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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


オーパーツ! 〜1〜

------<オープニング>--------------------------------------

「曰く付き」の品物ばかり扱うアンティークショップ・レンで手に入れた、奇妙な物体「オーパーツ」。
何の気なしに、それを買い上げたのだが。

それは、世界存亡の危機の始まりだった。

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黒衣の女が、猛然と追走を始めた頃。

ササキビ・クミノは、自分が追われている事に気付いていた。
ひんやりした風が通り過ぎる川べりの道を、先程買った「オーパーツ」を抱えたまま、無造作な足取りで歩く。まるっきり学校の制服のようなリボンタイの衣装に身を包んだ、愛らしいながらも、どこか鋼の無機質を宿す少女の手の中で、その物質は不思議な輝きを放っている。
降り注ぐ月光に、アスファルトも川面も銀色の筋のように映える中、その色合いは、今まで見た事も無い奇妙な色の微光を放つ。鉄錆の匂いの充満する戦場跡に咲く、小さな白い花に似た顔に、その色彩が微かに反射していた。

「一体、これは何なの?…後ろから付いて来てる奴らも、これがお目当て、かな?」
新しく買った本でも確認するかのように、ひっくり返したり軽く表面をなぞったりしながら、彼女は小さく呟いた。
彼女の感覚が捕らえているのは、黒衣の女ではない。
男だ。複数いる。車に乗っている、というのも分かる。
「レンさんは大したこと無いと思ってたみたいだけど…どうも…訳アリだったみたいね」
もっとも、あの店で「訳ありではない」商品を探す方が難しいのだが…
「しかも、大した『訳』だったようね?」

背後で、荒っぽい自動車のエンジン音が高まり、排気ガス臭い風を巻いて、黒い車体がクミノの進路を塞いだ。
恐らく、人気のない場所でクミノを追い詰めたつもりなのだろう。が、無論彼女がわざとこのような場所に誘い込んだのは、向こうが知るべくも無い。

歩みを止めたクミノの目前で、車から降りてきたのは、ダークスーツにサングラス…と言うよりゴーグルに近いものを装備した、何ともキナ臭い匂いを発散させる男二人組だ。
こういう『匂い』をさせる男は珍しくない。それどころか、ごく日常の、「ありふれたもの」でしかない。

十三歳にして「企業傭兵」という名の殺人機械たる事を宿命付けられた少女、「ササキビ・クミノ」にとって、は。

「驚かせて失礼、お嬢さん」
どのように聞いても、ちっとも悪く思ってなさそうな尊大な響きに、クミノは不快感を押し殺した。口を開いたのは、運転席から降りてきた背の高い方だ。もう一人は気配すら感じさせないかのように、うっそりと立っている…クミノが動けば、すぐ攻撃出来る位置で。
「…何か御用ですか?」
オーパーツをさり気なく持っていたバッグの中に落としながら、クミノは相手を観察した。
人間には違いないだろうが、「まともな」人間ではなかろう。
その体の微妙な体の動かし方、足の運びだけでも、十分過ぎる程の戦闘訓練を積んだ種類の人間だと読み取れる。クミノの同類、或いは。

静かに、クミノは障壁を張る。だが、男たちが影響を受けた様子は無い。
何らかの能力者か。まずいな。クミノは内心舌打ちした。
袖の中に、密かに召喚武装。小型拳銃でしかないが、無いよりマシだ。

「君が今持っていた、銀色のパーツなんだが。それは、我々が探していた、大変に貴重な物体なんだ」
オレタチの方が先に見付けたんだぁ! とでも言いたげだな。クミノは内心そっと苦笑した。
「それに、扱い方を誤ると、大変危険な場合もある。あまり、個人で所有すべき物ではないのだよ」
取って付けたかのような柔らかい調子でやんわりと脅す、その嫌らしい言葉の響きの裏に、クミノは妙な真実味を嗅ぎ取った。
やはり、この物体は何らかの巨大な危険を引き起こしうるシロモノなのだろう。

「そう…ですか。私にはただの変わった石に見えましたが?」
あちらがクミノがどういった人間か知っているのか、まだ判断が付かないが。あくまで、一般人を装って受け答える。
無論、一般的な十三歳少女のレベルからは、クミノはそもそも大きくかけ離れているのではあるが。普通の十三歳は、この手のいかがわしい男が近付いて来た時点で、脱兎の如く逃げるべきであろう。

