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<東京怪談・PCゲームノベル>


R/B ダイヤの6


 厄介なことになった。
 トランプを眺めながら軽く金の髪をかき上げる。
 見た光景を実行に移さなければ危害が及ぶとは、ずいぶんと厄介なカードを引いてしまった。
 引いたカードは赤。
 すべき行動は顔見知り程度の相手、夜倉木有悟を殴りに行くこと。
 夜倉木と言えば有名な殺し屋、つまりは葵の同業者だ。
 会ったのは葵の元へ来た依頼で何度か鉢合わせた程度だが、それでも殺し屋同士でぶつかれば高い確率で血なまぐさいことになるだろう。
 かといって何もしないままで行かないようだ。
 念のため、改めて確認しておく。
「実行出来なかった場合は?」
「その時々で変わるようだよ、まあ頑張ることだね」
「……仕方ないな」
 なかなかにやっかいな事になったと霧崎葵は軽くため息を付いた。
 探し易さに関してはまったく知らない相手よりは多少楽だろうが、見た光景を実行に移すとなるとかなり難易度が高い。
 相手も人間なのだからやってやれないことはないだろうか……。
 問題は、その後だ。
 何か手を考えなければ、何もしない時よりも厄介な事になる。
 その事も含め、どうするかを考えながらも目的を果たすべく行動を開始した。




