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鴉の濡羽色
背中からかかった声。
振り向くとそこにいるのは真っ黒い、鴉の濡羽色のような印象の人だった。
彼は、自分は空海レキハと凪風シハルの先生だと言う。
あの二人の先生、と小坂佑紀は彼を見て呟いた。
「何の御用かしら」
「僕があなたに興味を持ったので会いに来た、じゃ駄目ですか?」
ふっと柔らかい笑みを浮かべながら彼は言う。
佑紀は、まぁそれもありね、と軽く返した。
それに片成シメイは有難うございます、とまた笑う。
「しっかりとしたお嬢さん、という感じですね、うん」
「そうね、自分で言うのもなんだけど、しっかりしてると思うわ」
小さな溜息をつきながら、佑紀は答えた。それは当たっているのだけれども、そんなに胸を張って自慢することでもないし、といった風だ。
「しっかりしているのはいいことだと思いますよ、小坂佑紀さん。僕はあなたに尋ねたいことも……あるんです」
答えていただけますか、と視線が言っている。
それを佑紀は感じ取り、なんだろうと思う。
「内容にもよるわね、どんなことかしら」
「二人……レキハとシハルをどう思うか、それを教えていただきたいなと思って」
「二人のこと?」
二人をどう思うか、と尋ねられて佑紀は二人を思い浮かべてみる。
空海レキハとの出会いは、そう間違われて狙われて。
凪風シハルとの出会いは、ちょっとした巻き添えにあって。
あまり良い出会い方をしていないような気もする。
けれども。
嫌いではない。
「二人とも嫌いじゃないわよ。そうね……レキハは馬鹿だしからかいがいがあるわよね。シハルさんは……まだ分からないけど、静かな人かな。あ、先生の前で馬鹿とか言っちゃって良かったかな」
「あはは、とてもわかりやすい答えです。そうですね、レキハは馬鹿です、ええ、馬鹿って言って構いません。ちょっとしたことで向かってきますから、面白いですよね」
「ええ、とっても面白いわ」
今までのことを思い出し、佑紀はくすっと笑う。
シメイも日頃のレキハを思い出しているのか、困ったように笑っていた。
「あなたは……まだシハルとはそんなに、関わっていないようですね。あの子は確かに静かな子だと思います」
「この前会っただけだし……また会うことがあれば色々と話もしてみたいわ。女の子同士だから」
「そうですか……」
と、シメイはすっと瞳を細める。
瞬間、何か雰囲気が変わったような感覚を、佑紀は感じる。
ぞわりとするような、少し嫌な感じ。
でもそれは、本当に一瞬のことだった。
「楽しみにされているところを悪いのですけれども……もうあの子たちに関わらないでほしいんです、これはあなたのためであり、レキハのため、シハルのため、そして僕のためでもあります」
「関わらないっていうのは……まったく会わないって言うこと……?」
はい、とシメイは頷く。
佑紀はちょっとばかりの間、考え、そして言葉を選びながら、シメイに伝える。
「ええと……どうしようかな。関わりたいとは思ってるけど……うーん……でも、会わなかったら関われないから、それじゃ駄目なのかしら」
どうなの、と佑紀は問う。
シメイはじっと勇気を見ていた。その視線に後ろに下がりそうにもなるけれども、引きはしない。
「……それは本心から?」
「ええ、本心よ。私のためって言うけれども……それは後々私が決めることよ。あなたが決めることじゃないわ」
「そうですね……でも、後悔するかもしれません」
「それでも良いと思うわ」
自分が決めたことなのだから、と佑紀は続ける。
まだ色々と、二人には、レキハにも、シハルにも出会って話をしたり、いろいろなことがしてみたい。
けれどもこのシメイの言っていることを完全に拒絶するのもなんだか悪いような気がしていた。
「僕たちとあなたは、生きている世界がちょっとずれていますよ、それでも?」
「もう出会っちゃったから、そのずれも縮まっているわ」
「なるほど、うまく切り返されてしまいましたね」
そう答えるシメイはどこか楽しそうだ。
「わかりました、それでいいです。会ってしまったらしょうがない、会わなかったらそれは関わりが無いということ」
「いいの? ありがとう、うれしいわ」
「いいえ、これからもあの子……レキハを相手にしてあげてください。あの子は、もう少し……しっかりというか、なんと言うか……」
「すぐムキになったりとかね」
「ええ、それです。その辺がもうちょっと抑えられればいいんですけどね」
そこは先生でも指導のしようがないみたいね、と佑紀は笑う。
確かにあの、良く言えば一直線な一途さをどうにかするのは大変だろう。
それはよくわかる。
「苦労してるみたいね、頑張って」
「あははは、励まされてしまいましたね。それは素直にありがとう、と言っておきますね。小坂さんも……頑張ってください」
「え、何を?」
「色々と、です」
意味深な言葉をシメイは佑紀へと送る。
それが意味していることはわからないけれども、想像がつかないけれども自分も素直に受け取っておこうと思った。
佑紀は微笑み、そして言う。
「そうね、色々と大変だけど頑張るわね」
「ええ、今日は……話が出来て良かったです、とても」
「私もそれなりに楽しかったわ」
それは良かった、とシメイは言う。
「それじゃあまた、どこかでお会いできたら」
「ええ、二人に……会うんでしょう? よろしくって言っておいて」
「はい」
と、佑紀は一つ、重要なことを思い出す。
シメイには重要ではないが、自分にとっては大事なことだ。
背を向け歩き始めていたシメイに声をかける。
「あ、待って!」
「はい?」
佑紀の呼び声に、シメイは何でしょう、と振り向いた。
「伝言お願いできないかしら、レキハに会うでしょう?」
「ええ、会いますね。内容にもよりますが……どんなことですか?」
「くだらない事よ、今度会ったらまたデートしましょうねって」
「デート……ですか?」
そんなに深い仲なのか、と思ったのかシメイは少し驚いているようだ。
それに佑紀は苦笑する。
「デートだけど、デートじゃなくて……また何か奢ってねって言うと、逃げそうだから。それにデートって言った方が……反応が面白そうでしょう?」
「ああ、なるほど、そうですね。とても面白そうです。わかりました、伝えましょう」
お願いするわね、と佑紀はシメイに手を振る。手を振りながらその背を見送る。
二人の先生は、レキハとシハルの先生はなんだかとても、普通の人のような感じがした。
それが彼生来のものなのか、作ったものなのかはわからないけれども嫌ではなかった。
「また出会うこと、あるといいわね、ちょっと楽しみだわ」
佑紀はこの先のことを創造して楽しみだと表情を緩ませた。
小坂 佑紀。
空海レキハ、凪風シハル。
そして片成シメイ。
お馬鹿さん、静かな人。
そして二人の、先生。
シハルとレキハと出会ったのは運命か、それとも他の何かか。
ここがきっと第一歩。
踏み込む、踏み込まないはまた、次に持ち越し。
次に出会う時の関係は?
それはまだ、わからない。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【NPC/片成シメイ/男性/36歳/元何でも屋】
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■ ライター通信 ■
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小坂・佑紀さま
いつもありがとうございます、今回は無限関係性三話目、鴉の塗れば色に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
楽しく書かせていただきましてありがとうございます!佑紀さまらしさを散りばめつつ進めていきました。和やかムードに志摩も安心しております!次回へむけてのレキハ弄りネタもひそりと…!(ニヤリ
またこれから、次からどーんと踏み込みの一歩です。どう転ぶか、また佑紀さま次第でございます!
ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!
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