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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


草間即席無料相談会

「俺は久し振りに暇だ。よって、何でも相談を聞いてやろうと思う」

 久しく訪れた平穏な日、或いは仕事がなく手持ち無沙汰な日、或いは気紛れ。そう遜色しても全く違わない日。草間武彦の言葉に零は手にしていた年代物のルービックキューブを弄るのを止め、
「特に相談したいこともないです」
 再び手元の遊戯に夢中になる。
 これも一種の暇潰しなんだろうな、と思ってはいるものの、武彦の気紛れによって腹の内を曝すのも笑顔一つの拒否で済むなら安いものだ。悩みはある。だからと言って、暇潰しの材料にされるのも困り者だ。
 最近の不可解且つ厄介な依頼と事件に比べれば、それは大したことでもないのは事実。でも暇過ぎる、というのも問題だ。
「なら折角ですし、今日は無料相談会にしたらどうです? そうすれば、少しは人も来ますし、暇も潰せると思いますし」
「名案だ。よし、零。宣伝してこい」
 ……前言撤回。暇に越したことはない。
 零は渋々と初期状態になりかけの遊具をソファの端に置き、近くにあったチラシの裏にマジックで<本日無料相談会〜お気軽にどうぞ〜>と書く。興信所の入り口にテープで貼り、良しと小さく頷く。
 この程度なら暇さ加減が変わることも然してないだろう。
 知り合いでも構わないが、このノリに付き合ってくれるオトナが来ればいいな、と。零は自分のお人好しさを少しだけ呪って、部屋の中に戻っていった。

 ドアに手を掛けて、目線よりも少し下の方に貼ってあった紙を容赦なく剥がして、自分本位の高さに持ち上げる。内容に一通り目を通して、鼻で一蹴してポケットの中にしまった。そうは言っても動けばすぐにくしゃくしゃになってしまう場所に入れたのだから、しまうという言葉よりは突っ込んだという言い方でも間違いではない。ジェームズ・ブラックマンはそれらの動作を一通りこなしてから、再びドアに手を伸ばした。
「こんにちは、皆さん……って、あら、ともえもいましたか」
「『いましたか』って、そんな軽薄な言い方嫌な感じー。でも、会えて光栄、かな」
 先客として興信所にいた葛城ともえは、手の中のカップのお茶を揺らしながら、嬉しそうに笑った。その光景自体は普通のものであったが、ともえの座っている場所が問題だった。
「ともえ、デスクの上に座るのは行儀が悪いですよ」
 武彦の前、デスクの上に腰を落ち着けて、ともえは「いいじゃないの」と首を捻った。「良い訳ないだろ」と武彦が言おうとするも、その手をどこにやればいいか困っていた結果として、その状態を認めてしまったようだ。ジェームズはソファの方へと移動し、そちらの方へと腰掛けた。
「ところで、既に相談は終えたのですか?」
「ともえさんの方は、一通り。とは言っても、いつもと同じような感じでしたけどね」
 くすくすと零は笑いながら、ジェームズの前にカップを置いた。中には、淹れたての紅茶が注がれていた。
 内容はどうやら聞いたところでは平時と変わらぬ流れ。簡易な言葉で言えば、「どうして指輪をはめてくれないの!?」というもの。揃いの指輪なのだからとともえは主張しているのだが、武彦にしてみれば仕事に差し障りがあるとの一点張りで譲ろうとはしなかった。
 男の立場にも女の立場にも立つのを止めて、ジェームズはその光景を零と二人で眺めていたが、思い付いたかのように口元がにっと笑った。
「そうだ、折角の機会ですし、私の方が武彦の相談に乗ってさしあげましょう」
 何を言っているんだ、と言わんばかりの顔が、ジェームズに向かう。極めて紳士的に微笑むと、謀ったようにその口が動く。
「ロリコンは直ったのかい、武彦?」
「武彦さんってロリコンだったの!?」
 ロリコンの意味を必死に摸索しているのか、零は斜め上の方を見て必死に『ろりこん』を連呼していた。武彦の顔は次第に赤くなっていくようだが、それでもわずかに白みがかかっている。引きつった笑いが口元に浮かんでいたが、呼吸も速くなっていることと併せれば一種の痙攣にも思えてくる。
「どこ、の、どい、つが、ロリコン、だ、と!?」
「ロリコンは一息で言えましたね」
「何回も言い直したくはないからな。で、どこのどいつだ」
「お兄さんがろりこんですね」
 意味を理解したのか、唐突な零の発言に今度こそ武彦は撃沈した。
「そうですよ、武彦はロリィに複雑な思いを抱いているんですよ、零くん」
「複雑って確か英語ではコンプレックスって言うんですよね。つまり、草間さんは幼い子が好きということ、で……幼い子って、誰?」
「ともえ」
「ともえさん」
「……ともえ、じゃねえのかな? この会話の流れでは」
 ユニゾンした声に、ともえが勢いよく席を立った。
「私、幼くない!」
 返事は皆無。
 空気で察しろ、とでも言いたげな視線に、ともえは根負けして席に座った。誰も何も言いそうのない気色に、疲れたように溜息をついた。
「幼くないよ、私」
「台詞、倒置しているだけですよ」
「それでも、幼くないよ、私。もう16だし、幼いって言ったら小学生くらいだと思うな」
「? ともえと小学生と、一体どこが違うと思っているんですか?」
「!?」
 悪びれないジェームズの笑みに、ともえの口が大きく開いたままで固まる。思わず武彦と零も固まるも、
「いいよ、それならお望み通り武彦さんと結婚するから!」
「開き直った!?」
「そうすれば万事解決!」
「解決するか! 零も一言何か言ってやれ!」
 いきなり話題を振られたことに零は戸惑いを隠せないままに首を一つ捻る。
「でも、ろりこんなら何も間違いではないのでは?」
 確かに、間違いでないのはごもっともな話だ。だがそれをまさか零の口から聞くことになるとは思わず、精神的ダメージはあまりにも酷い。
「というか、こんな義妹は勘弁致しますね。幾ら私でも、天然さんを相手にするのは、どうも苦手ですし」
 前提条件としてジェームズと武彦が婚約を結ぶことが挙げられるのだが、それではかなめが婚約解消をすることが条件であるし、そもそも男性同士で考えるということ事態が薄ら寒い。
 もう一つの前提として、武彦と義兄弟になる方法もあることはあるのだが、それもそれで本題から全く逸れていない結果となっているので、考えるだけ止めておこう。
「それにしても、全くもって遊びがいのある人達です」
 全くもってね、と口の中で呟きながら、ジェームズはソファに深く腰掛け直す。結局は質問の答えには体で答えてくれているのだと認識して、口元に小さな笑みを携えた。
 特に結果を何か意識しているのではなくとも、だからと言って答えが明瞭に存在するのだと認識させられる訳ではなくとも、仮に与えられたものが間違ったものではあったとしても。不安に全身でぶつかってきてくれる存在があるだけでこれ程にも落ち着くのは、これまた人徳が故なのかもしれないな、と。既に白くなっている武彦をちらりと見やって、ジェームズは一つ、そう思った。





【END】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5128/ジェームズ・ブラックマン/男性/666歳/交渉人&??】
【5128/葛城ともえ/女性/16歳/高校生兼近々新妻?】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

今回は一方の視線を主軸に書かせていただきました。
相談自体が果たして成り立っているかどうかが不安ではありましたが、いかがでしたでしょうか。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