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<東京怪談・PCゲームノベル>


ひなたうららかいちご狩り
 
「お弁当、作りすぎでしょうか」
「大丈夫、俺が残さず食べるからさっ!」
 海沿いの線路を走る電車が、かたん、かたんとのんびりした音を立てている中、膝の上のバスケットを両手で抱えた少女が不安そうに呟く。
 開け放した窓から入る風が、ほんのり潮の香りを届けながらスカートの裾を揺らした。
 ジェイド・グリーンが高遠弓弦を苺狩りに誘ったのは、そろそろ季節が初夏に移ろうとしていた頃だった。
 ――皆でお花見もいいけどさ〜。
    弓弦ちゃんが疲れちゃうよ。
 どちらかというと控えめで、にぎやかすぎる場所が苦手な弓弦だったが、これから向かう苺農園は一日に入園できる人数は限られている分、ゆったりと過ごせるらしい。
 また、入園料の千円を払えば閉園時間まで食べ放題になるし、併設のカフェでデザートも食べられるようだ。
 ジェイド自身は人が多い場所が苦手、という程でもないが、たまには混雑や喧騒から離れて過ごしたい。
 ――だって弓弦ちゃんに、のんびりしてもらいたいじゃん。
 思い悩む事が多く、ともすれば塞ぎがちな弓弦を思ってジェイドは彼女を連れ出した。
「お天気で良かったね。
これは日頃の行いが良いせいかな?」
「そうですね」
 ジェイドの言葉に弓弦も笑顔を見せる。
 ――あ、笑った。
    弓弦ちゃんも楽しみにしてくれてたって、思っても良いんだよね?
 緩やかな弧を描いて、電車は終着駅へと向かっている。
 駅から少し離れた丘の中腹に苺園はあるので、気分は遠足のようだった。 
「今日は一日、ゆっくり楽しもう?
ね、弓弦ちゃん!」
「はい」
 終着駅の名前がアナウンスされ、ジェイドたちは降りる支度を始めた。
 
