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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


オーパーツ! 〜4〜


------<オープニング>--------------------------------------

「曰く付き」の品物ばかり扱うアンティークショップ・レンで手に入れた、奇妙な物体「オーパーツ」。
何の気なしに、それを買い上げたのだが。

それは、世界存亡の危機の始まりだった。

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「大丈夫かい? アンタ、寝てないんじゃないの?」
碧摩・蓮(へきま・れん)が、首をクキクキ鳴らす零に、気遣わしげに言った。
「大丈夫ですよ。そんな事は、クミノくんだって殆ど同じです」
零は先日クミノに見せた、三次元映像再生装置の前で微笑んだ。

今映っているのは、紛れも無いクミノ自身だ。
彼女と対峙しているのは、「組織」のトップ、告高であり、彼らの間に見えるのは、あの「オーパーツ」だった。
「しかし…彼女も考えたわね。『キーパーツ』のニセモノを作って、連中を引っ掛けるとはね…」
滅多に無い、感嘆した様子を見せたのは、相変わらず猫を抱いたままの高峰・沙耶(たかみね・さや)だった。彼女と蓮の前に、全体の形状としては人間に近い人工生命…ドローンが、茶とちょっとした軽食を持ってくる。

昨日一晩、更に今日になってクミノの口添えで蓮と沙耶を力を借り、遺跡中から使えそうなものを掻き集め、一部零が身に着けていたものすら削って作った贋作…むしろ「合鍵」と言うべきもの、それが、ササキビ・クミノに手渡した「偽キーパーツ」だった。
ぱっと見ただけでは、造り上げた零ですら騙されそうな、完璧な出来映え。

「大したものです。恐るべき十三歳ですよ、クミノくんは。多少は起動してしまうかも知れない、『合鍵』ギリギリのニセモノを『組織』に渡して、裏切ったかのように演出だなんて」
はっはっと、何だかやけに嬉しそうな、零の朗らかな笑い。
「私には考えも付かなかった。末恐ろしいですね、彼女は」
明らかに賞賛として放たれるそんな言葉に、蓮と沙耶も釣られるように苦笑した。

「だが…敵もさるもの、ですからね。正念場はこれからです」
ゴーグルの奥で、光る零の眼差し。
「全ては、彼女にかかってますから」
がたり、と零が立ち上がる。

「…行くのね?」
沙耶の言葉に、零は頷いた。
「ええ。そろそろ、時間です。お二方はここで待機とモニタをお願いします。何か必要なものがあったら、そこのドローンに申し付けて下さい」
主の出撃に備え、待っていたハイユラがギャルル、と鳴いた。
「…作戦が上手く行かなかったら…遺跡を閉じて、敵襲に備えて下さい。もっとも…世界が滅ぶのでは、どこへ居ても同じかも知れませんが」

そんな言葉を残し、零はハイユラにまたがると、一軒家ほどもある巨大なゲートを通り抜けて空へと舞い上がっていった。


「ふむ…なるほど、本物らしいな…」
告高は、無数のコードが伸びた機械にキーパーツを嵌め込んで、何やら調べているようだった。

密かにヘアアクセサリ型に形状を変更して装備した装着型思考機械の手を借りずとも、クミノにはそれが、零の遺跡に転がっていたような機械類のコピーなのだと知れた。
この告高という男が、どうやら自ら旧文明の機器類を解析して、自らの技術で再現しているらしかった。
他のメンバー…どこぞの映画に出て来そうな黒服の集団は、彼が魔術に基礎を置いた文明を再現し、使いこなす際に必要な能力者たちなのだと言う。

しかし。

『劣化コピーだな』
クミノは冷然とそう判断する。
再現したはずの機器類も、その手を借りているはずの能力者も、あの遺跡にあったものや、零自身には全く及ばない。つぎはぎして、どうにか形を整えた、といった感が漂う。

当然、そうなるのが道理だ。
あの文明は、恐らく魔術に高い適応性を示した旧人類が、恐らくは万年単位の時間を掛けて醸成してきたもの。
いくら天才的知能を持つとは言え、現在文明のレベルの人間が、十年かそこらでホイホイ再現出来るようなものではあるまい。

