コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


鴉の濡羽色



 背中からかかった声。
 振り向くとそこにいるのは真っ黒い、鴉の濡羽色のような印象の人だった。
 彼は、自分は空海レキハと凪風シハルの先生だと言う。
 また面倒事か、とユア・ノエルは思った。
 目の前にいる男はただただ、微笑を浮かべている。
「少しお時間をいただけると嬉しいんですけれども……駄目ですか?」
 時間はあった。
 ノエルは片成シメイの方を、見据える。
 穏やかそうな、そんな雰囲気。けれども、奥底の知れぬものを感じる。
「……手短に」
 普段なら、面倒だなと思い気にせずに帰っただろう。
 けれどもなんとなく、なんとなく少しなら良いか、という気になったのだ。
 それはノエルにしては珍しいことだった。
「有難うございます、では手短に。僕はレキハとシハルの先生だと先程も言いましたが……二人のことをどう思っています?」
「面倒なヤツらだ」
 レキハとシハル。記憶の隅の方に覚えている二人。
 二人と関わったときのことを思い出しながらノエルは答えた。
 ノエルはきっぱりと言い切り、それ以上言うことはないと黙る。
 シメイはそうですか、と笑って答えた。
 そしてまた、言葉を選びながら話を続かせようとする。
 その一言で本当に終わるのか、と言った表情だ。
「他には、ないんですか? まったく同じくらい面倒ということは……無いでしょう?」
 無いでしょう、とまた問われれば答えないわけにもいかない。
 ノエルの根の良さがこんなところで見え隠れする。
「どちらかと言えば、レキハの方がウザいが扱いやすそうだ」
「そうでしょうね、ええ。聞き分けが無いのはレキハの方ですからそれはわかります」
「……まぁ面倒なことには変わりが無い」
 あなたはすべて、面倒で片付けてしまうのですね、とシメイは笑う。
 ノエルはそれが普通だろう、と思う。
 そして質問にも答えたことだしもう帰って良いだろうとシメイに背を向けた。
「あ、待ってください。本題はこれからです、あなたにとって……悪い話ではないと思います」
 静かに、シメイに呼び止められて、ノエルは眉を顰めつつ足を止める。
 悪い話ではないとはどんなことか。それを決めるのは話を聞いてからだと思いながら。
 早く言え、というような表情でノエルはシメイを見た。
 これで悪い話でない、と感じなかったらどうしてくれると思う。
「二人……レキハとシハルにこれ以上関わらないでいてほしいんです。それはレキハにとっても、シハルにとっても、あなたにとっても……そして僕にとってもいいことだと思うんですよ」
 シメイの言ったことは、確かに悪い話ではなかった。
 悪い話ではないのだけれども、少し引っかかりを感じる。
「それなら喜んで受けるが……向こうが勝手に来るのだから仕方が無いように思う」
「ああ、そうですね。それは……うん……」
 寧ろあいつらの先生ならお前がどうにかしてくれ。
 そんなことを思いながら、ノエルは珍しく、きっと視線を鋭くしてシメイを睨む。
 シメイはその視線を受け、ふわりと笑った。
「どうやら僕にどうにかしろ、といった風ですね。善処します」
 しっかりとわかってくれた。
 中々に、この男は見所があるかもしれない。
 先程の言葉に、偽りはなさそうな感じだった。
 きっとやってくれるだろう、とノエルは思う。
 これで一つ、面倒事が減ったのだろうかとまだ少し、不安は残る。
 それは簡単に信用は出来ないような気がしていたからだ。
「何かまだありますか?」
「いや……」
「そうですか、では僕の用はこれで終わりです。お時間とらせてすみませんでした」
 ぺこりとシメイは頭を下げ、ノエルが行くのを見守る。
 ノエルは、その視線を背に受けつつ歩みだす。
 一瞬突き刺さるような、そんな視線も受けはするが気にはしない。
 そんな視線を受けることは多々ある。
 と、ふと先程から思っていたことを聞いておくのだったと、唐突に思い出す。
 それは今更なのだけれども。
 ノエルはそのことを心の中で反芻する。
 今まで感じていた疑問、だ。
 そもそも何故自分は狙われているんだろうか。
 一度目、あのレキハの襲撃はきっと依頼人でもいたのだと思う。
 二度目は……二回目の理由は心当たりが無い。
 一度目が失敗して、依頼人はその仕事を取り消すだろう。狙ってくるとしても他の者のはずだ。
 そしてそれを、あの男は知っているのだろうか。
 ふと、後ろを振り返る。
 もしまだあの男、片成シメイがいるのならば面倒ならば問おうと思った。
 それで自分のこの心のもやもやが消えるのなら、と思って。
 だがしかし、もう先程の場所にシメイの姿はない。
 いるなどとは、思ってなどいなかった。それでも振り向いてしまったのは何故だろう。
 本能か、それとも他の何かか。
 それを考えるのも、面倒だ。
「……まぁ、いいか……」
 ノエルはそう声に出し、また自分の進むべき道を歩む。
 とりあえず、あの男のことは覚えておこう。
 きっと自分にとって、今のところ悪いものではない。
 あの面倒なやつらを抑え込んでくれるのならそれでいい。
 あちら側、あの二人、レキハとシハルが関わってこなければ、向かってこなければ自分は関わりはしない。
 多大な期待はしていない。けれども少しは期待している。
 もし面倒な二人が現れ、そしてシメイに出会ったなら、真正面から睨んでやろう。
 善処するのではなかったのか、という不満を込めて。
 そんなことを思いながら、ノエルは夜の中歩んでいく。
 今晩はこれ以上、面倒なことは起こらないでほしい。
 そんなことを思いながら。
 けれどもそれが叶うかどうかは、進んでみないとわからない。



 ユア・ノエル。
 空海レキハ、凪風シハル。
 そして片成シメイ。
 二人とも面倒、どちらかといえばレキハの方が。
 そして二人の、先生でありもしかしたら面倒事を取り除いてくれるかもしれない。
 シハルとレキハと出会ったのは運命か、それとも他の何かか。
 ここがきっと第一歩。
 踏み込む、踏み込まないはまた、次に持ち越し。
 次に出会う時の関係は?
 それはまだ、わからない。



<END>



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6254/ユア・ノエル/男性/31歳/封印士】

【NPC/片成シメイ/男性/36歳/元何でも屋】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ユア・ノエルさま

 またまたありがとうございます!無限関係性三話目、鴉の濡羽色に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 珍しく表情が動かれたノエルさまにときめきつつ書かせていただきました、楽しかったですありがとうございます!大人しく(?)シメイせんせーの話を聞いてるノエルさま…面倒事を退けることに対しては面倒がらないんだな、とニヤリと笑っておりました。
 またこれから、次からどーんと踏み込みの一歩です。どう転ぶか、またノエルさま次第でございます!ええ、きっと踏み込みもせずスルーしていただけると思っております!(何
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!