 |
文月堂奇譚 〜古書探し〜
エルナ・バウムガルト篇
●文月堂で……
その日、赤い髪の少女は道の前で地図を可か手に考え込んでいた。
「多分……ここで良いんだよね？お店の名前も間違っていないし……」
それは以前一日だけ一緒に雪遊びをした少女から貰ったメモ。
それはその少女が手伝いをしている一軒の古本屋の事が書かれていた。
古本屋の名前は『古書店文月堂』といった。
そしてメモを手に持った少女はしばらく店の前で考えていたが、ゆっくりとその扉を開けて中へと入って行った。
少女の名前はエルナ・バウムガルト、異世界からの旅人であった。
「こんにちは！？。紗霧さんはいますか？」
エルナは扉を引いて中に入ると店の中でカウンターに座っている黒い髪の女性に声をかけた。
「あら？紗霧のお友達かしら？」
エルナにそう聞いたのは佐伯・隆美（さえき・たかみ）、エルナの探している紗霧の義理の姉である。
「うん、前に紗霧さんとはちょっと雪遊びをした事があったんです」
隆美はそう話すエルナの背中を見て羽の様なものがあるのが気にかかったのだが、多分彼女の着ているワンピースの飾りなのだろうと思うことにした。
「ああ、雪遊びって、そういえばかまくらとかを作って遊んだって言っていたわね、ってちょっと待ってね紗霧の事を呼んでくるから」
そう言って隆美はカウンターの席を立つと、階段をゆっくりと上がって行った。
二回から紗霧の事を呼ぶ隆美の声が聞こえてくると扉が閉まる音がして、とたたと軽やかに階段を下りてくる音がそれに続いた。
そして怪談から顔を覗かせた銀髪の少女、佐伯・紗霧（さえき・さぎり）はエルナの事を見ると嬉しそうに笑顔を覗かせた。
「こんにちは、お久しぶり。今日はここに来たって事は探したい本ができたのかな？」
紗霧はエルナにこの店の事を書いたメモを渡してあった事を思い出しながらそう話かけた。
紗霧は先日一緒に雪遊びをして遊んだ相手だという事を隆美に説明した。
そこへ隆美も階段を降りて戻ってくる。
「探したい本もそうなんだけど、今日は紗霧さんとそのお姉さんに聞いてみたい事があってやってきました」
そう言ってエルナはカウンターの上に置いてあったチラシを丸めたものをマイクのように二人に向かって向けたのだった。
まるでインタビューをする記者のようにチラシを向けられた隆美と紗霧は思わず顔を見つめあって苦笑しあったのだった。
「えーと、つまり私達に何かインタビューっていうか聞きたい事があってきたって事なのかな？」
紗霧がそうエルナに聞き返す。
「うん、そうだよ。探したい本がって来たってのもあるんだけど、それ以上にあたしは今気になってる事があるのです」
「気になってる事？それは？」
不思議そうに隆美がエルナに聞き返す。
聞かれてエルナはコホンとひとつ咳払いをして、少しもったいぶったようにする。
「それはね、みんなの今までにやった良い事を聞くことなんだ」
胸を張ってそう答えるエルナの言葉がよく判らないといった風に二人はきょとんとするしかなかった。
●シュテルン
きょとんとする二人を見て、エルナは自分の事を少しずつ話し始めた。
「あたしはシュテルンっていう二人にとっては異世界にあたる所から来たんだ」
そう話はじめたエルナは徐々に自分の来た世界の事と自分のこの世界での成すべき事を話す。
「じゃ、じゃあエルナのその背中のって服の飾りじゃなくて……？」
隆美がエルナの背中にある赤い透き通った羽根を指差して聞く。
「ええ、本物の羽だよ」
驚いた表情を浮かべる隆美を見て、エルナは思わず笑みを浮かべる。
「そんなにこのは音が驚いた？」
「ええ、でも綺麗ね、赤く透き通ってて」
「そうね、私もそう思うわ」
隆美と紗霧にそう褒められるとエルナは少し照れたように頭を掻いた。
照れて頬を少し赤らめたエルナだったが、少しごまかそうと思って話題を変える。
「そ、それで隆美と紗霧の今でやった『良い事』を教えてほしいんだけど……」
隆美と紗霧はそのエルナの言葉を聴いてやはり不思議そうな顔をする。
「そのエルナさん、『良い事』ってどういう事なのかな？」
隆美が判らないといった様子で呟く。
「あ、さっきも話したけれどあたしは今この世界の『善行』を集めているんですよ。だからお二人の『良い事』も教えて欲しいなって思ったんです」
「なるほどね……」
「で、あたしとしてはお二人に話を聞く前にこのお店について色々聞いて見たいなって思ったんです」
「このお店って文月堂について？」
意外そうに紗霧がエルナに聞き返す。
