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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ペピュー育成 〜黒


*オープニング*

アンティークショップ・レン。


都会にひっそりと佇むこのお店、曰く付のシロモノばかりのせいか
よほどの通か、よほどの好奇心旺盛な輩しか訪れない。

ドアが開くと、椅子に腰掛けたまま気だるげにキセルをふかした碧摩・蓮 (へきま・れん)が
視線を向ける。



「あぁ、あんたかい。
 ねぇ、面白い商品を入荷したんだけど、見てかないかい??」

そう言うと、蓮は何やらゴソゴソと、袋を漁り、何色もの手の平大の卵を取り出した。


*黒の卵と、ディオシス・レストナード*

ペピュー。
それはいまだかつてこの世界で見た者がいない、特殊な存在。
ペピュー。
昔々、あるところ、ある場所で、ある旅人が時空の狭間に挟まれ、異世界へと飛ばされた。
旅人はそこで出会った、なんとも形容もしがたい奇妙な存在に声をかけられた。
人語を解せたのか、それとも、旅人の意識下に話しかけられたのか。
今となってはわからないが、その旅人は様々な色の卵を託された。
ペピュー。
人間界にある「卵」。それを、この世界の者達は「ペピュー」と呼ぶのかもしれない。
人間界にある卵にも、ニワトリの卵を初め、鳥の種類は勿論、魚など、様々な卵がある。
この色とりどりのペピューの卵もそういった類なのかもしれない。
ペピュー。
『持ち歩かん。さすれば、卵は孵りよう』
なんとも形容しがたいその存在は、そう言うとまた、旅人を元の世界へと戻した。

ペピューの卵と共に…


「…これが、一緒に入ってたマニュアル。んーー…ま、小難しく書いてあるけれど、
 何が生まれるかわかりませんよ、って話みたいだねぇ。
 んでもって、約七日程度で孵化し、ペピューはペピューの国へと帰ります、と…
 あたしもまた、なんだかわからないもんを仕入れちまったもんだねぇ」

キセルの煙を吹きながら、碧摩・蓮がディオシス・レストナードにマニュアルを手渡す。

ディオシス・レストナード。
雑貨店『Dragonfly』の店主である。…表向き、は。
2mに届こうかという身長に、ガッチリとした体つき。
褐色の肌に、銀髪、そして何より特徴的なのは…吸い込まれそうな、だけど鋭い、青緑色の瞳。
年齢は、27歳。但し、あくまで「公称」である。実際には…。
特徴だけを羅列すれば、強そうで、怖そうな兄ちゃん。
しかし、だ。
その風貌からは想像できないくらいに、実際は気さくであり、雑貨店『Dragonfly』の常連客を始め
一見さんであろうとも、丁寧にあれやこれやと解説をする優しさ、気さくさも持つ。

だが。
雑貨店と謳いながらも、裏商売として武具である銃器や刀剣類などを取り扱っていることもあり、
やはりこのディオシスという男、只者ではない。

そんなディオシスがアンティークショプ・レンに入店してくると、女店主蓮は声をかけた。
「おや、あんたかい。面白い商品があるんだけど、見ていかないかい?」
普通の店では取り扱わないような代物をシゲシゲと眺めていたディオシスは、蓮の言葉に反応する。
「ペぴゅー…?なんだ、そりゃ?ま、いいや、とりあえずどんなもんなんだか教えてくれよ」


ディオシスは蓮から『ペピューマニュアル』を受け取り、説明を聞きながら、卵を物色した。
数色の種類の色を持つ手の平大の卵達。ディオシスは自分の髪の色と同じ銀の卵、そして黒の卵を両手に持ち、しばし悩む。
そして、最終的に選んだのは黒色の卵であった。
「まぁ、あんたにゃ黒も似合うわ」
そう、蓮は意味ありげに笑っていた。

ここで種明かしをすれば、ディオシスは、本来は27歳の青年…ではなく、
太古の昔に異世界から来た竜族と、人間の混血種の末裔なのである。年齢も、もうすぐ350年は生きようとしてる。
それを蓮は知ってか知らずか、黒い卵を持ったディオシスを見、フフ、と笑う。

