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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ 三日月の迷宮2 +



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「またか」


 私は辺りを見回す。
 見た覚えのある家の中の様子に溜息を吐いた。其処は三日月邸の居間。今目の前には少女が一人と少年が二人、そして細長いいよかん生物が一匹居て、こちらをじぃーっと見つめてきた。


「あっらーん? 再度挑戦かっしらーん??」
「あ、こんにちは」
「お、こんにちは」
「すぐくるなんてー……はっ、もしかしてあなた、ひまじ……」
「はっはっは、剥くぞ。このクダモノ」


 最後まで言わすものかとぐわしっと其れ……いよかんさんの頭部を鷲掴みにする。
 彼? はその針金のように細い手足をバタつかせ、必死に抵抗をしてきた。しかし、宙に浮かせてしまえばこっちのもの。
 笑顔のまま顔をずずいっと近づける。
 ひぃっという声をあげ、彼? は一気に顔を真っ青に染めた。


「確か伊予柑は煮物や菓子にも使えたな」
「はう!?」
「いやいや、汁を搾ってゼリーもいいか」
「はわぁ!?」
「はっはっは、さて何に使用して……」
「ねー、そろそろ遊ぼーよー」


 いよかんさんを甚振っていると、青髪の猫耳少女が頭の上で腕を組みながら声を掛けてきた。
 ぶーぶーと唇を尖らせた彼女の隣には同じ顔立ちの少年が二人。違っているのは瞳の色の配置と髪の分け目だけ。彼らもまたぶーっと膨れ面で私を見る。


「じゃぁまあ、スガタ、カガミ。説明してあげて」
「と言うわけで簡単ルール説明」
「全く前回と同じ」
「「以上」」
「随分と職務怠慢だな」


 声を揃える少年達に私はふぅっと溜息を吐いた。


「仕事じゃねーし」
「仕事じゃありませんし」
「にゃっはっは、じゃあこれデジタル砂時計ねっ!」
「というわけでー」
「「「「スタートッ!!」」」」


 少女の声に皆が一斉に走り出す。
 あっという間に姿を消した彼らに対して今回はどうしてやろうかと腰に手を当てて考える。それからすぅっと息を吸い、自前の『影』を走らせ……――――。


「あ、一つ言い忘れたけど、前回セットしておいたから貴方の『影』は使えないままだかんね〜っ、にゃっはっはーん★」


 天井板を外し、ひょっこりと逆さまになって顔を出す猫耳少女。
 にっこにっこと笑いながら素早く天井裏に戻っていく彼女を見送った後、足元を見た。其処には自身の影が存在してはいるが、何度命じてもいつものように動く気配はない。
 どうやら完璧に技を封じられてしまったらしい。


「仕方ない。また暇つぶしするか」
「……やっぱりひまじーん」
「ッ、喧しい」


 ひょっこりと壁から顔を表し、くすっと笑ういよかんさんに向かって私はそこら辺にあったものを投げつける。
 カーンッ!! っと小気味良い音を立てて彼? は倒れた。何を投げつけてしまったのだろうかと確認すると、其れは何故かやかんだった。何はともあれ、図星を指されてしまった私は気絶している謎生物いよかんさんをぐわしと引っ掴むと、そのままぽいっと居間に放り込んでおいた。


「クダモノ捕獲完了」



■■■■



 一歩踏み入れて、ふにゅんっ!
 二歩踏み入れて、ぴっこんこん!
 三歩踏み入れて……。


「にゃんだ、これはぁーっ!!!」


 部屋には私の叫び声が響く。
 その口調にも思わず絶句してしまう。唇を開き、何かを喋ろうとしてもその最初には必ず「にゃ」だか「にゃぅん」だか猫の鳴き声的単語が入ってきた。
 さて説明しよう。
 一歩目には手足に肉球ぐろーぶ、二歩目には頭部に猫耳、そして三歩目にはぴっこんっと細長い猫の尻尾が生えた。
 つまり、今の私はいわゆる猫の『コスプレ』状態。


