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<東京怪談・PCゲームノベル>


ワールズ・エンド〜雨漏退散、湿気撃退!






 はじめに”それ”を発見したのは、ゴミを捨てに外に出ていたリネアだった。
黒い大きなゴミ袋を抱えて出て行ったリネアは、戻ってくるとその細い腕に、真っ黒なダンボール箱を抱えていた。
「あら、ゴミ袋がダンボールに変化しちゃったのね」
 私は呆れて苦笑しながら、弾けんばかりの笑顔でダンボール箱を抱えているリネアに言う。
「何拾ってきたの? 犬? 猫? だめよ、うちはもう銀埜がいるんだから―…」
「ちがうよっ。 ほら」
 リネアはぶんぶん、と首を振り、ダンボール箱の側面を私につきつけてきた。
カウンターで裁縫をしていた私は、その手を止めてダンボール箱を見下ろす。
「なになに… 『おじゃまします』…?」
 黒いダンボールに白いチョークで書かれたその可愛らしい文字を見て、私ははて、と考える。
つい最近、こんな文字を見たようなー…何かしらこれ、デジャヴ?
「…母さん、まだ気づかないの?」
 リネアはそんな私を呆れて見上げた。
「もー。夜闇ちゃんだよ、この前うちに来てくれたじゃない」
 頬を膨らませてリネアがそういうと、抱えているダンボール箱から、リネアの言葉に呼応するように、黒い一束の髪がぴょこん、と飛び出す。
私はぽん、と手を叩いた。
「…夜闇ちゃんか!」
「……はげしく鈍いね、母さん…」








「夜闇ちゃん、お久しぶり。お元気?」
 私は床に座り、精一杯の笑顔を浮かべて手をひらひらと振る。
夜闇は黒いダンボール箱から顔を出して、そんな私を物言いたげにじっと見つめている。
 黒いダンボール箱を被って移動するのが常、というまさに不思議ちゃんな少女、伊吹夜闇。
黒と銀のオッドアイがきらきらと輝く、神秘的な雰囲気を持つ美少女である。
でも引っ込み思案なのか普段から物静かなのか、じっと視線で訴えてくるけれど、何も口を開いてくれない。
「……まだ虫歯菌のこと覚えてるのかしら…」
「かわいいのにねえ、あれ」
 私と同じく床に座り、きょとん、としているリネアと顔を見合わせる。
前回が夜闇の初来店だったのだが、そのときリネアが差し出した虫歯菌のぬいぐるみに、
この少女は大層ビビって…いやいや、とても驚いてしまって。
まだそのときのことを覚えているのかなあ、と不安に思う私。
でも前回は、顔を出すのも一苦労だったけれど、今回は割りとすぐに顔を出してくれた。
だからきっと進歩しているの違いない。
そう信じ込んで、私は夜闇に話しかけようとした。
でもその前に、夜闇は小さな口をゆっくり開いて、静かな声で言う。
「……たいへんなのです。お仕事、たのみたいのです…」
「お仕事?」
 私は目を見開いて、夜闇の言葉を復唱した。
夜闇は、こくこくっと頷いて、また私をジッと見つめる。
そこで気がついた。彼女が箱から出てきてからずっと私を物言いたげに見つめてたのは、必死だったからなんだわ。
この大人しい少女にとって、この店までやってくるのは(しかもダンボール箱に入って!)、
どんなに勇気が要ることだったろう。虫歯菌で前回嫌な思いをさせたかもしれないのに。
 私はそう思うと、胸がきゅん、となるのを感じた。
そう、元来私はこんなか弱い少女が、勇気を出して何かをするシチュエーションに大層弱いのだった。
そういうのを見ると胸が痛くなって、なんとしてでも手伝ってあげたいと思ってしまう。
 そういう私の性格は、ばっちりリネアにも受け継がれていたようで。
私が口を開く前に、リネアががしっとダンボール箱の淵を掴んで、身を乗り出していた。
「夜闇ちゃん! 何があったかしらないけど、母さんならきっと何とかしてくれるからね。
私も出来ることがあれば、力になるから!」
 ねっ、元気出して。 そう言ってリネアは情熱的に夜闇の小さな手を両手で握りしめる。
突然パッションを体から放出しだしたリネアに驚いてか、夜闇は大きな眼を白黒させていた。
 リネアに先を越された私は少しばかり落ち着いて、出来るだけ穏やかに夜闇に声をかける。
「ね? 夜闇ちゃん。私で良ければ力になるわよ。お困りごとがあるなら、是非話してみて?」
 その言葉に、夜闇はジッと私を見上げた。
そして暫し目をぱちくりさせていたが、やがてこくこくっと頷いてくれた。
「…おねがい…したいのです」