 
 駅から二人はなだらかな坂道を登っていった。
 道の両脇にはまだ咲き残る桜の薄紅色が見え、ちょっとしたお花見気分も味わえた。
 バスケットを手にしたジェイドは、弓弦のペースに合わせてゆっくり歩いていた。
 ――時間はたくさんあるんだし、急ぐ事ないもんね。
「弓弦ちゃん、少し休もうか?」
「はい」
 少し息の上がった弓弦が頷いた。
 弓弦は幼い頃から身体が弱く、激しい運動は禁じられていた。
 「絶対に無理させない事」という条件付で、ジェイドは弓弦との遠出を許してもらえたのだ。
 ――弓弦ちゃんに何かあったら、こわーい姉御にシメられちゃうよ。
 手近な木の切り株に弓弦を座らせ休ませている間、ジェイドは自分も世話になっている弓弦の姉を思い浮かべた。
 ――本当に何かあったら、俺が先にどうにかなりそうだけど。
 ジェイドにとって弓弦は、雨の日に自分を拾ってくれた恩人というよりも、もっとかけがえのない存在になりつつある。
 座ってお茶を口にしていた弓弦が言った。
「何だか遠足みたいで嬉しいです。
私はそういうの……あまり参加した事がなくて」
 両手を組んで「感謝します」と呟く弓弦の声は、神に向けられたものか、それとも……。
 ――俺にだったら良いな。
「もう大丈夫です。
行きましょう、ジェイドさん」
 自分ですっと立ち上がり歩き出す弓弦は、以前の自分を悲観する少女から変わりつつあるようにジェイドには思えた。
「うん、行こうか!」
 ジェイドもそう言って、弓弦の後を追った。
 ウッドデッキが目印になった苺農園へは、歩き出して間もなく到着した。
 農園の入り口で「今は露地物がいいですよ。ハウス物よりも甘くて」と声を掛けられた二人は、少し園内を歩いて露地栽培の畑に向かった。
 園内は広く、畑で苺狩りを楽しむ客同士がぶつかるような事は無さそうだ。
 家族連れやカップル達が、思い思いに苺を摘んでは口に入れている。
「こんなに苺がたくさん……!」
 パックに入ったものしか見た事のなかった弓弦が、感激したように声を上げた。
「ね? 来て良かったでしょ?」
「はい」
 口に入れると、太陽の光を受けて赤くなった苺の甘味と酸味が爽やかに広がる。
 さくさくと藁のしかれた畝の間を歩きながら、ジェイドと弓弦は苺を味わった。
「スーパーで売ってるのとは味が全然違うねっ。
新鮮さが違うのかな」
「美味しいです。
真っ赤になってて、ちょっとお日様の温かさがあって」
 弓弦はあまり量を食べられないのだが、苺畑の雰囲気や、遠くに広がる風景を楽しんでいるようだ。
「お土産は何がいいかな?
やっぱり苺がいいかな」
 まだ着いたばかりなのに早速お土産の心配をしだすジェイドに、弓弦はくすくすと笑った。
「まだ午前中ですよ」
 両手一杯に苺を摘むジェイドの向こうに、弓弦は気にかかる若い男女を見つけた。
 眼鏡をかけた細身の青年と、黒髪が清楚な大学生ぐらいの娘だ。
 ジェイドの方は全く気付かず、苺を摘むのに夢中である。
 だんだんジェイドと彼らの距離が縮まる。
「あ!」
 畝の藁に足をもつれさせたジェイドが、バランスを崩して苺を手から落とした。
 が、すぐ傍にいた青年が手を伸ばし、苺を受け止めた。
「大丈夫ですか? 怪我はない?」
 青年は落ち着いた声でジェイドを気遣った。 
「ありがとうございますっ」
 ――うわー、いい人だっ!
    ぶつかったの俺の方なのに、優しいんだなぁ。
「ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げるジェイドの後ろで、弓弦も丁寧にお礼を言う。
「ジェイドさん、摘みすぎですよ」
「だって姉御のお土産はいっぱい用意しなきゃ!
今から摘まなきゃ間に合わないよ」
 弓弦にたしなめられてもジェイドは気にしない。
 そんな様子に青年の連れている女性がくすくすと笑い出した。
「お土産にする苺は別料金ですよ」
 彼女の言葉に、ジェイドは眉を下げて肩を落とす。
「え、そうなの? 食べ放題って聞いてたのに〜。
じゃ、これも食べなきゃね」
 ――何だ、それならこれは食べないと。
「あの……」
 控えめに弓弦が話し掛けたた。
 両手で持ったバスケットを持ち上げて、にこりと微笑みながら。
「宜しければ、一緒にお弁当食べませんか?
もうすぐお昼ですし……。
たくさん作ってきましたから、お二人の分も大丈夫です」
 言葉を選びながら話す様子から、弓弦が感謝の気持ちを伝えようとしているのがわかる。
「弓弦ちゃんのお弁当、すっごく美味しいんだよ!
俺が今朝味見したから、その点はバッチリ保証する!」
 ジェイドは自分の事のようにそう言って、嬉しそうに笑った。
 青年が娘の方を見ると、彼女もジェイドの明るい雰囲気が楽しいようだ。
「それじゃ、お言葉に甘えましょうか瞳子さん。
僕は槻島綾。こちらは千住瞳子さんです」
 軽く頭を下げて瞳子が自己紹介した。
「初めまして、千住瞳子です」
「綾サンに瞳子サンか〜。
俺、ジェイド・グリーンねっ」
 ぶんぶん、と音の出そうな程力強くジェイドが綾と瞳子の手を握って握手する。
「高遠弓弦です。宜しくお願いします」
 弓弦は深々と頭を下げる。
「どこでお弁当を広げましょうか」
 バスケットを弓弦から受け取ったジェイドが綾に答える。
「あっ、それなら苺畑の向こうに、水仙の咲いてる所があったよ。
あそこなら海も見えるし、いいんじゃないかな?」
「草の上に直接座ると、草の汁が付きませんか?」
 綾は瞳子や弓弦が服を気にしながらでは、せっかくのお弁当の味も半減しそうだと考えているようだ。
 ――その点も抜かりはないですよ!
 「フフフ」と先を歩くジェイドが歩きながら笑った。
「ご心配無くっ。 
じゃーん! しっかり大きめレジャーシート持ってきてたりして。
じゃ、俺先に行ってシート広げてくるね!」
「あ、ジェイドさん! 走ると危ないです」
「平気―!」 
 引きとめようとする弓弦にそう言って、ジェイドは走り出した。
 三人の先で一度くるりと回ってから、苺畑の向こうに駆ける。
 ――綾サンも瞳子サンも楽しそうな人だし、ここで会えたのも何かの縁だよね!
 今日一日だけのお付き合いかもしれないけど、一緒に楽しい時間を過ごしたいな。
「早く早くー!」
 ライラックの木陰でジェイドは大きく手を振った。


