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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜田中君の恋人4.5〜


 見舞に行った筈の裕介が添い寝をした翌日。
 二人で仲良く風邪を引いたのは一日後にはすっかり周知の事実となっていた。
 一説には何かあったとか、ささやかに噂に上ったりしたのだが……。
 それは外に出ていない裕介は知らない事だ。



 さらにその翌日。
 すっかり風邪の治った樟葉は、堪った仕事の内急な仕事だけを取りに職場へと向かえる程になっていた。
 実際には完治していると豪語できるのだが、風邪を引いた裕介の看病をするために早く帰ってきたのである。
「具合はどう?」
「とりあえずは、何とか」
 あやふやな言葉を連ねる裕介に樟葉がにこりと微笑む。
 一足早く完治した樟葉は、仕事場から帰って直ぐに着替えてから、裕介の世話を病み上がりをまったく感じさせない動作で良く働いていた。
 世話をしていたと言い換えても良い。
 何しろ、現在の状況は看病をしていると言うには少しばかり変わった服装だったのだから。
「いま食べやすいもの作ってくるから、少し待っててね。ご主人様」
「………はい」
 ふわりとロングスカートを翻してキッチンへと向かう樟葉の服装は、頭のてっぺんから爪先まで文句の付けようのないメイド服だった。
 仕事から帰ってから、折角だからと着替え裕介の看病にいそしんでいるのである。
 何が折角なのかは本人にすら解らない。
 何故メイド服があるかなんて疑問はもっと愚問だ。
 普段から樟葉が持ち歩いているトランクの中身は、この家にあるのだから。
 普段着からメイド服までしっかり揃っているのは当然と言っても良いぐらいだ。
「お待たせしましたご主人様、お粥です」
「頂きます」
 口調まで変わっている樟葉に苦笑しつつ、トレーを受け取り足の上に乗せしっかりと安定させる。
「そのままだと食べにくいでしょう」
「確かに……」
 メニューはお粥だが、同じトレーに乗っているお茶の入ったコップはバランスを崩すとこぼれてしまう。
「大変よね」
「………え?」
 ベッドに腰掛け、お粥をすくい取り、食べやすいように冷ます樟葉。
 昨日の裕介がした行動とまったく同じ行動だった。
 つまり、
「はい、あーん」
「い、いただきます」
 楽しそうにサジを口元へと運ぶと、何か笑いを堪えるような表情でパクリと食べる。
 なんだか雛にご飯をあげているようで思っていた以上に楽しいと、樟葉は次と同じ動作をもう一度。
「ご主人様、あーんしてください」
「なんだかエスカレートしてません?」
「偶には良いでしょう、しっかりお世話してあげるから」
 楽しくて仕方ない樟葉に、裕介も初めこそ照れていたが、食事を終える頃には大分乗ってきたようだった。
「髪、梳かすわね、後ろ向いて」
「お願いします」
 寝てばかり居たから乱れてしまったとクシを持ってきた樟葉は、紐を解き丁寧にクシを通し始める。
「さらさらね、悔しいぐらい」
「先輩の髪の方がきれいに決まってるじゃないですか」
「本当? ありがとう、折角だからツヤツヤになるまで梳かすわね」
 時間をかけて髪を整えながら、思いついたように立ち上がり取りに行ったのはレース飾りのかわいらしいリボン。
「それ……」
「これでまとめても良い? 前からやってみたかったの」
 リボンを見るために振り返り、驚いたように目を見開いてから、くすくすと小さく笑う。
「家の中だけですよ」
「あら、かわいいのに」
 冗談めいた言葉でからかいつつ、リボンで髪をまとめる。
「出来ました、ご主人様」
「ご苦労様です、メイドさん」
 呼び方がメイドさんに変わっている事と、ひとしきり髪に触って満足してから、映画を借りてきたことを思い出す。
「いま眠気はどう? 怠さは? 頭痛くない」
「それが……まったく」
「そう、やっぱり」
 寝ていた方が良いのだが、樟葉が仕事の間たっぷり寝ていただけに、今はまったく眠くないのだから仕方がない。
「映画借りてきたから、一緒に見ましょ」
 一泊だったから返しに行ったついでに、そのまま別の作品を借りて来たのだ。
「良いですね、なにを借りてきたんですか?」
「前に見たいねって話してた、サイコロゲームの続編」
「確か宇宙に行く話でしたよね」
 ベッドに横になりながら、のんびりと見られるような話かどうかはなんとも微妙な所だが……ホラーと一瞬迷ったのは黙っておく。
 流石に後者は病人には刺激が強すぎる。
「その前に……」
 ポンとベッドを叩き、裕介に横になるように促した。
「………?」
 首をかしげつつ横になった裕介に、樟葉は前髪をかき上げ額と額を重ね合わせる。
「うん、大丈夫」
 熱は大分下がっていた。
 風邪が移ったと言ってもそれ程酷くは無かったようだ、これならもう薬を飲まずとも寝ているだけで治るだろう。
 くすぐったそうに笑っている裕介に笑い返し、一応付け加えた。
「こういう時にしかできないことだから」
「確かに」
 具合の悪い時でもなければ、額で熱を測るなんて事はまずしない。
「そのまま横になってて、映画見てる間何か飲むもの取ってくるわね」
 大丈夫そうだと確認し、ジュースを手元に置いてのんびりと映画を見始めた。




 明かりを落とした部屋で映画を見始め、一時間半ほど経過した頃。
「……?」
 すっかり寝入ってしまっている裕介に気付き、そっと額に手を伸ばして熱を測る。
 まだ少し熱いけれど、大丈夫。
 映画はまた起きた時にゆっくり見ればいい、次の日には良くなっているだろうから。
「おやすみなさい」
 髪を撫で少しの間寝顔を眺めてから、新作のデザインをどうしようかを考え始めた。
 完治するまで、後もう少し。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1098/田中裕介/男性/18歳/孤児院のお手伝い兼何でも屋】
【6040/静修院・樟葉/女性/19歳/ 妖魔(上級妖魔合身)】

→もし付き合っていた先輩が死ななかったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

IF依頼、ありがとうございます。
もしもの世界、楽しんでいただけたでしょうか?

4話が本編で4.5話がおまけになります。
楽しんでいただけたら幸いです。