漆黒の卵。傷一つなく艶やかで、覗いたものの姿が映るくらいである。
その漆黒は見る者によっては落ち着きを与えるぐらい、深い闇を現している。

「それでは、この黒い卵を買っていく。いくらだ?」
ディオシスが蓮に問うと、蓮はスッと手を出した。
「100円。」
「随分と安いんだな」
やや苦笑しつつ、ポケットに手を突っ込み小銭を取り出すディオシス。
そして、蓮に100円玉を手渡す。
「まぁ、ただ持ってればいいだけだし、餌代もかからない。頑丈だから、ビルから落としても割れない…とは書いてある。
 どんな扱いをするも自由。」
「別に、ぞんざいに扱うつもりはない」
ディオシスがそう言いきると、蓮はニコリと笑った。
「お買い上げ、まことにありがとうございました♪」

「不思議なもんを買っちまったもんだな…」
そう言いつつ、ディオシスは一旦自宅に帰宅するのであった。


*黒の卵 初日*

あたしの名前はペピュー。卵なの。まだ名前はないのだけれど、きっと孵化したら素敵な名前がつくつもり♪
そして、今のあたしがわかっているのは、「自分はペピューという生き物」ということと、ちょっとした人間界のルールとか、常識ね。
あんまりにも複雑なことはわかんないけどねー。今の総理大臣、とか。
ただ、確実にわかっているのは…7日間後にはこの黒い殻から出られる、ということ。そんなとこかしら。

そして、今、あたしは大柄なおにーさんの手の中にいる。
普通の卵のサイズなんだけど、この銀髪のお兄さんの手の中じゃあ小さく見えるんでしょうね、きっと。
あたしからはこのお兄さんの様子が見えるんだけれど、お兄さんからはあたしの姿が見えないみたい。
さっきから何度かマジマジと見つめられたけど、目が合うことはなかったし、話しかけても言葉は通じなかったから。
でも、お兄さんの言葉はあたしには聞こえるわけ。

「…どんな奴が出て来るのか…少し、楽しみだな」
見た目、いかつくって怖そうなお兄さんなんだけど…その優しい言葉と微笑みにはあたし、ちょっとクラッときちゃったわ。

夜も遅かったからか、お兄さんは自宅らしき場所に入っていった。
「さて、どうするか…」
お兄さんは、自分の部屋を見渡す。
あたしを持つ大きな手は、温かく、そしてお兄さんは部屋を見渡しながらももう片方の手であたしを(正確には、卵を、ね)撫でていた。
その心地よさにうっとりしていると、突如お兄さんは…そうだ!とでも言わんばかりの表情をし、部屋からクッション?みたいなものを取り上げた。
そして、ベッドの傍らにクッションを置き…更にあたしをその上に乗せた。
なんだか、このクッション…お兄さんと同じ香りがする気がする。
お兄さんの部屋のものだからかしら?でも、いい香り…
そんなことを思っていると、ふと、お兄さんが呟いた。
「この程度なら、封印をとかずとも…」
そう言いながら、クッションに乗せられたあたしに手をかざす。
すると。
ほんわかと、柔らかで暖かい空気があたしを包み込んだ。さっきまで、お兄さんの手に抱かれていたような感覚。
うっすらとフィルターがかったよような…視界がビニールを通したように不鮮明になる。
でも、お兄さんの表情は読み取ることが出来たの。
『成功だな』
そんな、満足げな表情に見えたわ。

……って!!

見た目からして只者じゃない!とはおもっていたけれど、何!?なんなのコレっ!?
いや、まぁ、心地いいからあたしはいーんだけど…

このお兄さん、何者??
とにかく、初日には「このお兄さんはフツーの人間じゃない」と、いう大きな収穫があったわ。

夜も更けていたからか、お兄さんは就寝支度(シャワーとか、ね。)を終えると、ベッドに横になった。
そして、ベッドの傍らにいるあたしを、撫でる。
フィルターを破って、あたしを撫でる手。
言葉はないけれど『おやすみ』という感情が伝わった気がする。