 どうにか見つけることが出来たのは、カードの模様が大分薄くなってからだった。
 何らかの仕事の最中であったなら探し当てるのは難しかっただろうが、そうでない時ならアリバイを残そうとしている節があるから特定も難しくはない。
 ある幽霊マンションの屋上。
 扉が一つしかないなら来たことが直ぐに解ってしまう為に、一撃だけ加えて逃げるという手は使えなくなる。
 屋上には遮蔽物もないだろうし、間合いままでばれないように近づく事は不可能だ。
 ビルの高さも上から下へ飛び降りるは無理な高さ。
 周囲のビルからは飛び移る事は可能な距離だが、それまでに気付かれる可能性が高いからあまり意味がない。
 距離を取れば負傷させられるだろうが、今の目的は殴りに行くことなのだから目的とは外れるために問題外である。
 結局は、真正面から行くしか手はないようだ。
 その前に気になることが一つ。
 何故、屋上にいるかと言うこと。
 来るのを知って、わざわざ狙いにくい場所にでも移動したのだろうか?
 そんな疑問は扉を開けた途端に氷解した。
「いい加減にしろよっ!」
「大人しく諦めろっ」
 なにやら怒鳴り合いつつ喧嘩の真っ最中の二人。
 仕事ではないのは明らかだ、仕事であったときとさっきが違う。
 バットを振り回している男は初対面だが、それを回避している方の男は知っている。
 葵の探し人、夜倉木有悟その人だ。
 成る程、喧嘩をするなら最適な場所だろう。
「あ」
「えっ?」
 人が増えたことに気付いた夜倉木が小さく声を発し、それにつられて振り向いた喧嘩相手の顔面に拳をヒットさせコンクリの上へと沈める。
「何か用ですか?」
「一つ、私用があってここに来た」
 今更隠れる理由もない。
 それでも間合いは取りつつ、数歩前へと進む。
「何か依頼がされたという訳ではなさそうですね」
「……知り合いか?」
 どうにか回復したらしい、目の辺りを押さえつつ尋ねる言葉に淡々とした口調で説明を返す。
「同業者ですよ、何か依頼を受けてここにいるわけではないようですが」
「へえ……って! それ所じゃねぇし!」
 どこからか取り出した『トランプ』をみて大慌てをし始めるが、あっさりと取り押さえられるもう一人の男。
「……あああっ、時間が!」
「さっさと諦めろ」
 もしかしなくとも、あのトランプは葵が持っている物と同じ物だ。
 何しろ見えている柄が同じ模様なのだから、それ以外には考えられない。
「……」
「そう言うことですか、それなら納得がいきます」
 視線の移動でおおよその状況を察したのだろう夜倉木の言葉に、その通りだと頷く葵。
「それだけ解れば十分だろう」
「同意見ですが、その前に一つ」
 逃げようとしていた喧嘩相手の背を踏みつけ、直ぐ側にある鉄柵を一本へし折り、ベルトとズボンの隙間を通すようにコンクリを貫き動けない様にしてしまう。
 それだけに止まらず、鉄柵を引き抜けないように上を掴んでしまえば脱出の方法はベルトを外すしか方法がないのだから、逃げるのは困難になる。
 もたつけばそれだけ不利になるのだから。
「………鬼っ!」
「何とでもどうぞ。さあ、始めますか」
 今の一連の行動を無かったことのように会話を再開されるが、流石に気になる。
「一体何をして居るんだ?」
 いまも必死に抜け出そうとしている男の方を半眼で見つつ、なんだか同居人と似ている様な気がする等と思ったのは横に置いておく。
「簡単な実験ですよ、カードの件が遂行できなかったらどうなるかを試してみようと思いまして」
「……そうか」
 随分と酷い実験をしている物だ。
「死んだらどうすんだよっ!?」
「解らないから試すんです。まあこの件はまた後で良いでしょう」
「時間もないしな」
 今なお騒いでいる男はその場に置いたまま、本題に戻る。
 これから行うのは実戦だが、心理戦でもある。
 この状況下でお互いの行動はまったく対立するのだ。
 夜倉木は時間を引き延ばしたいと考えるだろう、急ぐ必要は何もないのだから。
 狙いが判明すればそれだけ狙うのが難しくなる上に、直ぐ横にいる男をこの場にとどめておきたいと口にしているのだ。
 逆に真っ向から殴らなくてはならない葵は可能な限り短期に決着を付けたい。
 時間にも限りはあるし、目的を果たそうと行動すれば何が狙いかも判明してしまう。
 現時点ではトランプのために来たと解っているが、葵の目的までは解っていない。
 この場の状況と合わせれば、大きな切り札になる。
 覚悟を決め一歩を踏み出す。
 但し狙いは夜倉木ではなくて、もう一人の男の方。
「!」
 目的は隠さなければならない、だから敢えて別の行動を取る。
 この為に、この場にいるもう一人と関わる為に来たのだと錯覚させるように。
 騙されてくれるだろうか?
 迷うだけでも良い。 
 親しい間柄ではないのだから、瞬時には解らないはずだ。
 短期決戦で決めたいと予想していた場合、この葵の行動はさらに信憑性が増す。
 あえて夜倉木を回り込むように走り寄る葵に警戒するが、その場から動く事はしない。
 まだ様子見をして対応しようと言う余裕があるのだ。
 ならば少しでもその余裕を減らさなければならない。
 袖から小型の銃を右の手の中へ滑らせるように取り出し、間髪入れずに夜倉木の足下へと撃ち込む。
 即座にそれを回避し後方へと飛び退く夜倉木を追うように銃口を向け、さらに間合いを詰めながらさらに二発。
 全段うち尽くす間に左手へも同じように銃を取り出し撃ち続けながら、空になった右手の銃を捨てる。
 その時には都合の良い間合いが出来ていた。
 コンクリに突き立った鉄柵を抜き取り、そのまま刀でも振るうかのように横へとなぎ払う。
 それは即ち、捕らわれていたコンクリートからの開放を意味する。
「よっしゃあ!」
 意気揚々と駆け出す男に気を取られた瞬間。
 きっと、助けるために来たのだという思考へとほんの少し意識が傾いたに違いない。
 これは殺し合いではないのだ。
 『トランプ』による『指令』の実行。
 思考し納得するという感情は、それだけで油断を生むのだ。
 パズルのピースがはまりかけた瞬間は、勝利を感じた瞬間に近い。
 だがそれが間違いだとしたら。
 誤解を訂正する瞬間も、また隙となる。
 今だというタイミングで振り下した鉄柵を交わしつつ、足下へと狙い初めに捨てた銃を蹴り滑らせた。
 それすらも堪えるが、少しずつバランスを崩している
「!」
 体勢を立て直す前に終わらせなければならない。
 さらにもう一手。
 これは、葵は何もしなくてもいい。
「わっ、すっ、れっ、てっ、たああ!!」
 力の限り叫びながら夜倉木の背後から殴りかかってきたのは、逃がしたはずだった男。
「―――っ!」
 一度は居なくなったはずなのに、背後から戻ってくるなんて相当だ。
 それは葵にとっては幸運で、夜倉木にとっては予想外の展開。
 もぎ取るように奪った鉄柵でバットを凌ぐが、それは葵にチャンスを与えたのと同じ事。
 これが、最大のチャンス
 ガッ!
「―――っ」
 行けた!
 拳を握り、思い切り腕を振り上げ顔を目掛けて殴り付けた。
 鈍い音が響き時が止まったかのように感じたがそれは一瞬。
 すぐさま反撃に打って出ようと夜倉木は体を翻し、バットを掴んでいた相手ごとコンクリの上へと叩き付け体勢を立て直す。
 やはり早い。
 だが、その時には既に葵は十分な距離を取っている。
「……やはり俺の方でしたか」
 鉄柵を根のように構えているのに対し、念のため葵も身構えてはいたが……追撃する気配はないのは解っていた。
「続けるか?」
「いいえ、もう用事は済んだのならここで締めにした方が良い」
「続けても得にならないだろうし」
 殴ったことに対して報復に出られたらと考えていただけに、ここで片が付くのはありがたい。
「………」
「………」
 同じタイミングで構えを解く。
 念のためトランプを取り出し確認してみれば、はっきりと浮き出た丸にため息を付きたくなったが……どうにか堪える。
「厄介なトランプだな」
「同感です。で、盛岬。何で戻ってきたんです?」
 睨み付けられた男、盛岬が勢いを付けてトランプを突き出した。
 もう殆ど白と言っていい程に薄くなってしまった模様は、完全に消えるまで数秒も残されては居ないだろう。
「くくく、ふふふふっ、はっはっはっ!!! もう駄目だっ、だから巻き添えにしてやる!!!」
「!」
 他の人間も腹いせに巻き込もうだなんて、なんて嫌な手を取るつもりだ。
 まあ、状況から見るに技と妨害していた夜倉木は例外だろうが。
 だがそれは『これから起きる事』が広範囲に対して広範囲に影響を及ぼした場合に限られる。
 二人が騒いでいる内に距離を取ってしまった葵には、背後から聞こえた破壊的な音はあずかり知らぬ事だ。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4736/霧崎・葵/女性/19歳/殺し屋】

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■         ライター通信          ■
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