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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


福不サボテン



「いいものをあげようか?」
 そう言われて、ステラは足を止める。
 ステラの知り合いであった。
 どうしてこんなところに居るんだろうと瞬きする。
「珍しい……。どうしてここにいるんですか?」
「ふふっ。面白いお土産があるからステラにあげようと思ってさ」
「うわあ! 本当ですかあ?」
 きらきらと顔を輝かせるステラである。ここに彼女のトナカイがいれば、
「また騙されるんだぞ、きっと」
 と呆れて言うだろうが……残念ながら彼はここにはいない。
 受け取ったステラは瞳をさらに輝かせた。

 そお、と草間興信所のドアを開けた相手に武彦はむっ、と顔をしかめる。
 なぜ隙間から覗いているのか……あのサンタ娘は。
「なにやってるんだ……」
 武彦の声にステラはじ、と隙間から見てくるやドアを開けて入ってきた。
「いいものあげます〜!」
「いいもの?」
 胡散臭い。だいたいこの娘はろくなことをしない。
「わたしの古い友人が遊びに来ていて、お土産をくれたのですよ」
「ほ〜……そりゃまた、物好きなトモダチだな」
「セットで、少しですけど貰ったので〜」
「…………は?」
 ステラは肩からかけているバッグから小さなサボテンを取り出す。なるほど。女性が喜びそうな感じの物だ。
「へえ。インテリアには向きそうなサボテンだな」
「『福不サボテン』って言います」
 …………なんだその名前は。聞いたことがない。
「……フクフサボテン?」
「二つセットで持っていると、なんの害もないそうです〜」
「…………は?」
「詳しく説明してくれなかったのです〜」
 てへ、と笑うサンタ娘に武彦は無言で返す。
「…………いらん。帰れ」
「そんなあ〜! いつもお世話になってるのでお礼に持ってきたのにぃ〜」
「やかましい! 怪しげなものはお断りだッ」

***

 やいやい言い合っている二人にシュライン・エマは苦笑する。
「まあいいじゃない。ステラちゃんの善意、その気持ちが嬉しいもの。武彦さん、貰ってあげましょう?」
「おまえ……」
 呆れたような顔をする武彦とは違い、ぱあっと顔を輝かせるステラ。
「さっすがエマさんは話がわかりますぅ!」
「……くそっ。どうなっても知らんぞ俺は」
 ステラは部屋の中に居た梧北斗と黒冥月、綺璃に気づいて彼らの顔を見渡す。
「うはあ。珍しく繁盛してますねえ」
「違う! こいつらは客じゃないっ!」
 不機嫌な武彦の言葉に冥月は肩をすくめてみせた。勿論、ステラのほうを向いている武彦からはそんな様子は見えない。
「あ、よければ皆さんもどうですか?」
 カバンからごそごそと取り出すステラは一歩踏み出す。
「福不サボテンっていう、ちょっと珍しいサボ……っ」
 刹那、ステラは近くのテーブルに足をぶつけ、そのまま派手な音を立てて床に倒れた。見事なほど、ベタな転び方である。
「おっ、おい! 大丈夫か?」
 慌てて駆け寄ってくる北斗とシュラインに助け起こされたステラは、歪んだ笑みを浮かべた。額と鼻の頭が赤く染まっており、痛みを訴えている。
「へ、平気ですぅ〜……うふふ……」
「…………大丈夫にみえないけど……」
 北斗もつられて引きつった笑みを浮かべた。
 カバンから飛び出て床に転がった小さなサボテンたちを見たステラは泣きそうになる。
「すみませぇ〜ん。わたしがドジなばっかりにぃ〜」
「気にすることないさ」
 冥月はそう声をかけて、近くのサボテンを一つ拾った。
 武彦以外の全員が散らばったサボテンを拾おうと動いた矢先、ドアが派手に開く。
「武彦ー、また来たよー! あっそびーましょっ!」
 明るい声で入ってきた山口さなは、屈んでいる一同を見て瞬きし、疑問符を頭の上に浮かべる。
「なにしてんの? あ! うわー、可愛いサボテンだねっ」
 自分の近くに落ちていたサボテンを一つ拾うと早速愛でる。
「かわいー! なにこれ。貰っていいの?」
「あ……はい。で、でも……」
 ステラは戸惑ったように答えるが、ふと青ざめた。そして彼女は次の瞬間涙と鼻水を流す。可愛い顔が台無しである。
「うわぁぁんっ! バラバラになっちゃってます〜!」
「ええっ!?」
 シュラインと北斗が同時に声をあげる。
 そういえばステラは、二つセットで、と言っていた。二つをリボンで結んでいたというのに、そのリボンが全て外れているのだ。
「実際、害があるかどうかもわからないし……慌ててもしょうがないと思うがね」
 薄い笑みを浮かべて言う冥月に、綺璃もなぜか頷いている。
「なんかよくわかんないけど、大丈夫だよー!」
 根拠のない自信でそう言い放つさなは、自分のサボテンをうきうきと眺めた。

