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<東京怪談・PCゲームノベル>


闇の羽根・桜書 T < 宿すは現 >



◆▽◆


 朽ちかける直前と言った廃工場を前に、天城 凰華はそっと目を閉じた。
 この土地の管理者から、事前に依頼を頼まれていたためにここまで来たのだが・・・。
 確かに、霊の雰囲気は嫌と言うほどする。
 なににそんなに集まってきているのかは定かではないが、中にはそれなりに骨の折れそうなモノもいるらしい。
 これは中々大変そうだ。
 そう思った凰華の視界の端、何かが動いたような気がした。
 小さな黒い影・・・
 もしもアレが人のものだとすれば、子供だろうか・・・。
 しかし、こんな場所に子供がいるはずは無い。
 何の能力も持たない者にも感じるであろう、禍々しい雰囲気を前に、凰華は首を捻った。
 ・・・それにしても、どこか不思議な雰囲気のする場所だ・・・。
 霊達の気配の奥、まるで守られているかのように、何かの雰囲気を感じる。
 途轍もなく強大な力を秘めた・・・何か・・・。
 普通の霊の類でない事は明白だ。
 この土地に縛られた霊や、もしくは怨念を持った霊だろうか・・・?
 それも違う気がする・・・。
 凰華は微かな戸惑いを胸に秘めながらも、工場の中へと足を踏み入れた。