そして、お兄さんは就寝した。
卵であるあたしは『眠る』ということをしないのよね。
だから、あたしはお兄さんの寝顔を暖かなフィルターごしに眺めていた。
スースーと眠る表情は、何時間見ていても飽きなかった、わ。


*黒の卵 二日目*

朝…を通り越して、もうすぐ昼にでもなろうかという時間。
お兄さんの目がうっすらと開く。
そして、ぼんやりと起き上がる。フ、と傍らにいるあたしを見て、『そういえば、これ買ったんだった』というような表情をした。
(あくまで、あたしの推測だけど)
「おはよ…」
まだやや眠そうなお兄さんは、そう言いつつあたしを撫でる。
そして、ウウン…と大きく背伸びをし、一言。

「……腹減った」

そうして、キッチンに向かうお兄さん。その姿はあたしからでも見える。
冷蔵庫をゴソゴソと漁り、食材を取り出す。
そしてテキパキと、料理の下ごしらえを始めるお兄さん……に、あたしはギョっとした。

な、何っ!?何人家族なのっ!?

思わず卵の中で叫んでしまうくらいに、みるみる出来ていく料理の山。
大盛りの白米はともかく、鳥の唐揚、魚の煮付け、玉子焼き、お味噌汁、おしんこ…メニューは和食だわ。意外だったけど。
それをテキパキと時間をかけず作る姿、そして、何よりも、その…量。
もはや「何人前?」と聞くのは野暮なくらいに作られたその朝ごはん。
あ、もしかして、作り置き?それとも、誰か、来るのかしら?
あたしがそんな想像を働かせていると、いつのまにか調理器具の洗い物まで終わらせたお兄さんがテーブルにつく。
そして手を合わせ、「いただきます」

…凄かった…

瞬く間に減っていく料理の山。
身長もあるし、筋肉質でガッシリとした体つきだし、人よりもたくさん食べそうなイメージはあるわ。
でも…人間の胃袋って、ここまで入るものなのっ!?と疑ってしまうほどに、お兄さんは次々と自分で作った料理を平らげる。
しかも、飄々とした表情で。

そして、全てのお皿が綺麗サッパリ、空っぽになると…

「ご馳走様でした」

再度、手を合わす。そしてまた、テキパキと後片付け。
あぁ、このお兄さん、やっぱり只者じゃない…あたしは、ますますお兄さんの正体が気になったわ。

…結局。
この日、お兄さんは一日家から出なかったの。
どうやって生活してるのかしら?と聞くことなんて勿論出来ず、
あたしは一日、お兄さんが作った暖かい空間の中からお兄さんを眺めていた。

お兄さんは、シルバーのアクセサリーを作ってたわね。
ペンダントトップやら…時折あたしを手に取り、撫でながら構想を練ってたみたい。
他にも、銃器を整備したり…って、銃器ッ!?

な、何者なの、このお兄さん…や、あたしも人のこと言えないような生物だけどね。
でも、あたしが知っていた「人間」というものからかけ離れている…

案の定、お兄さんは晩御飯を朝(昼?)御飯以上に作り上げ、それをまた綺麗に平らげ就寝したのでありました。
凄いわ。


*黒の卵 三日目*

三日目、ね。
昨日よりはずいぶんと早いお目覚め。目覚まし時計に起こされた…
って言うことは、昨日は休日だったのかしら?やっと、そんなことに気がつくあたし。

相変わらず寝起き一番にあたしを撫でてから、料理に取り掛かり、また、綺麗に平らげる。
今日はいったい何をするのかしら?また、シルバーアクセ作り?などと様子を見守っていると、朝の身支度を整えたお兄さんはチラリとあたしを見た。
「肌身離さず、だったよな…」
そう呟くと、クッションからあたしを取り上げた。また、お兄さんの暖かい手の中に収まるあたし。

そして、テクテクと歩き出す。
ついた先は、シャッターの閉まったお店。
看板にはこう書いてあったわ。『Dragonfly』と。

お兄さんは慣れた手つきでシャッターを開け、中へと入る。
店内には、様々な…それこそ、本当に様々なものが売っている。
きっとお兄さんが作ったであろうシルバーのアクセサリー、銀細工、そして洒落た小物達。
全て手作りなのかしら?などとあたしはお兄さんの手の中で疑問に思う。
お兄さんは、時折あたしを撫でながら、店内のディスプレイを整える。
一通りのチェックが終わった後、また外に出て行き、『CLOSED』の札を『OPEN』へ。

そして、店内奥のレジ近くにある椅子に座ると、英字新聞を取り出し、読み始めたわ。
…このお兄さん、雑貨屋さんの店員さんなのかしら??
と、いうか…どこの国の方?