「有り難う。ササキビ・クミノくん。君なら、我ら『サティーヤ・ユガ』の真意を理解してくれると思っていた」
「報酬は、高いに越した事はありませんのでね。それに、彼女…九頭神零は、このパーツを破壊することしか考えていませんでした。ならば、こちらで有効活用させてもらうまで」
告高と握手を交わしながら、クミノは内心、「サティーヤ・ユガ」という大仰な名前に吹き出しそうだった。

零が苦笑しながら教えてくれたところによると、「サティーヤ・ユガ」というのはヒンドゥー教の概念で、神の如き賢者によって統治される「黄金時代」を意味するのだと言う。この連中は、自分達が賢者で、旧文明の遺産で世界を支配し、聖なる「黄金時代」を造り上げる…というつもりであるらしかった。

『誇大妄想狂か。生半可な実力が伴ったばかりに厄介、という訳か』
「では、ササキビくん。約束通り、君を『サティーヤ・ユガ』の一員として迎え入れよう」
クミノのそんな感想も知らぬ気に、告高は上機嫌でそう宣言した。
「有り難うございます」
「では…歓迎式典代わりに、超破壊兵器の起動実験と行こうか。君は幸運な少女だ、ササキビくん。歴史的瞬間に立ち会うのだからね」
神経質そうな告高の高笑いが響き渡る。
「我々は、とうとうあの古臭い旧人類の小娘を出し抜いた! いかなあの女でも、これには手出し出来まい! 旧文明の正統な後継者が誰だか、今こそ見せてやれるぞ!!」

矛盾し切った言い草に、クミノは内心呆れ返った。
この狂気の男の言葉の端々に滲む、零への敵意と劣等感。
旧文明の力を、当たり前のように使いこなす――旧文明出身なのだから、別に特別な事でもあるまいが――零が、この男にとっては兎に角目障りだったのだろう。

ここぞとばかりに、追従しに来る取り巻きの黒服たちに、クミノは心底からの嫌悪を覚えた。それに囲まれて、ますます有頂天になる、告高には尚更だ。

あれが欲しい、これが欲しいと子供のように駄々をこねるお前らは、一万年以上もの時の彼方に一人で放り出された零の事が、本当にそんなに羨ましいのか。
自分があの立場だったら、三日と耐えられまいに。

一人になったことがあるか。
誰一人、頼れなかった事があるか。

…この、私のように、命ある全てから見放されたことがあるか。

苛立ちを抑えて、クミノは告高と黒服たちと共に、超破壊兵器の露出した外殻前に立った。
告高がパーツを持ってそこに進むと、まるで水で出来たように、その表面が揺らぎ、巨大な入口が現れた。
『キーパーツ所持を確認。最高司令官と認識。搭乗を許可』
まるでどこからか空間を渡ったかのように、光る力場で出来たような一種のフラップが現れ、全員がそこを通って内部に乗り込んだ。

「素晴らしい、素晴らしいぞ!」
はしゃぐ告高を先頭に、何度か空間を渡る仕組みの通廊を通って辿り着いた先には、コクピットに相当する部屋が広がっていた。
正面中央に、キーパーツを収める奇妙な形状の台が、ぽつんと置かれており、すでに幾つかのパーツが収まっていた。
中央に、他より一回り大きな窪みが銀色の底を見せている。

告高の震える手が、キーパーツをそこに収め…

ほんの一瞬、台座周辺が光ったものの。
何も、起こらなかった。

「!? 何故だ、何故何も起こらな…」
『キーパーツ、データ不足。破損、又はフェイクと認定…』
「!!」

告高が、恐ろしい目つきで、クミノを睨んだ。


「クッ…駄目か、一旦起動させてから、ハッキングして自壊プログラムを作動させようと思ったが…クミノくん! 聞こえるか!? 私が贋作を渡したことにして、どうにか切り抜けるんだ!」
零は、超破壊兵器の島から死角となる岩礁で、情報防壁を張ったまま、思考機械を通じてクミノに呼びかけていた。