「君は、それを買い上げたそうだな?」
クミノと同世代の子供はおろか、余程豪胆な大人でも萎縮させかねない威圧感を漂わせつつ、黒服は隣の男に目配せした。幾分若いその男は、小切手帳のようなものを取り出して何か書き付けた。素早く、交渉に当たっていた男がそれをクミノの目の前に示す。
「ただで寄越せ、などとは言わん。このぐらいあれば、文句は無かろう?」
…七桁の数字。
クミノにとってはそうでもないのだが、どう考えてもローティーンに提示するような金額ではない。まして、たかが奇妙な石の為に。

クミノは形の良い眉を僅かに顰めた。本当は盛大に渋面を作りたいところなのだが。
札束でいきなり人の頬を張り倒すかのようなやり方に強烈な反感を覚えたのもあるが、このような露骨に怪しいやり方で手に入れようとする、あの「オーパーツ」とやらの正体の方が気になった。どちらにせよ、このような相手に渡すべき物ではないと判断する。

「いきなり、そんな大金は受け取れませんね。そもそも、この石って何なんですか? 買った店の方は『オーパーツ』と言っておられましたが」
そう言いながら、相手を伺う。しゅるりと伸ばした、不可視の障気の触手はだが、相手に触れる直前、まるで見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。
今まで経験したことの無い、有り得ない状況に、クミノはぎくりとする。

小切手を切った方が、ごく微かな仕草で頷いた、ような気がした。
「ふむ…ただの子供では無いというのは本当のようだな。致し方ない…」

言葉が終わらぬ内に、無機質な緑色の閃光が、クミノを襲った。
通常の武器なら障壁に阻まれるはずのそれは、しかし、僅かに威力を落としながらも弾道を変えない。障気の触手が弾き飛ばさなかったら、彼女の胴体は二つに千切れていただろう。
何時の間にか、黒服どもの手の中にあったのは、奇妙な銃器と思しいものだった。
あのオーパーツに似ているような気がする材質で作られており、どこか有機的で奇妙な形状。何より、銃弾は通常のそれではなく、明らかに何らかのエネルギー塊だ。

『交渉がストレートに行かなくなった途端に攻撃とはな…この妙な銃と言い、何だコイツらは?』
クミノは改めて手の中に召喚武装を出現させた。あの、エネルギー銃をコピーしたもの。
『この銃は…物理的な弾ではないが、魔法でもない、か。だから障壁が効き辛い…厄介な』
正確に狙い、撃つ。
黒服たちの頭蓋を、正確に貫くはずだったそれは、何故か何かを避けるような有り得ない軌跡を描いて逸れる。
愕然とするクミノのに加えられた、別方向からの追撃。巨大な鎌にも似た爪が、彼女を薙ごうとする。

「なっ!」
今までありとあらゆるモノと戦って来たと言えるクミノでも、流石に肝を潰す異様な生き物だった。
一言で言うなら、節足動物…昆虫や、蟹などの甲殻類に似ている。
だが、大きさが大型トレーラー程もあると言うなら、最早生物学の常識をあらぬ方から飛び越えていると言えよう。

百足と、カブトガニと、恐竜とを混ぜ合わせたようなその巨大生物は、いささかカマキリのそれにも似た、鎌状の爪の付いた二対の攻撃肢で、ゆらゆらとクミノを狙う。蜘蛛に似た、左右三つずつある目は、赤い光を湛えてクミノの動きを捉えんとしているようだ。
一体、こんなものを何時の間に召喚していたものか。
クミノがその疑問に拘る間も無く、その巨大な「蟲」は、攻撃肢を巧みに使って攻撃を仕掛けて来た。到底昆虫の類とは思えぬ複雑な動きで、鎌状の爪が交互に襲い来る。アスファルトが豆腐のように裂け、障気の触手で防ぐ彼女の防御を巧みに掻い潜ろうとする。
ビシュッ! という音と共に、頭の側をエネルギー弾が通過した。
振り上げた蟲の肢に障気で絡み付いて空中を移動しなかったら、頭が消し飛んでいただろう。

兎に角、蟲の方だけでも抑えなければ。

蟲の巨体が、黒服どもの攻撃を塞ぐ位置に着地すると、クミノは新たな「召喚武装」を呼び出した。
あたかも、冥府の女神が纏うと言う、竜神の首の如き銀の障気を揺らめかせる少女の真横で、空間が歪んだ。
次の瞬間、金属の軋みと無数の木霊を合わせたような響きの吼え声と共に、赤黒い装甲の如き皮膚で包まれた巨体が吐き出される。かつて、彼女自身が出会った、いずこかの企業が生み出した生体兵器。あまりに強力に作り過ぎ、作り出した側も制御し切れなくなっていたが。

