。
 結局根負けした藤吉郎は紫桜を連れて、江戸市中の警備を担当している大番頭の柳沢邸に走ったのだった。
 そこへ――――。
「下手人は掴まったというのに、いつまでこそこそ嗅ぎ回っているつもりだ」
 紫桜と藤吉郎の前に立ちはだかるようにして水野は何人もの手下を引き連れて現れた。
「!?」
 紫桜が一歩前へ進み出て、藤吉郎を庇うようにして身構える。
「彼は火付はしていません」
 千鳥が火付けの下手人として捕らえられた事は話に聞いていた紫桜である。
「していないという証拠でもあるのか?」
 尋ねた水野に、だが紫桜は返す言葉が見つからず下唇を噛むだけだった。
「…………」
 アリバイがない、わけではない。そもそも彼は少なくとも前の四つの火事の時にはまだ東京にいたのである。とはいえ、この世界の人間ではないなどという証言が通用するとも思えなかった。また物的証拠を要求されると、明確なものは提示できないのが現状だ。証人をでっつあげる事は簡単だったがそれでは彼らと何ら変わらなくなってしまう。
「奴が下手人だ」
 水野が言い切った。
「なら、彼が火付をやったという証拠はあるのですか」
 紫桜が尋ねる。
「証人がいる」
 水野の言葉に紫桜は溜息を吐くしかない。
「でっちあげの……」
「うるさい! やれ!!」
 ヒステリックに叫んで水野が手下たちに号令した。
 紫桜はゆっくりと左手の平に右手の拳をのせる。果たしてそれはどこから現れたものなのか、彼はそこからゆっくりと刀を抜き放った。
 襲い掛かってくる手下どもを次々に刀背打ちにしていく。
 一瞬の間隙をついて頚動脈に刀背を叩き込んでいく。勿論、重たい刀を死なない程度にであるのだから彼の腕はかなりのものだろう
 しかし相手の数が多く当然、藤吉郎に襲い掛かる者もあった。
 藤吉郎も刀を抜いて応戦していたが、数を裁ききれなくて防戦に追われている。
 そんな中、手下の一人がバランスを崩した藤吉郎を襲った。
「危ない!」
 紫桜が相手の刀を軽く払って、常ならそのまま一太刀お見舞いするところだが、それをせずに、そちらへ一歩踏み出す。
 だがそこへ、どこからともなく扇子が飛んできた。
 藤吉郎に切りかかっていた男の手に当たり、男は刀を取り落とす。
 紫桜は、扇子の飛んできた先を振り返った。
「大丈夫か!?」
 現れたのはしずめだった。
「ありがとうございます」
 紫桜が声をかけながら、相対していた敵に一撃を加える。
「あんたは……」
 呆気にとられる藤吉郎に、しずめは「うむ」とだけ答えて、腰に佩いた大小を抜くでもなく、次々に水野の手下どもを素手で地面に沈めていった。
 最後に水野が一人残される。刀を構える水野にしずめが間合いを詰めるように一歩踏み出した。
「水野は……」
 言いかける紫桜にしずめが頷き返す。
「わかっておる。全ては初音という女から聞いた」
「初音から?」
 藤吉郎が意外な名前に、しずめの背中を見やった。
「蔵前で火の不始末を申し出た女中は彼女の友人だったのだ。女中は自殺ではないと彼女は訴えて……」
 その為に彼女はぬ組に訪れたのだった。最初は藤吉郎に話すつもりだった。しかし、彼の上司である水野が不始末を言い出した事を思うと言い出しにくかったのだ。藤吉郎自身、水野はもうダメだと判断して上訴を考えていたわけだが。恐らく彼女はこうなる事を多少なりとも考えていたのだろう。
 それにハッとしたように紫桜が目を見開いた。
「!?」
 彼の動揺にも似た気配に、しずめは水野との間合いをみながら背後に声をかける。
「どうした?」
「何故……気付かなかったんだ」
「何をだ?」
 藤吉郎が尋ねた。
「あの桜の木の下に立っていたのは初音さんですよ」
 紫桜は呟いた。
「?」
 藤吉郎はまるで意味がわからずに首を傾げている。――あの桜の木?
「どうして今の姿のまま、彼女が桜の木の下に?」
 紫桜は果たして誰に話しているのか。恐らくは自分自身に確認するように。
「藤吉郎さんが殺されて、彼女が身投げでもした? それとも、桜の木の下で首を括った?」
「何を言ってるんだ?」
 勝手に殺されて深いげに藤吉郎は紫桜を睨んだが、紫桜は全く耳にも視界にも入ってない様子である。
「違う。彼女は今も待っている。あの時からずっと待っているんです。そうだ、殺されたのは……」
 しずめが水野を叩きのめしたのと、紫桜が藤吉郎の肩を掴んだのはほぼ同時だったろうか。
「あの桜の木は一体どこですか!?」