 ぽーんぽーん……。


「はっ! ボールにゃん!」


 耳がぴこーんっと立ち、物音を捕らえる。転がってきた赤い玉へと素早く駆け寄り、それから肉球な手で其れを突付く。弾力のある其れはぽよーんっと跳ねた。端の方に山積みになった玩具達が見えるので、そこから転がってきたのかもしれない。
 ころころころ。
 つんつくつん。
 ぷよぷよぽーん。
 自分の隣でふよふよ浮いているデジタル時砂計がぴっぴっぴっと数値を減らしていく。どうやら遊んでいることによって体力ポイントがちみちみぃっと減っているらしい。そして同時に時間も過ぎていく。
 だが、分かってはいても、分かってはいてもっ。


「はにゃー、にゃごむにゃー……はっ!! いけにゃいいけにゃい、探さにゃければ! で、でもボール……ボールが誘惑するにゃぁああー!!」


 そう言ってボールに飛びつく。
 普段では考えられないほど性格が猫化した自身の姿に動揺してはいる……が、誘惑には中々勝てない。しばらくボールでころころふにゅんっと遊んでいると、目の端で何かが動いたのを察した。出来るだけ顔を動かさないようにしつつ、其れが『何』であるかを確認する。
 そう、それはかくれんぼ相手の一人だ。


「見つけたにゃぁあん!!!」


 ボールを掴んでそのまま力いっぱい投げつける。
 声を掛けたことによって正面に居た者……少年の片割れはびっくぅっと動きを止める。しかし手はまだ肉球ぐろーぶのままだ。如何せん安定が悪い。上手く方向を固定出来なかったボールが思わぬ方へと思いっきり飛んでいってしまった。
 そして。


「あっだぁああ!!」
「ああッ! カガミ、大丈夫!?」


 転がり出てきたのはもう片方の少年。
 変な方向に飛んでいったボールの先に運悪く隠れていたらしい。揃った二人に対して私はにぃっこりと微笑む。対して彼らはひくっと表情を引き攣らせた。自分は額に浮いた汗を拭き、そしてびしっと指を突きつける。


「これで三人捕獲にゃ――――」


 てんてけてん……。


「――――……ぁあああっ!!!」


 崩れた玩具の山から別のボールが飛び出してきた。
 其れに反応して少年達をよそに飛びついてしまう。彼らはにゃんにゃんにゃんっと声を零しながら遊ぶ自分をぽっかーんっと見つめていた。大の大人がたかが遊具の一つに振り回されている事に呆れているのかもしれない。
 彼らは互いに見遣り、それから肩を竦めた。


「にゃんにゃんにゃん♪」



■■■■



「へー、それで体力ポイント全部消費しちゃったわっけ〜? 中々探しに来ないから何してんのかと思ったよ」
「……ふ、不覚。まさか猫化であんなにも性格が変わるとは……ッ」
「さらに付け加えるなら、あの後は犬化しちゃったり」
「兎化してたり、ヤギ化してたり」
「「もう楽しいコスプレフィールド」」


 あっはっはっと少年達が声を揃える。
 その声が気に食わなくて睨みつけると、彼らはぷーいっとそっぽを向いた。


「まあ、でも前回よりかは大分近付いてきたんじゃねえ?」
「まあ、でも前回よりかはいいところ突いてきましたよね」
「「今回も負けだけど」」
「喧しい。ああ、ボールめッ。ボールめぇ!!」
「ぼーる、ぽーい」
「もうやらん!」


 楽しげにボールを転がしてくるいよかんさんの頭をぐわしっと掴んでぶらぶら揺する。すると目が回ったのか、彼? はげふげふ言い出した。
 何は兎も角本日の対決はこれにて終了。


「この、ボールめぇええ!!」


 私は転がっているボールを掴むと、苛立ちのままに勢い良く投げ飛ばすことにした。




……Fin





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、再度の挑戦有難う御座いました。
 今回は共有化NPCに対して少々無理難題が有り、回避の為プレイング的に負けとなってしまいました。申し訳御座いません;ですが、にゃんこわーるどならぬコスプレフィールドを楽しんで頂ければなと! そして実は前回はいよかんさん、今回はカガミと一人ずつ名前を明かしていたり(笑)