今は、コイツが必要だ。

「このようなモノまで召喚出来るのか!?」
驚愕と言うより呆れた悲鳴のような、黒服の声が聞こえた。
ほんの一瞬睨みあった後、二つの巨大生物がぶつかり合った。
クミノは糸に風を受けて宙を舞う蜘蛛のような軽やかな動きで、巧みに戦闘フィールド外に逃れる。跳ね上がった蟲の尻尾に跳ね飛ばされかけて、黒服たちが逃げ惑う。

しかし、クミノが対処すべき敵は彼らだ。
蟲から逃れた黒服の、緑色のエネルギー弾がまだ彼女を狙う。障気で受け流し、また受け流し、その間隙より銃撃。
狙いは正確なはずなのだが、やはり妙な力に弾道を歪められ決定打にならない。

『くっ! また、私は…』
苦い敗北、能力者や人外の怪物には、何故かいつも力及ばず…
嫌な何か、忌まわしい無力感がじわじわ甦る。

ぎしゃあっ、と断末魔の悲鳴が響き渡る。
クミノが召喚した生体兵器が、蟲の鎌に首に当たる部分を跳ね飛ばされた。赤い雨が降り注ぐより早く、その巨体が煙のように消える。
蟲は…ほとんど無傷の殻をぬるりと光らせ、ゆっくりクミノの方に向き直った。

逃げるしかない。

クミノの決断はそれだった。
だが、どこに逃げ場があるのだろう? もし街中にでも逃げたら、この怪物が…

上空が、あたかも照明弾の如くに眩く輝いたのはその時だった。
飛来した虹色の光の束が命中し、蟲が悲鳴を上げる。

「使え!」
何かが上空から投げられ、障気が捕らえて引き寄せる。
黒服どもはあまりの事態に対処し切れず、動きが止まった。その隙に、クミノは河川敷の草むらに逃れた。

手の中にあったのは、召喚武装で入手したのと似た、不思議な様式の銃だ。こちらの方が大きめで、より奇妙さを感じさせる形状、だが。
手にした瞬間、クミノはその使用法を瞬時に理解した。
草叢から転がり出ざま、黒服の一人に狙いを定め…

爆裂するように、黒服が弾け飛ぶ。上半身が殆どコナゴナだ。この銃の前には、あの妙な防壁が通じない。
続いて、二人目も沈黙させた。
あれ程の苦労が嘘のように、あっさり撃沈。思わず、クミノはその武器をしげしげ見た。

夜の大気を震わす奇怪な咆哮に、あの蟲を見やる。対峙しているのは、女が一人。

蟲の背に下り立った女が、妙な光を宿す武器をその背に突き立てた。
空気が歪むような音が聞こえ、視界を光る何かが薙いだ。同時に、蟲の巨大な頭が、胴体から外れて落ちる。

崩れ落ちる巨体から身軽に飛び降り、女は大きく手を振りながら、クミノの元へやって来た。
「遅れて済まない! 無事か?」
その背後から、巨大な翼が舞い降りて来る。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC
【1166/ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)/女性/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

NPC
【NPC3820/九頭神・零(くずかみ・れい)/女性/15000歳?以上(内14900年以上封印)/復活を託された王族】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、ライターの愛宕山ゆかりです。この度は、「オーパーツ!」に参加いただき、誠にありがとうございました。
さて、4回連続シリーズの第1回目という事になりますが、まずは作中でクミノちゃんの手に渡った、古代文明の銃器「アストラルガン」を進呈いたします。
これで魔物も能力者も撃ち放題です(笑)。

今回お預かりしたササキビ・クミノちゃんというPCですが、あまりに峻烈な設定に、「これは気合を入れなければ、描ききれないぞ」といささか緊張いたしました。
他の生命を寄せ付けぬ障壁を持ちながら、人外、能力者を苦手とする、というアンバランスなキャラクター(しかも13歳の傭兵!)は、ある種の痛ましさと乾いた苛烈さが同居し、書いいて息詰まるような感覚を覚えました。
また、4回にも渡る発注内容を読ませていただき、正直、私が考えていた以上の濃密な内容に、「破壊か支配か」の2ルートを設定していただけのライター本人が驚いた次第です(笑)。

続く第2〜4回までのノベルは、なるべく早くお届けするよう製作中です。もう少々お待ち下さい。

では、第2回でまたお会いいたしましょう。