 ▼▼▼


「初音さんを、殺す?」
 セレスティが尋ねた。それはまるで予想していなった事だった。
「そうなん。もうおひとり、見たらあかんもん見てしもぉたお人がいはるんやってぇ」
 妓音が笑った。
「なっ……まさか……」
 セレスティはぶつぶつと考えをめぐらせる。
「でも、そうですよ。来るはずの藤吉郎さんが来ない。来ないまま、彼女は一体いつまであそこに立って……いや、いつからあそこに……?」


 ▼▼▼


 千鳥と別れてシュラインは冬也と千鳥の店に向かっていた。そこには伸二郎がいる筈である。千鳥の無事を報せに以降と思っての事だった。その道すがら、シュラインはふと気付いたように言った。
「そういえば初音さんは、あの桜の木の下で藤吉郎さんを待っていたのよね」
「はい」
 冬也が頷く。
「でも、藤吉郎さんは行けなかった。殺されたから?」
「そうなりますね」
「でも、ならどうして初音さんはあの桜の木の下で藤吉郎さんを待っているのかしら?」
「え?」
「もしかして、彼女は藤吉郎さんが死んだ事を知らないんじゃない?」
 知っていたなら、あそこで待つだろうか。通夜を開いて、葬式をして、お墓参りをして、それでも待ち続けるだろうか。
「!?」
 冬也はシュラインの言わんとしている事に目を見開いた。
 そうだ。あの時あの場所に立っていた彼女の姿は今と変わらない。
「知らなくて、だから今もずっと待っている。そう……危険なのは、藤吉郎さんだけじゃない」
「そうか、彼女は……」
 二人は顔を見合わせた。
「あの桜の木は、一体どこ!?」
 きっとそれは、あのオカルトマニアなら知っているのではなかろうか。


 ▼▼▼


「初音さんはどこに!?」
 セレスティが妓音を見た。
 藤吉郎には紫桜が部下として終始ついているし、他にも気にかける者たちがあるだろう。余程の事でもない限り無事であると思われた。それよりも、たった一人でいる彼女の方が今は危険なのだ。
「うちが案内しましょ」
 事情はすぐには読み取れないまでも、急を要しているらしいという事だけは窺い知れて妓音が言った。
「お願いします」
 と、そこへ一人の町人態の男が何人もの無頼漢を連れて現れた。
「妓音さん」
 呼ばれて妓音が振り返る。
「与平はんもお人が悪いなぁ」
 そこに立っていた町人態の男は与平ではなく、与平の店の番頭をしている男だったが、いずれ与平が差し向けた者であろう、妓音は顔を顰めてみせる。
「まぁ、あなたには最初から期待していませんでしたから」
 番頭が言った。恐らくは、妓音がきちんと仕事を果たすか監視していたのだろう。
「こんなかよわいおなご捕まえて、こんなよーさんのお人を集めてきはるんやし」
 妓音が笑みを返す。その隣に瑛が進み出た。
「だいじょうぶ。瑛、まけない!」
 それに慌てて蒼渓が前へ出た。
 瑛を自分の背中に押しやって。
「……瑛は後ろに下がってなさい」
「でも、蒼渓?」
「大丈夫。すぐかたづけるから」
 蒼渓がそう言ってわずかに目尻を下げる。
 それにセレスティが言った。
「では、お願いしますね、蒼渓さん」
「え?」
「妓音さん。我々は急いで初音さんの所へ」
「…………」
「ほな、行きましょか」
 呆気にとられている蒼渓と瑛を残して、セレスティは妓音と共にさっさとその場を立ち去った。
 妓音を信用していない与平が彼らを使わしたという事は、今頃既に初音は襲われている可能性がある。
「間に合えばいいのですが……」