 さて、この内気な少女の願いとは何なのだろう。
私とリネアは興味深そうな表情をしながら、夜闇が口を開くのを待った。
だが夜闇は二人に見つめられて恥ずかしくなったのか、頬を赤く染めてうつむいてしまう。
ぴょこん、と垂れた一房の髪を見て、私は、あらあら、と思った。
うーん、どうしようかな…そう思っていると、ダンボールの中から、何か小さなものが這い出てくるのが見えた。
「わっ。夜闇ちゃんだよ!」
「あらほんと。ちび夜闇ちゃんね」
 這い出てきたそれは、夜闇をそのまま小さくしたような人形だった。
そういえば、この前着てくれたときも、夜闇のすぐそばにこの人形がいたっけ。
でも今は何だかぐったりとして元気がなさそうだ。
「…ちょっと見てみてもいい?」
 大きな夜闇にそう問いかけると、夜闇はこくこくっと頷いた。
私は慎重に人形を持ち上げ、自分の手の平に載せてみる。
うーん、こうしてまじまじと見つめてみると、ほんとに似てるわ…誰が作ったのかしら。
「あっ。母さん、この子旗持ってるよ!」
「あらほんと。なになに…滲んでて良く読めないわね。『よやみ…あま…もり…がくっ』?」
 …雨漏りですって?
確かに人形が握っている旗には滲んだ文字でそう書かれていて、そして当の人形はぐったりしている。
私は暫し考えたあげく、ぽん、と手を叩いた。
「なるほど。ダンボール箱が雨漏りしちゃって、人形がふやけちゃったのね」
 私のこのナイス推理に、大きな夜闇は顔を上げて目を見開いた。
そしてこくこくっと大仰に首を縦に振り、ゆっくりという。
「…そうなのです…。あまもりで、お人形さんたちがふやけてしまったのです。
私…ワールズエンドさんは、そういうことの専門だと聞いたので…お願いしたいのです」
「ってことはあれだよね、防水したらいいんだよね!」
 夜闇の言葉に、リネアは私の真似をして、ぽん、と手を叩いた。
「大丈夫だよ。母さん、前にそういうの作ったことあるもん。ね?」
「防水程度ならすぐ作れるわよ。でも夜闇ちゃん…このお人形、大丈夫?」
 私は手に乗せていた夜闇人形を、そっとダンボールの淵に乗せた。
人形はふやけたまま、力なく旗を振る。
その旗の文字は、いつの間にか変わっていた。
「『よやみ、ふぁいと…』…? ま、かわいい。応援してくれてるのね」
 私がそういうと、夜闇はぐったりしている夜闇人形を肩に乗せ、頬を高揚させて何度か頷いた。
確か夜闇は人形が大好きだったはず。
ということは、この夜闇人形は彼女にとって一番の友達…ってところかしら。
勇気を持って私を訪ねてきた夜闇と、そしてふやけてへろへろになりながらも友達を励ます人形に、私は胸を打たれた。
こりゃあ何としてでも、ばっちり防水の道具を作ってあげなきゃね?
「よっし。じゃあ夜闇ちゃん、ちょっとリネアと遊んでてくれる? 道具、作ってくるわね」
「わーい! 夜闇ちゃん、私お気に入りの人形持ってくるよ」
 思わずはしゃぐリネアの言葉に、夜闇は無意識なのだろうかビクッとした。
「あっはは、大丈夫、虫歯菌は持ってこないから!」
 そうリネアが言うと、夜闇はホッと胸を撫で下ろす仕草を見せた。
うーん…なんかいちいち動作が可愛らしい子ね! リネアもあれぐらいのお淑やかさがほしいものだわ…。
私はそう思いながら二人に手を振り、二階へと急いだ。
水と湿気を防ぐものを早急に作らなきゃ。あのダンボール箱の中身がどうなってるか分からないけれど、
あの中もきっと相当じめってるはず。こりゃのんびりしてられないわ!