あたしは色々と妄想しながらも、しばらくゆったりとした時間が流れる。
幾人かのお客さんが中に入ってくるが、お兄さんからは声をかけず、そのまま英字新聞を読みふけっていたり、
何度も来てくれているお嬢さんなのか、軽く目礼したり…女性の顔がやや赤くなっていたのをあたしは見逃さなかったわよ?

常連さんかご新規さんなのかあたしにはわからなかったけど、そこそこにアクセサリーや雑貨が売れ、一日は平和に過ぎたわ。
お客さんがいない時は大きな手であたしを撫でてくれたり、と…あたしとの表立ったコミュニケーションは多くないけれど…
(確かに、店員さんが卵相手に話しかけていたらヒくわよね、普通。)
あたしのことも気にかけてくれているんだ、と嬉しくなっちゃった。

夜も更けて、朝と同じく手馴れた手つきで売り上げを数え、金庫にしまい、店のシャッターをおろす。
そして帰宅すれば、もうそろそろ…と、いうかやっとビックリしなくなってきた晩御飯の準備。
(ちなみに、お昼御飯はあり得ない量の出前が届けられてたわ。出前のお兄さんは『毎度どうも』と慣れてる感じ)
また、軽く銀細工をいじったりして、平穏に過ごし、本日終了。
お兄さんご就寝。
今日の収穫。お兄さんは雑貨屋さんの店員さん?でも、店長らしき人もいなかったし…
お兄さんのお店なのかしら?


*黒の卵 四日目*

四日目。
今日もお兄さんはお店へ。そして、日課なのか英字新聞に目をやる。
ふわぁぁ、とあくび。ちょっと可愛らしいな、と思っていると…
お兄さんが気だるそうに顔を上げた。
そこには、全身黒尽くめのスーツを着た…怪しげな男の人がいつの間にか店内に。
日本人…じゃ、なさそうね?
「例のモノ、取りに来タ」
カタコトの日本語を話す、その異国の人。それに対し、お兄さんは流暢なフランス語で話しかける。


…さ、さっぱりわからなかったわ…

その会話の後、怪しい異国の人は大量の札束をお兄さんに手渡し、そしてお兄さんは店の奥から大きな包みを持ってきた。
そして、他の客がいないのを確認してから、包みを開く。
…拳銃。
え、えーと、日本では違反なのよね?確か??
疑問符があたしの中で飛びまくるも、当たり前だけどお兄さんは気にも留めず、お札とその包みを交換する。
そして、その怪しげな黒尽くめ外国人は、
「また頼むヨ、レストナードさん」
と言って去っていった。

レストナードさん…4日目にして、このお兄さんの名前がわかったわ。
でも……苗字?名前?

ともあれ、その後もレストナードさんは店番。
そうそう、昨日も来ていた顔を赤らめたお嬢さんが今日も来ていたわね。
しげしげと、あたしが来た2日目にレストナードさんが作ったシルバーアクセサリーに見入っている。
ディスプレイを直すのもかね、腰を上げたレストナードさん。
たまたま近くに来たからか、お嬢さんは顔を赤らめたままレストナードさんに声をかけていたわ。
若干距離が離れていたから、会話の全部は聞こえなかったけど…
「これ、ディオシスさんが作ってるんですか!?」
「あぁ。先日作ったばかりの最新作なんだ。自分でも結構気に入ってる」
などと、ドギマギしたお嬢さんの言葉に気さくに応じていたわ。
…ディオシスさん。ディオシス、レストナードさん?やっと、あたしの中でお兄さんの名前が完成したわ。
満足げに思っていると、ディオシスさんとお嬢さんがレジに向かってやってきた。
勿論、シルバーのペンダントトップお買い上げ♪
「またいつでも来てくれな」
と微笑むディオシスさんに、お嬢さんは顔を赤らめたまま、ペコペコと頭を下げ去っていった。
そして、また英字新聞に目をやる。あたしを手のひらで撫でながら。