 ■Final stage■

 空はもうすぐ茜色に染まるだろうか。風が冷たく肌寒くなってきた七つ半。
 その桜の木の下で初音は藤吉郎が来るのを待っていた。
 背後からする草を踏む音と衣擦れに彼だと思って振り返る。
「藤吉郎さ……!?」
 一瞬呼吸を止めて、初音は閉じられなくなった口元を両手で押さえた。大きく見開かれた彼女の瞳に映っているのは藤吉郎ではない。
「残念でしたね」
 そこに立っていたのは、札差――金井与平。
「…………」
 初音は後退る。その背を桜の木が阻んだ。
「彼は来ませんよ」
 与平は穏やかに言った。
「どこに……」
「さて、どちらが先になるかはわかりませんが、すぐに、彼に会えますよ。あの世とやらでね」
 与平は静かに言って短刀を抜いた。
 彼女に切りかかろうと振りかぶる。
 だが振り下ろされた短刀は空を切っただけだ。
「!?」
 そこから初音は忽然と消えていた。
「なっ……」
 与平が呆気に取られている。
 初音は馬上にあった。
「大丈夫ですか」
 優しく彼女に尋ねたのはあのぬ組の居候である。
「お武家様……」
「なっ…貴様っ……」
 与平が馬上の男を睨みつけた。
「ふっ。札差如きがわしの顔など知りようもないか」
 しずめは鼻で笑ってみせる。
 そんな彼の着ている着物に与平が一歩退いた。
「三つ葉葵……まさか……」
「貴様ごときに名乗ってやる名などないわぁ」
 しずめは言って手綱を引いた。馬が一つ大きく嘶く。
「将軍か!!」
 与平が苦々しげに吐き捨てた。
「やれぇ!」
 与平の号令にどこに隠れていたのか三下どもがわらわらと出てきて、しずめの馬を取り囲んだ。
 そこへ伸二郎が、シュラインと冬也を先導して現れた。
「あそこ……です!」
 伸二郎はここまで全速力で走らされてきたのだろう、息も絶え絶えにそう言って、そのまま力尽きたように頽れた。
「ありがと」
 シュラインが伸二郎の肩を叩く。
 冬也が三下どもを軽くいなしながら道を開くと、シュラインは素早くしずめに合流し、馬上の初音を受け取った。
「大丈夫?」
「は…はい。あの……」
 何が起こっているのか理解出来ぬ顔で戸惑っている風の初音をシュラインが背に庇う。
「こっちは俺が相手になろう」
 冬也が身構えたのに、しずめが馬腹を蹴った。
「うぉぉりゃぁぁー」
 掛け声も丈高にしずめは三下どもをあっという間に蹴散らしていったのだった。


 ▼▼▼


 その頃。
 火盗改め先手頭、水野正嗣の屋敷の離れにあるその庭の見える部屋で、千鳥は土鍋から粥をすくってお椀についでいた。
「一体、あなたは?」
 布団の上で上半身だけ起こしている年老いた男が、訝しげに千鳥に声をかける。
「私はただの料理人です。さぁ、どうぞ。これを食べてください」
 千鳥は粥の入ったお椀を男に差し出した。
「…………」
「きっと良くなります」
 男はそれを受け取って暫くぼんやりその中身を見下ろしていた。それは薬膳粥だった。
 何かを察したように男が呟く。
「ありがとう……息子は……」
「大丈夫ですよ」
 千鳥は笑みを返した。
「…………」
「ゆっくり養生してください。息子さんを唆している連中なら、もうすぐ成敗されるでしょうから」
 そう静かに言って彼に粥を勧めた。
「一体、あなたは?」
「ただの料理人です」


 ▼▼▼


 自分たちを取り囲もうとする敵に、蒼渓はいつもの癖か咄嗟に懐に手を突っ込んでいた。しかしそこに銃の感触はない。
「…………」
 ここは江戸時代なのだ。勿論、江戸時代に銃がないわけではないが、火縄銃がせいぜいだろう。
「蒼渓?」
 彼が一瞬固まったのに、瑛が不審に尋ねる。
「いや、大丈夫」
 蒼渓は笑みを返して瑛の頭を優しく叩いた。勿論、肉弾戦も心得ている彼である。
 しかし瑛は大人しく蒼渓の勇姿を見ている気はないらしい、正義感に目を輝かせて言った。
「瑛もてつだう!」
 気合もよろしく両手で握り拳など作っている。
「なっ!?」
 慌てる蒼渓をよそに、瑛は前に進み出ると両手を振るってみせた。
「えぇーいっ!!」
 この前は、火が更に酷くなってしまったが。
「…………」
 突風というよりも竜巻に近いそれが奴らを襲ったかと思うと一気に上空へ巻き上げ、地面に叩き落とした。
 辺りはしんと静まり返り、そこに立っているのは二人だけだった。
 半ば呆気に取られている蒼渓の傍らで、瑛はご満悦顔だった。
「みんなのとこいこう」
 瑛が言った。
「あ…あぁ」
 何か腑に落ちないものを感じながら蒼渓は頷いたのだった。