 ダッシュで作ってダッシュで戻ってくると、いつの間にかダンボール箱から這い出て全身を見せている夜闇は、
床にぺたんと腰を下ろして、リネアと人形遊びに没頭していた。
夜闇は髪の色と同じ、深い闇色のふわっとしたドレスを見に纏っていたようで、店の床の絨毯に、そのスカートが花びらのように広がっている。
「ただーいま。何してるの?」
 私は明るい声で二人に話しかけた。
その声に気づいたのか、二人が私を見上げる。
「母さんおかえり! あのね、お馬ごっこしてたの」
「…お馬?」
 なーんか嫌な予感がする。
眉をしかめてリネアと夜闇の間の床を見てみると、以前リースがUFOキャッチャーでとってきた、競馬の馬のぬいぐるみが揃って立っていた。
既に一戦終えたようで、どちらのぬいぐるみも息が荒い。
「…これ、いつの間に魔法かけたの?」
「この前リース姉さんがかけてくれたよ。このぐらいならリース姉さんも出来るんだって」
「ふーん…」
 私はそう呟いて、二頭ならんだぬいぐるみを見下ろす。
「…夜闇ちゃん、楽しかった?」
 そう夜闇に問いかけると、夜闇はこくこくっと頷いてくれる。
「おうまさん、いっしょうけんめい走ってくれたのです。リネアちゃんのおうまさん、とても速いのです」
「えへへ、リース姉さんが鍛えてたんだー。馬体重がどうとか、足つきがどうとか、スタミナがどうとかうるさいんだよ。
そのお馬、夜闇ちゃんにあげるね。また鍛えてみて!」
「…いいのですか?」
「うん! またお馬ごっこしようね」
「ありがとう、なのです」
 夜闇はそう言って、嬉しそうに馬のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
その様子を嬉しそうに見ているリネアに、私は恐る恐る問いかける。
「…リネア、お馬ごっこって…」
「あ、リース姉さんは”けいば”っていってたよ。たくさんの馬が競走するんだって?」
「……ま、まあそういうものだけど…」
 リネアの奴…人の娘に何教えてるのよっ。
私は心の中で一通り憤慨したあと、夜闇の頭に優しく手をおいた。
「夜闇ちゃん…あなたは悪い遊びを覚えちゃだめよ」
「? はい、なのです」
 夜闇はきょとん、とした表情をしながら頷く。
あーもう…こんな無垢で可愛い子が悪の道に染まっちゃったらどうするのよっ。
「それはそうと、母さん道具は?」
「あっ、そうそう」
 リネアの言葉に私は本来の役目を思い出し、ぱっと身を翻してカウンターのところにいった。
二階から降りてくるとき、ここに置いちゃったのよね。
 私はそれを片手で持って、二人のところに戻る。
「じゃーん! 今回ご紹介する商品は、湿気撃退スーパーペンキX(エックス)です!」
 私はそれを掲げ、ハイテンションで紹介する。
「えー、こちらの商品は特製のハケがついておりまして、これ何とフクロウの羽で出来てるんですねー。
魔女の村の特産品、大変動かしやすく軽くて使いやすいと評判の品!」
「か、母さん…」
 リネアは呆然として私を見上げている。
夜闇は何が何だかわからず、きょとん、とした顔だ。
ふふ、こういう日のために深夜のテレビショッピング見て勉強したんですからね!
「この特製のハケで、このスーパーペンキXをお使いいただくわけですがー。
このペンキ、独特のシンナー臭は致しませんので室内で使って頂いても何ら問題ございません!
そして特筆すべきは、このスーパーペンキXには特別の魔法物質が含まれており、
完全防水、湿気すらも取り除いてくれるという代物。そのメカニズムはといいますと、
この魔法物質は大変吸収性が良いもので、1mlすら水分を逃さず、ペンキの近くの水分は全て吸収してしまうというわけで。
さらにこのペンキは大変補強効果が素晴らしく、色艶長持ち、一度塗ると剥げるまでその物体を守ってくれるのです!」
「ぱちぱち…すごいのです」
 えっへん、と胸を張る私を、純粋に感動したのか夜闇が小さな拍手を送ってくれる。