その様子を見ていると…お嬢さんの気持ちに気づいているのか、どうなのやら?といったところね。

こうして、今日も一日が平和に終わったわ。


*黒の卵 五日目*

ディオシス・レストナードさんとの生活も早5日目。
流石にもう、料理の多さに驚くことはなくなったわ。でもやっぱり…あれだけ食べて、
なんでスタイルがいいのか気になるところだけれど。

そして、今日も『Dragonfly』にて店番。
様々なお客さんがやってくる中、昨日のように、またしても場の雰囲気にそぐわない客が来訪した。
ディオシスさんはチラリ、と目をやると、その怪しげな客に先に言葉をかけた。
「今天的工作?」
…中国語??
すると、相手の男性もまた、流暢な中国語でディオシスさんに長々と説明する。
お互いに頷くと、相手は帰っていった。

客人が店から出るのを見届けた後、ディオシスさんはあたしに目をやった。
「流石に、明日は一緒にいられないな」
そう言うと、あたしをまた手の中に収め、いつも以上に時間をかけて撫でてくれた。
流石に、明日何があるのかはわからないけれど…
「教育上、良くない。」
な、何っ!?余計気になるじゃないっ!?

そう思った五日目。
…もう、五日たってるのね…。早いわ。
そう思いながら、スヤスヤと寝息を立てるディオシスさんの寝顔に、あたしは今日も見入っていた。


*黒の卵 六日目*

いつもどおりの時間にディオシスさんは起き、朝の支度&食事を終え、あたしを連れて店に向かう。
あら、今日は何かがある日じゃなかったのかしら?
そう思っていると、シャッターを開けるワケでもなく、ディオシスさんは店の看板を代える。
「OPEN」でも「CLOSED」でもなく…「ABSENT TODAY」に。
…臨時休業、ってことかしら??

そして、あたしを連れてまた部屋に戻る。
珍しく、ディオシスさんがあたしに向かって長々と話しかけた。
今日はいつもと違う仕事をしてくること。
いくら頑丈とは言えど、あたしは連れて行けない、との旨。
「ごめんな」
そう言い、ディオシスさんはあたしを撫で、いつものクッションの上に置いた。
そして、手をかざし、また暖かな空間を作る。

「いってくる」
そういうと、ディオシスさんは出かけた。
初めての一人きり。
こんなにも時間が長い、と思ったのは初めてだったわ。

どのくらい時間がたっただろう。
もう、夜も更けていたと思う。
ディオシスさんは帰ってきた。出かけたときとおんなじに。
ただならぬ空気を纏ったディオシスさんに、何かあるんじゃ…とは、すこぉししか思わなかったんだけど、
ディオシスさんはなんだか、一仕事終えたよ表情。
「ただいま」
と、あたしに微笑み声をかけ、撫でる。
そして、少しだけ汚れた衣服を洗濯機に放り込む。

「まさか、ピアスをはずすことになるとはなぁ…」
そう、呟いたのをあたしは聞き逃さなかった。
そして、
「そういえば、もしかして、明日でもう7日?」
ディオシスさんがあたしを見つめながら独り言を言う。独り言、と言ってもあたしには聞こえてるんだけど。
しばし、ディオシスさんは何かを考えると、名案でも浮かんだような表情をニヤリ、とした。

こうして、あたしにとっては長い一日が終わった。


*黒の卵 孵化*

7日目。あっという間だわね…そう思いながら、あたしはディオシスさんの寝顔を見ていた。
この綺麗な寝顔を見れるのは今日が最後。
そう思うと、あたしは少し切なくなった。
そんなことを考えていると、ディオシスさんが起き出す。
あら?まだ明け方よ。日も昇っていない…