 ▼▼▼


 紫桜は桜の木を指差した。
「藤吉郎さん、あそこに」
 紫桜の指差す先、二人の約束の場所でもある桜の木の下に初音を見つけて藤吉郎が走りだす。
 初音の危険を察して、桜の場所をしずめに話すと、しずめはそのまま馬を駆って先に急行したので、二人は走って後から駆けつける事になったのだった。
「初音……」
 藤吉郎が初音を呼んだ。
 初音がそちらを振り返る。
 丁度、しずめが「成敗」と言って最後の一人、与平に手刀を繰り出し、彼が地面に倒れた時だった。
「藤吉郎さん!!」
 初音が藤吉郎の元へ駆け寄ると二人は互いを確認するように抱きしめあった。
「良かったわね」
 シュラインがホッと胸を撫で下ろす。
「えぇ」
 紫桜も合流して、二人を眺めやった。
「良かったですね」
「でも、こうなると二人に祝言を挙げさせてあげたいわね」
 なんて呟いたシュラインに遅れてきたセレスティが顔を出した。
「桜の木の下というのもオツでしょう」
「え?」
「うちもてっとーたりましょ」
 妓音が化粧箱と思しき箱を掲げてみせる。
 その後ろにはセレスティの大店の店の者達が長持ちを担いで立っていた。
「店の者に急いで用意させました」
「用意がいい事ね」
 半ば呆れたようにシュラインが言う。
 最初はこの桜の木に向かっていたセレスティと妓音だったのだが、その傍らを白馬に跨った侍が颯爽と駆け抜けて行ったのを見て、宗旨替えしたのだった。
 そうして二人が支度を整えている頃、千鳥が重箱を抱えて現れた。
「丁度、台所を借りられたので、お花見用にと作ってきましたよ」
 やがて、二人が支度を終えて顔を出す。
 随分、迷子になったらしい蒼渓と瑛が何とかそれに駆けつけた。
 瑛は初めて見る白無垢姿に目を丸くして「きれい……」とだけ呟いた。
 かくて大きな桜の木の下で、厳かに祝宴は始まった。
 純白の白無垢に角隠し。三々九度に神の元、杯を交わして晴れて夫婦なる二人。
 初音が頭を下げる。
 藤吉郎が頭を下げる。
 大きな桜の木の下で、乾杯の声をあげた時、世界は白く解けたのだった。