そのオッドアイはきらきらと輝いて、まるで真珠のよう。
 でもその純粋な夜闇に傍らのリネアが囁いた言葉は。
「夜闇ちゃん。あんまり煽てないほうがいいよー。母さん、調子に乗るから」
「そうなのですか…? でもすごいのです。湿気をふせいでくれるのです」
 リネア…あんた、リースの影響受けすぎよっ。
私はコホン、と咳払いをして、”スーパーペンキX”とステッカーを貼った派手派手しいペンキ缶を掲げた。
この中にペンキが入っているというわけだ。
ちなみにハケはペンキ缶の側面に金具で装着してある。
「でも! このスーパーペンキX、残念ながら弱点がございます」
「え…そうなのですか?」
 夜闇はびっくり、と驚いたように目を丸くする。
うーん…やっぱりこの子の反応素敵だわ! いわゆるオイシイお客ってわけね。
「水に大変強いペンキですが、一度雨など水を大量にかかってしまうと、その水分が乾いたあとに剥がれ落ちてしまうのです。
なので雨が降りそうなときに塗りなおしていただく必要がございます!」
 私のその説明に、夜闇はガーン、とショックを受けたようだった。
「うう…たいへんなのです…」
「ま、大丈夫よ! さっきも言ったとおり、このハケはとても塗りやすいからね。
それにペンキも伸びがいいから、夜闇ちゃんでも苦労せずに塗れるはずよ」
 私はふふ、と笑ってそう言った。
「あ、母さんいつもの調子に戻ってるね」
「だってリネアには不評なんですもの。結構楽しいんだけどね」
「だって変だよ…ねえ、夜闇ちゃん」
 リネアがそう同意を求めると、夜闇は一瞬困ったように目を泳がせた。
そしてそのあと、ぽつりと呟くように言う。
「……私は…おもしろいと、思ったのです」
 その夜闇の言葉に私は勝ち誇り、リネアは頬を膨らませる。
ふふ、勝ったわ。
「まあ、そういうわけで! 折角だから今塗ってみるわね」
 私はそう言って、ペンキ缶の蓋を開けた。
そして側部に取り付けてあった小型のハケを取り外し、ペンキに浸す。
たちまち夜闇のダンボール箱と同じ、闇色のペンキがハケに染み込んでいく。
「これをね。さっさっさーと塗ってくの…ほら」
 私はそういいつつ、夜闇のダンボール箱にペンキを塗っていった。
元々の色が同じだから、傍目には大して変化はみられない。
だが塗る前と比べると確かに色艶が増し、ただのダンボール箱と思えないほどの頑丈さを見せている。
「この中にいれておけば湿気もカットしてくれるから、ふやけちゃってる人形も少しずつ元に戻っていくはずよ」
 塗り終わった私はペンキ缶を元に戻し、ペンキがついたままのハケを缶につけた。
元々水分をはじいてしまうものだから、洗おうとしても上手く洗えないのだ。
でもこのペンキは速乾性だから、このままでいても問題はない。
「わ…もうかわいてるのです」
 ダンボール箱をぺちぺちと触ってみた夜闇が、感動して声をあげる。
「すごいのです。ありがとうございますなのです」
 夜闇はそう言って、丁寧にぺこりと頭を下げてくれた。
私は蓋をしたペンキ缶を夜闇の前に置き、笑って言う。
「どう致しまして。中のペンキが無くなったら、いつでもうちにきてね。補充するわ」
「はい、なのです」
 ペンキ缶を受け取った夜闇は、嬉しそうに微笑む。
その顔を見て、私も自然と嬉しくなった。
 そしていそいそとペンキ缶をダンボール箱の中に仕舞った夜闇は、ふと思いついたように顔をこちらに向けた。
「お礼…しようと思ったのです、けど。私はたいしたものを、もっていないのです」
「あらっ。そんな、いいわよお礼なんて」
 私は慌てて手を振る。そんな、夜闇ちゃんみたいな可愛い子からもらえないわ。
でも夜闇はふるふる、と首を振り、
「…そういうわけにも、いかないのです。なので…お部屋にご招待するです」
「……お部屋?」
 私とリネアは思わず顔を見合わせた。
そんな私たちに夜闇は小さく微笑んでくれる。
「そうです。…私のお部屋なのです」