が。

「なっ…!? ク、クミノ、くん…?」
零は唖然とし、人形のように固まった。


「…やっぱりか。あの女、念には念を入れて、ニセモノと摩り替えていたんだな」
クミノの幼さを残す手が、エアポケットから、先程のキーパーツとそっくりな物体を取り出した。
「おかしいと思った。あの女がパスコードのレベルを上げてくれたんで、私室に忍び込んだら、キーパーツと同じモノがあった。やはり、こっちが本物だったか」
クミノは無造作に、それを告高に放った。
「そちらで試してみてくれ。恐らく、動くハズだ」

告高の顔に燃えるような、凶暴で狂的な笑みが浮かんだ。

「クミノくん。感謝するよ。君は本当に…本当に、良い子だ…」
贋のパーツを乱暴に外して放り出し、告高は、新たなパーツを嵌め込んだ。

世界を滅ぼす、そのキーパーツを。

『クミノくん…クミノくん、何故だ!? どうしてそんな事を!? 何故本物なんか持ち出した!? それがどういう事か分かってるだろう、クミノくん!!』
思考機械越しに、零の叫び声がわんわんと木霊する。
彼女が渡って来た時の連なりのように、磐石で恐ろしい厚みを持ち、決して揺らがないように見えた零が、感情の揺らぎも露わに絶叫していた。

『何故なんだ、クミノォ!!!』

クミノは、無言で、思考機械越しの零からの思念通信を切った。

ぐおん! と空気が鳴った。
廃墟のように冷たかった、超破壊兵器の内部が明るく輝き、各部の起動を示す部位が次々発光し始める。
超破壊兵器は、一万五千年ぶりに息を吹き込まれ、その巨体を震わせた。
振動が大きくなり、岩に閉じ込められていた船体が浮き上がり始めた。
外で海が泡立ち、辛うじて巨体を支えていた海底の山が割れて砕けた。

ついに。
超破壊兵器は、一万五千年ぶりにその全身を空に持ち上げたのだ。

ゲラゲラ笑う、告高と、従う黒服たちを残して、クミノは障気で瞬間移動。
思考機械にアシストされた障気は、一気に彼女の体を高い空まで持ち上げ――

鉄の色に輝く閃光のように、クミノを零の遺跡からここまで運んできた竜型生体兵器が、彼女を拾い上げた。旧文明の魔力を帯びたこの生き物なら、クミノの障壁にも耐性を発揮する。
超破壊兵器の巨体に弾き飛ばされないように、竜はクミノを乗せ、大急ぎで退避。
その後を追うように、巨大な破滅の船が浮上する。

「クミノ…くん」
思念通信ではない、微かだがはっきり聞こえる声が、クミノの耳を打った。

振り返る。
そこにいたのは、自らの竜型生体兵器ハイユラに乗った、九頭神零。

「何故だ…何故こんな事を? 頼むから…理由を教えてくれないか…」
怒りは無い。
ただ、悲しみと…虚脱感が空のように広がる。

クミノの背後一面には、彼女が呼び起こしたに等しい、世界を滅ぼすための船。巻き起こす風が、クミノの黒髪と、零の藍色の髪を渦巻かせている。

船が。
ゆっくりと、二人に船首を向けた。

『おや、クミノくん。折角我が同志に迎え入れたのに、やはりお友達が恋しくなったのかな?』
病的な笑いに混じって、告高のそんな声が空に轟き渡った。
『となると…やはり、君はそこの旧人類同様、危険因子だ。我らが『サティーヤ・ユガ』のために、消えてもらわねば』
超破壊兵器の外殻に、巨大な砲身がせり上がって来た。

「逃げてくれ。その竜は君にあげるよ」
それだけ短く言うと、零はハイユラと共に戦いの体勢を取ろうとした。
「待て」
クミノが、それを手で制す。
「作戦通り。見ていてくれ」
「作戦!? 作戦って…!!」

零が仰け反った。
彼女とハイユラの真横の空間からせり出して来たのは、前方の超破壊兵器とそっくり同じ、巨大な船だ。

「…障壁!? まさか召喚武装か!? こんな事が…!!」
さしもの零が度肝を抜かれている隙に、二つの「超破壊兵器」は向き合った。

『『なっ…馬鹿な、そんな!!』』
双方から、全く同じ声がする。
「…搭乗者まで、兵器の一部と見做されて再現されてるのか…」
毒気を抜かれたような、零の呟き。

両方の船の表面から、無数の砲身が突き出し、あちこち開いた穴から、蜂の群れのように生体兵器の群れが湧いてきた。
「まずい!!」
零が、自ら身に着けている、不思議な装備品に、自らの魔力を通して術を使った。