「ありがとう――――」







 ■Ending■

 あの大きな桜の木の周りに、十人はそれぞれにぽつんと立っていた。
 もうそこに、初音の幽霊はいない。
 きっと成仏したのだろう。
 気付けば十人は最初と全く同じ場所に立っていたのだが、桜の木を中心にその周りを取り囲むように立っていた。
 その意外な近さに互いに顔を見合わせる。
「さ、お花見! お花見!!」
 シュラインが場を盛り上げるように言って桜の木の下に駆け出すと、他の者たちもそれに続いた。
 瑛に促されるように蒼渓も、シュラインの隣に並べてビニールシートを敷く。
 いつの間にか消えた筈のビニールシートも弁当箱も水筒もちゃんと彼の手の中に戻ってきているのに、蒼渓は狐につままれた気分になって夢でも見ていたのかと思ったが、ただ、着ているものが、元に戻っていないのに複雑な息を吐いた。
 けれど、誰もそんな事は気にした風もない。
 ビニールシートに腰を下ろすと、千鳥が仕出し用の重箱を並べた。
「ご注文の品です」
 そこにはおにぎりやおかずの他に、しっかりとお花見だんごなども詰まっている。
「ありがとう」
 笑みを返してセレスティは皆を振り返り「皆さんどうぞ」と促した。勿論、千鳥も誘う。
 千鳥がシートに腰を下ろすと、それでは、と伸二郎もシートに腰を下ろした。
 妓音はしずめの腕に自分の腕を絡ませたまま、シュラインのシートに引っ張っていく。
「お兄ちゃんも」
 と瑛に手を引っ張られて紫桜もシートに腰を下ろした。
「仁枝くんもどうぞ」
 とシュラインが促したが、冬也はシュラインを振り返るでもなく、表情も変えずに桜の木を睨みつけていた。
「どうしたの?」
 問いかけに、しかし彼は答えずただゆっくりと銃を構える。
 もうそこに、霊はいないのに。
 皆がきょとんとする中、彼はおもむろに引鉄を引いた。
 桜の木の前に立っていた、しずめに向かって。
 誰もが息を呑む。
 弾はしずめを掠めて飛んだ。
 だが桜の木には当たっていない。
 ただ、何かがそこにぼとりと落ちた。
「これは?」
 シュラインが怪訝にそれを覗き込む。巨大なアメーバのようなものがそこにのたくっていた。
「NATにいる寄生虫カリヤだ」
 冬也はそう言って、アメーバのようなものを掴み上げると手の平の中で握りつぶした。
「カリヤ?」
 セレスティが聞いた事のない名前に首を傾げる。
「しかし、なんでこんなところに……」
 冬也は、握りつぶしたそれを払うように手を振った。
「どういう事?」
 シュラインが尋ねる。
「この虫に寄生されると性格が全く正反対になってしまうんですよ。NATにしかいない筈なのに、どうやってCITYに……」
「誰かに寄生して入ってきたのでは?」
 千鳥が言った。
「そういえば、私、そういう人、一人知ってるわ」
 シュラインがボソリと言う。
「それは奇遇ですね。私にも心当たりがありますよ」
 セレスティが一つ頷いて、心当たりの人物を見やった。
 紫桜も妓音も彼を振り返った。
 彼を知らない瑛と蒼渓と伸二郎だけがきょとんとしている。
「おぉ!? ここはどこだ!?」
 突然、しずめが我に返ったように辺りを見渡した。
「花見か!? 花見だな!! 宴会じゃぁぁぁ!!」
 大音声が辺りに響き渡る。
 一人何やら大盛り上がるしずめに、その大声に驚いて瑛が今にも泣きだしそうな顔になる。それに怒って蒼渓がしずめに向かっていったのが始まりか。
「うるさい!」
 しずめはそれを楽しそうに迎え撃った。
「喧嘩祭りかっ!!」
 それはそれは楽しそうな雄叫びがあがる。
「うちは見てるだけでえぇよぉ。もっとやったりぃ」
 はんなりと妓音が二人を煽った。
「それは……」
 紫桜が止めようか、止めまいかと手を出しあぐねる。触らぬ神に祟りなし。そんな言葉が彼の脳裏を掠めて言った。
 かくて事態は確実に収拾のつかない方へと進み出していた。
「あらら」
 シュラインは頭が痛くなってくるのを感じながらこめかみを押さえて俯いた。
「もう少し、寄生しててくれても良かったんですがね」
 と千鳥が苦笑を滲ませる。
「まぁ、お約束かしらね」



 大きな桜の木の下で、こうして二人のバトルと宴会が始まったのだった。







 ■大団円■





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5440/饒・蒼渓/男/20/大学生】
【5384/孫・瑛/女/7/たぶん小学生】
【5151/繰唐・妓音/女/27/人畜有害な遊び人】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4621/紫桔梗・しずめ/男/69/迷子の迷子のお爺さん?】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【5453/櫻・紫桜/男/15/高校生】
【4471/一色・千鳥/男/26/小料理屋主人】


斎藤晃 異界−境界線
【NPC/仁枝・冬也/男/28/司法局特務執行部】

柴崎晴 異界−日部写真館
【NPC/日部・伸二郎/男/32/ライター】


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■         ライター通信          ■
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。

 またお会い出来る事を楽しみにしております。

 尚、今回『桜コラボ企画〜同じ桜の木の下で』に参加された記念に、
 お花見ピンナップを受け付けております。

 現像は日部写真館にて行っておりますので、是非、ご参加ください。

 日部写真館 柴崎晴ILさま 異界ピンナップ
 窓開けや詳細については日部写真館をご確認下さい。
 ※江戸装束姿になります。
 ※『同じ桜の木の下で』特別仕様です。