「わっ、すごい! ダンボールの中…よねえ? 夜闇ちゃん、こんな能力あったのねえ」
「母さん、見て! とってもかわいいよー」
 夜闇が言う”お部屋”とは、ダンボール箱の中だった。
なるほど、空間をねじまげてダンボール箱の中を広くしているというわけか。
でもそれにしてはここの広さは12畳ほどもあり、全くダンボールの中ということを感じさせない。
「ひみつのかくれが、なのです。お茶、するですか?」
 夜闇は部屋の中央にちょこん、と腰を下ろしている。
きょろきょろと物珍しそうにあちこち眺めている私たちを、楽しげに見つめながら。
「お茶? できるの?」
 リネアは夜闇の言葉に、目を見開いていった。
夜闇はこくっと頷き、とことこと部屋の隅にたくさんある人形のところにいく。
そう、この部屋は夜闇の外見にぴったりなメルヘンチックな装飾がほどこされていて、
しかも部屋のあちこちに、あの夜闇人形のような人形がたくさん飾られている。
その人形たちは、夜闇人形のように自在に動くことができるらしく、部屋の主である夜闇の周りに集まったり、
来訪者が珍しいのだろうか、私たちの足元をうろちょろしたりしている。
 そして暫くして、夜闇が私たちを呼んだ。
「…お茶ができたのです」
「わ、どうもありがとう」
 部屋の中央の机に集まり、大人しくお茶が運ばれてくるのを待つ私たち。
するとクマやウサギのぬいぐるみたちが、器用にお盆の上のお茶とケーキを運んできてくれた。
その可愛らしい姿に私たち二人はもうめろめろだ。
「素敵! ぬいぐるみを操れるのっていいわねー…とってもかわいいし」
「うん、ありがとうくまさん。ねえ夜闇ちゃん、これなに?」
 リネアはテーブルの上に置かれたティーセットを指差し、目をきらきらさせて尋ねる。
可愛らしいティーカップにはブルーベリーの実が添えられた少し濃い目の紅茶、
そしてお皿のほうには、色鮮やかなベリーが鎮座しているタルトがある。
「ブルーベリーティと、ブルーベリータルト、なのです。お人形さんがつくってくれたのです」
 夜闇はそう嬉しそうにいって、フォークを私とリネアに差し出してくれる。
「…今日の、お礼なのです。どうぞお召し上がりくださいです」
「ま、ありがとう。頂きます!」
 私はフォークを受け取って、さっくり焼き上げられたタルトを口に運ぶ。
しっとりしたクッキー生地と、甘酸っぱいベリーのクリームがナイスなバランスだ。
とっても美味しい。
「うん、おいしい! お人形さんたち、ありがとう」
 私がそう笑いかけると、運んできてくれたぬいぐるみたちは、嬉しそうに騒いでどこかに散ってしまった。
うーん、いいなあこんなメルヘンチックな部屋…私も作ろうかしら。
 私がそんなことを思っていると、ケーキを食べながらリネアが色々夜闇に質問していた。
どうやって人形をつくっているだとか、部屋の内装だとか。
そんなリネアの質問に、夜闇は時折目をぱちくりさせながら、それでもゆっくり答えてくれる。
うん、いいお友達になれそう。
 私はそんなことを思ってケーキを口に運び、ほのぼのとした気分になった。
そんな私の視界の隅で、まだあの夜闇人形がふやけた状態でぐったりしていたけれど、
それには敢えて目をつぶりつつ。
 …ごめんなさいっ。も、もう少し待っててね、夜闇ちゃん人形。








                         End.





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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【5655|伊吹・夜闇|女性|467歳|闇の子】


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▼ ライター通信
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 こんにちは、いつもお世話になっております!
夜闇ちゃん、二度目のお目見えありがとうございます。
メルヘン気分になりつつ、楽しく書かせて頂きました!
これから梅雨が本格的に始まりますしね、是非ペンキのほう活用して頂けたら、と思います。

 動くお人形さん、私もとてもいいなあと思ってました。
湿気が抜けるまできつそうですけども…早く元気になれますように、と!

 では、またお会いできることを祈って!