 なだらかな丘の上、ライラックが薄紫の小花を咲かせる下にジェイドはシートを広げていた。
 すぐ傍に咲く水仙から甘い香りが漂い、丘の向こうに広がる海の青さと水仙の黄色が目に染みる。
「ああ、飲み物が足りませんね」
 綾の言葉に、バスケットからお弁当を取り出して並べていた瞳子たちの手が止まる。
 お茶は弓弦たちも持ってきていたのだが、カップが足りないのだ。
「僕が買ってきますよ」
「あ、俺も行くー!」
 ――そうだ、さっきお茶に口付けちゃってたんだっけ。
 シートから立ち上がった綾をジェイドが追う。
「わ、私も」
 瞳子も立ち上がろうとするのを、綾は押し留めた。
「瞳子さんは座っていて下さい。
すぐに戻りますから、ね?
女の子同士お話してて下さい」
 弓弦も不安そうにスカートの前で手を組んで瞳子に言った。
「私も、一人でここで待ってるのは寂しいです」
 ハッとした瞳子が綾と弓弦に謝る。
「ごめんなさい。
そうですね……ここで待ってます」
「行ってきます」
 綾とジェイドは少し離れた自動販売機まで歩き出した。


 自動販売機でコインを入れ、綾とジェイドは冷えた飲み物を手にした。
「弓弦さんは可愛い方ですね」
「あっ綾サンもそう思う?」
 綾の言葉に、ジェイドの表情が変わる。
 しかしその表情は屈託のない、明るいものだ。
「大好きなんだ。
弓弦ちゃんと一緒にいると、優しい気持ちになれる」
 その言葉の響きが今までのジェイドとは異なる真剣さだったので、綾は一瞬言葉に詰まった。
 ――あ、結構ハズカシイ発言だったのかな。
    これは……。
 綾の沈黙が自分の発言のせいだと気付き、ジェイドは慌てて手を振った。
「……って、今の内緒ね!
俺、柄にもなく恥ずかしい事言っちゃったな」
「さて、どうしましょうか?」
 顎に手を当てて考えるポーズをとる綾に、ジェイドも赤い顔で言い返す。
 ――うわ、いい人だと思ったのに!
    大人はたまに意地悪だ!
「あ、綾サンっ! 
綾サンだって今日はデートでしょ?」
「ええ。大切な人です」
 間を置かずはっきり答えられて、ジェイドは声を上げて笑い出した。
「あはは、綾サンものろけてる」
 ――そうだよね。
    こんなのんびりした所、大好きな人に見せたいよね。
「本当の事ですからね。
さあ、早く戻りましょうか」
 二人は歩いてきた道を戻り始めた。