◇▼◇


 霊達を蹴散らしながら進む中、凰華はある事に気付いた。
 どうも、霊はどこかを目指して進んでいるらしい・・・。
 気配が動く方向が皆同じなのだ。
 魔術を用い、霊を集めて一気に殲滅しながら霊の進む方角を目指す。
 それほど広くない廊下で、剣を振り回すにはあまりにも効率が悪かったために魔術を使わざるを得なかったのだが・・・。
 廊下には物が積み上げられ、長い間その場所に放置されていたために厚く埃がかぶっている。
 パキリ
 窓ガラスが飛び散った床を踏みしめ―――
 凰華は少し開けた場所へ出た。
 かつては部屋であっただろうその場所は、壁がボロボロに崩れ落ち、床にはところどころ穴が開いていた。
 ――― ふと、視線を上げれば壁の前に小さな少女が立っていた。
 淡い髪は茶色と言うよりはピンク色に近く、こんな廃工場に居るのが不自然だと思えるほどに可愛らしい洋服を身に纏っていた。
 膝上のひらひらとしたスカートが大きく膨らみ、頭の高い位置で結ばれた髪が弧を描く。
 身長は140cmほど。
 可愛らしい顔は、まだほんの子供のようだった。
 「・・・どうしてここに?」
 「貴方誰?」
 凰華の言葉を遮って、少女は冷たくそう言うと、真っ直ぐな視線を向けて来た。
 愛らしい外見とは違い、性格はキツイのだろうか・・・?
 「僕はこの土地の持ち主から、退魔の依頼を受けて・・・」
 「土地の持ち主?そう。」
 そんなのいたのねとでも言いたげな口調でそう言うと、少女が服の裾をポンポンと叩いた。
 どうやらスカートに埃がついてしまったらしい。
 溜息をつきながらスカートを叩き・・・その度に舞い上がる埃が鬱陶しいのか、どんどん表情が不満気に崩れて行く。
 「あなたはどうしてここに?」
 「あたし?仕事。」
 「あなたも退魔師か何かなのか?」
 「全然。」
 首を振るたびに、少女の長い髪が揺れる。
 割れた窓から入ってくる微かな光を反射して、キラキラと光る髪は、酷く美しかった。
 「退魔師ではないと・・・。それならどうして・・・」
 こんなにも霊が溜まっている場所に、あえてこの少女がいる理由は何なのだろうか?
 「だから、仕事って言わなかった?」
 「どんな仕事なんだ?」
 「・・・貴方、警察の人なの?違うわよね。退魔師の人か何かよね?だったら、別に貴方に言う理由は無いじゃない。」
 「でもここは・・・」
 「危ないから帰れ?子供には危険な場所だ?どっちにしろ、あたしは貴方の言う事を聞かなければならない理由は無いわ。」
 にっこりと微笑んだならば可愛らしいであろう少女は、そう言うと凰華の元へ歩み寄り、ジっと顔を見上げた。
 170cmある凰華の隣に立つ少女は、遠目で見た時よりも尚更小さい。
 腰は細く、手足は華奢で今にも折れてしまいそうなほどだ。
 「それに、あたし・・・貴方が思ってるほど子供じゃないの。16、よ。」
 「そうなのか・・・?」
 てっきり10歳かそこらだと思っていた凰華は思わず口を閉ざした。
 それにしても、随分と幼く見える少女だ・・・。
 「僕は天城 凰華と言う。あなたは・・・」
 「・・・如何して貴方は急に名乗り出したの?そして、如何してあたしは貴方に名乗らなくてはならないの?」
 凰華の言葉を遮って、少女はそう言うと凰華の脇をするりと抜けて行った。
 少女が通った後に、シャンプーの香りだろうか?甘い匂いがふわりと漂い ―――
 すっと伸びた背筋が向かう先、大量に集まった霊の姿・・・
 凰華は咄嗟に駆け出すと、少女の肩を引き、剣を召喚すると一気に切りつけた。
 「・・・何?」
 「もしかして・・・霊が視えないのか?」
 「生憎あたしにそんな能力はないの。」
 それならば尚更思う・・・なぜ、少女はこんな場所に・・・??
 「貴方、組織の人間ってわけじゃないのね。」
 「組織?」
 「こっちの話。・・・そう・・・。それなら、失礼な態度を取って申し訳なかったわ。」
 「いや・・・」
 少女は一人で納得をすると、何かを考え込むように視線を左右に揺らし、すぐに小さく頷くと凰華に向き直った。
 「あたしはここに仕事で来ているの。でも、それはあなたの言う仕事とはちょっと違ったものよ。」
 「退魔ではない・・・。そう言う事か?」
 「そうね。さっきも言ったけれど、あたしに霊は視えないの。」
 「そうか・・・。」
 「ここに霊を呼び寄せている親玉を倒す事。それが、あたしの仕事。」
 霊を呼び寄せている親玉・・・?
 もしかして、霊の向かう先にある不思議な雰囲気がソレなのだろうか・・・??
 「霊の類なのか?」
 「さぁ。あたしもよくは分からない。“夢幻の魔物”って言うモノよ。夢と現の世界のうち、現の世界から逃げ出して来たのだけれど・・・。」
 「夢?現?」
 「そう言うモノがあるの。世界を構成する物質のうちの1つよ。あたしは“夢幻館”ってトコから来て・・・今回の仕事の依頼は“組織”から頼まれたのよ。もっとも、あたしは“現の司”だから仕方がないのだけれど・・・。」
 凰華の知らない単語を連発する少女に、内心眩暈にも似た感覚が襲っていた。
 「つまりは、貴方に退魔の力があるのと同じように、あたしには“現を守る力”があるってわけ。」
 「現を守る力・・・?」
 「そう。特殊能力のうちの1つと考えてくれて問題ないわ。」
 それ以上詳しい事を話す気にはなれないのか、少女はヒラリと手を振ると歩き出そうとして・・・凰華はそれを止めた。
 「まだあたしに何か用でも?」
 「僕も一緒に行こう。」
 「・・・はぁ?」
 何を言っているの?
 そう言いた気な瞳でそう言うと、もなが凰華の手を振り払った。
 「霊が視えないあなたの代わりに、僕が浄霊を引き受けるよ。」
 「・・・・・・・・・」
 何かを言おうとして、思いとどまったように口を閉ざすと、少女が目を伏せた。
 「そうね。貴方はソレが仕事なんですもの・・・。あたしにそれを拒否する権利はないわね。」
 少女はそう言うと、凰華の顔をチラリと見ただけで先へと進んで行った。
 その後姿を見詰めながら、剣や魔術を用いて浄霊を行っていく。
 途中、少女に霊が飛びかかりそうになると言う危機もあったのだが、何とかそれを回避するとほっと胸を撫で下ろした。
 ・・・どうやら本当に少女には霊の類が見えていないらしく、一切の表情を変える事無く淡々とした足取りで工場の奥へと進んでいた。