「うん。このお店文月堂について、教えてもらえないかな？紗霧さん」
そう言われて紗霧は隆美の事を見る。
どこか余所余所しい紗霧の様子に今度はエルナが不思議そうな表情を浮かべる。
「ごめんなさい、私もよく判らないの……。私がここに来たのはここ一年ほどなので……」
「そうなんですか？」
そこであわてて隆美が会話の間に入る。
「ごめんなさい、紗霧はそういうの余り詳しくなくて……。このお店については私も紗霧も私もよく判らないの、歴史があるって事はわかるんだけどね」
「そうなの……」
「ええ、だからたまに不思議な本とかも良くまぎれているのよ。なんだかよく判らない魔道書とか、呪いの本とかまぁ、めったにある訳じゃないけどね」
「へぇ、これだけ本があればそういう事もありそうですよね」
エルナがそう言って辺りを見渡す。
「ええ、たまにそれで困った事件がおきて困ったりする事もあるんだけどね」
「それは困りものですね」
腕組みをして考え込んだエルナの気をほぐそうと思って隆美は続ける。
「それでエルナさんの聞きたがっていた私達の『良い事』なんだけど……」
「は、はい」
そう言われたエルナは勢い込んで、隆美の方に身を乗り出した。
「それは紗霧と出会った事だと私は思ってるわ」
「紗霧さんと出会った事？」
「ええ、詳しい経緯は余り話せないんだけど、実は紗霧は私の本当の妹じゃないのよ。紗霧は私は記憶をなくしていて、私がここに引き取ってきたの……」
「そ、そうなんですか……」
とてもエルナにはそうは見えなかった、二人は普通の、いやそれ以上の中の良い姉妹に見えたからだ。
「だから私は紗霧と出会って、今の生活を続けていける事が良いことだと思ってるわ。これで少しは答えになるかしら？」
「紗霧さんの方はどうなんですか？」
エルナが隆美の答えを聞いて紗霧にも聞いた。
「私も隆美お姉さんと出会えてこの生活をさせてもらえてることがお姉さんの『良い事』だと思う。私はこれって言って『良い事』って思い浮かばないんだけど……。ごめんなさい、私はここに来るまでの事は……」
良い淀んだ紗霧の曇った表情を見てエルナもそれ以上聞くのをやめた。
「それじゃ二人の『良い事』はそういう感じなんだね」
「そういう事かな？」
隆美の答えを聞いて、エルナは懐からメモ帳を取り出してそこに書き込んだ。
「そういえば、折角だしあたしの住んでた世界の事が書かれた本がないか探して見ても良いかな？」
エルナはメモ帳をしまうと二人にそう話掛けた。
「エルナさんの？ええっとシュテ……ルンだったっけ？」
「ええ、シュテルンです。これだけ本があるからひょっとしたらあるかな？って思って」
「お姉ちゃん見た事ある？私は見た事無いんだけど」
「私も見た事無いわね。でもひょっとしたらあるかもしれないし、ないとも言えないから探すのは全然構わないわよ」
その隆美の言葉を聞いたエルナは腕まくりをして本の山に挑みかかった。
●エピローグ
そして一時間後、本の山と格闘するのをやめたエルナは大きくため息をついた。
「だめだー！？見つからないよー」
「エルナさんずっと探してて疲れたんじゃないですか？こっちにきてお茶でもどうですか？」
隆美にそう誘われたエルナは大きく頷いた。
「うん、ちょっと疲れたかな？折角だからお言葉に甘えさせてもらおうかな？」
エルナはそう言って隆美たちの座っているカウンターまで歩いて行った。
そしてしばらくの間三人の楽しげな笑い声が文月堂の中に響くのであった。
Ｆｉｎ
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
≪ＰＣ≫
■エルナ・バウムガルト
整理番号：5795 性別：女 年齢：405
職業：デストロイヤー
≪ＮＰＣ≫
■佐伯・隆美
職業：大学生兼古本屋
■佐伯・紗霧
職業：高校生兼古本屋
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
どうもはじめまして、ライターの藤杜錬です。
この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加ありがとうございます。
エルナさんの元気さを上手く描けているか？とかシュテルンについて描いてよかったのかどうかとか心配ですけど。
楽しんでいただけたら幸いです。
それではありがとうございました。
2006.04.20.
Written by Ren Fujimori
|
|
 |