 シートの上にお弁当を並べ、瞳子と弓弦は二人の帰りを待っていた。
 食べやすいように小さめに作ったサンドイッチや手鞠お結び、きれいな狐色のから揚げ、出汁巻き卵、彩りを考えて煮含めた煮物、箸休めのさっぱりとした和え物や、ほんの少し洋酒で風味を付けたフルーツ寒天などが並んでいる。
 ジェイドは今朝お弁当に味見として手をつけてしまっていたので内容は知っていたのだが、目の前に並ぶとやっぱり頬が嬉しさで緩んでくる。
「……美味しそうですね」
 瞳子の隣に座った綾は、シートの上の料理に驚いて声を上げた。
 ――しそう、じゃなくて本当に美味しいんだよ!
「でしょでしょ〜?
弓弦ちゃんの料理は最高だよ!
ささっ、遠慮なく食べて食べて」
 弓弦がジェイドの言葉に恐縮しながらも皿を勧めてくれた。
「お二人とも、遠慮なさらないで下さいね」
「それでは頂きます」
 綾が料理を取り分けた皿を瞳子に差し出した。
 やや俯いた顔を覗き込むようにしながら、優しくその頭を撫でている。
 ――あれ? 瞳子サン何か気にしてたのかな?
 ジェイドの疑問はそのまま残されたが、ジェイドはあえて尋ねなかった。
「頂きましょう、瞳子さん」
「……はい」
 どの料理も細やかな気遣いが感じられる美味しいものだった。
 料理を食べているうちに瞳子にも笑顔が戻り、綾も安心したようだ。 
「何だか懐かしいな。
青空の下でお弁当なんて」
 瞳子が不思議そうに綾に言う。
「そうなんですか? 旅行先でお弁当食べたりもしますよね?」
 「それはそうだけど」と綾は苦笑した。
「瞳子さんはまだ学生だから、お昼に外でランチというのもあるかもしれませんが……。
僕ぐらいの年になるとこういう雰囲気が懐かしくなるんですよ。
遠足みたいで、ね」
 綾はアスパラのベーコン巻きを皿に取りながら瞳子に笑い掛けた。
「へー! 綾サンってエッセイストさんなんだ!」
「趣味の旅行記が、たまたま少しお金になってるだけですよ」
 和やかな雰囲気のまま食事は進み、お互いの話をしているうちに話題は綾の職業になった。
「どんな所に今まで行ったんですか?」
 弓弦が尋ねるのに、
「僕は神社やお寺が好きだから、自然と歴史のある所をまわるのが多いかな」
 綾はそう答えて今まで足を運んだ場所に思いを馳せる。
 ぼんやりと、まさに「心、ここにあらず」といった状態に陥ってしまう。
 旅行を語る時の綾の癖だ。
「綾さん?」
「あ、すみません瞳子さん」
 つい思い出に浸ってしまう綾の意識を、瞳子の言葉がこちら側に呼び寄せた。
「旅かぁ……いいな〜!
いつか弓弦ちゃんと、俺もどこかに出かけたいな」
 ――弓弦ちゃんが、悲しまないで暮らしていけるようになったら……その時は二人で。
「私も……ジェイドさんと一緒に行きたいです」
 ジェイドの言葉に、弓弦も夢見るように微笑みながら呟いた。


「はー幸せ……」
 シートの上に身体を伸ばしてジェイドが言った。
 弓弦が作ったお弁当は全て四人のおなかに納まっている。
「私もいつもより食べた気がします」
「こういう所で食べると美味しいですものね。
それに、弓弦さんのお弁当すごく美味しかったな」
 口元を押さえて笑う弓弦に、瞳子がそう言った。
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
 すっかり打ち解けた雰囲気の二人に綾が言う。
「それじゃ、デザートは入らないかな?」
 とたんに身体を起こして、ジェイドが手を挙げた。
「別腹に決まってるじゃんっ!
早速カフェスペースに行かないとね!」
 駆け出したジェイドの後からカフェスペースに行ってみると、サンプルの前でメニューを決めかねていた。
 ここは先にカウンターで注文を取り、テーブルで運ばれてくるのを待つ方式のようだ。
「うう〜決まらない……どれも美味しそうだよ」
 サンプルにはふんだんに苺が使われたデザートが並び、すでに食べている人の物はそれよりももっと多く苺を入れているように見える。
「さっきのお弁当のお礼に、僕が皆さんに奢りますよ」
 綾の言葉にジェイドが喜びの声を上げる。
「え、ホント? やった!
ありがとう綾サンっ」
「でも……」
 遠慮する弓弦に綾は言った。
「楽しい時間を一緒に過ごしてくれたお礼です。
瞳子さん好きなものを頼んで下さいね」
 うーん、と瞳子もサンプルの前で迷っていたが、決まったようだ。
「それじゃ、ワッフルプレートでお願いします」
 次いで弓弦、ジェイドがメニューを決める。
「私はチーズケーキが良いです」
「俺、パフェねっ!」
 綾はチーズケーキと苺の紅茶にしたようだ。
チーズケーキは土日の限定メニューで、鮮やかな苺のソースが白いケーキにかけられている。
 四人は一つのテーブルに座り、苺尽くしのメニューを味わい始めた。
「これも美味しいよ弓弦ちゃん。
あーん」
「ジェイドさんっ」
 ジェイドが生クリームとストロベリーアイスクリームを掬って、弓弦の口元に運ぶ。
 綾たちの視線が気になり、弓弦は困ったような表情を浮かべたが、頬を赤らめつつスプーンを咥える。
「ね、美味しいでしょ?」
 にこ、と弓弦はジェイドに頷いてみせた。
 ――可愛いなぁ!
    ちょっと困ってる笑顔が弓弦ちゃんはすごく可愛い!
    あ、でもホントに困らせるつもりはないんだけどね。
「瞳子さんも食べますか?」
「え?」
 綾がフォークに刺したケーキを瞳子の口元に差し出している。
「わ、私はっ」
 苺畑での場合と違い回りにはたくさんの客がいて、瞳子は見る間に首筋まで赤くなってゆく。
 綾は瞳子の皿の上に、チーズケーキを半分載せた。
「半分どうぞ。
せっかくですし、他のも食べてみてもいいでしょう?」
 すると瞳子も綾に笑顔を返し、自分の皿からワッフルを持ち上げる。
「それじゃ、綾さんもワッフルどうぞ」
 ――いいな、綾サンは気遣いできる大人って感じだし。
    俺もあのくらい、弓弦ちゃんを大切にしてあげられたらな。
 ジェイドの目に、二人は理想の恋人同士に見えた。