◆▽◆


 工場の一番奥、かつては大きな部屋・・・きっと、会議室か何かだったであろう部屋に着くと、少女が足を止めた。
 「来たよ。」
 冷たく響く言葉が工場の中に木霊し ―――
 ドンと言う重たい音を響かせながら、何かが暗がりから姿を現した。
 ぶよぶよと膨れた白い足に、ダラリと伸びた手。
 腰の位置まで伸びた髪に・・・それは、人だった。
 違う。
 かつて、人であったろう者の姿だった。
 顔は崩れ、以前の面影は皆無に等しい・・・。
 「これは・・・」
 「夢幻の魔物。元は人だったんだけど、今はもう見る影もないよね。」
 ふっと鼻で笑うと、少女がツインテールを解いた。
 ハラリと、結んでいた淡いピンク色のリボンを片手に持ち、ポケットにねじ込むとスカートをたくし上げた。
 すっと太ももを撫ぜる・・・その手には、何時の間にか拳銃が握られていた。
 「手伝おう。」
 「結構よ。」
 「しかし・・・」
 「下手に手を出されても、迷惑だし・・・それに、こんな狭いところで貴方の剣を振るとなると、非常に危ないから。」
 「いや、僕は補助をするだけだよ。」
 「補助?」
 「あなたさえ良ければ、夢幻の魔物を捕縛出来るけれど・・・」
 「そうね・・・」
 そんな事が出来るの。と、小さく呟くと、背にかかった長い髪を払った。
 「ここも埃っぽくてウザイし、どうせならそうしてもらおうかしら。」
 「分かった。」
 もなが銃を真っ直ぐに構え、引き金を引く。
 凰華は術を唱えると、夢幻の魔物をその場に固定した。
 ・・・それにしても、夢幻の魔物とは不思議な存在だった。
 元は人であったと言っていたが・・・霊とは違ったモノを持っている。
 ドロドロとした雰囲気は、霊以上のモノを持っているにも拘らず・・・それでも、霊よりは人に近い存在のようにさえ思えた。
 ・・・そうか・・・
 夢幻の魔物は死の世界に染まっていないのか・・・?
 思い当たった1つの答えに、凰華が顔を上げ、目の前で引き金を引き続ける少女の姿を見つめる。
 かなりのスピードと射撃の正確性。
 彼女はどうやら銃を持つ事に長けているらしい。
 程なくしてなんの問題も無く夢幻の魔物を倒すと、少女が銃を戻した。
 「・・・まだ息はあるように思うが・・・」
 「そんなの分かってるわ。でも、殺しては駄目なのよ。送り返さないと。」
 「送り返す?」
 「現の世界に送り返すの。この世界で殺してしまっては、世界の害になるから。」
 「そうなのか?」
 凰華の問いにただ頷くと、少女が左手を高く掲げた。
 華奢な手首に巻きついた真っ白な包帯が目に痛い ―――
 次の瞬間、凰華は凄まじい突風に目を閉じた。
 髪が靡く音をすぐ耳元で聞きながら、顔を庇うように腕をクロスさせる。
 ・・・突風はほんの刹那の間だけで、直ぐに部屋はしんと静まり返った。
 ゆっくりと目を開ける。
 何時の間にか夢幻の魔物は姿を消し、その代わりに血溜まりの中に膝を折る少女の姿があった。
 凄まじい血の量だ・・・これは、一体・・・?
 「大丈夫か・・・?」
 「平気。」
 真っ青な顔色は、どう見ても大丈夫そうには見えないのだが・・・
 少女はゆっくりと立ち上がると、ふらふらと覚束ない足取りで歩き始めた。
 「おい・・・」
 「今日はどうも有難う。貴方のおかげで随分楽に仕事ができたわ。」
 「いや・・・」
 背中越しにそう言う少女に、凰華は最後に1つだけ・・・同じ質問を向けた。
 「名前はなんと言うんだ?」
 「片桐 もな(かたぎり・−)」
 少女はそう言うと、凰華の前から姿を消した―――


◇▼◇


 「今日ね、不思議な女の人に会ったの。」
 「工場でか?」
 「そう。」
 「不思議って・・・?」
 「何だろう。とにかく、不思議な人。あんな場所で会ったんじゃなければ、もっといっぱいお話できたのにな。」
 「仕事中だと、人が変わったようになるもんな、お前。」
 「・・・知り合いがいればそれなりに配慮するよ。それに・・・最初、組織の人間かと思ったんだもん。」
 「組織が仕事現場にしゃしゃり出てくるかよ。」
 「分からないじゃない。」
 「確かに・・・な。」
 「あの女の人、無事にお仕事終わって帰れたかな・・・?」
 「夢幻の魔物を捕縛出来るぐらいの実力の持ち主だ。早々簡単にやられるわけねーだろ?」
 「それもそうだよね。・・・強い感じだったし・・・。」


   「でも、本当・・・不思議な人・・・だったなぁ・・・」



               ≪ END ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4634/天城 凰華/女性/20歳/退魔・魔術師


  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『闇の羽根・桜書 T < 宿すは現 >』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座います(ペコリ)
 もなとは初対面で、更には知り合い?と言う関係・・・。
 普段はふわふわとした雰囲気ですが、仕事場になると急に人が変わるのがもなの特技(?)です。
 全体的に暗い雰囲気が描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。