ムー王家の至宝の力を借りた、最大出力の術は、直径百キロ程にも渡って強力な閉鎖空間を作り出した。
二機の超破壊兵器は、丁度その中に閉じ込められる格好となる。

「さぁ…お望み通り。存分に殺し合い、滅ぼし合ってくれ」
零が低い声で呟く。
彼女とクミノは、閉鎖空間展開と同時に使用した空間転移の術で、数十km離れた海上に退避していた。彼女らから見ると、薄黒い奇妙な膜のような円形の壁の向こうに、そっくり同じ形の船が向き合っている。

黒い幕の向こうで、戦いの火蓋が切って落とされた。

全く同じ攻撃同じ破損具合で、二つの船が互いを滅ぼしあって行く。
結局は愚かしいチンケな我欲のぶつかり合いに過ぎないのに、無数に炸裂する炎と閃光の花は、異様なくらいに美しかった。

それ程の、長い時間は保たず。
閉鎖空間の中で、二つの船は、爆炎に包まれた。

同時に閉鎖空間が収縮し、まるで爆発した恒星が一気に縮むかのように、空間の一点の球体と化し、内部の破壊兵器ごと次元の彼方に消え去った。
後はただ、静かで蒼い海と空が、どこまでも広がるだけ。


「…悪かった。君にあんな考えがあるとも知らず、裏切り者扱いして」
「いや。こちらこそ、ちゃんと話しておくべきだったかも知れん」

一夜明け、ササキビ・クミノと九頭神零は、別れの握手を交わしていた。

排気ガスでけぶっていても、東京の空の青は柔らかで、つい先日、目と鼻の先で世界崩壊の危機があったなどとは到底思えない。
クミノは零に送られ、自宅前まで来ていた。送ってきたハイユラは、上空で待機中だ。
「また、遺跡に邪魔させてもらえるか? 旧文明の武装には興味がある」
「ああ、是非来てくれ。こういう話が通じる人はなかなかいなくてね。君みたいな人は大歓迎だよ」
「またな」
「ああ、また」

戦友として、頷き合って。

二人は、それぞれの日常に帰って行った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC
【1166/ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)/女性/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

NPC
【NPC3820/九頭神・零(くずかみ・れい)/女性/15000(?)歳/復活を託された王族】

公式NPC
【 − /高峰・沙耶(たかみね・さや)/女性/29歳/高峰心霊学研究所所長】
【 − /碧摩・蓮 (へきま・れん)/女性/26歳/アンティークショップ・レンの店主】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの愛宕山ゆかりです。ようやく最終回である第4回をお届けする事ができます。
最終回にして、思いの他長丁場となった訳ですが、お気に召していただけたでしょうか?
作中でクミノちゃんご使用の「生体兵器(竜型)」及び「【零の遺跡】パスコード・レベル3」を進呈いたします。召喚武装、旧文明に関するデータ検索その他、ご自由にお使い下さい。

さて、今回4回に渡りお預かりしたPC、ササキビ・クミノちゃんは、ヘヴィな設定、情け容赦ない能力で、ライターとしては非常に格闘のしがいのある(変な表現になりますが…)キャラクターでした。
話の流れ上、旧文明に関する詳細な部分の描写が必要になり、以前別分野の資料として書き留めておいたものをひっくり返したりと、大変でしたが、思いがけずライターの方が楽しませていただいた次第です。
クミノちゃんの個人描写としては、13歳の少女でありながら鋼と硝煙の匂いのする、その雰囲気を出す為に徹底的にクールで行こう! と決め、年上(と言うか化石レベル)のはずの零をガンガン振り回してもらいました(笑)。
超破壊兵器の最後は、もう少し救いのあるものにしたかったのですが、中身がアレではやはり無理でした、すみません(笑)。

当初予定していたより何倍も膨らんだ話になりましたが、お気に召していただけたら幸いです。

では、またお会い出来る日を楽しみにしております。