 デザートを楽しんだ後も四人は一緒に園内を回っていたが、ジェイド達の帰りの電車の時間が近くなり、それを機にお開きにする事になった。
 それぞれ家族や親しい人に分ける苺やお菓子を買い、満足したような表情でいる。
「またご縁がありましたら、どこかでお会いしたいですね」
 駐車場で綾はジェイドに手を差し伸べ、ジェイドもその手をしっかり握り返す。
「そうだね!
綾サンも瞳子サンも楽しい人で良かった」
「私も、お二人とご一緒で楽しかったです」
 大人しい印象で最初はぎこちなかった弓弦の笑顔も、今ではとても自然に解れてきていた。 
 そんな弓弦に向けられる瞳子の眼差しも穏やかだ。
「私末っ子だから……妹ができたみたいで、嬉しかったな」
「あ、私も……千住さんは何だか学園の先輩方みたいで、お話ししやすかったです」
 瞳子と弓弦はお互いに顔を見詰め合って笑った。
「それじゃ、どこかでまた」
 お互いに手を振って、四人は農園を後にした。


 帰りの電車の中、空になったバスケットに今度はお土産の苺を詰めて、ジェイドと弓弦は揺られていた。
 ジェイドの膝にはバスケットが乗り、肩にはうたた寝をしている弓弦がもたれている。
 長い銀色の髪が、夕陽の光を受けて同じオレンジ色に輝いている。
 弓弦の温もりを肩に感じながら、ジェイドは胸の奥もあたたまるような気持ちを味わっていた。
 ――弓弦ちゃん、喜んでくれて良かった。
 電車に乗ってから、しばらく弓弦は「楽しかったです」と繰り返し言っていたのだ。
 かごの中の小鳥のように、大事にされていても自由はなかった弓弦にとって、今日はとてもいい思い出になったようだ。
 そして弓弦の幸せはジェイドの喜びに繋がっている。
「……感謝します、か」
 ジェイドは神に対して敬虔な信仰心を持ち合わせていなかったが、口に出して呟いてみると、案外悪い響きではないように思えた。
「……感謝します」
 ――優しい君に。
    一緒に過ごしてくれた、君に。
 弓弦の手に自分の手を重ね、ジェイドは再び呟いた。


(終)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 5242 / 千住・瞳子 / 女性 / 21歳 / 大学生 】
【 2226 / 槻島・綾 / 男性 / 27歳 / エッセイスト 】
【 5324 / ジェイド・グリーン / 男性 / 21歳 / フリーター 】
【 0322 / 高遠・弓弦 / 女性 / 17歳 / 高校生 】

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■         ライター通信          ■
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ジェイド・グリーン様
初めましてのご参加ありがとうございます。
普段はかなり殺伐としたノベルを書いている身ですので、たまにこういったのんびり・ほのぼのとした物も書きたくなります。
殺伐シリアスも好きでやっているのですが(笑)
明るいムードメーカーで、弓弦ちゃん大好きな所が出せてましたでしょうか?
明るいんだけど実は真面目な所(?)も、個別描写部分で少し入れています。
今回は可愛いお嬢さんばかりの参加で、書き手としては男心(むしろおっさん視点)でにこにこしていました。
少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。
ご注文ありがとうございました!