 拾ったサボテンはテーブルの上にずらっと並べられている。ステラは両手を広げた。
「じゃあ、お好きなのをどうぞ」
 と言われても。
 すでに貰っているさなを除いた全員が、神妙にサボテンを見ている。
「では俺はこれで」
 一番最初にすっ、と取ったのは綺璃であった。彼は真ん中のサボテンを取った。
 冥月も、腕を伸ばす。
「私はこれを貰おうか」
「じゃあ私はこれを」
 選んだものを取るシュライン。
 北斗はこそこそとステラに耳打ちする。
「ところで詳しく教えてくれなかったってさっき言ってたけど……どういうサボテンなんだ、これ?」
「さあ? とにかくとっても珍しくって、とっても面白いらしいですよ?」
 とっても、という部分を強調するステラの言葉に、一抹の不安を感じる北斗であった。
 北斗も自分のものを選ぶ。武彦以外の全員に一つずつ行き渡ったのを見て、ステラはほくほくとした笑顔を浮かべた。
「じゃあ他のはみんな片付けますね〜」
 ごそごそとカバンに残ったサボテンを入れていたステラに、シュラインが声をかける。
「せっかくだし、お茶くらい淹れるわ」
 そう言うシュラインが微妙な表情になる。その表情に気づいたステラが怪訝そうにした。
 台所に消えていくシュラインの後ろ姿を目で追っていたステラは、部屋の中に視線を戻す。
「俺って……俺ってダメだよな……」
 いつの間にか部屋の隅にうずくまっている北斗。
「僕って駄目な奴……もういい年だってのにこんな外見だし……」
 ドアの前の床に座り込み、ドアに全体重を預けているさな。
「ふふ。おまえだけだ、俺をわかってくれるのは」
 笑みを浮かべてサボテンに話し掛けている綺璃。
 どんよりと暗い空気を出している三人の様子にステラは疑問符を浮かべる。
「ど、どうしたんですかぁ?」
「もしかしてこれがサボテンの害ってやつなのかな」
 平然と言う冥月にステラは首を傾げた。
「黒さんは、なんの影響もないんですか?」
「ないねえ」
 ひらひらと手を振る冥月。
 武彦は部屋の中の様子に「やっぱりな」という顔をして嘆息した。
「きゃあっ! なんで……ど、どうして!?」
 台所のほうからシュラインの悲鳴が聞こえてくる。武彦とステラは顔を見合わせた。
 だがすぐにシュラインはお茶をいそいそと運んでくる。
「ご、ごめんなさい。ふふ……」
 なぜそんなに辛そうな笑みなのか……。
 お茶をステラにすすめるシュライン。
「はい、ステラちゃん」
「え……あ、う……」
 周囲の様子に戸惑うステラはうまく応えられない。そんなステラの様子にシュラインはどんよりと落ち込んだ。
「……そう。そうよね。ごめんなさい。好きでも、喉が渇いてもないのに無理にお茶なんて……。私が悪いのよね……」
「え、エマさん?」
「全部私のせいなのよ……この事務所の経済状況が悪いのも私のせい。武彦さんだってなんだかんだ言っても人が良いから私を解雇できないだけなのよ……」
 ふらふらと歩いて壁際で崩れ落ちるシュラインはさらにぶつぶつと呟き続ける。
 武彦は青ざめた。
「……これはさすがに……ん?」
 気づけばソファに座っていた冥月が倒れ込むような姿勢になっていた。武彦はそっと近づく。
「お、おい……?」
「……どうせ私は男っぽいさ。ケーキ好きだってことも、綺麗な服も、似合わないさ」
 冥月までブツブツと愚痴を言い始めていた。
 ドアの前でただひたすら自分のことを言うさなは、ふふ、と笑う。
「髭もすね毛も生えないし、行動も精神も子供っぽいよね。だから奥さんにも見限られちゃったし、その後恋人もろくに出来ないんだよ……」
「山口さん、そんなことないですよぅ」
「いいんだよ……そんな嘘つかなくてもわかってるから……。仕事だってだいたいうまくいってるけど、メンバーは僕に不満があるんじゃないかな……」
「ですから、そんなことないですって!」
「慰めなんていらないよ……。もっとしっかりしたいい人がリーダーだったらみんなも安心して活動できるんだよ……ああごめんなさい。僕が生きててごめんなさい……」