「うしっ!」と気合を入れ、まずは恒例の腹ごしらえ。
そして、ディオシスさんはまだ薄暗い明け方の外にあたしを連れ出した。

まだ夜も明けていないから、ということもあるけれど、ディオシスさんは人気のない土手へとやってきた。
そして、周りを確認し…
自分の左耳に手をやる。
いつもつけていた、ピアス。ディオシスさんは、そのピアスを…外した。
すると。

ディオシスさんのやや長めの銀髪が、更にどんどん伸びていく。
青緑がかった瞳は、完全な緑色に。瞳孔は猫の如く縦長に…髪は腰にまで伸び、頭には…角が。
そして何よりも存在感を示したのは…羽。
この人間界にいるとは思わなかった…竜のものと思われる羽と、鳥のものと思われる羽。
その二対の羽がバッサバッサと羽ばたくと、あっという間にディオシスさんは宙に浮いていた。

…嗚呼、やはりこのお兄さんは只の人間じゃなかった。
お兄さんはあたしを持ったまま、まだ薄暗い明け方の空を羽ばたく。

「ここ、俺の一番好きな景色。」
無邪気な笑顔であたしに言う。
「そうなの…確かに、明け方だからか更にロマンティックに見えるわね」

……??

あら?声が…出た。
と、いうことは…手の平からディオシスさんを見上げると、ディオシスさんもあたしを驚いた表情で見つめている。

「孵化、したんだな」

優しく優しく、あたしの頭をそっと撫でる。

その気持ちよさを感じると同時に、朝日が徐々に昇ってきた。

ディオシスさんが、あたしを見つめる。
「へぇ…羽が二対ある…飼い主に似る、ってことか?それに、まさか妖精だとはなぁ…」
そう、気さくな笑顔であたしに話しかける。
たくさんたくさん、話したかった言葉があったはずなのに、あたしの口からは出てこない。
あぁ、あの時雑貨店に来た女の子も、今のあたしと同じ気持ちだったのね。
諦めて、一番伝えたいことだけを伝えよう、と決心する。
「ディオシスさん。ありがとう、ずっと側にいてくれて。あたしもまさかディオシスさんが
 こんな凄い人だなんて思わなかったわ」
そう言うと、ハハ、と笑い、「この世界には変わったヤツらが多いからな」と朝日を見て呟いた。
ディオシスさんの手の平で、あたしも徐々に上る朝日を見る。
そして、気づく。自分の体が透けているのを。ああ、戻る時間が来てしまったみたいね。

ディオシスさんもそのことに気づいたようだった。
やや寂しげな表情をしてくれた後、いつものようにあたしを、あたしの頭を撫でてくれた。
「ありがとう、ディオシスさん…」
「元気で、な」

この一週間で見たディオシスさんの表情で、最高の笑顔をあたしは見れた、と思った。


*黒の卵 その後*

その後、ペピューの世界に戻った漆黒の二対の羽を持つペピューには『ルナ』という名前がついた。
ルナは、ペピューの国で雑貨店を開き、毎日のようにアクセサリーを作っては売り、過ごしているという。

黒色の卵だったペピュー、ルナ。
人間界での思い出は、ディオシスとの思い出は、きっと忘れないだろう…。


☆END☆



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3737/ディオシス・レストナード/男性/348歳/雑貨『Dragonfly』店主】

【NPC/ペピュー・黒・ルナ/女性/24歳/真っ黒い羽の生えた妖精】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして!新米ライター、千野千智と申します!
この度はこのような新人にPC様をお預けくださりありがとうございました!!

そして、お届け予定日を過ぎてのお届けになってしまいまして…
大変申し訳ございませんでした。
全て、ワタクシの体調管理の悪さによるものです。誠に申し訳ありませんでした。

ディオシスさん…かっこいいです、もう、設定から何から全てが!
設定に反してることなどありましたら、どうかお叱りくださいませ(土下座)
少しでも、ディオシスさんの魅力が引き出せていれば幸いでございます。

本当に、わかりずらい内容にも関わらず、素敵なPC様を書かせていただき光栄でした!
ご発注、本当にありがとうございました!
ヘッポコライターではありますが、
よろしければまたお会いできることを願って…では!!

2006-05-08
千野千智