 ひえぇ、とステラがさなから離れた。どう声をかけていいかわからない。何を言っても彼は悪く受け取りそうだ。
 ステラは今度は北斗のほうへ行く。
「梧さんしっかりしてください〜!」
「ぐすっ……俺って、実はウザいヤツなんじゃないかなぁ……うぐ」
 鼻をすすりあげ、流れる涙をそのままにしている北斗の様子にステラは唖然とした。
「だって俺ってさぁ、うるさいヤツだってみんな思ってるんだよ。絶対そうだ。きっと言わないだけなんだ!」
「ち、違いますよぅ」
「ステラぁ!」
 タックルをするようにステラに抱きつく北斗。押し倒された形になったステラは悲鳴をあげる。
「ホントのこと言ってくれよ! 俺がウザいんだって! 俺なんて生きてちゃいけないんだって!」
 大泣きし始めた北斗がステラの腰にしっかりと手を回し、強く抱きしめた。顔を押し付け、いやいやをするように頭を左右に振る。
「死ねばいいんだ俺なんてぇ〜!」
 一方。
 ただ一人楽しそうにサボテンに語りかけているのは綺璃だ。早口で愚痴なのかよくわからないことをずっと一人で喋っている。
「そうか、わかってくれるか。やはりおかしい。なぜハニワの形をした郵便ポストがないんだ? あの素晴らしい形がわからないという世の中は間違っていると思うのだが。なぜこの感性が理解されないんだ……まるでそう、俺は世間のはみ出し者のように皆……」
 突然綺璃は立ち上がる。
「わかった……俺は何をやっても駄目なんだな……そうか……そうなのか……」
 ぐるぐると部屋の中を歩き回るその様子に武彦も慌てた。
「お、おい! どうにかできないのか、サンタ娘っ……て、なにやってるんだシュラインー!」
 窓を開けて飛び降りようとしているシュラインをひし、と武彦が後ろから抱き止める。
「放して! ここが貧乏なのも、ゴミや書類が散らかってるのも私のせいなのよ!」
「おいおい! って、ぅわーっ!」
 背後を見てさらに悲鳴をあげる武彦。
 ソファの上の冥月がいつの間にか膝を抱えており、俯いている。彼女のその影がぞわぞわと蠢き、事務所内に広がり始めているのだ!
「彼が死んだのは私のせいだ……私なら助けられたのに……彼のいない世界なんて要らない…………消えてしまえばいい…………」
「なんてこと言ってんだー! ステラ、あいつを止めろ!」
「む、無理ですよぅ!」
 部屋を出て行こうとしている綺璃は、ドアの前に居るさなのせいで進めず自問自答をし始めた。さなもさなで、さらに落ち込んでいる。
 と。
 ぼふん! と音がしてそれぞれが持っているサボテンが小さく爆発する。
 はた、と全員が動きを止めた。
「うわっ! なんで俺、ステラに抱きついて……!?」
「きゃあ! なんで私こんなところに……!」
 北斗とシュラインの慌てた様子に、武彦とステラが深い安堵の息を吐き出したのは言うまでもない。



 後日。
「どうやら、それぞれ『幸福』か、『不幸』を吸い取るサボテンだったらしいです〜。皆さんは『幸福』を吸い取られて、あんなに暗くなったり、奇行に走ったりしたんですね〜」
 と、ステラが事務所まで説明にやってきた。
「別々にしなければなんの害もないそうなんですけどぉ、一つだけだと、一定の『幸福』か『不幸』を吸い取って破裂するまで奇行に走る状況が続くそうです〜」
「なんでそんな危ないものをウチに持ってきたんだっ!」
 怒声をあげる武彦の声が、事務所外まで大きく響いていたという――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【5245/綺璃・―(キリ・―)/男/28/気まぐれ】
【2640/山口・さな(やまぐち・さな)/男/32/ベーシストSana】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございました、山口様。初めまして。ライターのともやいずみです。
 落ち込み具合、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!